喧花上等

作者:桜井薫

 かすみがうらの一角にある繁華街。
 そこにある夜更けの裏通りの一角は、何やら不穏な空気に包まれていた。
「逃げんじゃねえぞ、コラ! てっぺん取んのは、烈怒雷女って決まってんだよ、オラぁ!」
「だからさぁ、そのダッセェ昭和ノリ、マジウケるんだけど。勝つのはウチら、ブラッディローズだから」
 争っているのは、二組の少女たちだ。
 片方は、派手な刺繍に彩られた特攻服に身を包んだ、いまどき珍しいほど古風な暴走族風の少女たち。
 もう一方は、黒い肌を大胆に晒すミニスカートやホットパンツで着飾った、まるでギャル雑誌から飛び出してきたような少女たち。
 集団の雰囲気は対照的だが、いずれも一目で分かる、いわゆる不良少女たちだった。
「ほざいてんじゃねえよ。この勝負に勝ったら、てめぇら全員あたいらの下につくって約束、ばっくれたら承知しねえからな……行きな、サトミ!」
「押忍! 天上天下唯我独尊、烈怒雷女特攻隊長、紅のサトミ、参上!」
 暴走族風の集団から、サトミと呼ばれた少女が前に出る。
 そして彼女は、特攻服の袖から、うねうねとうねる枝のようなもの……攻性植物を覗かせた。その枝には、赤く染まったモミジの葉が生い茂っている。
「だから、勝つのはウチらだって言ってんじゃん。リカ、よろー」
「わかってるって、マジラクショーだから。みんなー、あたしの超イケてるとこ、動画と写メオニ撮りしといてー」
 そしてギャル風の集団からは、リカと呼ばれた少女がダラダラと進み出る。彼女もまた、宿主に寄生する植物のデウスエクス・攻性植物を見せつけるかのように胸元から取り出した。こちらの攻性植物は、これまた真っ赤なバラの花で彩られている。
 赤い葉と花の決闘が、今始まろうとしていた。
 
「押忍! ケルベロスの皆、よう集まってくれた。今回の事件は、攻性植物を取り込んだはぐれ者どもの喧嘩が発端じゃ」
 円乗寺・勲(ウェアライダーのヘリオライダー・en0115)は背筋を伸ばし、ケルベロスたちに事件の説明を始める。
「少し前から、茨城県のかすみがうら市では、攻性植物を受け入れた若いモンが暴れる事件が続いちょる。単なるはみ出し者同士の小競り合いなら、ケルベロスの皆が出るまでもないんじゃが……どうやら連中は、攻性植物化した代表者がグループの代表として決闘して、勝った方が負けた方を傘下に収めるっちゅう勝負を始めたらしいんじゃ」
 この状況を放っておけば、かすみがうらの攻性植物が一つの大きな集団となり、デウスエクスの一大勢力となってしまう可能性もあるという。
「もちろん、そがあな事は駄目じゃ。面倒かけて済まんじゃが、皆の力を貸してつかあさい」
 勲は集まったケルベロスたちに頭を下げ、説明を続ける。
「今回攻性植物で争いを起こすんは、おなごの不良グループじゃ。いわゆる『レディース』っちゅうんかのう……暴走族みたいな連中と、俗にいう『ギャル』のごたる派手な連中が、それぞれの攻性植物を使って勝負しよる」
 勲によると、暴走族の方はモミジの攻性植物、ギャルの方はバラの攻性植物で戦うようだ。モミジの方は主に熱く燃える炎と枝を主体とした攻撃を、またバラの方は棘と毒を主な攻撃手段としてくるとのことだ。
「そいで、今回の大きな目的は、攻性植物の勢力が大きくなるんを防ぐことじゃ。じゃから、今後同じ勝負ができんようになるよう、攻性植物になった者をどちらか一人でも倒せば、とりあえず目的は果たせるじゃ」
 もちろん両方倒せればそれに越したことはないが、高い戦力を持つ攻性植物なので、正面から2体を一度に相手取るのはまず無理だろう、と勲は告げる。
「じゃけん、何とか1体だけでも確実に倒せるよう、うまいこと作戦を立ててもらいたいんじゃ」
 ちなみに現場に到着するのは、攻性植物同士の戦いが始まる少し前ぐらいのタイミングになる。
「わしでもすぐに思いつく範囲じゃと、どっちかに加勢して片方を倒すなり、互いに消耗するまでうまく隠れとくなり、ってところかのう。もちろん、もっと良い作戦がありゃあ、そいでも構わん。わかる範囲で連中の情報をまとめとくけん、参考にしてつかあさい」
 そう言って、勲は資料をケルベロスたちの前に置いた。どうやら、予知された戦闘の状況や、彼女たちのおおまかな性格などがまとめてあるようだ。
「ああ、そうじゃ。攻性植物以外の不良女どもは、気にせんでも大丈夫じゃ。戦力もなんもない単なる一般人じゃて、皆と攻性植物の戦いが始まりゃあ、勝手に逃げて行くじゃろう」
 とにかく攻性植物の対策をしっかりと考えてもらいたい、と勲はケルベロスたちに念を押す。
「ちいと面倒な仕事じゃが、攻性植物の勢力を無駄に大きくするわけにもいかん。くれぐれもよろしく頼むじゃ」
 勲は再び、ケルベロスたちに向かってまっすぐ一礼する。
「はいっ! ちょっと大変そうですけど、しっかり頑張ってきますね!」
 天野・陽菜(オラトリオのミュージックファイター・en0073)は、いざとなれば不良少女も演じきって見せる……と、気合十分だ。
 勲はいつも通り、『押忍!』の気合いで皆を送り出すのだった。


参加者
ディークス・カフェイン(月宿りの白狐狼・e01544)
翼龍・ヒール(ヒールドクター・e04106)
コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)
碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
橘・クレア(アイアンライブラリアン・e19423)
ウェスピア・カルマン(サキュバスのウィッチドクター・e19647)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)

■リプレイ

●決闘の萌芽
「調子くれてんじゃねえぞ! あたいらは、てめえらみたいな軽い女どもとは違うんだよ!」
「だからさぁ、その超ゲロダサぴょんぴょん丸なノリで、リカさんにかなうわけないし。ホントウケるー」
 暴走族風の少女たちと、ギャル風の少女たちが、やかましくののしり合っている。
 そんなかすみがうらの路地裏を、一匹の猫と、隠密の闇をまとった二人のケルベロスが、静かに様子を探る。
 彼らの目的は、攻性植物と化した不良少女のリーダーたちだ。出来る限り後顧の憂いを断つため両者の撃破を狙い、まずは隠れて決闘の行方を見守る……全体で決めた方針に従い、隠密に優れた3人がまずは隠れ場所の偵察を、という次第である。
(「程よく暗くて、そう簡単に見つかる心配はなさそうっすね」)
(「ああ。少し離れた場所なら、まあ問題はないだろう」)
 声を潜めて状況を確認し合うのは、鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)とコール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)だ。問題の不良少女たちが騒いでる広場から少し離れた場所には、大人でも身を隠せるような自販機やゴミ箱が点在している。
 その情報を持ち帰るため、二人は黙ってうなずき、再び静かに来た道を戻る。
(「うちはここで様子見てるなー。それにしても……サトミとリカ、やっけ? どこでどないして、攻性植物なんかになってもたんかなぁ。周りの子らも、喜んどる場合やないやろに……最後はどうなるかとか、そんなこと、考えてへんのかなぁ。他人事やけど、ちょぉ心配になるわ」)
 また、動物変身で猫に姿を変えた碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)は、何かあった時に素早く連絡できるよう、本物の野良猫よろしく香箱座りで広場を見渡せる塀の上に陣取り、少女たちの闘いを見つめる。安易に力を求めた少女たちへの複雑な胸中に、尻尾の先がパタン、パタンと揺れ動く。
「いくぜ! 天上天下唯我独尊、烈怒雷女特攻隊長、紅のサトミ!」
「その名乗り芸? 的なやつ、聞いてるこっちが恥ずかしいんだけど?」
 二人のケルベロスたちの案内でメンバーがそれぞれ身を隠したあたりで、予告されていた決闘は始まった。攻性植物となった少女たちは、モミジとバラの枝を激しくかち合わせ、互いの力をぶつけ合う。
「今時でもこういう抗争と言いますか、争いはあるんですね。嫌いではありませんが、あまり、争うことで他人を困らせるのはいけませんよ」
 どこか優雅さの漂う淑やかな口調でそっとつぶやくのは、翼龍・ヒール(ヒールドクター・e04106)だ。
「彼女たちは、自ら望んで力を得たのでしょうか。その場合のリスクを受け入れて……。そこまでの価値があったのか……今言っても仕方ないですね」
 橘・クレア(アイアンライブラリアン・e19423)も、ヒールと隣り合って隠れた自販機の影で静かに同意する。好き好んで人間をやめる愚かさは、彼女らにとって……いや、この場にいる誰にとっても、想像もつかないものだろう。
「オラァ! なめんじゃねえよ!」
「色気ゼロな攻撃、超笑えるんだけどー。なめるなら、違うモノにするし?」
 物陰から見守るうちにも、少女たちの闘いは激しさを増す。サトミのモミジはうねりとなってリカの蠱惑的な肉体を打ち、またリカのバラの棘は、愚直なサトミをあざ笑うかのようにチクチクと蝕んでいる。
「聞いていた通り、激しい戦いですね。あの中に入るのは些か危険……計画通り、漁夫の利で対応しましょう」
 タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)は、眼鏡を直しつつ、全体の方針を再確認する。二人の少女たちと正面からまともにやり合うのは無理筋……事前に得ていた情報通りの状況に、ケルベロスたちはいま少しの間と息を潜めていた。

●不意の開花
「甘々毒々メガトンハンマーぱーんちっ! ねーねー、みんな、今のマジ決まったから、写真写真!」
「っ……まだまだ! 気合い入れ直しだ、コラァ!」
 ケルベロスたちが隠れて見守る中、膠着していた戦況が動いた。リカの攻撃がまともに入り、サトミはよろめきながら傷ついた体に気合を入れなおした。
「リカさん、マジさすがだし! 超撮るから、ちょい待って……ん?」
 そんな中、写真を撮ろうとしたギャル風の少女が、眼力を盛りまくった目元をゆがめる。撮影のために彼女が動いた角度は、運悪く、隠れていたケルベロスたちの一部……クレアとヒールの姿を正面にとらえるものだった。
「あのさー、そこのオバサンたち、なに?」
 二人を見つけたギャルが、無遠慮に問いかける。
(「チッ……仕方ねえ、出るか」)
 注意を引いてしまった以上は仕方ないと、コールは隠密気流を解き、闇からその姿を現した。他のメンバーも、潮時と見て少女らの前に姿を見せてゆく。
「喧嘩するのは構わないけど、デウスエクスはいただけないね……とはいえ、勝負に水を差すつもりはない。好きに続けてくれて構わないよ」
 ウェスピア・カルマン(サキュバスのウィッチドクター・e19647)は、紫色の髪をなびかせ、少女たちに微笑みかける。なりゆきはどうあれ、二人の少女を、せめて人の心が残っている内に片付ける……それは最初から決めていた、救えない者たちへの彼なりの愛に基づいた決断だった。
「……! てめえら、ケルベロスか!」
 ウェスピアの目を見たサトミが、眼力で分かるケルベロスたちの戦力を悟り、細く尖った眉を吊り上げる。
「命までは奪うつもりはない……過ぎた力を得た事を悔やむだけの、分別が残っているならな」
 敵対心むき出しのサトミに、ディークス・カフェイン(月宿りの白狐狼・e01544)は静かに語りかけた。とはいえ、サトミの目を見れば、彼の警告通り引き下がってくれるつもりがなさそうなのは明白だった。
「……そんな気はねえか。なら、俺の方も慈悲は無い」
 コールは淡々と戦いに備え、一般人をひるませる殺界を形成する。サトミとリカの周りで囃し立てていた少女たちはただならぬ気配に浮足立ち、逃げ出そうとする空気が場を支配していった。
「こらー! おねーさん達、いい加減にするっす!」
 そんな気配に拍車をかけるように、五六七はまとっていた隠密気流を脱ぎ捨て、少女たちの前に小さな体で堂々と立ちはだかった。
「だいたい、こないだ『ケルベロスうおおおー』で世の中がてんやわんやだったばっかりっす! なのにおねーさん達は何してるっすか! あれだけ宇宙人ヤバイ侵略者ヤバイって騒いでたのに攻性植物と合体変形して抗争ごっことか! 頭がパーとしか思えないっす! 大体喧嘩は素手で一対一が基本っす! なってないっす! あちきがヤキ入れてやるっす! 喧嘩上等、掛かって来いっす! っていうかこっちから行くっす!」
「……!」
 そして五六七は、腹の底から大きな声で、6歳の素直な怒りを一気にまくしたてた。誰一人口を挟む余地もない見事なまでの啖呵に、周りの少女たちはもちろんのこと、サトミとリカすら思わず一瞬ひるむ様子を見せる。
「唄え。その想い示す儘に」
 隙を逃さず、ディークスは『破砕因子』の力を開放する。それは、ケルベロスと少女たちの戦いが始まる合図のように、路地裏の広場を支配していった。破砕の因子に呼応するかのように、彼の左腕はクリスタルの輝きに覆われ、金剛石の縛霊手となった。
「レディース? そんなの知らないわ! あんたたち全員よりワタクシのほうが偉いわ!」
 またヒールは、高笑いと共に複数の黒いドラゴンの加護をもたらし、前に出たケルベロスたちに状態異常を耐える力を与えていった。潜んでいた時の淑やかな様子はどこへやら、戦いが始まるやいなや、彼女は喜々としてサディスティックな表情を見せる……その様子はまるで、悪の組織の女幹部のようだ。
「貴女達に巣食う植物は、確実に討ち果たします……目標捕捉、攻撃準備完了、発射!」
 こちらは冷静に、タキオンはクォークの素粒子を加速させ、二人の少女たちに鋭く放射する。素粒子の乱反射はモミジとバラにからみつき、二人の動きをかすかに鈍らせた。
「ふっざけんな! まずはてめえらから片付けてやる、覚悟しな!」
 サトミは怒りに燃え、モミジの葉を激しく舞い上がらせる。本格的な戦いの始まりだった。

●愚行の結実
「片付けるとか、そう簡単に行くかー! っす!」
 五六七は猫が怒りにシャーッと毛を逆立てるかのように、アームドフォートの主砲を一斉に撃ち切った。彼女のウイングキャット『マネギ』も共に爪を出し、主人が標的と定めたサトミのモミジを盛大に引っかく。
「なめやがって……!」
「そこ、いただきます」
 ひるんだサトミに、クレアはすかさず氷結の槍騎兵を浴びせかける。無数の紙片と一枚の栞で構成されたカード『story-maker』から呼び出された氷の騎士は、正確に少女の体を貫いた。
「うちも続くで……って、こら! ちゃんとやらな、ダメやろ」
 バスターライフルでさらに追い打ちをかけながら、あいねは相棒のテレビウム『カントク』にダメ出しの蹴りを出す。時々こうして軌道修正しないと、主人のいいところを察知したカントクは、戦闘中でも撮影を始めてしまうとかしまわないとか……緊張感がないようでいて、これも一つの信頼関係には違いなかった。
「ザコが、遊んでんじゃねえよ!」
 そんな主従の様子にキレたサトミは、モミジの枝を振りぬいたビンタを前衛に見舞った。その標的は、ヒールのミミック『メディカルボックス』に激しく襲いかかる。
「回復は任せて下さいね」
 タキオンは的確にメディカルレインを降らせ、八つ当たりの不運に見舞われたかのようなサーヴァントを癒やす。
 またカントクは自分の巻き添えを詫びるかのように、メディカルボックスに向けて応援動画……愛する主人の勇姿をオムニバスで繋いだメドレーを流す。マネギも清らかな翼を羽ばたかせて、災難に見舞われたサーヴァント仲間に癒しを施した。
「あー、そういう仲良しごっこ的なやつ? ウザいんだよねー。みんな混乱すればいい、みたいな?」
 サトミに攻撃の矛先が向いてる中、静かにしていたリカが、心底うっとうしそうにため息を付いた。サーヴァント同士が仲良く連携している様子が癇に障ったのか……後列の回復役たちを狙い、小悪魔の誘惑をほとばしらせる。
「ちっこくても頑丈っすよ!」
「小娘の下劣なお色気もどきなど……ワタクシの敵じゃなくってよ!」
 守りの体勢で、五六七とヒールは大事な回復役への攻撃を肩代わりする。サトミに注意が向いていたぶん多少無防備になってはいても、むざむざとリカの攻撃を通すような真似はさせなかった。
「私が『私』でいるための鎖を……」
「いくぜ!」
 サポートに駆けつけた樹とヴォルフラムが、リカの抑えになるよう援護の攻撃を放つ。
「私も、この歌で皆さんを……天野陽菜、ギャルだって演じてみせます!」
 天野・陽菜(オラトリオのミュージックファイター・en0073)も、リカに向けて力を奪う歌声を響かせる。潜伏時に見つかった時のために渾身のギャルコーデで変装していたのに合わせて、選曲はギャルのカリスマ的アイドルの持ち歌だ。
「ああもう、うっざい! っていうかその曲、全然コピーできてないし!」
 サポート陣の集中攻撃にキレたらしいリカが、再び催眠の誘惑に満ちた視線をケルベロスたちに向ける。攻撃は苛烈だったが、それは彼女が弱りつつあることの裏返しでもあった。
「with、貫け」
 好機を見たディークスが、機敏にブラックスライムの槍でリカを突き通す。
「お前の方からヤった方が早そうだな」
「はぁ? ……っ! マジ、ないんだけど!」
 ディークスの判断に乗って、コールも特殊な魔力結晶を用いて作成された強化精霊長銃『イフリート』から、彼にとって至高の一撃となる魔弾をほとばしらせた。魔弾のレーザーはドリルのように回転し、リカのバラを鋭く貫いた。
「弱いところ、見つけたよ」
 顔をゆがめるリカに、相手の弱点を探りながら戦っていたウェスピアも、レイピアのようなロッドの切っ先から鋭く雷を叩きつける。前に立つケルベロスたちを邪魔しないよう、こまめに立ち位置を変える気遣いも忘れない。
「龍の因子よ。今こそ私の力となり、敵を喰らえ」
「……!」
 そしてクレアの『血に流れる龍の衝動』が、リカの身体を貫いた。余裕を崩さなかった彼女の顔が驚いたように歪み、赤いバラの花弁が広く舞い上がった……それが、彼女の最後だった。
「てめえら……あの女を喰らうのは、あたしのはずだったんだ!」
 倒れるライバルの姿に、サトミは逃げるどころか、怒りに燃えて炎を纏うモミジの葉を吹雪かせる。
「あなたも、すぐに送ってあげますよ」
「炎やったら、うちも負けへんで」
 そんなサトミに、タキオンはアームドフォートの主砲を、あいねはガトリングガンの炎弾を見舞った。
「痛いかな? もうすぐ解放してあげられると思うよ」
 炎の苦痛に顔を歪めるサトミに、ウェスピアは掌からさらなる炎を見舞った。それは、もう人間に戻ることもできない手遅れの少女への、永遠の安らぎを大きく引き寄せる一撃だった。
「クソっ、こんなところで、紅のサトミは……」
「ウェスピアさんの言う通りっす! おねーさんの苦しみ、自業自得っすけど……これで、静かになりやがれー! っす!」
 今際の際にも煮えた口上を吐き出そうとするサトミに、五六七は確固とした意志の力で伸ばされる鎖を解き放った。
「……!」
 まだ何かを言いかけたサトミの喉を、ケルベロスチェインが締め上げる。
 そして、人ではなくなった少女から、命を失ったモミジの枯葉がひらりと落ちてゆく。騒がしかった戦いの最後は、冬枯れの花が朽ちるかのごとく、静かな幕引きとなった。

●路上の落葉
「終わったか……力を得たなら、倒される事にも覚悟しておく事だ。もっとも、その覚悟を得た時はすでに遅いのだろうが」
 皮肉なものだ、と、ディークスは静かに息をつく。
「烈怒雷女も、ブラッディローズも、この件で解散して貰いたいものですね」
 タキオンが思うのは、道を踏み外してはいても、まだ人間をやめてはいない少女たちのことだ。
 ケルベロスたちに激しく抵抗した赤い花と葉は、もう動くことはない。
 これ以上愚かな過ちを繰り返す者がいなくなることを祈って、彼らは路地裏を後にするのだった。

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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