歌って、歌って、歌いまくれ!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 日本がバブル景気で浮かれていた頃、家庭用カラオケ機器は必要なモノだった。
 だが、無駄に大きく、普通よりも電力を必要したため、持っているのは金持ちばかり。
 しかし、バブルが弾けたのと同時に、事態は一変!
 家庭用カラオケ機器は邪魔になり、必要とされなくなった。
 そのため、物置の中にしまわれ、持ち主の記憶からも消えてなくなった。
 そんな中、家庭用カラオケ機器の前に現れたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは機械的なヒールによって、家庭用カラオケ機器は変化させた。
「カラオケェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 それはまるで産声であった。
 まるで卵の殻を破るようにして、物置を破壊すると、グラビティチェインを求めて、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)さんが危惧していた通り、都内某所に民家で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある民家。
 この家の物置に置かれていた家庭用カラオケ機器が、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、家庭用カラオケ機器です。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは家庭用カラオケ機器がロボットになったような姿をしており、ケルベロスを敵として認識しているようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
 家庭用カラオケ機器にとって、物置は棺桶に等しいモノだった。
 物置にいる限り、活躍の機会はない。
 それは家庭用カラオケ機器からすれば、死刑宣告にも等しい事だった。
 しかも、物置の中は、昼間でも真っ暗。
 その上、狭い!
 自分の意志では外に出る事が出来ず、自由もない。
 そんな場所では、思い通りに力を発揮する事が出来なかった。
 そのような状況では、生きていながら、死んでいるのと、同じ事だった。
 だが、どんなに足掻いても、どんなに叫んでも、誰かが助けに来る事はない。
 物置にしまわれた者達の中には、いつか外に出してもらえる事を信じて、希望を胸に抱いているモノもいたが、大半のモノは絶望のどん底の中で、心に闇を抱えていた。
 それでも、家庭用カラオケ機器は、叫び続けた。
 自分だけは違う。
 特別な存在なのだから、と自分自身を奮い立たせ!
 もちろん、実際には違う事など分かっている。
 ここに入れられた時点で、理解しているつもりであった。
 しかし、それでも……わずかに残った希望にしがみつきたかった。
 その願いが、きっと誰かに通じる事を信じて、願わずにはいられなかった。
「今回ダモクレス化したのは、カラオケ機器か。私はカラオケが好きだから、家にあったら思う存分カラオケができそうだけど……。まぁ、ダモクレス化した以上、倒すしかないけど……」
 そんな中、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された民家にやってきた。
 その場所は、既に廃墟と化していたが、いかにも金持ちが住んでいそうな感じであった。
 おそらく、バブルが崩壊したのと同時に、何らかのトラブルに巻き込まれ、家を手放す事になったのだろう。
 庭には小さな池もあったが、大量の藻に覆われ、蓮の上でカエルがゲコゲコと鳴いていた。
 そう言った意味でも、カエル達にとっては、楽園。
 ある意味、パラダイス的な場所になっているようだった。
「わたしは毎日歌う事はないから、持っていても邪魔にしかならないわね。この資料を読む限り、随分と大きかったようだから……」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)は庭を歩きながら、事前に配られた資料に目を通した。
 資料を読む限り、家庭用カラオケ機器は、学習机ほどのサイズ。
 どれも大きく、無駄に場所を取っている感じであった。
 だが、その分、丈夫。
 そう簡単には壊す事が出来ない程、頑丈そうな感じであった。
 その事に加え、音楽に合わせて天井を七色の光を照らしたり、歌を採点したりする機能などがあったらしい。
 他にも色々な機能が搭載されていたらしく、中古車が買えるほどの値段だったようである。
「家庭用カラオケ機器って、結構高価ですよね。もっと庶民の人達でも楽しめる物だったら良かったのですけど……」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が、複雑な気持ちになった。
 それだけ高価なモノだったせいか、家庭用カラオケ機器は異常に重く、一人では持ち運ぶ事が出来ないほどだった。
 そのため、廃墟と化した後も、誰かに運ばれる事なく、物置の中に放置されているようである。
 しかも、処分に困るシロモノだったため、物置にしまわれたまま、日の目を見る機会が無かったのかも知れない。
「今やスマホのアプリで代用も出来るけど、かつては大きくて金持ちしか持てない物だったとはね、技術の進歩は凄いよ」
 四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)が、感心した様子で口を開いた。
 おそらく、技術の進歩が無ければ、実現しなかったモノ。
 数十年前では、想像する事さえ出来なかった事が、スマホひとつで出来るのだから、驚き以外のナニモノでもない。
 ……ゴトッ!
 物置から音が響いたのは、そんな時だった。
 最初は単なる気のせいだと思ったが、まるで地震が起きたかのように、物置が激しく揺れた。
 ただし、地震とは違って、物置だけが激しく揺れた。
「カラオケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した家庭用カラオケマシンが、耳障りな機械音を響かせ、物置を突き破った。
 ダモクレスは昭和のアニメに出てきそうなゴツイ感じのロボットで、ガシャコン、ガシャコンと音を立てながら、ケルベロス達の前に陣取った。

●ダモクレス
「ガラァァァァァァァラオゲェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 それと同時にダモクレスが音痴な歌声を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは、超強力。
 しかも、音痴な歌声が加わった事で、破壊力も二倍。
 いや、それ以上の破壊力を秘めた危険な攻撃ッ!
「……クッ! ビームだけなら、まだしも……。この歌は厳しいわね」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、エネルギーの盾でビームを防いだ。
 しかし、音痴な歌声を防ぐ事が出来ず、頭がキンキンとして、立っている事が出来なくなった。
 おそらく、この歌声は、家庭用カラオケマシンの所有者だった男の声。
 野太いオッサンヴォイスが響くたび、イライラとムカムカが蓄積された。
 もしかすると、ダモクレスも同じような気持ちになっていたため、その歌声を攻撃と言う形で、蘇らせたのかも知れない。
「ヴォエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ~」
 その間も、ダモクレスは音痴な歌声を響かせ、ケルベロス達を苦しめた。
 それは両手で耳を塞いでも聞こえてくるほど、危険な歌声。
 ある意味、ビームよりも恐ろしい攻撃であった。
「確かに、この歌をいつまでも聞くのは苦痛ですね。さぁ、行きましょう、ネオン。サポートは任せますね」
 玲奈がフラつきながらも、ボクスドラゴンのネオンに声を掛け、ダモクレスの逃げ道を塞いだ。
 それに合わせて、ネオンが属性インストールを使い、自らの属性を注入した。
 だが、ふたりともダモクレスの音痴な歌声の影響を受け、実力の半分も出せていないようだった。
「カラオケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、ダモクレスがマイク型のアームを振り回し、『そこまで言うなら、歌ってみろ! さぁ、歌え! いますぐ歌え! さあ! さあ! さあ!』と言わんばかりに迫ってきた。
 それは飲み屋で、会社の先輩が強引に酒を勧めてくるようなノリに近く、断りづらいモノだった。
 そのため、例え本人が望んでいなくとも、歌わなければ、場が収まらないと言った感じであった。
 だからと言って、マイクの前に立つケルベロスは、ひとりもいなかった。
 それこそ、自殺行為。
 だが、ダモクレスは諦めていなかった。
 『誰かが歌うまで、俺は帰らねぇぞ!』と言わんばかりに荒ぶり、暴れまくっていた。
「そうやって、わたし達に迫れば、歌うとでも思っていましたか?」
 その事に気づいた悠姫がプラズムキャノンを放ち、圧縮したエクトプラズムで作った大きな霊弾を、ダモクレスにブチ当てた。
「カラオケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 それでも、ダモクレスは諦めておらず、再びマイク型のアームを突き出し、ケルベロス達に迫ってきた。
「よほど、僕らに歌わせたいようだね。でも、遠慮しておくよ。一生懸命歌ったとしても、きちんとした評価を下さないような気がするからね」
 司が素早い身のこなしで螺旋氷縛波を仕掛け、ダモクレスのアームを凍らせた。
「カラオケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その事にショックを受けたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、マイク型のミサイルを飛ばしてきた。
 ダモクレスが放ったミサイルは、地面を抉るようにしてめり込むと、大爆発を起こして大量の破片と泥を飛ばしてきた。
 その影響でブロック塀に穴が開き、アスファルトの地面にまで被害が及んだ。
「タチの悪い酔っ払いと同じね。歌わなければ、暴力に訴えるなんて……。でも、問題ないわ。大地に眠る霊達が、傷を癒してくれるから……」
 リサがゴーストヒールを使い、大地に塗り込められた惨劇の記憶から魔力を抽出し、傷ついた仲間を癒していった。
「カラオケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、再びマイク型のミサイルを飛ばしてきた。
 マイク型のミサイルは広範囲に飛んでおり、ケルベロス達の逃げ道を塞ぐようにして、次々と爆発していった。
 その影響で家の瓦が飛び、窓が割れ、庭の木が音を立てて、へし折れた。
「だからと言って、わたし達の気持ちは変わらないわよ」
 その間に、悠姫がガジェットを拳銃形態に変形させ、魔導石化弾を発射します。
 悠姫のガジェットから発射された魔導石化弾は、ダモクレスのボディに命中し、その部分から石化していった。
「ボエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 それが原因でダモクレスはミサイルを発射する事が出来ず、悔しそうに耳障りな歌声を響かせた。
「ハッキリ言って、耳障りです! ……氷の属性の力よ、敵を爆破してしまいなさい!」
 その事に嫌悪感を示した玲奈が、ボルトストライクを仕掛け、自らの拳でダモクレスを殴りつけた。
 次の瞬間、ダモクレスの身体が爆発と同時に凍りつき、完全に機能を停止させて崩れ落ちた。
「みんな怪我はないかい? とりあえず、無事のようなら、民家の片付けを始めようか。いくら廃墟と化しているとは言え、このまま放っておく訳にもいかないしね。せっかくだから、池の掃除もしておきたいところだけれど……。一体、何がいるのかな?」
 そう言って司がヒールで辺りを修復しながら、池を覗き込んだ。
 そこには何かがいる気配がしたものの、それが魚なのか、別の生き物なのか分からなかった。
 とにかく、池に何かがいる。
 それだけは間違いない事だった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月26日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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