ワイルドインベーダーズ

作者:雷紋寺音弥

●侵略者の憂鬱
 夕陽に紅く染まった山岳地帯。人里離れた森の奥深く、様々な動物達が集まっていた。
 彼らは皆、一様に開発で住処を追われた動物達だった。そんな彼らの前に立っているのは、神々しいまでの雰囲気を纏った美しい鹿……否、この場合は、鹿のような姿をした存在と言った方が正しいだろうか。
 『森の女神』メデイン。聖王女アンジェローゼの配下でもあるそれは、動物の似姿をしていながらも、攻性植物であることに間違いはない。メデインは集まった動物達に攻性植物の種子を与えると、地球の生き物としての姿を捨てた彼らに改めて告げた。
「さあ、これであなた方は、大いなる知恵と力を得ることができました。ですが、その力は人間へ復讐するためのものではありません」
 復讐など何も生まない。だからといって、人間との共存を強制するつもりもない。
 真の平穏を望むのであれば、人間のいない場所で、人間の事は忘れて暮らすのが正しいはず。そんなメデインの言葉に多くの動物達は賛同の意を示したが……しかし、一部の者達は違ったようだ。
「ハッ! 人間のことは忘れて、動物達だけで暮らすだぁ? それで平和に過ごせるってんなら、アンタは甘々の大馬鹿野郎だな!」
 声を荒げたのは、一匹のアライグマだった。見れば、他にも何匹かの鳥や動物達が、アライグマの周りに集まっていた。
「俺達は人間の都合で作られたり、この国に連れて来られたりしたんでブヒ! それなのに、連中は俺達を散々利用した挙句、逃げ出したら掌返して駆除しようとしやがったんでブヒ!」
「この国にいる以上、私達は人間とも……そして、あなた達とも相容れないの。だから……私達は奪って生きるしかないのよ! あなた達か、もしくは人間達からね!」
 イノブタが吠え、小鳥達が叫んだ。どうせ自分達は、どこまで行っても侵略者。ならば、最後まで侵略者らしく振舞ってやる。そう言って山を下りて行くアライグマ達を、メデインは悲しそうに見つめていた。

●逆襲の外来種
「招集に応じてくれ、感謝する。ユグドラシル・ウォーの後に姿を消していた『攻性植物の聖王女アンジェローゼ』が、再び活動を開始したようだ」
 放っておけば、少なからず人的被害が出る。そうなる前に止めて欲しいと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は事件の概要を集まったケルベロス達に向けて語った。
「今回の事件を起こそうとしているのは、アンジェローゼの配下である『森の女神』メデインだ。森の主を思わせる神々しい雰囲気を纏った鹿だが、その身体や角の一部は植物になっているからな。攻性植物であることに間違いはない」
 そんなメデインだが、今は人間を直接襲うことを考えていない。メデインは人間に恨みを持つ動物に攻性植物に寄生させ、配下として連れ去ろうとしているようだが、目的はあくまで戦力の補充だからだ。
 もっとも、動物達の中には人間への恨みを捨てきれず、メデインと袂を分かった者達もいる。そんな動物達の一団が麓の街を襲撃するので、それを迎え撃って欲しいというのが今回の依頼だった。
「麓に現れた動物達は、手始めに森を切り開いて開発を進めている工事現場の作業員達を襲撃しようとするぞ。住宅地に被害が出ないようにするためには、そこで迎撃する他にないな」
 作業員達へはこちらで事前の通達をしておくので、迎撃に専念して欲しいとクロートは告げた。攻性植物の力を得た動物達は、個々に見ればそこまで強い相手ではないのだが、厄介なやつが一匹だけいるともつけ加え。
「今回、人間への復讐を考えているのは、どれも侵略的外来種と呼ばれている動物達だ。中でもリーダー的な存在のアライグマは、他の連中と比べても戦闘力が高い上に、指揮能力にも優れているから注意しろ」
 その獰猛さを誇示するかの如く、アライグマは手に入れた攻性植物の力を存分に使いこなして攻撃して来る。自らの背中に植物を固めて作った大砲を装備して放ったり、爆発性の木の実をばら撒いたり。おまけに、最後の切り札として、自らに寄生している攻性植物の力を解放し、樹木の巨人を作り出して敵を攻撃させることもあるようだ。
 また、アライグマの指揮の下、空からは鳥達が種爆弾で爆撃を行い、地上からはイノブタが攻性植物化した牙を使って突進攻撃を仕掛けてくる。どちらも、個体としては強くないものの、集中攻撃を食らうと面倒な相手だ。
「侵略的外来種……その出自に関しては、確かに同情の余地はある。だが、それでも、このまま被害が増えて行くのを黙って見過ごすわけにはいかないからな」
 彼らを生み出したのは、人間のエゴが原因だ。ならば、最後はせめて人の手で、その悲しみと苦しみに終止符を打ってやる必要がある。
 喩え、それでさえ人のエゴだと言われても。本来であれば、彼らに罪はないと分かっていても。
 それでも、全てを納得した上で戦ってくれる者はいるか。そう言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
除・神月(猛拳・e16846)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●新時代の動物戦争?
 森を切り開いて設けられた平坦な広場。そこに置かれたプレハブ小屋や建設重機を利用してバリケードを組むフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は、どこか楽しそうに故郷でのことを思い出していた。
「平成アライグマ合戦ですわねぇー。熊を仕留めたりー、鹿を獲ったりー、故郷の山を思い出しますのー」
 既に時代は令和に突入しているのだが、それはそれ。動物達にも理由はあるかもしれないが、人里を襲うのを黙って見てはいられない。
「さぁて、敵はどこに……って、早速現れやがったカ」
 除・神月(猛拳・e16846)が、ニヤリと笑った。見れば、森と広場の境目には、小鳥を頭に乗せたイノブタと、それを指揮するアライグマの姿が!
「見つけたぜぇ、人間ども! お前達、分かってるな? 遠慮は要らねぇ、ぶっ殺せ!」
 樹木の巨人の枝に乗ったまま、アライグマが動物達を叱咤する。その号令に合わせ、小鳥たちが飛び立ち、イノブタの群れが突撃を開始した。
「名乗りは出来ませんがー、それでは合戦をー、始めますのよー」
 蝶のような紋に黒塗りの×印をつけた旗を立て、フラッタリーもまた堂々の宣戦布告。その間にも、敵はこちらに迫って来るが、しかしケルベロス達に慌てた様子はない。
「準備はいいですわね? 皆様、行きますわよ」
「復讐……リリは反対しないけど襲い掛かってくるなら容赦しないよ」
 互いに頷き、ヘリオンデバイスを起動させるルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)とリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の二人。牽引ビームで仲間達を空中へ引き上げたところで、合戦の舞台の幕が開いた。

●激突、空中バトル!
 人里に降りたところで人間を見つけ、襲撃を開始しようとしたアライグマ達。だが、標的が一斉に空中へ飛び上がったことで、アライグマは思わず面食らってしまった。
「あぁん? おいおい、なんだありゃ?」
 相手がケルベロスであったこともそうだが、それ以上に、全員が空を飛んでいるということが信じられなかったようだ。彼らの戦力の半数は、地上での接近戦に特化した突撃部隊。故に、今のケルベロス達には、攻撃の大半が届かないのである。
「ちっ、ふざけた真似しやがって! おい、鳥ども! あの鬱陶しい連中を、爆撃で叩き落せ!」
 こうなれば空中戦で勝負してやろうと、アライグマは小鳥の爆撃隊を向かわせる。が、地上を這っている相手ならまだしも、空中を自由自在に飛び回る敵を爆撃で狙うのは、なかなかどうして難しい。
「あら残念、外れですねー」
 爆弾を軽々と避け、お返しとばかりにフラッタリーが巨大な光弾を発射した。それにより散り散りになったところへ、今度は神月が紅蓮の炎を纏った棍を回転させつつ突撃して行く。
「オラオラ! 叩き落してやるゼ! 覚悟しナ!」
 攻性植物の力を得たとはいえ、所詮は小鳥。耐久力は低く、彼らは狼狽した様子で身体の炎を消そうと必死だ。
「くそっ! こっちでも援護する! その間に、なんとしても叩き落せ!」
 業を煮やしたアライグマが、ついに自らナッツ爆弾をばら撒いて攻撃して来た。さすがに、こちらは小鳥達の使う種爆弾とは異なり、威力の程は桁違い。
「……っ!? 大丈夫ですか、リリちゃん?」
「ん、なんとか。それより、早くあの鳥を落とそう」
 親友が爆発に巻き込まれたと思い慌てて声を掛けるルーシィドだったが、リリエッタは運よく無傷だった。
「うふふ……残念でしたわねー」
 爆風の中から現れたフラッタリーが、満面の笑みを浮かべてアライグマに告げた。先の攻撃は、彼女が盾になることで、その全てを受け止めてしまったのだ。
「フラッタリー様は、私が! その間に、リリちゃんは鳥達をお願いしますわ」
「ん、任せて。鳥を狙い撃つのは得意だよ」
 サキュバスミストでルーシィドがフラッタリーの傷を癒す中、リリエッタは突撃銃に弾を込める。鳥を倒すのが得意と彼女が言うと、何やら別のデウスエクスを思い浮かべてしまいそうになるが……変態ではない分、余計な突っ込みも不要なのは嬉しい限り。
「お前達なんて凍っちゃえ! ブリザード・バレット!」
 逃げ惑う小鳥達に向けて放たれた氷の弾丸。それは空中で拡散し、瞬く間に周囲を凍らせ始める。それこそ、空気も水も、そして小鳥達の翼でさえも。
「あぁ……お、落ちる……落ちる……」
「そ、そんな……。折角、力を手に入れたと思ったのに……」
 焼き鳥ならぬ、冷凍鶏肉にされながら、小鳥達は大地へと落下して行った。凍り付いた身体では、さすがに衝撃を吸収することはできなかったのだろうか。そのまま木っ端微塵に砕け散り、二度と再び大空へと舞い上がることはなく絶命した。

●怒れるアライグマ
 小鳥達が倒されてしまうと、後は一方的な展開だった。
「畜生、卑怯だぞ! 降りてきやがれ、この野郎!!」
 植物を固めて作った大砲を乱射するアライグマだったが、それだけではケルベロス達を倒すには至らない。イノブタ突撃部隊は、今や単なる肉の壁と化し、アライグマをケルベロス達の攻撃から守るためにしか役に立っていない。
「てめぇら人間どもは、いつもそうだ! お高く留まって、高見の見物か? 自分達が、地球の支配者にでもなったつもりかよ!!」
 空を飛び回るケルベロス達に、アライグマは憎々し気な口調で叫んだ。誇張でもなんでもなく、それは彼が抱いている人間へのイメージに他ならなかった。
「俺だって……俺達だって、好きでこんな場所に来たんじゃねぇ! てめぇら、人間が勝手に連れて来やがったんだろ!? それなのに、飼えなくなったらゴミのように捨てて、おまけに今度は害獣扱いだぁ? ……いい加減にしやがれってんだよ!」
 故郷の森で人間に捕らえられ、親と引き離されたこと。何も分からず、気が付けば見たこともない土地に運ばれ、そこで人間に飼われたこと。最初は可愛がられたが、やがて成長して体格が大きくなると、厄介者扱いされて捨てられたこと。
 それら全てが、アライグマにとっては人間の傲慢だった。人間と関わってから今まで、本当に碌な一生ではなかった。だからこそ、彼は森の奥で静かに暮らすことではなく、人間への復讐を望んだのだ。
「俺達だって、生きるために仕方がなかったんだ! それを害獣だっていうなら、俺達が生きることは罪なのか? 俺達を住んでた場所から連れて来て、悪戯に弄んだことは罪じゃねぇってのか? 答えてみやがれ、人間様よぉ!!」
 声高に叫ぶアライグマ。その問いに、ケルベロス達は答える言葉を持っていない。彼の言うことは事実であり、仮に人間が彼をこの国へ連れて来なかったら、あるいは彼もまたデウスエクスになどならなかったかもしれないのだから。
「「ブモォォォッ!!」」
 そんな中、突如として今まで肉壁になっていたイノブタ達が、一斉に鼻息を荒げて飛び出した。
「あ、待て! 何処へ行くんだ、お前達!?」
 慌てて止めるアライグマだったが、イノブタ達は止まらない。今、ここで突撃などしても、ケルベロス達に攻撃は当てられないというのに。
「どうせ俺達は、自然にも人間にも受け入れられない存在だからな!」
「そうさ! 人間の道具として作られた俺達に、未来なんてあるものか!」
 だから、せめて最後に一花咲かせてやる。負けると分かっていても突撃を決行するイノブタ達を、止める術は存在しない。
「ハッ! ぞろぞろ来やがったな! いいゼ……相手になってやるヨ!」
 何もできないまま、それでも突っ込んで来るイノブタ達に、神月の咆哮が襲い掛かる。大気を震わせ、大地を揺るがす獣の雄叫びは、一瞬だけでもイノブタ達に足を止めさせるには十分であり。
「狩りの時間ですのー」
 最後は、フラッタリーが特大のプラズマ光弾を叩き込んだところで、イノブタ達は盛大に吹っ飛んで動かなくなった。
「あ……あぁ……き、貴様達ぁぁぁっ!!」
 全ての仲間を失い、アライグマが今までになく大きな声で叫んでいた。その瞳には大粒の涙が浮かんでいたが、しかしフラッタリーは何ら取り合わなかった。
「え、デウスエクスみたいだって? 何事も戦力の拮抗からというのは世の常人の常。WeAreRights(War)と戦うのは別に間違ってはいないのです」
 そう、間違ってはいない。この戦いには最初から、間違っている者など誰も存在していない。
 人間の身勝手から一生を狂わされた動物達が復讐したいと考えるのも、彼らの攻撃から罪なき人々を守りたいと思うのも、どちらも正しい。戦争とは、正義と正義のぶつかり合い。そして、どちらも正しいからこそ、最後に勝つのは力と想いが強い方だ。
「くそっ! くそっ くそったれぇぇぇぇっ!!」
 怒りに任せて爆弾を撒き散らし、キャノン砲を連射するアライグマだったが、もはや勝負は見えていた。攻撃する度にケルベロス達からの手痛い反撃を食らい、徐々に体力が奪われて行く。切り札の樹木巨人も、攻撃が届かないのであれば意味はない。
「そろそろ、終わりにして差し上げますわ」
 ルーシィドの放った絵具の塊が、アライグマの顔面に命中した。視界を奪われるだけでなく、このままでは存在そのものが塗り潰されてしまう。慌てて顔を拭うアライグマだったが……その時には既に、リリエッタが彼の眼前に現れていた。
「正面、隙だらけだよ」
「……ぐへぇっ!?」
 回し蹴りが炸裂し、吹っ飛んで行くアライグマ。大地に叩きつけらた彼の背中と、樹木の巨人を繋ぐ蔓が引き千切られ。
「Guuuu……ooooo……」
 最大に叫び、両手を上げたところで、樹木の巨人は何をすることもなしに力尽きて崩れ落ちた。残されたのは、全てを失い泥にまみれた非力なアライグマ。だが、やがて彼も限界を迎えたのか、そのまま目を瞑り動かなくなった。
「これで終わったのカ? まあ、人間憎むのも、わかんねーってわけじゃねーけどヨ……」
 攻性植物の力も失い、単なるアライグマとなった死体を見下ろし、神月が呟いた。
 人間のエゴで、ここまで歪むことになってしまった彼ら。それを利用しようとしたデウスエクスも許せないが……果たして、真の悪がいるのであれば、それはいったい誰なのであろうかと。

●生きた証
 人間に虐げられた恨みを晴らすため、攻性植物の力を得て決起した動物達。だが、いざ戦いが終わってみれば、彼らはただ蹂躙されただけであった。
 誰も望まぬ戦い。その果てに命を散らし、そして誰にも知られぬまま土に還る。さすがに、それはあまりに酷いと思ったのか、最後にフラッタリーは彼らのための簡易な墓を作っていた。
「お墓……ですか? でも、この動物達は……」
 憎しみの果てに人々を襲おうとした者に、果たして墓など必要あるのか。少しばかり複雑な気持ちのルーシィドだったが、敢えてそれ以上は何も言わず、ただ失われた命に敬意を払って黙祷し。
「力を手に入れテ、やりてー事をやろうとしたんダ。態々同情はしねーヨ……けド、今はゆっくり寝ナ」
 癒しの雨で周囲の施設を修復しつつ、神月もまた動物達に祈りを捧げた。
「ん、この子たちも、ちゃんと最後まで飼われていれば、人間とお友達になれたかもしれないね……」
 同じく、祈りを捧げるリリエッタも、どこか神妙な表情だった。
 動物を飼育するということは、その動物に自然の中での生き方を捨てさせること。だがそこまでして動物達の自由を奪ったのであれば、それに見合う愛情を与えてやらなければ、悪戯に彼らの命を弄ぶのと同義だ。
 果たして、それはデウスエクスが人々を自らのエゴで殺害するのと、何の違いがあるというのだろう。きっと、そう違いはない。ただ、心を持った人間であるなら、せめて動物達の命を奪う際には、その命に最大限の敬意を払わねばなるまい。
「では帰りましょうかー」
 一通りの祈りを捧げ、フラッタリーは何事もなかったかのように立ち去って行く。
 いつか、動物と話し合いができる世の中になるかもしれない。そんな時に、余計な遺恨を残してはならない。
 人と動物の双方に明るい未来を築くためにも、この地で朽ち果てたアライグマ達の存在を、戒めとして刻んでおかねばならないと。彼らが精一杯に生きた証。それを残しておくことが、せめてもの手向けになるだろうと。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月27日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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