加湿器の嘆き！

■リプレイ

●都内某所
　加湿器によって、加湿こそが全てであった。
　何故なら、それこそ加湿器の仕事。
　……果たすべき役目。
　ただ、それだけの事だった。
　そこに悪意はなく、善意のみ。
　少なくとも、加湿器はそう思っていた。
　だが、加湿器の所有者の考えは違っていた。
　加湿器のせいで、カビが生えた。
　……ダニも増えた。
　その上、夫婦喧嘩も増えた。
　こんな事、あり得ない、と愚痴をこぼした。
　それは加湿器の責任ではなかったが、家族の誰も、その言葉を否定する者はいなかった。
　むしろ、加湿器があるせいで、病気になった。
　夫婦喧嘩が増えのも、無職になったのも、加湿器のせいであると訴えた。
　例え、それが間違った事実であったとしても、誰も考えを改めようとしなかった。
「今回、ダモクレスと化したのは、加湿器ですか。本体は律義に加湿しているだけなのに、カビが生えたりダニが増えたりは、流石に言い掛かりじゃないでしょうかね」
　綾崎・玲奈（アヤカシの剣・e46163）は仲間達と共に、事前に配られた資料を参考にして、ダモクレスが確認されたゴミ捨て場にやってきた。
　その場所は元々空き地であったが、誰かがゴミを捨てた事が引き金になって、次々と粗大ゴミや、廃棄家電が捨てられるようになったようである。
　しかも、大量のゴミがパズルの如く積み重ねられているため、退かすだけでも一苦労と言った感じであった。
　そのため、誰も片付けようとせず、次第にゴミが増えていった。
　それは加湿器にとって、最悪の現実。
　おそらく、捨てられたのは、だいぶ前。
　その事を踏まえて考えると、加湿器があるのは、粗大ゴミや、廃棄家電の下にある。
　まるで墓に埋められた死体のように……。
「そもそも、カビが生えたり、ダニが増えたりするのは、流石に持ち主の掃除の管理が行き届いて無かったわけで、加湿器が原因ではないと思うわ。それなのに捨てられるのは可哀そうね」
　天月・悠姫（導きの月夜・e67360）が、複雑な気持ちになった。
　おそらく、加湿器の所有者は、自分の責任を転嫁しただけ。
　自分には何の問題もなく、加湿器に問題がある事にしたかったのだろう。
　そうする事で、少しでも気持ちを楽にしたかったのかも知れない。
　しかし、それが正しい考えであるとは思えなかった。
　それどころか、所有者側に非があるような印象を受けた。
「この季節だからこそ、加湿器は大事ですよね。捨ててしまうなんて勿体ないです」
　兎波・紅葉（まったり紅葉・e85566）が信じられない様子で、ゴミの山を見上げた。
　次の瞬間、ゴミの山が激しく揺れ、その中からダモクレスが現れた。
「カシツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　ダモクレスと化した加湿器は、ケルベロス達を威嚇するようにして、耳障りな機械音を響かせ、ぶわっと蒸気を噴き出した。
　それがまるでオーラの如く、ダモクレスの身体を包み込んだ。
「カシツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　そこから現れたダモクレスはロボットのような姿をしており、ケルベロス達を敵として認識しているのか、殺気立った様子で再び耳障りな機械音を響かせた。
「ダモクレスとなったからには、しっかりと倒しておかないと……」
　霧矢・朱音（医療機兵・e86105）が自分自身に言い聞かせながら、警戒した様子で間合いを取った。
　生きるか、死ぬか。
　ただ、それだけ。
　だが、ここで死ぬ気はない。
　それがケルベロス達に共通した気持ち。
「カシツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　そんな気持ちを木っ端微塵に破壊する勢いで、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
　それは凄まじい蒸気を発しており、唸り声にも似た音を響かせながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「自然の中に輝く属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい！」
　すぐさま、朱音がエナジープロテクションを発動させ、自然属性のエネルギーで盾を形成した。
　それと同時にダモクレスが放ったビームが命中し、弾け飛ぶようにして四散した。
「カシツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　その事にショックを受けたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせた。
　それはダモクレスにとって、予想外の出来事。
　……望まぬ未来。
　まったく想像もしていなかった結果であったため、怒りを抑える事が出来ない様子であった。
　その怒りを具現化させるようにして、ダモクレスがビームを放ってきた。
　しかも、そのビームは先程と比べて大きくて禍々しく、渦巻き状の蒸気を纏っていた。
「さぁ、行きますよ、ネオン。頼りにしていますからね！」
　それを迎え撃つようにして、玲奈がボクスドラゴンのネオンと連携を取りつつ、ダモクレスが放ったビームを避けた。
　それに合わせて、ネオンが属性インストールを発動させ、自らの属性を注入した。
「カシツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ！」
　その間にダモクレスが加湿器型のアームを振り回し、ケルベロス達に迫ってきた。
　そこにあるのは、怒り。
　実際には、自分の事を捨てた所有者に対する怒りだが、ダモクレスにとっては些細な事だった。
　そもそも所有者の顔を思い出せない。
　怒りで我を失っていた期間が長かったせいか、所有者の顔を忘れていた。
　そのため、まるでノイズが掛かっているかの如く、所有者の顔を思い浮かべる事が出来なかった。
　だが、似ている。
　ケルベロス達と、よく似ている。
　特に、シルエット的なモノがソックリであった。
　つまりケルベロス達も、敵ッ！
　間違いなく、敵である。
　そう思い込む事で、自らの怒りを増幅させる事が出来た。
　故に、ダモクレスに迷いはなく、ケルベロス達を殺す事だけを考え、行く手を阻むようにして転がっていた粗大ゴミや、廃棄家電を吹っ飛ばした。
「ひょっとして、誰かと勘違いをしていない？　あなたとは初対面だけれど……。まったく話を聞いていないようね。それなら仕方がないわ。……霊弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい！」
　即座に、悠姫がプラズムキャノンを発動させ、圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作って、ダモクレスの身体を吹っ飛ばした。
　その拍子にダモクレスの身体が大量のゴミに埋もれ、むせ返るほど濃厚な臭気が辺りにもわんと漂った。
「カ、カ、カ、カシツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　それでも、ダモクレスは諦めておらず、ケルベロス達に対して、激しい殺意を抱き、再び距離を縮めてきた。
　それはまるで弾丸のようでもあり、鋭い刃物のようでもあった。
　しかし、そこに策はない。
　いわば、ノープラン。
　何の躊躇いもなく、真正面から全力特攻ッ！
　その一撃でケルベロスを一掃すべく、一匹のケモノと化した。
　もちろん、当たれば、即死。
　運よく生きていたとしても、ボーリングピンの如く勢いで吹っ飛び、落下と同時に御陀仏である。
「まさか力技で何とかなると思っているのですか？　だとしたら甘過ぎますね」
　その行く手を阻むようにして、紅葉がダモクレスの前に陣取り、尋常ならざる美貌の呪いを放ち、ダモクレスの動きを封じ込めようとした。
「カシツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ！」
　だが、ダモクレスは諦めなかった。
　身体のあちこちからミチミチと音を響かせ、装甲を吹っ飛ばしながら、捨て身の覚悟で加湿器型ミサイルをぶっ放した。
　そのミサイルは地面に落下したのと同時に大爆発を起こし、大量の粗大ゴミと、廃棄家電を吹っ飛ばし、無数の破片となってケルベロス達に襲い掛かってきた。
「なかなか、やるわね。でも、この地に眠る霊が力を貸してくれるわ。さすがに、そこまでは考えていなかったでしょ？」
　その一撃を喰らった朱音がゴーストヒールを発動させ、大地に塗り込められた惨劇の記憶から魔力を抽出し、傷ついた仲間達を癒やしていった。
　そのおかげで大事には至らなかったものの、ダモクレスの攻撃は止まらない。
「カシツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ！」
　次の瞬間、ダモクレスが殺気立った様子で、再び加湿器型のミサイルを飛ばして来た。
　そのミサイルはケルベロス達のまわりに次々と落下し、大爆発を起こして、粗大ゴミと廃棄家電、大量の破片を飛ばしてきた。
「そう何度も攻撃されても困るから、魔導石化弾で、その身を石に変えてあげるわ！　避けられるものなら、避けてみなさい。それだけ素早く動けるのであれば……」
　それに合わせて、悠姫がミサイルの雨の中を駆け抜け、ガジェットを拳銃形態に変形させ、魔導石化弾を発射した。
　それと同時に、ダモクレスのボディに魔導石化弾が命中し、ミサイルの射出口を石化させた。
「カ、カシツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　それはダモクレスにとって、死刑宣告にも等しい現実。
　ミサイルの射出口だけでなく、ビームの発射口まで石化していたらしく、奈落の底に突き落とされたような気持ちになっているようだ。
「これでミサイルを撃つ事が出来なくなりましたね。それでは、これで最後にしましょう。その剥き出しになったコア部分を破壊して……」
　玲奈がサイコフォースを発動させ、精神を極限まで集中させる事で、ダモクレスを突如爆破した。
「カシ……ツ……キィ……！」
　次の瞬間、ダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、崩れ落ちるようにして完全に機能を停止させた。
「何とか倒す事が出来ましたが、このゴミをどうにかする必要がありそうですね」
　紅葉がホッとした様子で、辺りを見回した。
　ダモクレスが暴れた事で、大量のゴミと廃棄家電が辺りに散らばり、近所の犬小屋から顔を出したワンコが、困り顔で紅葉達を見つめていた。
　そんな空気を察した紅葉がヒールを使って、仲間達と共に辺りを修復し始めた。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年9月23日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 2
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