マッサージチェアは動かない

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃棄処分されたマッサージチェアがあった。
 それが棄てられていたのは、子供達が秘密基地と呼んでいる場所。
 その場所は廃墟と化した工場の中にあり、そこで隊長を名乗っていた子供が座っていたのが、廃棄処分されたマッサージチェアであった。
 だからと言って、動く訳では無い。
 ただ座り心地がイイだけ。
 それでも、リッチな気分になれるため、歴代の隊長だけが座る事の出来たモノだった。
 その場所に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、マッサージチェアに機械的なヒールを掛けた。
「マッサージチェアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したマッサージチェアが、耳障りな機械音を響かせ、工場の壁を突き破るのであった。

●セリカからの依頼
「雪城・バニラ(氷絶華・e33425)さんが危惧していた通り、都内某所にある工場で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある工場。
 この場所は子供達の秘密基地になっており、そこにあったマッサージチェアがダモクレスと化したようである。
「ダモクレスと化したのは、マッサージチェアです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスはマッサージチェアが多脚型戦車になったような姿をしており、ケルベロスを敵として認識しているようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ

●都内某所
 マッサージチェアにとっては、人の疲れを癒す事が至極の悦びであった。
 それさえ出来れば、何もいらない。
 ただ、それだけでいい。
 それは細やかな願いであった。
 だが、その願いを途中で叶える事が出来なくなった。
 新しいマッサージチェアが出現した事によって……。
 旧型のマッサージチェアを置くだけの余裕が無かったため。
 それでも、マッサージチェアには、第二の人生(?)が待っていた。
 そこで子供達の成長を見守り、巣立っていくのを見守った。
 しかし、心は満たされなかった。
 いくら大事にされても、決して満たされる事がなかった。
 それも、そのはず。
 マッサージチェアの心を満たすモノ。
 それはマッサージがしたいという気持ちであった。
「ここが秘密基地になっているのですか。私も幼いころはそう言うものを作って遊んだものですが、まるで迷路のようですね」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)は事前に配られた資料を眺め、仲間達と共に目印のついた工場にやってきた。
 その工場は、しばらく前から廃墟と化しており、今では子供達の秘密基地になっていた。
 そのため、工場の中は玩具で溢れ返っており、カラースプレーで奇妙な絵が描かれていた。
 そうする事で、ヒーローものに出てくる秘密基地っぽい雰囲気になっていたが、あまりにも画力が壊滅的であったため、奇妙な印象を受けた。
「僕の田舎は文明が進んでいなかったから、こんなに機械的なところが廃墟になるなんて、珍しく見えるよ」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、警戒した様子で廃墟と化した工場の中を歩いていった。
 工場の中には、研究施設と思しき場所や、作戦会議をするための場所もあったが、どれも中途半端で、クオリティが低かった。
 それでも、子供達が一生懸命になって、秘密基地を作ろうとしていた気持ちだけは伝わってきた。
「それにしても、マッサージチェアか。一家に一台は欲しい物よね。なぜ破棄されたのか分からないけど、ダモクレスになったからには、倒すしかないわね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、自分自身に言い聞かせた。
 マッサージチェアが捨てられたのは、必要とされなくなったため。
 無駄に場所を取るモノを保管しておくほどの余裕はなかった。
 だから、捨てた。
 何の躊躇いもなく……。
 正規の手段を取らず、不法投棄と言う形で……。
「ひょっとして、あれかな? 凄いね! 何処かの社長さんが座りそうな革張りの椅子だし! 凄く高そうな感じがするし、これ一台で安い車が買えそうだもの」
 そんな中、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)がマッサージチェアを見つけ、瞳をランランと輝かせた。
 マッサージチェアは、見るからに高級そうで、中古車一台分の価値がありそうなモノだった。
 ただし、全身をくまなくマッサージするため、かなりゴツイ印象を受けた。
 それでも、身体の疲れが取れそうな感じがするため、中古車一台分の価値であっても安く思えた。
「マッサージチェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 次の瞬間、マッサージチェアが機械的なヒールによって、みるみるうちに形を変えてダモクレスと化した。
 ダモクレスはマッサージチェアで出来た多脚型戦車のような姿をしており、ケルベロス達に狙いを定めて砲口を向けていた。
「……どうやら、やる気のようね」
 すぐさま、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が殺界形成を発動させ、身体から殺気を放って一般人達を遠ざけた。

●ダモクレス
「マッサージチェアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは見るからに癒されそうな感じのホンワカビーム。
 実際に癒し効果があるかどうかは別として、思わず前に飛び出して自分から当たりに行きそうな程、魅力的なビームであった。
 だが、それは命を捨てるのと、同じ事。
 少なくともビームの効果が分からない状態で、その攻撃を喰らう事は、自殺行為でしかなかった。
「見るからに癒し効果がありそうだけれど、わざわざ当たる訳にもいかないか。トトも、見た目に騙されて、ビームを浴びないようにしないとね」
 オズがウイングキャットのトトに声を掛け、警戒した様子で間合いを取った。
 その気持ちに応えるようにして、トトがビームの射程範囲外まで飛び上がり、清浄の翼で羽ばたき、まわりに漂っていた邪気を祓った。
「マッサージチェアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスがケルベロス達を威嚇するようにして、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは先程と比べて、超ホンワカ。
 まるで温泉の如く癒し系のビームであった。
 少なくとも、見た目だけは……。
「普通に考えれば、回復効果のあるビームよね。見た目も癒し効果抜群だし……。でも、罠よね、これ……」
 リサが色々な意味で危機感を覚え、エナジープロテクションを発動させ、自然属性のエネルギーで盾を形成し、仲間の守りを強化した。
 そのおかげでビームの影響を受けなかったものの、盾にぶつかって弾け飛んだ後も、癒し系であった。
「えっ? そうなの? 凄く癒されそうなんだけど……。試しに藍ちゃん、当たってみる? あ、大丈夫、大丈夫! 万が一、ダメージを受けたとしても、まわりには癒しのプロがいるから……って駄目? 駄目よね、私も嫌だし……」
 ことほが軽く冗談を言った後、ライドキャリバーの藍から視線を逸らした。
 しかし、藍の気持ちは、複雑。
 『今のは冗談じゃなくて、本気だよね?』と言わんばかりに、二度見であった。
 だからと言って、ツッコミを入れている余裕はない。
 故に、二度見。
 『ほ、本気なの!?』という言葉を込めた二度見であった。
「マッサージチェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 そんな中、ダモクレスがニュルニュルとアームを伸ばし、傍にいたバニラを捕まえ、念入りにマッサージをし始めた。
「いきなり何よっ! こんな事をして許されると……って、なかなか上手ね。悪い気はしないわ。肩だけじゃなく、脚もお願い」
 その途端、バニラが複雑な気持ちになりつつ、ダモクレスに指示を出した。
 その指示に従って、ダモクレスがバニラの指示に合わせて、身体をマッサージし始めた。
 そこに悪意はなく、善意のみ。
 むしろ、善意の塊であった。
 そこに、どういった意図があるのか分からないが、まるで雲の上にいるような夢心地。
 そのため、今が戦闘中である事を、忘れてしまう程だった。
「ひょっとして、タダでマッサージしてくれるの? でも、罠じゃないの? 油断をしたところで、キュッと首を締めてくるとか、そんな感じの罠でしょ? えっ? 違うの?」
 それを目の当たりにしたことほが、驚いた様子で声を上げた。
 既に、頭の中はマッサージで、いっぱい。
 このまま戦いを止めて、マッサージを受けたい気分であった。
「……!」
 その事に危機感を覚えた藍が、デットヒートドライブを繰り出し、炎を纏いながらダモクレスに突っ込んだ。
 その拍子にバニラがマッサージチェアから放り出され、転がるようにして華麗に着地した。
「そのアームは邪魔ですね。いくら、その先に魅力的な癒しの世界が待っていたとしても……」
 それに合わせて、紅葉が月光斬を繰り出し、緩やかな弧を描く斬撃で、ダモクレスのアームを斬り落とした。
「マッサージチェアァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、マッサージチェア型のミサイルを飛ばしてきた。
 そのミサイルは超重量級であったが、壁や床にぶつかると、大爆発を起こして、大量の破片を飛ばしてきた。
 それは鋭い刃となって、ケルベロス達の身体を貫いた。
「皆、大丈夫よ。平常心を保つのよ」
 すぐさま、リサが鎮めの風を発動させ、竜の翼から仲間の心の乱れを鎮める風を放った。
 そのおかげで仲間達はパニックに陥る事なく、冷静に行動する事が出来た。
「マッサージチェアァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、再びマッサージチェア型のミサイルを飛ばそうとした。
「もう二度とミサイルを撃つ事なんて出来ませんよ。どんなに頑張っても、もう撃つ事なんて出来ないのです」
 その行く手を阻むようにして、紅葉がダモクレスの前に陣取り、尋常ならざる美貌の呪いを放ち、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「マッ……サージ……チェ……」
 それでも、ダモクレスが動こうとしていたが、その気持ちに反してまったく身体を動かす事が出来なかった。
 それは呪い、忌々しい呪い。
 それが分かっていても、ダモクレスはアームひとつ動かす事が出来なかった。
「随分と苦しんでいるようだけど、これで終わりよ。さっきマッサージをしてくれたおかげで、身体に疲れも取れたしね。この痛烈な一撃を受けなさい!」
 次の瞬間、バニラが破鎧衝を繰り出し、ダモクレスの弱点を見抜くと、痛烈な一撃でコア部分を破壊した。
「マッサージチェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 その一撃を喰らったダモクレスが断末魔にも似た耳障りな機械音を響かせ、完全に機能を停止させて崩れ落ちた。
「みんな、お疲れ様。秘密基地を失うのは勿体ないけれど、工場内は片づけようか」
 そう言ってオズがヒールを使い、工場の中を修復し始めた。
 工場の中はダモクレスとの戦いでボロボロになっていたが、仲間達のヒールによって次第に修復されていった。
 そこには沢山の思い出が残っていたものの、第二、第三のダモクレスが発生する事を危惧して、片付ける事になった。
 だが、子供達の想像力は、無限大。
 きっと、以前の秘密基地を上回るほど、素晴らしい秘密基地を作り上げる事だろう。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月22日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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