映画館前にゾンビ集団現る!

作者:神無月シュン

 とある映画館の入り口前に、突如体のあちこちを損傷させた屍隷兵の一団が姿を現した。
 人間の死体を利用した屍隷兵は、まるで物語に出てくるゾンビの様。
 違う点は、体のあちこちに機械的な部品が埋め込まれている事だろう。夜の闇に埋め込まれた機械のランプが点滅する度、屍隷兵の姿が浮き上がる。
「なんだ? 何かのイベントか?」
「おーすげー。ちょーリアルじゃね」
 映画館の主催した宣伝イベントか何かと勘違いした人々が、無警戒に屍隷兵へと近づいていく。
 本能的にグラビティ・チェインを欲している屍隷兵は、近づいてきた人間へと次々襲い掛かるのだった。


 会議室へと集まった皆に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が事件について説明を始めた。
「何処かから送り込まれた屍隷兵が、人を襲う事件が発生する事が予知されました。被害が出る前に、現場に向かって、屍隷兵を撃破してください」
 セリカの話によると、屍隷兵の数は15体。それが夜の映画館の前に突如姿を現すという。

 出現する屍隷兵は、頭部の一部が欠けていたり、腕が一本なかったりと、どの個体もどこかしら損傷しているようだ。
 屍隷兵は、近くの人間を手当たり次第に襲う様で、屍隷兵と一般人の間に割り込めば狙いはこちらに移るだろう。
「体に観測機材のようなものが植え付けられていて、ダモクレスが何らかの実験の為に送り込んでいるのかもしれません」
 周囲に被害を出さないように撃破するのは勿論、観測機材から情報を送られないように、素早く撃破できればより良いかもしれない。
「屍隷兵は人型のゾンビの様な姿をしていて、弓や斧、チェーンソー剣を所持しています」
 本能に任せて襲い掛かってくるため、連携を警戒する必要はなさそうだが、数に押し切られない様に注意したい。

「損傷した屍隷兵は強敵とは言えませんが、数が多いです。討ち漏らして一般人の方に向かわれない様、気を付けてください」


参加者
カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)
長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)
水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)
 

■リプレイ


「ヘリオンデバイス・起動!」
 ヘリオンから発射された光線を受け、ケルベロスたちの元にヘリオンデバイスが実体化する。
「ヘリオンデバイスの起動を確認しました。作戦の成功を祈っています」
 ヘリオンの離脱を見送ったケルベロスたちは、夜の映画館の前へと歩き出す。
 突如出現した屍隷兵と、ヘリオンデバイスを装備したケルベロスたち双方を見て、突発イベントかと、携帯端末のカメラで撮影を始める人たち。
「こんな街中に屍隷兵を放って、データ収集までしようだなんて……でも、思う通りにはさせません!」
「映画館の前に本物の屍隷兵を置いとくとか、なかなか考えたじゃん。全員倒すしデータもやらないけどな」
 同時に言葉を発したのは、水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)と水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841)の双子の姉弟。
「人の生体部品と金属部品の複合品。私も似たようなモノですが、差異は明確な意思の有無でしょうか。何方もいずれ潰える存在であるなら――どちらが、幸福なのでしょうね」
 機械の埋め込まれた屍隷兵を見つめ、レプリカントである長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)が呟いた。
「私たちはケルベロスです。これは映画の宣伝ではなく本物のデウスエクスなので、早く逃げてください」
「なるべくこっちのほうに逃げてくれ」
 誰かが発信した情報に興奮しイベントを見ようと集まってくる人たちへ、和奏と翼は状況を説明して避難するように呼び掛ける。
 しかし、興奮した人たちは呼びかけも聞かずに、携帯端末で動画や写真を撮影するのに夢中になっていた。
 武器を手に屍隷兵が進行を始める。
「止まって! 君たちも元は人間でしょ。人を襲うなんてダメだよ」
 進行を食い止めようと、屍隷兵に語り掛けるメロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)。
 しかし屍である彼らに、メロゥの言葉が届くことは無く屍隷兵の歩みは止まらない。
「……そっか、人としての理性や感情は、もう残っていないんだね。ならせめて、終わりくらいは華やかに。この奇術がはなむけとなれば、いいな」
 メロゥは残念そうに一瞬顔を伏せると、気持ちを切り替え武器を取り出した。
「真っ当な命すら持たん奴らがいくら群れを成したところで、命ある者に敵うはずがない。死者は黄泉の国へ還るのが定めだ」
 覚悟しろとカタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)は屍隷兵へと銃口を向ける。
 カタリーナの行動に屍隷兵たちの敵意がケルベロスたちへと向けられる。武器を構え対峙する屍隷兵とケルベロス。その様子に固唾をのむ周囲の人たち。戦闘開始を告げるかのように、和奏のジェットパック・デバイスから伸びたビームに引かれ、ケルベロスたちは一斉に上空へと舞い上がった。


 鏡花が背中、肩、手足、様々な場所からミサイルポッドを展開する。
「怒りはあなた方をその姿にした者へ。ですが、今はあなた方を討つ他、ありません」
 鏡花の元から放たれた大量のミサイルが雨の様に、上空から弓を持つ屍隷兵たちに向かって降り注ぐ。
「う、嘘だろ……」
「巻き込まれる前に逃げなきゃ!」
「死ぬのは嫌ぁぁぁあ!」
 激しい轟音と煙に、周囲の人たちもこれがイベントの類ではないとようやく気が付く。
 とにかくここから離れようと、人々が思い思いの方向に逃げ出す。その様子を視界に捉えた1体の屍隷兵が逃げていく背に向けて、弓を引き絞る。
 今まさに矢が放たれようとする瞬間、ガマガエルの形をしたレスキュードローンが屍隷兵の目の前を横切った。
 屍隷兵が一瞬レスキュードローンの方へと視線をやり戻すと、逃げる背中はどこにもなかった。
「絶対に逃がしません。……行けっ!」
「逃がすかよ……行け!」
 上空で浮遊砲台を展開する和奏と翼。叫びと共に撃ち出される砲弾の嵐。次々に襲い掛かる砲弾に、屍隷兵の腕が、足が、吹き飛んでいく。足を失い倒れる屍隷兵に容赦なく降り注ぐ砲弾。砲撃が止んだ跡には、弓を握りしめた屍隷兵の腕だけが残されていた……。
 カタリーナのバスターライフルから魔法光線が発射され、その後を追ってメロゥが高度を下げる。
 光線の直撃を受け、怯む屍隷兵。そこへメロゥが地面スレスレに浮いて、被っていたシルクハットを手に取り恭しくお辞儀をする。その間もメロゥは作った様な微笑みを浮かべていた。
「さあ、ここに取り出したるは一本のナイフ」
 メロゥがそう言うと、何も持っていなかった手には、いつの間にかナイフが握られていた。
「このナイフの刀身には今まさに君のトラウマが……」
 ナイフを覗き込み、メロゥは残念そうにため息を吐く。
「……残念。死者にトラウマなんてあるわけがなかったね……おっと」
 横から迫っていた屍隷兵の斧をメロゥは上空へと飛び上がって躱す。
 メロゥと入れ替わる形で急降下する鏡花。弓兵たちの背後へと回ると、ガジェット『機巧武装アームドブラスター』を鋼鞭形態に変形させ振り向き様に屍隷兵たちの足を払う。
 鞭の一撃に尻もちをつく屍隷兵たち。そこへ和奏とカタリーナのアームドフォートが火を噴く。
 2人の砲弾を浴びた屍隷兵の体が四散する。その横で起き上がろうとしている屍隷兵が1体。
「そこだ!」
 翼の放った光線が屍隷兵の腹部を撃ち抜くと、屍隷兵は上半身と下半身に分断され地面に無様に転がった。それでもなお屍隷兵は両腕を使い地面を這い弓を拾うと、上空へ向けて攻撃をしようと藻掻いている。
「うわぁ、あれじゃ本当にゾンビ映画みたいだわ」
「自分でやっておいてなんだけど、気持ち悪いぜ」
 這いまわる屍隷兵を見て、和奏と翼が嫌悪感をあらわにする。
 弓を持つ屍隷兵たちとケルベロスたちが交戦する中、空中に飛んでいるケルベロスたちへと攻撃することが出来ないでいた屍隷兵たちが、痺れを切らして一般人たちが逃げていった方向へと足を向ける。
 屍隷兵の進行に気が付いたメロゥは、屍隷兵の目の前へと躍り出ると、魔力を秘めた輝く赤い瞳で屍隷兵たちを見つめた。
「おやおや、どこへ行こうというんだい? ショーはまだ始まったばかりだよ」
 10体の屍隷兵を前に、メロゥは微笑みを浮かべていた。


 抵抗を受けつつも、弓の屍隷兵へと攻撃を集中させるケルベロスたち。そしてついに上空への攻撃手段を持つ、弓の屍隷兵全てを倒した。
「少しだけ動かないでください」
 そう言うと、鏡花はガジェットから蒸気を噴出させ皆を包み込む。蒸気に包まれたケルベロスたちの身体が正常な状態へと整えられていく。
「これで大丈夫でしょう」
 治療を終え、ケルベロスたちは残りの屍隷兵の殲滅を開始する。
「翼、ちゃんとついてきなさいよ」
「和奏こそ遅れるなよな」
 和奏と翼が同時に動き出す。肩を並べしばらく飛んだ後、左右に分かれ屍隷兵に向かって浮遊砲台を展開。更に手にした武器の銃口も屍隷兵へと向ける。
『1、2、3、行けー!』
 掛け声と共に引き金を引くと、夜空に輝く流星の様に無数の砲弾が屍隷兵へと降り注ぐ。
「私も負けていられないな」
 カタリーナが精神を集中させ、屍隷兵を爆破させる。更にメロゥの取り出したナイフが煌めく。

 ケルベロスたちの一方的な攻撃に、抵抗しようとする屍隷兵の攻撃は只々空を切るのみ。
 ケルベロスたちの攻撃は続き、やがて屍隷兵の半数が活動を停止した。残りの半数も動いているのが不思議なくらいに損傷が激しい。
 トドメをさすため、ケルベロスたちは最後の攻撃を開始する。
「隠し玉、という程でもありませんが」
 腕部装甲に装着した電磁誘導装置から特殊合金製の鋼球へと圧縮したグラビティを撃ち出す鏡花。射出された鋼球が屍隷兵の頭蓋を砕き、地面へとめり込む。
 和奏が両手にバスターライフルを構え、放たれた巨大な魔力の奔流が屍隷兵たちを飲み込んでいく。
 魔力の奔流に翻弄される屍隷兵たちをロックオンすると、翼は無数のレーザーを発射。
「さぁさぁご注目あれ、今日も楽しい手品の時間だよ。お代は見てのお帰りだけれど――見たのなら、無事には帰れないかもね」
 屍隷兵に向かってトランプの束を放り投げるメロゥ。
 パチンとメロゥが指を鳴らすと、その一瞬で宙を舞っていたトランプの1枚が姿を消すと、そのトランプは屍隷兵の体を突き破って、飛び出してくるのだった。
「魂を失った今、貴様らがこの世にいる理由など無かろう。あの世に還らぬなら、力ずくでも還すまでだ」
 最後の1体となった屍隷兵へとアームドフォートを向けるカタリーナ。襲い掛かるアームドフォートの一斉射に、屍隷兵は為す術もなく倒れるのだった。


 屍隷兵との戦いは終わった。
 屍隷兵にされた人間へと黙祷を捧げる鏡花。皆もそれに続く。
 黙祷を終え、鏡花は周囲や建物の損壊状況を確認していく。周りの建物の壁や地面には銃弾や砲弾で出来た無数の穴。確認を終え、鏡花はせっせと損壊個所へとヒールを施していく。
「戦闘は終わったからもう安全だぜ」
「怪我はありませんか?」
「ああ……」
 避難していた人たちに事件が解決したことを知らせ、怪我人の有無を確認する翼と和奏。
 どうやら怪我人は居ないようだが、皆の表情には不安や恐怖が張り付いていた。
「ふむ……それならば、ここで手品でも披露しよう」
「ここでやるのか?」
「もちろん。観客はたくさんいるようだしね。皆にも手伝って貰うよ」
「手伝うって、何をですか?」
「そうだね……人体切断マジックとか?」
「流石にそれはシャレにならないぜ」
 散々真っ二つになっても動き回る屍隷兵を見た後に、人体切断マジックをするというのはどうかと、抗議の声をあげる翼。
「もちろん冗談だよ。皆を笑顔にできなければ意味ないからね」
 微笑みを浮かべ、メロゥは演目について相談を始めた。
 メロゥの提案で急遽、映画館前で開かれるマジックショー。皆の恐怖を取り除こうと慣れないながらもメロゥを手伝うメンバーたち。
 いつしか映画館の前は歓声と拍手に包まれていた。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月30日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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