林檎狩りの奇譚

作者:芦原クロ

 旬のリンゴ狩りが楽しめる、農園。
 一般人が老若男女問わず訪れ、赤い果実を手にし、瞳をきらきらと輝かせる子供たちも居る。
 休憩所には、農園のリンゴを使った、アップルパイやリンゴジュースが飲食出来る。
 時間は無制限の為、リンゴ狩りを中断し、休憩所で飲食したり休んだりしている一般人も多い。
 穏やかな雰囲気は、唐突に上がった悲鳴により、掻き消された。
 悲鳴をあげて逃げ惑う一般人を、捕まえようと動くのは、リンゴを実らせた一本の木だった。
 異形と化したそれは、ツルを伸ばし、他の木に実っているリンゴを次々と採ってゆく。
『リンゴガ、イチバン! モット、タベロ! タクサン、タベロー!』
 異形は叫び、リンゴを食べさせようと、一般人の捕獲に夢中になっていた。

「リサ・フローディアさんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来た。現場に急いで向かい、討伐を頼みたい」
「林檎を食べろと言っているから、食べれば弱体化しそうね」
「流石、ケルベロスだ。リサ・フローディアさんの言う通り、確実に討伐するには、リンゴを沢山食べる必要が有る」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)の判断力に、感心の声をあげてから、説明を続ける、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)。

 敵の数は1体。配下は居ない。
 一般人の避難誘導については、警察などが迅速に対処する為、ケルベロスたちが現場に到着する頃には、避難が完了している。
 無人の現場に到着後、攻性植物を弱体化させてから撃破すれば良い。

「この攻性植物は、リンゴを食べまくっていれば、弱体化してあっさり倒せるようになるだろう」
 弱体化すれば、敵を逃す事も無く、一気に攻撃が出来る。
「被害が出る前に、攻性植物を倒してくれ。それと、リンゴは旬だからな。かなり美味いようだ」


参加者
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
山元・橙羽(夕陽の騎士妖精・e83754)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ


『タクサン、リンゴ、タベロー!』
「タクサン食べないとイケナイノデ、事前に水だけで胃を膨らませて、空腹感を高めマシタ」
 胃袋の限界を克服して来た、万全のパトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)は早速、攻性植物がツルで抱えているリンゴを手に取り、食べ始める。
(「私の危惧していた攻性植物が本当に現れるとは驚いたわね。被害が出る前に、何とかしないといけないわね」)
 緊張感を抱きつつ、敵を見上げるリサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)だが、その視線は次第に、相手が持っている沢山のリンゴへ向かう。
(「林檎も沢山食べれるから、楽しみだわ」)
 無意識に口元が緩み、微笑むリサ。
(「林檎食べ放題と聞いて!」)
 山元・橙羽(夕陽の騎士妖精・e83754)は嬉々としてリンゴを見つめるが、はっと我に返り、周囲を見回す。
(「……もとい、被害が出ないうちに倒しておきたいところ。民間人の避難は済ませてるんでしたね」)
 現場には、一般人の姿は見当たらない。
 避難が完了していることは、明白だ。
「よーっし、林檎食べようじゃん!」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、元気良く声をあげる。
 大量のリンゴを食べまくるという、ある意味で大変そうな戦が始まった。


「一般人を避難サセてリンゴを食べる! イヤー面白イ構図ダワ……」
 パトリシアは座れる場所を見つけ、そこへ腰掛けてリンゴを食べまくっている。
「一体いくつの林檎を食べると弱体化するんでしょう? ……まあ、それなりの出費は覚悟しております」
 リンゴを2個ほど食べ終えた橙羽が、疑問を抱く。
 攻性植物はまだまだ元気な様子で、リンゴをもっと食べるようにと、急かしている。
「リンゴは包丁で兎さん林檎にして食べてあげるわよ」
 休憩所に備えられていたキッチンで、皮をウサギの耳の形として残したリンゴを、皿に乗せて運んで来た、リサ。
「わー、かわいいねー!!」
 ことほは上機嫌で、ウサギリンゴを暫く眺めている。
「念のため、林檎が苦手な人がいても大丈夫なように、おいしくなあれを使う気でいたけど……」
 ことほは言葉を区切り、メンバーを見て、リンゴが苦手そうな様子は見当たらないのを確認する。
「大丈夫みたいだね! 藍ちゃんは……サーヴァントだからタンクにリンゴジュースとかってだめかな?」
 タンクに近づきながら、問う、ことほ。
 藍はエンジン音を鳴らし、ことほは、それだけで藍の拒絶を汲み取った。
「だめかー、それじゃ待機で!」
 ガッカリしたり、藍の拒絶に不快感を抱いたりなどはせず、明るく告げる、ことほ。
 ことほにとって藍は、友達のような存在なのだ。
「確か、皮に栄養が含まれているから丸かじりするといいとか聞いたので、そのままガブリと行きます」
 橙羽は3個目のリンゴを手にし、前と同じように表面を拭いてから、リンゴにかじり付く。
「汚れを落とさないと余計な味がして台無しになっちゃいます」
『リンゴ、ソンナニ、オイシイ? ウレシイ!』
 美味しくリンゴを食べているアピールも忘れない、橙羽。
「齧りつくのもイイケレド、やっぱり食べヤスク切っておかないと多くは食べられマセン」
 5個以上は平らげていたパトリシアが、不意に立ち上がる。
「キッチンお借りシマース♪ 攻性植物ちゃんはちょっとそこドイテネ」
 パトリシアに言われるがまま、素直に道を開ける、攻性植物。
 まだまだ美味しく、食べてくれるのだと期待しているのだろう。
「わぁ、とても甘みが強くて、正に絶品ね」
 程よい食感と濃厚な味、甘みがたっぷりの美味しいリンゴを食べていたリサが、攻性植物に聞こえるよう、感想を述べる。
「甘く調理すると美味しいけど満腹感も実際のカロリーもヤバイから、私はなるべく生でかじってくようにするね」
 そのまま食べても充分美味しいが、いくら美味でも、それだけを食べ続けるのは限界が有る。
 ことほは、味が若干違う種類の、リンゴを受け取って食べていた。
「こっちの林檎も美味しいよー!」
 明るい声音で、攻性植物に対し、元気良く主張する、ことほ。
「違う種類も有るのね」
「食べてみる?」
 どれが違う種類なのか、見分けようとしていたリサに、ことほがリンゴを分ける。
「ありがとうね」
 礼を言ってから、リサは違う種類のリンゴを口にする。
「調べたんだけど、林檎って日本だけでも2千種類は有るみたい。林檎ってすごいねー!」
『リンゴ、スゴイ!』
 調べてくれたことほの頭を、まるで撫でるようにツルが動いてから、引いてゆく。
「林檎は、普通に生で食べるのと、焼き林檎にして食べるのとの、二通りの食べ方を楽しみたいわね」
「焼き林檎って、どんな感じなのかな?」
「焼き林檎にしたら、甘みが濃縮されて美味しく感じるのよ」
 不思議がることほに、優しく教える、リサ。
「そうなんだ!? いいなー、私の分も作ってくれないかなー?」
「全員分作る気だったの。だから、食べて貰えたら嬉しいわね」
 リンゴの話題で、楽しそうに盛り上がっている、ことほとリサ。
 その光景を前にし、攻性植物は少しずつ静かになっていった。
「真ん中をくりぬいて、自前のバターを入れた焼きリンゴの完成デス。薄切りにして食べやすくシタのも有りマス」
 戻って来たパトリシアが、更に美味しそうに仕上げたリンゴを、口に含む。
「バター入りの焼き林檎! 絶対美味しいに決まってるじゃん!」
 瞳をらんらんと輝かせる、ことほ。
「仲間が食べている林檎の食べ方も、真似してみたいわね」
 リサは、メンバーを改めて見てみる。
「焼き林檎やアップルパイを作ってみました。後は、林檎に蜂蜜やシナモンシュガー等の調味料をかけたり。これは合います」
 そう告げる橙羽から、甘そうな良い香りが漂って来る。
「カロリーがヤバイ……でも、美味しそう。でも、カロリーが!」
 香りに引き寄せられるように、橙羽の元へ行きそうな、ことほ。
 首を横に振り、ことほは誘惑と戦っている。
「後は……後は、ウウーン? 攻性植物ちゃんは何かお勧めアル? 知性はナサそうダケド」
『オススメハ、リンゴ! オイシイヨ!』
 パトリシアの読み通り、知性がほぼ無いに等しい回答しか返って来ない。
「私も真似して、作るのも良いわね」
「リサさん、誘惑しないでー!」
 楽しそうにやり取りを交わしている、ことほとリサ。
 いつの間にか、敵が無口になった事に、気付くメンバー。
 どうやら満足したのか、敵は大人しくなり、戦意も喪失している状態だ。
「倒せそうかな? 藍ちゃん頑張ろー!」
 ことほは藍と共に攻撃を繰り出し、敵にダメージを与える。
 敵は、無反応のままだ。
「私は念の為、仲間の回復に専念するわね」
 敵の動きを良く見て、いつでも対処出来るようにと、治癒の姿勢を崩さない、リサ。
「美味しい林檎をありがとう、ごちそうさまでした」
 煌めきを描くようにして、飛び蹴りを叩き込む、橙羽。
「短時間で終わらせマショウ!」
 感情を活性化し合った者同士の連携後、待機していたパトリシアが敵の気脈を見抜き、指一本で突く。
 それがトドメとなり、敵は完全に消滅した。


「それにしても、植物の望みを叶えてあげるとは不思議ですね。今後もこのタイプの攻性植物が増えるのかな?」
 後片づけや、ヒールでの修復をしながら、疑問を口にする、橙羽。
「リンゴ園貸し切りも悪くはナイケド、避難して震えテル一般人を救うのがお仕事デスモノ!」
 速やかに現場の復旧を終わらせた、パトリシア。
「……楽しくリンゴ食べてたけど。けふ」
 胃袋が満たされたのか、パトリシアは息を吐く。
「農園で荒らされた箇所は……もう無いわね」
 リサは確認してから、ヒール作業を終えた。
 程なくして、農園の管理者や、一般人が戻って来る。
「今日はもうたくさん食べちゃったから、お土産にいっぱい林檎買って帰ろう!」
「私も、林檎をいくつかお土産として持って帰りたいわ」
 買うつもりだった、ことほとリサ。
「……え? くれるの? いいの? ありがとー! 林檎って健康にもいいから、朝の食事代わりにもいいよねー!」
 農園の管理者から、お礼のリンゴを受け取り、元気に喜ぶ、ことほ。
 リサも管理者へ礼を告げてから、喜んで受け取る。
「ふう、林檎を沢山食べれて満足だわ。とても美味しかったわね」
 満足げなリサは、土産用のリンゴをじっと見つめた。
「……アップルパイを作って、ゆっくり食べるのも良いわね」
「リサさん、その時は私も呼んでー! 手伝うし、アップルパイ食べたい!」
 リサの呟きに即反応する、ことほだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月26日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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