クゥ・ウルク＝アン樹海決戦～樹海に潜む植物竜を討て

■リプレイ

●樹海を行くケルベロス
「へリオンデバイス、起動！」
　放たれた光より生み出されたデバイスを装着し、ケルベロスたちは富士の樹海へと向かう。
　７つのチームは、樹海を７つの軸に分割し、それぞれの担当エリアを決めて探索を始めた。
　中央部……Ｄの文字が割り当てられたエリアを行く者たちは、隠密気流をまとった仲間から遅れないように樹海を進んでいく。
「富士の樹海にリンドヴルムか……木を隠すならなんとやら、ってか？」
　迷彩柄のマントをまとって、立花・恵（翠の流星・e01060）は樹海の中を見回した。
　木々は幾重にも重なっており、当然ながら奥は見通せない。
「そんなところかもな。けど、こないだ他の奴にも言ったんだがよ……」
　鋭い眼光を周囲に向けながら、言葉を発したのは相馬・竜人（エッシャーの多爾袞・e01889）だ。
「悪い事はバレちまうように世の中出来てるよなあ」
　元不良のドラゴニアンは、悪い表情を浮かべている。
「しかり。日の本一の山の麓でこそこそと悪事を働くとは何たる邪悪…。これ以上邪悪の種を聖なる霊峰を望む森に落とさせない為にも我らの正義をしめさねばならぬな！」
　アデレード・ヴェルンシュタイン（愛と正義の告死天使・e24828）は地獄化した右目を輝かせて、力強く宣言する。
　全チームで共有している地図は、手前から奥まで５つのエリアに分割してある。目指す敵がいるとすれば、奥の方……４とか５まで行くことになるのだろうか。
　マリュウモドキやドラグナーがいないか周囲に気を配りながら、ケルベロスたちは進んでいく。
　そして、今回は今までの大規模作戦とは大きく違う要素があった。
（「こちらＤ班……」）
　通信機型のデバイスを装備したウィッカ・アルマンダイン（魔導の探究者・e02707）が、他のチームと連絡を取り合う。
「マインドウィスパー・デバイスは初めて使いますが、この状況ではなかなか有用ですね」
　デバイスを使えば、他のチームと連絡を取り合える。
「今まで敵地での遠距離通信は概ね妨害されていましたからね」
　できないのが当たり前となっていたチーム間の連絡が、デバイスを使えば可能になる。
「便利になったものだね」
　仲間の１人がウィッカの言葉にうなづいた。
　現在位置や気づいたことを連絡しながら、ケルベロスたちは進んだ。
　樹海の中には進みにくい場所もあるが、そういう場所でも神宮時・あお（彼岸の白花・e04014）が前に進み出ると、枝葉が動いて少し通りやすくなる。
　あおが着ている、水の底のような濁った蒼色をした外套の力だ。
「あ……」
　あまりしゃべらないあおの声が、久方ぶりに発された。
　木々の間で静かにたたずむ巨大な竜を見たためだ。
　巨大な体躯を樹海へと押し込め、隠している竜――マリュウモドキ。
　ケルベロスたちが見えているのか、いないのか……少なくとも、マリュウモドキが動き出す様子はない。
　片翼が青いオラトリオが、黒瞳を動かないドラゴンへ向ける。
「せっかく大阪に平和が戻ったし、ドラゴンのゲートも壊したんだから、後片付けもしないとね」
　夢見星・璃音（輝光構え天災屠る魔法少女・e45228）はマリュウモドキを見上げて言った。
（「もう私以外にドラゴンに人生狂わされる人なんていてほしくないし……」）
　そんな想いを抱きながら、漓音はあおの後についてマリュウモドキを迂回する。
　さらに幾度もケルベロスたちはマリュウモドキに遭遇したが、植物と同化した竜たちが攻撃してくることはなかった。
「攻撃してこないのが逆に不気味です……目が合っても何もしてこないのでしょうか？」
　銀狐のウェアライダー、スズナ・スエヒロ（ぎんいろきつねみこ・e09079）が不安に銀色の眉を寄せる。
「どうすれば動き出すか確かめてみたくはあるな。植物化した竜達とは面白い研究対象なのだが、デウスエクスである以上討伐が優先だね」
　浜本・英世（ドクター風・e34862）が言った。探求心のおもむくままに観察を続けたい気持ちはあるが、今はそれをしている場合ではない。
「せめて道中、習性の観察くらいはして行きたいところだね。本当に植物のようにじっとしたままだ」
　仲間たちから遅れぬように移動しながらも、英世はできる限りマリュウモドキをながめる。
　微動だにしないドラゴンの視界に入らないよう気を付けながら、ケルベロスたちは樹海の奥に進んでいく。
　ドラグナーも、遠くで飛んでいるのを幾度か見かけたが、進路上で遭遇することはなかった。

●ドラグナー強襲
　木々がざわめいた――ような、気がした。
　違和感の正体はすぐに知れた。
　樹海の１番端……Ａの番号を振ったラインを進んでいたチームから、ドラグナーに遭遇したという連絡が来たのだ。
　警戒を強めながら、ケルベロスたちは先に進む。
　だが、戦闘が始まったことで、ドラグナーたちの動きもより厳重になったようだ。警備網を強化した彼らの動きが、ざわめきとなって伝わってきている。
　ほどなく、もう１つの悪い知らせが来た。
（「Ｂ軸班より……！　敵の警戒網に引っかかった。みんな、聞こえる？　敵は僕らが引き付けるから、出来るだけ走り抜けて……！」）
　デバイスを通して中性的な声がウィッカへ聞こえてくる。
　漓音がハンドサインで敵の接近を知らせたのは、それとほとんど同時。
　彼女が装備したゴッドサイト・デバイスには、ドラグナーとおぼしき影がこちらに近づく姿が映っていた。
「できれば奇襲で排除したいところだね」
　英世の言葉に同意しつつ、ケルベロスたちはドラグナーへと接近する。
（「Ｄ班です。こちらでも接近してくるドラグナーを確認しました。可能な限り早く撃破します」）
　移動しながら、ウィッカは他のチームにそう連絡した。
（「こちらＦ班。敵指揮官を確認。これから戦闘に入ります。——どうか、ご武運を」）
　それと前後して、穏やかでありつつも緊張をはらんだ声もマインドウィスパー・デバイスから届いていた。
「マリュウモドキ！　出番だぞ！」
　ドラグナーが呼びかける声が聞こえた。
　今まで動かなかった竜がゆっくりと動き出す。
　木々をなぎ倒し、ケルベロスの姿を探し始めたのだ。
　そこにケルベロスたちは襲いかかった。攻撃態勢に入った時点で気流は解けて敵は気づいたようだったが、とっさにできたのは槍で身を守ることだけだった。
　竜人は真っ先に敵へと飛びかかった。腕はすでに人のものではなく、顔には髑髏の仮面をかぶっている。
「かかって来な、咬み千切ってやるからよ――」
　漆黒の剛腕をドラグナーへと振り上げる。
「――逃げても誰も咎めねえぜ。竜が相手なんだからな」
　挑発的な言葉と共に、彼はすべてを圧倒する腕で敵を吹き飛ばす。
　ドラグナーが怒りの表情を浮かべるのを、竜人は嘲笑って見せた。
「仕方ない、すぐに終わらせよう！」
　恵が意識を集中し、吹き飛ばした敵を爆発させようとする。だが、マリュウモドキが爆発からドラグナーをかばった。
「動きだすと厄介ですね」
　ウィッカが影に回り込み、杭を叩き込む。
「まずドラグナーからだ。わかっているね？」
　呼びかけながら英世が氷結の輪を放つ。
　あおが後衛から飛び蹴りを放ち、それに合わせて漓音が時空凍結弾を撃つ。
　アームドアーム・デバイスで身を守りながら、スズナはプラズムキャノンで足止めをはかる。
　とはいけ、流れるようなケルベロスたちの攻撃のうち、一部をマリュウモドキがかばっていた。
「ふはははは、ばれぬと踏んでこのようなところで悪事を働いて追ったようじゃが、この世に正義がある限り、露見せぬ悪事なぞないのじゃ！　大人しく己が罪を悔いてから逝くが良いぞ！」
　アデレードが高らかに笑う。
「我が深淵なる瞳を見よ。其即ち其方の罪を映し出す冥府の鏡なり」
　流し込んだ地獄の炎がドラグナーを焼く。
　しかし、まだ敵は倒れないようだった。

●ドラグナーを討て！
　さらに、近くにいた２体のマリュウモドキを敵が呼び出し、ケルベロスたちへと攻撃してきた。
「おい、やることはわかってるだろうな？」
「サイも、皆さんを守ってくださいね」
　竜人がテレビウムのマンデリンに、スズナがミミックのサイに仲間を守るよう指示を出す。
　槍を振り上げてドラグナーはケルベロスたちへ襲いかかる。さらにマリュウモドキも、攻撃力についてはドラグナー以上のようだ。
　だが、漓音はひるむことなくドラグナーに狙いを定める。
　混沌とした色のオーブを構えて、仲間たちに続いて攻撃をしかける。
「これが私の練習成果……！　すべてを滅ぼす闇の力……我が意思のもとに、彼の者に永遠の眠りを与えよ！」
　彼岸の宝玉よりも巨大な魔力球を漓音は作り出す。
　狙い済まして放つそれは、ドラグナーへ確実に命中して大爆発を起こした。
　ドラグナーは奇妙な槍を振り回し、漓音へと投げつけようとする。
　スズナは機械腕に装着した長方形のバックラーでそれを防いだ。
　重厚な１本の腕で保持するその盾は、残念ながら彼女にとって扱い慣れたものではない。
「すっごく心強いですけれど……もっともっと、使いこなせるようにならないと！」
　十分に使いこなせてはいない……と、思う。それでも仲間を守ることはできた。４体の敵から、スズナは竜人やサーヴァントと共に仲間を守り続ける。
　傷ついたディフェンダーたちをフォローするのは、メディックのアデレードだ。
「わらわがいる限り、こんなところで誰１人倒れさせはせぬぞ！」
　薬液の雨を降らせて、ドラグナーたちの攻撃をしのぐ。
　植物と化したマリュウモドキたちは、葉っぱや樹液をブレスとして吐いてくるようだった。
　あおは樹液を浴びて、溶かされながらも表情をまるで動かさない。
　なにもなかったかのようにドラグナーへと接近し、魔力を声にのせる。
「……後には、何も残らない、美しくも、悲しい、破滅の、詩」
　破壊の魔力を込めた歌を浴びて、あおよりも強いはずの敵は表情を歪めた。
　４体の敵がいれば戦うのは楽ではない。だが消耗しつつも、ケルベロスたちはデウスエクスを圧倒する。
　マリュウモドキに支援させてくるのは脅威であるが、ドラグナー本人は、ケルベロス以上ではあるものの、決して強くはない。
　ケルベロスが傷ついている以上に、ドラグナーは傷ついていた。
「……切り裂け、ギア・スラッシャー！」
　英世の放つ３枚の歯車が敵を切り裂き、すでに鈍っている動きをさらに鈍らせる。
「藍の禁呪を宿せし刃。呪いを刻まれし者に避ける術無し」
　そこに、ウィッカが呪いの刻印を投射して、伸ばした如意棒で刻印を貫く。
　瀕死になりながらも、ドラグナーは槍を高速で繰り出してくる……が、竜人の持った歪なハンマーがそれを止めた。
「悪あがきしてんじゃねぇよ。殺すぞ」
　不快げな言葉と竜の鳴き声が響き、放った砲弾が敵を貫く。
　恵はよろめいた敵に拳銃を向けたまま、地面を蹴った。
「炸裂しろ！　灼熱の星の衝撃よ！」
　持ち手の狙い通りに正確な軌道を描くという銃、T&W-M5キャットウォーク。
　跳躍し、連続で引き金を引き――そして、そのすべてがドラグナーへと正確に向かう。
　高速で放つ弾丸のすべてが、高エネルギーをはらんで敵を貫く。
「く……クゥ・ウルク＝アン様の元へは行かせるな……！」
　血と共に最期の命令を吐き出して、ドラグナーは倒れる。
　マリュウモドキたちは、その命令に従って、なおもケルベロスたちへと襲ってきた。
「観察するいい機会だ……と、言いたいところだが、厄介なことだね」
　英世が息を吐いた。
　その息と共に、彼の腕からミサイルポッドも飛び出す。
　指揮を失ったとはいえ、ドラゴンたちも弱くはない。ミサイルが降り注ぐ中から飛び出してきた敵に、ケルベロスたちは攻撃をしかける。
　楽な戦いではなかった。
「おねがい、がんばってっ！」
「言われるまでもねぇ！」
　だが、スズナの声援を受けた竜人の蹴りが、まずマリュウモドキの１体を打ち砕く。
「ヘリオンデバイスはキャスターの火力が補強されるのもありがたいですね」
　次いでウィッカが禁呪の刻印を刻んだ２体目を貫いた。
　そして、最後のマリュウモドキに、鈴蘭のモチーフがついた靴で地面を蹴り、あおが接近する。
　可憐な白い靴が炎を発して、照り返しで朱に染まる。
「……！」
　声には出さず、ただ強い息だけを吐いて、炎はマリュウモドキを焼き尽くす。
　そして、休む間もなくケルベロスたちは再び前進した。

●撤退
　ドラグナーとはそれ以上遭遇することはなく、ケルベロスたちは樹海の奥へと進んでいた。
「交戦の連絡が来たのは他に３チームだったかの？」
「そうですね。Ａ、Ｄ、Ｆのルートを進んでいた班はドラグナーに発見されたようです」
　アデレードの言葉に、ウィッカがうなづく。
「他の３チームはクゥ・ウルク＝アンのところにたどり着いたのかな？」
　恵が言った。
　マインドウィスパー・デバイスの連絡距離は有限だ。状況ははっきりしない。
　ただ、はっきりしていない以上は進まないわけにいかない。
「こそこそ隠れてる奴は気に食わねぇ。ぶん殴ってやりたいから残ってて欲しいもんだがな」
　竜人が吐き捨てる。
　とはいえ、ほぼ無傷で３チームがたどりつけたなら有力な敵とも十分に戦うことができるはずだ。
　それはそれで、分散して潜入したケルベロスたちの作戦が功を奏したと言える。意図とはいくらか違っていたかもしれないが。
「母親の方も気になるよね。大阪で見たときからどうなってるのか……」
「樹母竜……強いんだろうね」
　恵の言葉を聞いて、スズナが呟く。
　やがて起きた異変に、最初に気づいたのはゴッドサイト・デバイスを装備した漓音だった。
「……みんな、止まって！」
　思わず発した言葉に、仲間たちが立ち止まる。
「マリュウモドキが……崩れているのか？」
　周囲を観察した英世は、木々の間にたたずんでいたドラゴンが消えていくことに気づいた。
　まるで塵になったかのように、マリュウモドキたちは崩れ去り、消え去っていく。
「なかなか興味深い状況だが……しかし、良い前触れではない気がするね」
　彼の意見を、否定する者はいない。
　多かれ少なかれ、皆が嫌な予感を感じていた。
　そして、ウィッカが弾かれたように顔をあげた。
「連絡がありました。クゥ・ウルク＝アンは撃破できました」
　朗報だが、誰も喜びはあらわにしなかった。
「ですが、クゥ・ウルク＝アンは最期にこう言い残したそうです」
　ウィッカはその言葉を告げた。
『――魔竜達よ、今こそ孵るのだ』
　交戦したチームは一時撤退を決めたらしい。
「我々も退くべきだろうね。チェイスアートデバイスを皆に接続しよう」
　英世の靴から、仲間たちへとビームが伸びる。
　邪樹竜を撃破する作戦は成功した。
　だが、戦いは終わっていない。
　そのことを、ケルベロスたちははっきりと感じていた。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年10月2日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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