アルセイデスｖｓ死翼騎士団～刻に向かいて

■リプレイ

●戦場
「フラッタリー。そのコートは、大丈夫なのか？」
　鵤・道弘（チョークブレイカー・e45254）はフラッタリーのケルベロスコートを見て、隠すこともなく笑いながら言った。
「お手製ですのよー。やはり良く馴染むものが一番ですのでー」
　すると、フラッタリー・フラッタラー（絶対平常フラフラさん・e00172）は継ぎ接ぎだらけのケルベロスコートを、広げてよく見せて答えた。
　すると道弘もまた、自分のケルベロスコートの拘りをフラッタリーに説明する。勿論このケルベロスコートにはヘリオンデバイスを隠しておく。という意味があった。
「まあ、なんと言うか。デウスエクスはデウスエクスで、妙にいざこざしてる、ってことなのかね？」
　水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）は、前方の様子を確認し、そして隣にいる死翼騎士団を見る。その姿は、最近おなじみになって来たところだったのだが、完全に見方というわけではない。
「出来りゃ、地球以外でやってほしい所だ」
　鬼人はそうポツリと呟き、また前を向く。
　ケルベロス達と死翼騎士団は東京焦土地帯の奥地まで足を運んでいた。いよいよ戦場が近づいてきたのか、えも言われぬ雰囲気を感じ取る事ができる。
「共闘などというのは今一ひっかかるが……まあ戦場では些細なことよ！」
　そんな彼の呟きが聞えたのか、服部・無明丸（オラトリオの鹵獲術士・e30027）が、すれ違い様にそう言うと、眼鏡に擬態させたヘリオンデバイス『ゴッドサイト・デバイス』をすっと耳にかける。
「おうおうぞろぞろと『敵』がおるのう！」
　無明丸の言う『敵』とは、『アルセイデス』の軍勢だ。そのデバイスには焦土の瓦礫を無視して、デウスエクスの姿が捉えられている。
「おう、見えるか？」
　と、無明丸の言葉に反応したのか、死翼騎士団を率いる『猛将』が嬉しそうに前に進み出る。見るからに豪快なこの死神は、己の武器である長い矛を担いでその重さを確かめた。
「猛将さん。ボクたちに少し考えがあって、隙をついて一気に指揮官に近づこうと思ってるんだ」
「策か。どうするんだ？」
「新兵器でパワーアップしてるからね。前よりも期待してもらっていいよ！」
　そう猛将と話すのはシルディ・ガード（平和への祈り・e05020）だった。ケルベロス達は、ヘリオンデバイスについては無理に隠すという事ではなく、新しく開発された兵器であるという事にしておいた。余り敵に情報を渡す事はしたくないが、不自然に振舞うと、余計に怪しまれるという事からだった。
「……じゃあ、俺達が先に突っ込む事にするぞ」
　猛将は考えても仕方がないと思ったのか、それ以上の事は聞いてこなかった。
「うん。隙が出来たら……合図はこれでいいかな……？」

　そう言ったやり取りの後方で、リリエッタ・スノウ（小さな復讐鬼・e63102）が、親友のルーシィド・マインドギア（眠り姫・e63107）に声をかけた。
「ルー？　ひょっとして緊張してる？　大丈夫だよ。リリに任せておいて」
　ルーシィドの表情が少しこわばっていたのだ。
「リリちゃん……。ええ、あまり大きな戦場には参加したことがないので……。それに……」
「ああ、死翼騎士団かな？　大丈夫。今は共闘中。それ以上でもそれ以下でもないよ。リリ達の実力を見せつけてやろう！」
　すると、情況を偵察してきていたジークリット・ヴォルフガング（人狼の傭兵騎士・e63164）が隣に現れる。
「私やリリもいる。心配することはないだろう」
「わかりましたわ、ジーク様、リリちゃん。宜しくお願いしますわ」
　ルーシィドは頼もしい仲間の姿、声を聞いて少し落ち着いたように、そう答えた。
（「死翼騎士団の皆さんは兎も角、みなさまがたが居るなら問題ないですわね」）
　と、同時にこうも思ったのだった。

　そして、ジークリットが猛将に情況を伝える。すると、猛将率いる死翼騎士団は一気に駆け出したのだった。

●猛将と死翼騎士団
　死翼騎士団の後ろから、同じ速度で駆けるケルベロス。前方に映る死翼騎士団は、猛将を先頭にして土煙を上げる。
「突撃の合図は任せてるが、戦いに集中しすぎてないかね？」
　鬼人はその迫力ある突撃を見ながら、つい心配になっていた。余りにも正直に行き過ぎているからだ。
「だがそれが凄まじくもある。心配はなさそうだ」
　道弘は鬼人にそう感想を言う。確かに、ここまでの迫力であれば勢いそのものが勝る。正面からの突撃は、時に策略を凌駕するのだ。
「じゃあ、俺達がその策を受け持つって事だよな。オーケー」
　鬼人はそう言って、その為の準備を行う。
　そして、前方で何かと何かがぶつかり、はじけ飛んだ。死翼騎士団がアルセイデスの軍勢に突っ込んだのだった。当然相手も此方の様子は分かっていた筈だが、躊躇ないチャージに成す術がなかったようだ。
「これは、確かにひとたまりもないだろうな。初手は完全にこっちのものになっている」
「本当にね。この分じゃ、こっちの出番も早そうだね」
　ジークリットの言葉にリリエッタは頷き、ケルベロスコートに手を伸ばしながらルーシィドを見た。親友は先ほどの緊張からは開放されていた。眼鏡から見える景色集中し、全ての情報を把握しようとしているようだった。

　グラビティの渦と、爆音、剣戟が辺りを支配していく。死翼騎士団にもダメージは勿論あるが、アルセイデスの軍勢の数が縮小していこうとしているのがわかる。
　しかしその時、最前列に構えていた死翼騎士団の足が止まる。先ほどまでの勢いがぴたっと止まったのだった。
「指揮官が出てきたようですわ」
　そうルーシィドが言うように、周囲のアルセイデスの軍勢とは違う個体の姿があった。すると猛将が指揮官と対峙する。
「いくぜぇ！！」
　桔梗の指揮官を見た猛将が、狙いを定めて矛を真直ぐに構え、その巨体ごと突っ込んだ。
　ドッ……ガキィ！！！
　ぶつかり合う矛と盾。だが猛将の勢いが、指揮官をぐらつかせ後方に下がらせた。まだまだ相手の力はあるが、その一撃だけで一瞬の隙ができたのだ。
『おおおおおおお！！！』
　高々と矛を天に突き刺し、猛将が咆える。
　それが『合図』だ。
「わはははははははっ！　わはははははははは！」
　この時を待っていたと言わんばかりの表情の無明丸。日本刀『天輪刀』を跳躍した勢いと共に上段から振り下ろした。
　ガイィン！！
　指揮官は無明丸の攻撃を盾で防ぐ。だが、無明丸は笑みを絶やさない。フラッタリーが創り出した紙兵も、踊るように彼女の周りに浮かんでいた。
　そしてフラッタリーは額のサークレットが展開し、狂笑を浮かべる。
「さあ、僕たちも行こう！」
　シルディがドローンを飛ばし、『上空』の仲間達を護る。
　続いて鬼人が同じく飛び込み、指揮官に切りつけると、道弘のチョークが襲い掛かっていく。
　その隙に、指揮官の周囲にいるアルセイデスの兵士達を、リリエッタとルーシィドが一瞬にして倒していったのだった。

●桔梗の指揮官
「剣に宿りし守護星座よ、我らに星辰の加護を」
　ジークリットが己とリリエッタ、鬼人とフラッタリーに守護星座を張り巡らせた。
「死神と、ケルベロス……」
　指揮官はじわりと盾を構えつつ、戦場全体を窺ってそう呟いた。猛将率いる死翼騎士団は指揮官を相手にする必要が無くなり、また当初の勢いを取り戻して行っていた。
「まあそんな訳で、お前の相手はこの俺達になる」
　道弘はブラックスライム『アイアンサンズ』を手にし、腰を屈めた。
「行くぜ！」
　真正面から突っ込み、勢いをつけた体躯からブラックスライムの槍が伸ばされる。
「甘い！！」
　しかし、その槍を盾で防ぎきる指揮官。だが、ケルベロス達の攻撃はこれで終わる事はないのだ。
「やっぱり、指揮官って事はあるよ……な！」
　其処に攻撃を打ち込んだのは鬼人だった。
　ガギイン！
　側面からの弧を描く斬撃だが、盾をすばやく動かして刀の起動を逸らす。
　すると、指揮官の正面が開く。
『ぬぁああああああああああーーーーーッ！！！』
　一瞬の隙を付いて、無明丸が指揮官の懐に雄叫びと共に飛び込んだ。
　どごっ！！
　無明丸はただ思いっきりその拳を、指揮官の顔面に叩き込んだ。当然その拳にはグラビティ・チェインが籠められてる。
「……ぐ！？」
　思いのほかダメージが大きかったのだろうか、指揮官は少し後ずさり、また盾を構えた。だが、ケルベロス達の連携は、まだまだ終わることがない。
　フラッタリーの掌から巨大光線が放たれると、ルーシィドが狙い済ませた霊弾を飛ばす。その霊弾は盾でまた防がれるが、リリエッタが星型のオーラを纏ったフェアリーブーツで、盾の中心部へと蹴りこんだ。
　ピシ……。
　リリエッタの放った蹴りは、ルーシードが弾を撃ち込んだ箇所だった。そこから僅かに亀裂が走っていた。
「……この盾に、ヒビを入れるとは」
　自らの防御の力を信じていたのだろうか、指揮官はその亀裂を見て仮面の花弁を模った箇所の光を強くしていった。
「参る……！」
　指揮官は体勢を低くし、目の前のジークリットに向かって突撃する。
「ぐはっ！」
　その巨大な薙刀のような武器の突進を、ジークリットはゾディアックソードで受け止めるが、その勢いを止める事が出来ずに、吹き飛ばされてしまう。
「ジーク様！」
　明らかなダメージの様子にルーシィドが叫ぶ。恐らくシルディが張り巡らせたドローンが無ければ、致命傷になっていた可能性もあった。
『勇ましきものを支え、突き動かす。それが今ひとたびの活力をもたらす。』
　即座に動いたのはシルディだった。彼の創り出した輝く雫の一滴は、ジークリットの傷を塞ぐ。
「大丈夫。ですよね」
「ああ。助かった。流石は指揮官と言ったところか……。そう来なくてはな」
　シルディにそう応えたジークリットは、また立ち上がり武器を握りなおした。
「ルー！　こっちは大丈夫だよ！　前は任せておいて！」
　リリエッタはルーシィドに情況を伝えて、ジークリットと並ぶ。
（「リリにだけ教えて。あれ、後何回耐えれるかな？」）
（「もって２回だな」）
（「だよね」）
　当然シルディの力でも、完全に傷が塞がっているわけではない。だが、この指揮官を受け持ったのは我々である。ここが崩れると、戦場全体が一気に様変わりしてしまうのだ。
　ケルベロス達はもう一度気を引き締めて、目の前の敵と対峙した。

●次の刻に向き合う者達
　指揮官の攻撃は鋭く、そしてその防御力もかなりのものだった。だが、ケルベロス達は敵を弱らせ、動きを鈍らせる術を徹底して突いた。
　持久戦になればなるほど、相手はがんじがらめになっていくのだ。
「汝rAノ業ハ我ヶ掌乃上ヨ」
　フラッタリーが巨大化させた腕と、装着した『アームドアーム・デバイス』を振り回して指揮官の薙刀を受け止めると、指揮官の腹部に毒を施した手刀を打ち込んだ。
「さあ、いってこい！」
　其処へ道弘が掌にファミリア『クライデンリザード』を蜥蜴の姿に戻して乗せ、思いっきり振りかぶって投げつける。
　投げつけた蜥蜴の牙や爪が、指揮官を切り裂き、傷と言う傷を大量に広げていく。
「さあ！　いざと覚悟し往生せい！」
　無明丸がそう叫び斬り付けると、シルディが人体自然発火装置で燃え上がらせ、リリエッタが銃から降魔を撃ち出す。
「ま……まだ……」
　よろよろと後ろに下がり、大勢を整えようとする指揮官。だが、その指揮官の腕と脚に茨の棘が巻きついていく。
『わたくしの中で眠るもの。夢から覚めるにはまだ遠く、呼び声に応えて蠢くのは、すべてを覆う茨の垣。命を奪う、死の茨』
　ルーシィドから延ばされたのは、死の呪いをもった茨だった。指揮官の体に深く食い込み、離さない。
『…刀の極意。その名、無拍子。』
　すると、鬼人が日本刀『堀川国広』を、キンと鞘に納める。
　ズ……。
　その超速の一振りは、確かにその胸を切り裂いていた。
「あ……！？」
「ああ、そうだ。ここで……終わりだ」
　ジークリットがゆっくりとゾディアックソードに星座の重力を乗せ、増幅させていく。
『剣に宿りし星辰の重力よ…その力を解放せよ！』
　その刀身は、増幅させた星座の重力で集束し、力を得る。
「強かった。……そして」
　ジークリットは真直ぐ、天に捧げるように、剣を振り上げた。
「さよならだ」
　振り下ろした剣は星座の煌きを残しながら、指揮官を二つに斬った。
　すると、桔梗の指揮官はそのまま戦場に霧散していったのだった。

「わははははっ！　この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ！　鬨を上げい！」
　無明丸が、勝利を高らかに叫ぶと、死翼騎士団も勢い付く。
「にしてもだ、指揮官戦に勝利しても、同盟の死神達が戦っているのなら、眺めているってわけにもいかないわな。少なくない怪我してるだろうが、参戦しないとな」
　鬼人はそう言って残ったアルセイデスの軍勢を相手に駆け出した。
「今だね、Go！」
　続いてシルディもまた、大型ドローンを相手上空めがけて飛ばす。少しでも隙を作るためだった。

　こうして指揮官が倒されたアルセイデスの軍勢は、程無くして倒されていった。
　ケルベロスも死翼騎士団も、それぞれ傷は負ったが完全勝利とも言えた。
「おまえら、また強くなったんじゃないか？」
　すると、猛将がケルベロスに近づき、そう声をかけた。
「新兵器だよ！　そりゃ、ボクたちも強くなるよ！」
　シルディはそう答えた。ヘリオンデバイスに関しては、詳しくは触れたくない。その為にただの『新兵器』としたのだ。
「まあ、そうだろうな」
　猛将はそれだけ言い、続けてケルベロスに要望する。
「そうだ、死者の泉の事だが……」
　死神としては死者の泉の『門』のことが気になるのは当然だろう。
「死者の泉への道はー、順調に拓いておりますー」
　すると、武装を解いたフラッタリーがいつもの調子でそう答えた。
「そうだな。お前達に任せれば大丈夫だろう」
　強い指揮官を倒したケルベロスの力は、猛将が良くわかっているのであろう。
「だが、ユグドラシルを制圧したエインヘリアルがいつ大侵攻をかけてくるかわからない状況だ。できるだけ急いでくれ」
　その上で、こうも付け加えた。
「戦闘で借りを返すってのは当然だな」
「頼んだぞ。じゃあ、引き上げだ」
　道弘の言葉を聞いた猛将は、そういって死翼騎士団を引き連れて帰っていった。

　ケルベロスと死神の共闘関係は、いつまで続くのか。どちらかが裏切らないとも限らない。
　そんな不可思議な関係ではあるが、お互いに『今は味方』として動いていく。判っているのは、お互いに次の刻があるという事だ。
　東京焦土地帯に、少しだけ冷たい風が吹く。
　ほんの少しの沈黙だが、先ほどの喧騒からすると、無音のようにも思えた。
「さあ、帰るよ」
　リリエッタがそう言うと、ヘリオンが迎えに来てくれていた。

作者：沙羅衝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年10月2日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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