アルセイデスvs死翼騎士団~刻が来たりて

作者:土師三良

●共闘のビジョン
「はあっ、はあっ……」
 東京焦土地帯の空をヴァルキリーのエマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314)が行く。
 その後方に聳えるは磨羯宮ブレイザブリク。
「急がないと……早く伝えないと、『奴ら』が……!」
 楽観的で知られる彼女が焦燥で顔を歪めていた。
 見てしまったからだ。
 奇妙な甲冑を纏ったエインヘリアルの軍勢が磨羯宮めざして進軍を開始する光景を。
 そして、見られてしまったからだ。
 その軍勢に自分の姿を。
 もちろん、軍勢は彼女を放っておかなかった。
「このままじゃ、ブレイザブリクが……」
 エマは背後を振り返った。
 追っ手たちの影が見える。
 靴音も聞こえてくる。
「お願い、間に合って……!」
 と、思わず祈りを口にした時――、
「……?」
 ――影が見えなくなり、靴音が消えた。
 恐る恐る前方に向き直るエマ。
 新たな敵が見えた。
 だが、それは味方でもあった。
「死翼騎士団……助かった!」
 敵にして味方である死神たちを前にして、エマは安堵の溜息を漏らした。

 死翼騎士団の陣幕に案内されたエマは自分が見たものについて語り、愛用のゴーグルを差し出した。謎の軍勢の映像をそこに記録しておいたのだ。
「この星霊甲冑……アルセイデスに間違いないな」
 と、ゴーグルの映像を確認して断言したのは、死翼騎士団の団長シヴェル・ゲーデンだ。
「アルセイデス?」
 エマも改めて映像に目をやった。エインヘリアルたちが纏っている星霊甲冑は(全身を隙間なく覆っていることもあって)ダモクレスと見紛うかのような代物であるが、その独特のフォルムはどこか花を思わせる。『アルセイデス(森の精霊)』という名に相応しい。
「アスガルドを裏切り、攻性植物に与した反乱勢力で構成されるエインヘリアルの氏族だ。本国から排除された後、アスガルドとユグドラシルの国境にある戦線では、目覚ましい活躍を見せていると聞く」
「ふむん」
 シヴェルの言葉を聞くと、同席していた三将の一人――知将が小さく頷いた。羽扇で顔を隠したまま。
「アスガルド本国の状況が伺えるようで、たいへん興味深いですな」
 続いて、長い髭をたくわえた勇将が口を開いた。
「エインヘリアルはゲートを失ったユグドラシルを制圧しつつある。此度の派兵は磨羯宮の奪還を見据えての前哨戦……ということか」
「断言は出来かねますが、可能性は高いかと」
「つまり、敵ってわけだな」
 と、蛇矛を手にした猛将がどら声で話に加わった。
「なら、話は簡単だ。叩き潰すだけよ! なぁ、団長!?」
「まあ、待て、猛将……」
 荒ぶる猛将をいなして、シヴェルは残りの二将を見やった。
「知将、勇将、敵の力量をどう見る?」
「総合戦力では騎士団が上でしょう。奴らは本国にとって単なる捨て駒ゆえ。ただ……」
「うむ。指揮官まで討つとなれば、一筋縄では行くまいな……」
 彼らのやりとりを聞きながら、エマも必死に頭を働かせていた。
(「この戦いで、死翼騎士団はどう動くんだろう? 彼らはデウスエクス。過度の信頼を置くのは危険だけど……」)
「ヴァルキュリアの少女よ――」
 エマの思考をシヴェルの声が断ち切った。
「――状況は理解した。この戦い、我等も協力しよう」
「本当に?」
「無論だ。今、おまえ達に味方することは我々にとっても利となる……詳しいことはこの書簡に纏めておいた、後で目を通しておけ」
「判った。その言葉、信じるよ」
 エマは書簡を受け取り、陣幕の外に向かった。
 彼女を送り出すかのようにシヴェルが横に並ぶ。
「気をつけろ。アルセイデスに勝利しても、恐らくは時間稼ぎにしかならん」
 歩調を合わせて歩きながら、死翼騎士団の団長は囁きかけた。
「死者の泉への門。それを繋げることに全力を尽くしてほしい」
「……うん。それも伝える」
 エマは頷き、陣幕の外に出た。
 そして、光の翼を展開して飛び立った。
 敵か味方か判らぬ者たちから託された書簡を真の味方たちに渡すために。

●音々子かく語りき
「これは風雲急を告げるってヤツですよー!」
 ヘリポートの一角に並ぶケルベロスたち。
 その前で拳を握りしめて盛り上がっているのはヘリオライダーの根占・音々子だ。
「東京焦土地帯の深部に調査に赴いていたエマ・ブランちゃんがエインヘリアルどもの新たな動きを掴んでくれたんですよー。なんでも、奴らは磨羯宮ブレイザブリク奪還作戦を着々と進めちゃっているんだとか」
 磨羯宮奪還のために動いているエインヘリアルの一派は『アルセイデス』なる氏族。かつてはエインヘリアルを裏切ってユグドラシルに与し、両勢力の境界で勇名を馳せていたという。
「アルセイデスの情報をエマちゃんに教えてくれたのは死神の死翼騎士団です。そう、エマちゃんは調査先で死翼騎士団とコンタクトを取ることができたんですよー。で、死翼騎士団もアルセイデスの動きに感づいていたらしく、共闘作戦を持ちかけてきました。まあ、断る理由はありませんよね。死神とはいえ、今のところは同盟関係にありますから」
『今のところは』の部分に力を込める音々子。多くのケルベロスがそうであるように、彼女も死翼騎士団を全面的に信用しているわけではないのだろう。
「共闘作戦の概要などを記した書簡をエマちゃんが預かってきたんですよ。それを簡単にまとめてお伝えしますねー。
 まず、主力は死翼騎士団が務めてくれるとのこと。
 しかし、少数で構わないので、敵将との戦いの決戦部隊として同行してほしいそうです。『指揮官などの強敵については、ケルベロスの精鋭チームの対処力のほうが上回っている』と死翼騎士団は評価しているみたいですね。ふっふっふっ。よく判ってるじゃないですかー。
 逆にアルセイデスのことは低評価ですね。まあ、エインヘリアルの主流派からすれば、アルセイデスは裏切り者かつ捨て駒に過ぎませんから」
 アルセイデイスの指揮官クラスの敵将は四人。
 よって、敵将を討つ死翼騎士団の決戦部隊も四つ。それぞれ、死翼騎士団の団長と三人の幹部――勇将と猛将と知将が指揮するという。
「『精鋭チーム』の一班であるところの皆さんは知将の部隊に同行してください。この知将ってのは実にうさんくさぁーい輩なんですが、今回のように共通の敵と戦う状況では頼りになるんじゃないでしょうか。腐っても幹部ですからねー。それに見るからにうさんくさいからこそ、常に警戒心を維持していられるので、寝首をかかられることもそうそうないかと……」
 肯定的にして否定的な人物評を述べた後、音々子は口元を歪めた。滑稽な表情に見えるが、本人は狡猾そうにニヤリと笑ったつもりなのだろう。
「逆にこちらが寝首をかく……とまではいかないまでも、アルセイデスとの戦闘時にほどよく手を抜けば、死翼騎士団を消耗させることができるかもしれませんねー。まあ、そのあたりのことも含めて、現場判断で臨機応変にやっちゃってください」
『おまえが一番うさんくさいわ!』と心中で呆れ返るケルベロスたちであった。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)

■リプレイ

●一諾千金と知れ
 東京焦土地帯の一角で二つの軍団がぶつかっていた。
 羽扇で顔を隠した知将が指揮する死神たち――死翼騎士団。
 機械化した花のごとき甲冑を纏ったエインヘリアルたち――アルセイデス。
「ダモさんなのか、エイさんなのか、判りにくい敵だなぁ」
 眉を八の字にして呟いたのはサキュバスのエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)。知将の後方に控え、目の上に手を翳して観戦している。
 彼女以外のケルベロスたちも観戦者に徹していた。敵の幹部である『菫の指揮官』が現れるまでは動かないつもりなのだ。
 それが不満なのか、知将の側にいる騎士団員の中にはケルベロスたちに敵意の視線を向ける者もいた。
「なにか文句でもあるのか?」
 指先でヒゲをしごきながら、黒豹の獣人型ウェアライダーの玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が涼しげな顔で団員たちを見返した。
「俺たちは対指揮官戦力としてお声がかかったはずだ。索敵だの牽制だの前哨戦だのはそっちでやってくれ」
 などと言いながらも、実は戦場に油断なく目を走らせ、菫の指揮官の位置を特定しようとしているのだが。
「そうそう。そっちでやっちゃってー」
 陣内の横でにこにこと笑っているのはオラトリオの大弓・言葉(花冠に棘・e00431)。天然キャラを装う所謂『養殖系』の娘である。
「その代わり、指揮官は私たちがばぁーっちり倒すからね!」
 養殖の笑顔をキープしたまま、『私たちはちゃんと働くから、そっちもしっかり働け』という意思を言外に匂わせる言葉。
 その匂いをエヴァリーナがより濃厚にした。
「そういえばねー。こないだ、死翼騎士団の団長さんとお茶会したんだよ。この戦いが終わったら、知将さんたちも一緒にお菓子でもどう?」
 言外に込めたメッセージは『手を抜いたら、団長に言いつけるぞ』だ。ちなみに団長とお茶会をしたというのは事実である。
「なんにせよ、あんたらだけに犠牲を強いるつもりはねえよ」
 と、知将に言ったのは筋骨隆々たる戦士――相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)。鍛え上げられた体に纏うは、青で統一したガントレットとレガースと格闘用トランクス。チェイスアート・デバイスを装着しているものの、それはレガースを補強するような形状だったので、足の裏は剥き出しになっている。
「同盟関係を維持したいからな」
 心の中で『少なくとも、エインヘリアルの『門』を攻略して、死者の泉に繋がる道に至るまではな』と付け加える泰地であった。
「よく判っておりますよ。お気になさらず」
 知将が穏やかな声で言った。その間も戦闘の指揮は続けている(羽扇を動かして指示を送ることもあったが、後方にいるケルベロスたちには顔を見ることはできなかった)。
「それと、我々は戦死者を『犠牲』などと捉えてはおりませんので、その点もお気になさらないでください」
「なるほど」
 と、竜派ドラゴニアンの神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)が頷いた。
「ケルベロス相手の戦いではないので、戦死者はコギトエルゴスム化するだけ。戦闘後に回収して復活させるということか」
「然り。デウスエクス同士の戦いにおいて、死というのは一時的な戦力の消耗に過ぎません。その『一時』を生み出して付け入ることが戦略の基本です」
「とかなんとか、もっともらしいことを言ってるけど――」
 ヴァルキュリアの豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)がエヴァリーナに囁いた。
「――意外と堅実というか……ぶっちゃけ、つまんない戦い方をしてるよね」
「うん。拍子抜けしちゃった。戦闘指揮をしっかり見て参考にしようと思ってたんだけどなー」
 確かに知将の戦い振りはつまらないものであった。シミュレーションゲームのチュートリアルを一つずつクリアしていくかのように頻繁に陣列を変え、攻め方を変え、押しては退き、退いては押し……その繰り返し。大きな被害を受けてはいないが、大きな被害を与えてもいない。
「俺たちに手の内を見せたくないもんだから、全力を出してないのかもな」
 陣内が話に加わった。だが、姶玖亜たちと違って、小声ではない。わざと知将に聞かせているのだ。
「いえいえ。見せたくないものなどありませんよ」
 と、振り返らずに知将が応じた。
 そして、静かに付け加えた。
「むしろ、手の内を隠しているのは皆様のほうなのでは?」
「なんのことだ?」
 と、とぼけてみせる陣内の傍に北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が近寄り、心の内を目顔で伝えた。
(「ヘリオンデバイスを隠そうとしていること、バレてるんじゃないですか?」)
(「いや、カマをかけただけだろう」)
 ケルベロスの大半がヘリオンデバイスを身に着けていたが、それらが特別な装備であることは匂わせていない。だからというわけでもないが、現時点ではデバイスの恩恵は受けられなかった(計都はゴッドサイト・デバイスでの索敵を試みたが、敵が探知圏内に入ると同時に戦闘が始まったので、なんの役にも立たなかった)。
「菫の指揮官の位置が掴めました」
 突然、知将が振り返った。
「あちらに陣取っていると思われます」
 羽扇を持ってないほうの手で指し示したのは、横倒しになったビル。
「なんで判ったンダよ?」
 ギザギザの歯を剥き出して、レプリカントのアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)が尋ねた。
「様々な角度から敵を攻め、対応の時間差を計り、指令が出ている位置を逆算したのです。非常に『つまんない戦い方』ではありますがね」
 姶玖亜とエヴァリーナのやりとりもしっかり聞こえていたらしい。
「後は皆様にお任せします」
「オイオイ。ウチらだけでヤレって言うのカ?」
 さして不満げな様子も見せず(むしろ、楽しそうだ)アリャリァリャが確認すると、知将は頷いた。
「はい。我々は務めを果たしたのですから、次は皆様の番でしょう」
 索敵等は死翼騎士団に任せて、自分たちは指揮官を討つ――そう言ってしまった手前、ケルベロスに拒否できるはずもない。
「なあに。皆様なら、朝飯前ですよ。アクリウムやラズリエルなどの名将を討った方々が五人もおられるのですからね」
 知将の肩が揺れた。
 笑っているのだろう。

●千呼万喚を聞け
 主戦場を迂回する形で敵の本陣に向かうケルベロスたち。
「見ようによっては、私たちは数の利を捨てて孤立したことになるな」
 鼻息荒く突っ込んでいくボクスドラゴンのラグナルの後方を悠然とした足取りで進みながら、晟が言った。
「知将がその気になれば、アルセイデスどもと結託し、私たちを挟撃することもできるだろう。もっとも、アルセイデスはともかく、知将にメリットがあるとは思えんが」
「だよねー」
 と、エヴァリーナが同意した。
「八人ぽっちのケルベロスを倒したところで、なんの得にもならないよ」
「これは知将なりの信頼関係の表明なのかもしれませんね」
 拳銃を抜きながら、計都が呟いた。
「危ない橋を俺たちに渡らせることによって、逆に『橋から突き落としたりはしない』という意思を示しているとか……」
「ふん」
 と、陣内が鼻を鳴らした。
「食えない野郎だ」
「アッチの奴ラは食えそうだゼ!」
 アリャリァリャが指し示した先――横倒しになったビルの傍に十人前後のアルセイデスがいた。
 知将の部隊と小競り合いをしていた者たちと同様、全員が花のような甲冑を纏っているが、その中でも特に目を引くのは紫色の甲冑だ。他の甲冑と違い、一組の細い腕が背中に備わっている。指や手の代わりに赤熱した刃を有した腕。
 彼もしくは彼女(外見から性別は判別できなかった)こそが菫の指揮官であると確信し、言葉が声を張り上げた。
「スミレちゃん、見ぃーっけ!」
 その叫びを聞くまでもなく、敵もケルベロスたちの姿に気付いていた。
「げぇっ!? ケルベロス!」
「死翼騎士団は陽動だったか!」
「惑うな! 怯むな! 迎え撃てぇーい!」
 慌てながらも菫を守るように陣列を築いたのはさすが歴戦のエインヘリアルといったところか。
「『ジャーン!』と景気よく銅鑼が鳴ってほしいシチュエーションだねえ」
 姶玖亜がニヤリと笑う。
 そんな彼女を泰地が追い越したかと思うと、すぐに立ち止まり、足の裏で地に円を描くようにして、敵に背中を見せた。
 そして、銅鑼の代わりにかけ声を発して――、
「土台が違うぜぇーっ!」
 ――バック・ラット・スプレッドのポーズを決めた。
 めりめりと音を立てんばかりに盛り上がる筋肉。
 それを目の当たりにして戸惑いながらも、敵はすぐさま応戦した。
 一斉に鬨の声をあげるという形で。
「うぉぉぉーっ!」
 それはグラビティの咆哮。見えない複数の波が戦場を走り、ケルベロスの前衛陣と後衛陣を打ち据えた。
「騒がしい連中だ」
 巨体を盾にして仲間を庇いつつ、晟がドラゴンブレスを吐き出した。
「でも、こっちには――」
 晟に庇われたエヴァリーナがエクトプラズム製の疑似肉体で仲間たちの傷を塞いでいく。
「――もっと騒がしいのがいるけどね」
 エヴァリーナの横をライドキャリバーのこがらす丸が駆け抜け、『騒がしい』というレベルではないガトリングの連射音を響かせた。
 それに続くのは激しい雷鳴。
 姶玖亜が知恵の輪型のガネーシャパズルからドラゴンサンダーを撃ち出したのだ。ブレスとガトリングで傷ついた者のうちの一人を狙って。
「……ぐあっ!?」
 竜の形をした雷を浴びて、苦しげに身を折る兵士。
 すかさず、陣内が斬り込んだ。得物は日本刀『まくとぅ丸』。儚げな印象を与える細身の刀身が弧を描き、兵士の急所を断ち切る……と、思われたが、別の兵士がそれを阻んだ。我が身を盾にして。
「敵の盾役はそこそこ優秀なようだぞ」
 仲間たちに声をかける陣内に向かって、盾となった兵士が斬りかかった。
「もっとも――」
 陣内は躱さなかった。
 言葉が素早く割り込み、代わりに斬撃を受けたからだ。
「――うちの盾役たちには及ばないけどな」
「そのとおりなのー!」
 言葉はくるりとターンして、ヒール系グラビティ『女の子は正義(キューティフル・ガーリー)』を発動させた。無数の小さな花々がどこからともなく現れ、傷口を覆い隠していく。
「盾だけジャナくて、剣もいるゼ!」
 アリャリァリャが兵士の背後に回り込み、腰の辺りにチェーンソー剣を叩きつけた。
「ギヒヒヒヒ!」
 チェーンソー剣の駆動音とアリャリァリャの哄笑との二重奏が流れる中、半泣きしているボクスドラゴン(敵ではなく、アリャリァリャに怯えているようだ)のぶーちゃんが勇ましい顔つきのラグナルとともに側面からブレスで追撃した。
「銃の役を担う者もいますよ」
 計都が銃を発射した。トリガーを引いたのは一回だけだが、銃口から飛び出した弾頭は六発。『ヘキサバースト』というグラビティだ。
 六発すべてを胸に受け、盾役の兵士はついに力尽きた。もっとも、計都が狙った相手は菫である。件の兵士は最後まで盾としての務めを果たしたのだ。
「いくぞぉー!」
 泰地が盾役の死骸を飛び越えて、菫へと迫った。
 繰り出した技は達人の一撃。真剣のごとき切れ味を有した手刀。
 それは菫の甲冑を斬り裂くだけでなく、混戦の間に配下の兵士が施したエンチャントを消し去った。
 最初に披露したポージングによって、泰地は破剣の力を得ていたのだ。

●万能一心に翔べ
「ダイ! コン! おろーし!」
 目にも止まらぬ速さでチェーンソー剣を振り回し、アリャリァリャが敵の甲冑を斬り刻み……いや、擦り下ろして、更に炎を浴びせた。『大魂颪焼(ダイコンオロシヤキ)』という名のグラビティである。
「大根おろしに合う料理は色々あるけれど、今日は天ぷらでいこうか」
 バイト先のスーパーの総菜コーナーを思い浮かべながら、姶玖亜がブラックスライムを解き放った。
「ブラックインヴェイジョンを衣にしてね」
 スライムが敵の前衛に食らいつき、そのうちの一人――アリャリャリャに擦られた挙げ句に燃やされた兵士にとどめを刺した。
「大根おろしがあっても、天つゆがないのではな……」
 特大サイズのエクスカリバールを振るいながら、晟が敵の数を確認した。これまでの猛攻によって、三人にまで減っている。もちろん、その中に無傷の者はいない。
 ケルベロス側にも無傷の者はいなかったが、力尽きた者もまたいなかった。
「魔女医の誇りにかけて、誰も倒れさせない戦いをするんだよー」
 キンセンカが咲く杖を掲げて、エヴァリーナがメディカルレインを降らした。
 それを浴びながら、計都が菫に武器を向けた。砲撃形態に変えたドラゴニックハンマー『荒徹』だ。
「さっき、エヴァリーナさんも同じようなことを言ってましたが――」
 シリンダー型の弾倉が何分の一回転かして、竜砲弾が撃ち出された。
「――あの鎧、ダモクレスみたいで紛らわしいですよね」
「キミがそれを言う?」
 ダモクレスのごとき機械的な鎧を纏った計都を横目で見やり、姶玖亜がぼそりと呟いた。
 視線を前に戻した時には、菫の姿は爆煙に包まれて見えなくなっていた。竜砲弾が命中したのだ。
 爆煙が晴れると同時に泰地が足を蹴り上げ、爪先から星形のオーラを放った。
「させるか!」
 と、手負いの兵士が菫の盾となった。
 しかし、泰地は動じない。
「防がれたって構いやしねえ! こっちは一人残らず倒すつもりでいるんだからな!」

 清浄の翼で皆をサポートしていた名無しのウイングキャットが攻撃役に転じ、鋭い爪を振り下ろした。
 二本の剣を前面で交差させ、それを受け止める菫。もう、盾役はいない。回復役もいない。残されたのは菫だけ。
 背中から生えている腕で菫は反撃しようとしたが、ウイングキャットは素早く後退した。
 入れ替わるようにして肉迫したのは主の陣内。
「まさに『花と散る』ってやつだな」
 花のような甲冑に『まくとぅ丸』の刃が突き込まれた。
「ほざけ!」
 甲冑の内側の肉体を絶空斬で抉られながら、菫が初めて叫んだ。何らかの装置によるものか、声にエフェクトがかかっている(故に性別は判らなかった)。
「死神なんぞに与する野良犬の分際で!」
「えー? 攻性植物に与してた人にそんなこと言われたくないんだけどー」
 棘だらけの葉と赤い実で飾られたクリスマス仕様の妖精弓に言葉が矢を番えた。
「おっと! 今はエインヘリルに出戻りの身だっけ? 節操、なさすぎなのー」
 挑発の台詞とともにホーミングアローが飛び、菫の心と体を刺し貫く。
「まあ、貴様らにもイロんな事情があるんダろうが――」
 アリャリァリャが菫の懐に飛び込み、二本のチェーンソー剣を横薙ぎに払った。
 スカーレットシザースだ。
「――ウチらの知ったコッチャねえ!」
 菫の巨体が激しく痙攣し、甲冑の傷や隙間から炎が噴き上がった。
 そして、ゆっくりと頽れた。
 萎れゆく花のように。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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