クゥ・ウルク=アン樹海決戦~境界の竜

作者:秋月諒

●樹海のマリュウモドキ
 深く濃い緑の向こう、それは群れを成していた。
 ごつごつと盛り上がった大地のように富士の樹海周辺を覆う。この地にあった草木は苔はとうに消えたのか。赤の混じった緑の体躯はこの場の本来の色を知るものには奇異に映るのか。鳥の姿も無ければ虫の姿も無く——ただ、マリュウモドキ達だけが樹海にあった。
 それは群れか。覆い尽くす大地の侵略であったか。
 植物のように動かず、黙し、翼の一つ動かさず。両眼に収まった花はかの竜の視力を奪っているというわけでは無いのだろう。
「……」
 だが、マリュウモドキ達はじっと動かない。黙した群れの上をふいに風が抜けた。樹海の木々を縫うように行ったドラグナーは長い髪を揺らし、地域を警戒するようにして飛んだ。

●境界の竜
「皆様、お集まり頂きありがとうございます。 魔竜擬きの出現地点からの情報が揃いました」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言うと、集まったケルベロス達を見た。
「富士の樹海周辺に、ドラゴン勢力が集結していることが分かりました」
 魔竜擬きの出現地点等の情報から、メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)、カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)、伏見・万(万獣の檻・e02075)達が、樹母竜リンドヴルムの拠点の探索を続けていた。
「富士の樹海周辺では、植物化したドラゴン、マリュウモドキの群れが発見されています。
 樹海周辺の探索を行っていたのは、シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)だ。
「マリュウモドキは大軍です」
 ですが、とレイリは顔を真っ直ぐに告げた。
「群れの中心である、邪樹竜クゥ・ウルク=アンを倒する事ができれば、樹母竜リンドヴルムの拠点に手を届かせる事が出来る筈です」
 勿論、注意するべき点もある。
「マリュウモドキを統率するドラグナーの姿も確認されています。注意が必要かもしれません」
 それでは作戦概要を説明します、とレイリは話を続けた。
「この作戦の目的は、マリュウモドキを駆逐し、樹海の奥地に居る『邪樹竜クゥ・ウルク=アン』を撃破することです」
 マリュウモドキは大軍だ。それなりの戦闘力を有してはいるが——その性質は特殊だ。
「マリュウモドキは戦意と知能が低いんです」
 隣のマリュウモドキが攻撃されても、自分が攻撃されなければ戦闘に参加することは無い。
「戦場に群れがいても、自分が攻撃を受けるまでは戦闘に関わっては来ないようなんです」
 この習性をうまく利用し、立ち回るべきだろう。
「指揮官であるドラグナーが戦闘に参加してきた場合は、マリュウモドキたちもその指揮下に入ります」
 ドラグナーは作戦に従い警戒活動を行っているようだ。ケルベロスを発見した場合、周囲のマリュウモドキを集め戦わせるだろう。
「マリュウモドキ達も積極的に戦闘をしてくるでしょう。指揮官がいますから」
 その場合は、ドラグナーを先に撃破するなど対応が必要となる。
「指揮官のドラグナーですが、こちらを発見した際、攻撃行動は取りますが、陽動の可能性を考え仲間を集めたりはしないようです」
 敵は大軍だが、指揮官の数は少ない。
 一度に多方面から侵攻することにより、敵の目を欺くことができるだろう。
「目的は、樹海の奥地に居る『邪樹竜クゥ・ウルク=アン』ですから」
 そう言って、レイリは集まったケルベロス達を見た。
「魔竜達が完全に力を取り戻す前に、樹母竜リンドヴルムを撃破しなければなりません」
 魔竜を量産しようとする、樹母竜リンドヴルムは、大きな脅威になるだろう。
「その為にも、皆様にはマリュウモドキの樹海を突破し、邪樹竜クゥ・ウルク=アンを倒す必要があります」
 そう言って、レイリは己が胸に手を当てた。
「その魂を主として」
 それは『常駐型決戦兵器』ヘリオンデバイス発動のコマンドワード。覚悟と信を篭めて紡ぎ、レイリは顔を上げた。
「それでは行きましょう。皆様に幸運を」


参加者
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
シュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)

■リプレイ

●富士の樹海
 ――落とす、息を殺す。
 しめった樹海の空気が頬を撫でた。木々の匂いに、ふいにすり潰したような草の匂いが届く。
「右だ」
 短く告げられた言葉に、レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)は視線を上げた。男の金の瞳と出会い、指が三本立てられる。一角を告げた伏見・万(万獣の檻・e02075)は、つい、とゴーグルを上げた。
「戻る必要は無さそうだが、方向は変えた方がよさそうだぜ?」
「そのようですね」
 小型通信機で敵の発見と位置を他の班へと連絡すると、レフィナードは手元の地図へと視線を落とした。まだどの班も敵とは接触していないようだった。
「ま、奴さんの目が節穴って訳じゃねぇだろうが、順調ってことだろ」
「えぇ、幸いなことに」
 手元の地図とGPSで確認する限り進行方向を左に振っても問題は無いだろう。エリア1と書かれた一区画を指でトン、と叩くとレフィナードは青の瞳を前へと向けた。
「それでは、左へと向かって行きましょう。少しばかり木は生い茂っているようですが……」
「ドラグナーに見つかってないってことを思うと、飛んで移動するよりは今は地上だな」
 シュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)はそう言って樹海を見据えた。木々の間を縫い、岩の後ろに隠れるようにして今まで移動してきたのだ。
「そうですね。前にドラグナーが移動していったのはあちらだったので……」
 ゴーグルを外したカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)がゆっくりと瞳を開いた。
「地上を行く方が安全でしょうか」
「ん、隠れられる場所がいっぱいあるしね」
 ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)はそう言って頷いた。
 今回の作戦では全班が、アルファベットと数字で区分けされた共通の地図を携行していた。一行の担当は地図のFルートだ。マインドウィスパー・デバイスを利用し、レフィナードが他班と連絡を取り合うことで他のチームの所在地をある程度、把握することができていた。
「今は……第一エリアを突破したところだったかしら?」
 アルファベットが侵攻ルートなのに対し、数字は深度だ。仲間の紡ぐ隠密気流からはぐれることは無いようにアリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)は前に立つ。
「このくらいね」
 植物が避けて行けば歩く道もできる。別段、木々の間をかき分けて移動しても構いはしないが音も注意はしておくべきだろう。
「今までは倒木の方が目立ったけれど……」
「そうですね、この辺りには無い……、少し雰囲気が変わってきたのでしょうか」
 ジェミ・ニア(星喰・e23256)は隠密気流を指先で展開しながら、周囲を警戒するように視線を巡らせた。さっきまでは倒木や、岩が目立ったが――今は、どちらかと言えば鬱蒼とした木々が目立つ。
「でも、デバイスで会話が出来て、他の班の人の状況が分かるのは頼もしいですね」
 それに、ほっとする。
 皆で向かっているのだと、皆が無事なのだとそう思えるのだ。
「えぇ。それに……やはり、ある程度状況を有利に進められている気はしますね」
 レフィナードはそう言って、通信機から視線を上げた。過去の戦いでは照明弾を使っての連絡方法が多かったが、今回はまるで違う。
「皆様順調に進まれている分、警戒しなくてはなりませんね」
 ほう、と一つリコリス・セレスティア(凍月花・e03248)は息を落とした。
(「魔竜……あの恐ろしいドラゴン達を、増やさせるわけにはまいりません。人々を守る為に、力を尽くしましょう」)
 そう、思いながらも遠く見えたマリュウモドキの姿に心が揺れる。
(「……どのような形でも、生まれた命に罪は無いとその言葉を支えにした時もあったというのに」)
 我ながら、矛盾していますね。
 落とす息は風に紛れて、落ちた。

●竜の領域
 森が深くなる。苔むした地面が増えれば、第二エリアも終わりを迎えようとしていた。地図に視線を落とし、次は、と新たなエリアを告げようとしたレフィナードが言葉を止めた。
「A班がドラグナーと戦闘に入ったと。敵の動きは如何ですか?」
「変わった、な。警戒を上げてきてるんだろう。ついでに、こっちに急いで向かってきてる反応があるぜ?」
 空から、と万は告げた。
 一度戦いが始まれば周囲の警戒が強まるのも不思議は無い。だが、発見された、とその事実を分かっているのであれば対応ができる。
「向かってくる相手が分かっているのであれば、戦うだけだからな」
「――敵は一体のみです」
 シュネカにカロンは視線を上げる。ゴーグルを上げれば、ひゅう、と強く吹く風と共に『彼女』は姿を見せた。
「やはり居たか、ケルベロス」
 広げられたのは竜の片翼。金色の髪を揺らし、空より見下ろすのは黒き角を持つドラグナーの騎士。
「貴殿等に邪魔をされる訳にはいかない。目覚めよ、マリュウモドキ。我が指揮下に入れ」
 その声に、周囲のマリュウモドキ達が蠢き出す。花飾る瞳が鈍い光を帯び、翼を広げた。ォオオォオ、と歌うような声が空間に響き渡る。
「我が名は魔竜騎士グートルーネ。ドラグナーの指揮官であるこの私に見つかったのは不幸であったか、幸いであったか……」
 トン、と地に足を付ける。低く構えられた槍に黒き炎が灯った。
「地に伏した後に知ると良い!」
「――来るわ」
 警戒を告げるアリシスフェイルの声と魔竜騎士の咆吼が重なった。突き出された槍から生まれたのは混沌より生じた幻影の竜であった。向かう先は——前衛か。一帯を焼き尽くすように竜は黒炎を放つ。は、と誰となく声が落ちた。痛みより、熱い、と思う。
「随分と重い炎だな、加護さえ砕くか」
 シュネカの言葉に、は、と魔竜騎士が笑う。そのまま焼き尽くされろと言うように向けられた槍に、リコリスは回復を告げた。
「今、回復を……」
 だが、その瞬間熱が——迫った。
「ルァアアアアア!」
 マリュウモドキだ。大口を開けた竜のブレスが戦場を走る。濃い緑の草は一瞬にして焼け落ち大地が黒く染まった。毒、とその事実に気がついた瞬間、リコリスの前に一人が踏み込む。
「させません」
 ジェミだ。受け止めるように腕を前に出し、盾役の高い防御力を以て受け止める。熱は確かに痛みとして届くが、このくらいであれば、と息を落とす。——耐えきれる。
「ジェミ様」
「ありがとうございます。大丈夫です」
 真っ直ぐにジェミは指揮官と名乗ったドラグナーを見た。見つかった先が『指揮官』であるのならば陽動には充分すぎる相手だ。通信機から来た情報ではドラグナーとの戦闘に入ったのは4班。残りは樹海の奥へと進んでいる。——ならば、此処で戦い勝つだけだ。
「皆で必ず成し遂げよう」
 そして、必ず無事で帰りたい。待っている人達がいるのだから。いってきますの後は、やっぱりただいまが一番似合うのだから。
「……回復は、お任せください。皆様はどうか、攻撃を」
 ふわり、とリコリスの柔らかな髪が揺れた。広げられたオラトリオの翼が光を帯びる。前衛へと紡がれる回復の光を見ながら、レフィナードは他班へ開戦を告げていた。
(「こちらF班。敵指揮官を確認。これから戦闘に入ります。――どうか、ご武運を」)
 ざわつく戦場は、他班も同じか。
「D班からも確認を。可能な限り早く撃破すると」
「それなら私達も急ぎたい所ね」
 アリシスフェイルが告げる。微笑んで敵を見据えた彼女と共にノーフィアは笑って告げた。
「じゃぁ、全力で行こう」
 とん、とノーフィアは地を蹴った。手にしたは黒曜斬剣。
「黒曜牙竜のノーフィアより魔竜騎士グートルーネへ。剣と月の祝福を!」
 鞘のままの剣を振るうように、振り上げる一撃に竜砲が戦場を走った。

●魔竜騎士グートルーネ
 竜砲が魔竜騎士へと届いた。打撃に騎士が槍を向ける。
 敵の最良を願い、それを食い破らんとノーフィアは声を上げ、地を蹴った。
「行くよ、ペレ!」
 翼を広げ、回復を紡ぐ。淡い光の中、駆け抜けようとすればモドキ達が炎を一行へと向けていた。
「ルァアアア」
 毒のブレスが重なるように届いた。炎熱の毒の中、アリシスフェイルは地を蹴り上げた。
「生憎、貴方たちの相手を今する気は無いの。相手は……」
 空にあって纏うのは流星の煌めき。薄灰の髪を揺らし、娘は地上を行く騎士を見た。
「貴方よ」
「は、私に挑むか!」
 身を、地に落とす。言葉と共に敵に告げたのは、何もただ会話をする為では無い。踏み込む仲間の姿が見えていたからだ。
「あぁ、挑むさ」
 踏み込みを加速する。声ひとつ落とし、次の瞬間、シュネカの叩き込んだのは瞬発の加速であった。
「――!」
 は、と魔竜騎士が息を飲む。受け止めるように槍を縦に構え――だが、その頬に影が落ちた。
「忘れないで貰えるかしら?」
 静かに告げる娘が空より落ちる。落下の力さえ利用するようにアリシスフェイルが蹴りを落とした。
 ――ガウン、と重く音が響く。構える筈の槍が一拍遅れ、その一時をシュネカは射貫く。素早く撃ち込まれた一撃が魔竜騎士へと届いた。
「——っく」
 だが、と魔竜騎士は血に染まった腕を振るう。侵食するように這い上がってくる黒い炎を一度見据え、視線を上げた。
「通しはしない」
「それでも、押し通ります」
 声は空から届いた。仰ぐように見上げた騎士へとカロンは視線を合わせ――空から行く。叩き込んだ蹴りに流星の煌めきが舞った。ギン、と硬い鋼の音が響く。
「受けるぞ」
 低く響いた魔竜騎士の声に、カロンは友の名を呼んだ。
「フォーマルハウト!」
 ぴょん、と姿を見せたミミックは、がぶり、と騎士に噛みついた。一撃に、構えた槍が緩む。ほんの僅か――だが、その一瞬があればカロンには充分だ。落とす蹴りが高い命中力と共に届く。構えた槍がズレ、防御も出来ぬままガウン、と蹴りは届いた。
「っく、やってくれる。ケルベロス」
 吼えろ、と魔竜騎士がモドキ達に声を上げた。
「貴様等にも炎はあるだろう!」
「ルァアアアアア」
 呼応するモドキ達の毒炎が戦場を染め上げた。

●暗き息吹
 剣戟と共に炎が散る。鋼と鋼のぶつかり合う音が響く中、竜の咆吼が戦場を照らしていた。加速する戦場は熱を帯び、流す血さえ大地には残らない。
「退く気はありません」
 深く、間合いへと踏み込んだ先、美しい斬撃が魔竜騎士の肩を浚う。静かに告げる言葉と共に、レフィナードは武器を引く。呪詛の乗った一撃は揺れる事無く届く。
「貴殿等は厄介なようだな」
 落とす息に血が混じっていた。忌々しそうに魔竜騎士は告げ、槍を構える姿は未だ余裕を残しているようだった。
「厄介とは思われているのですね」
 リコリスはそう言って真っ直ぐに騎士を見た。重なり紡いだ回復は、マリュウモドキからの攻撃に対しての方が多い。戦いの流れはこちらにある。だが決して油断は出来ないのも分かっていた。
(「素早いのでしょう……、こちらの攻撃が届かないこともあるとは」)
 命中率を上げる術を万が用意していて良かったのだろう。それにあちらが避けるのであれば、足を止めさせるという手もあるのだ。
「貴方様でも」
「あぁ。だが私とこいつらで充分だ。貴殿等が囮の可能性もあるからな」
 低く槍を構え、魔竜騎士が来る。ぐん、と一気に迫る相手へと踏み込んだのは万であった。
「その囮に倒されたらどうするんだ?」
「優秀な囮であったのだろうよ。だが――その未来は訪れない!」
 吼える魔竜騎士の一撃が万に届いた。深々と槍が肩口に突き刺さり――だが、男は笑った。
「狩られるのはテメェだ、逃げられると思うなよ!」
 次の瞬間、獣の影が魔竜騎士へと絡みついていた。それは万を構成する獣を幻影として呼びだしたもの。突き出した槍と、幻影に動きを止められた騎士が息を飲んだ。
「っく、来い!」
「ルァアア!」
 応じたのはマリュウモドキだ。踏み込んだケルベロス達に反応したこの動きは庇うためか。
「地球で生を受けたドラゴンであるならば少しは地球での礼儀を覚えたらどうですか」
 だが、庇う為に出たモドキは足を止める。止まってしまった――その、歌声に。
 カロンが展開するのは調律魔法。
「静寂と狂乱の交響曲を聴かせて差し上げましょう」
 歌い、告げる。優しい風が歌声と共に訪れ、マリュウモドキが眠るように倒れれば、盾となる者はもう――いない。
「騎士さんだけです」
「僕達はあなたを越えていきます」
 静かにジェミが告げる。落とす影より生じた漆黒の矢が尾を引くように――駆けた。
「っく、こんな所で……っ」
 弾くようにして槍を振るう。だが、その動きが鈍い。重ね紡いだ制約が騎士を捉えていたのだ。躱すように魔竜騎士は身を飛ばすが――そこも、ジェミの間合いだ。
「餮べてしまいます、よ?」
 変幻自在な軌道は、捕食者であった頃の名残。は、と蹈鞴を踏んだ騎士へと、アリシスフェイルは白銀の砲身を向けた。
「行かせて貰うわ」
 凍結の力が、駆ける。真っ直ぐに行くそれに、合わせよう、とシュネカとノーフィアが声を重ねた。
「では……私は援護を」
 行く仲間へとリコリスが回復を紡ぐ。無事を祈り、願うように両の手を掲げる。
「行くよー!」
 光の中、ノーフィアの向けた刃が花の嵐を生んだ。吹き荒れる薔薇の中を、シュネカは行く。
「行くぞっ!」
 踏み込みと共に煌めきがシュネカの手に乗った。重ねるように共に行くように、竜派たる娘の幻影となって行く。
「私、は――!?」
 飛ぶように行ったシュネカの一撃が深く沈み、魔竜騎士グートルーネは崩れ落ちた。

 残されたモドキ達を倒し、一行は再び樹海の奥を目指して移動を始めていた。魔竜騎士の話通り、増援は呼ばれていなかったようだった。――だが、変化は突然訪れた。
「おいおい、消えてるぜ。敵の反応が。こいつはマリュウモドキだろ」
 万の言葉に、は、と顔を上げてカロンが一点を指さした。
「あそこを」
 遠く、見えていたモドキ達が塵となって消えて行っているのだ。1体、2体では無い。全て、だ。避けた筈の道が、がらんとひらける。明らかな異常事態に急ぎの通信が答えを告げた。
「――クゥ・ウルク=アン討伐チームからです。討伐は成功。ですが、魔竜が復活すると。こちらも急ぎ撤退するようにと」
 レフィナードの言葉に、リコリスが息を飲んだ。
「魔竜……まさか」
「それじゃぁ。あれが消えているのは魔竜復活に合わせて……」
 その先を紡ぐより先に、樹海の風が変わる。此処に居ては危ない、とそう感じる程に。
「一先ず、急いで撤退した方が良さそうだねー」
「あぁ。合体とやらに使われたとしても、今は撤退だな」
 ノーフィアの言葉に、シュネカは視線を上げた。
「討伐班さんと合流できればそれで、だな」
「はい。急ぎましょう」
 ジェミはそう言って、息を吸う。チリチリと感じる嫌な予感。新たな戦いの気配を感じながら、ケルベロス達は富士の樹海を駆け抜けた。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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