竜十字島のニーズヘッグ調査~トリガーは瀕死の竜

作者:なちゅい


 東京から東に約1200kmの海上に、竜十字島と呼ばれる島がある。
 昼間はまだ若干残暑を感じる中、この地へと露出度高めの褐色肌の女性ケルベロスがやってきて島を見回す。
「さて……と」
 ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)は惜し気もなく自らの豊満なボディをさらしながらもヘリオンから降り立ち、島の奥へと踏み込んでいく。
 この地はかつてドラゴン達が拠点を置いていた場所。
 昨年5月、ケルベロス・ウォーにおいてケルベロス達がドラゴン達に勝利し、この地からドラゴンの姿はなくなった。
 その後、螺旋忍軍がなにやら画策していたこともあったが、今年に入って竜十字島で大きな動きはない。
「念の為、ここも調査しておかなきゃ、ね」
 それは女の勘というやつだろうか。ファレは長らく放置されていたこの島に何かを感じて、しばらくぶりに上陸して調査を開始する。
 あちらこちらを歩いたはずのケルベロス達が歩き回った後も、すでに草木が繁殖してどこにあったのかすらも分からなくなっている。
 ファレはその跡をたどりながらも、かつて戦場となった場所を回っていく。
 そんな中で、彼女はとある戦場跡で異変を目にすることとなる。
 突然空間が歪み、魔空回廊が開いたのだ。
「な……!」
 唖然とするファレの目の前に現れたのは、城ヶ島にいるはずのドラゴン、ニーズヘッグの1体だった。
「ウ、ウゥゥ……」
 しかし、弱々しく鳴くその竜の全身はひどく傷ついており、襲ってくる気配はない。
 ――あれをこのままにしては危険ね。
 直感でそう考えたファレはすぐさま禍々しい杖を手にし、虚無魔法を唱える。
「ディスインテグレート!」
 次の瞬間、不可視の虚無球体がニーズヘッグの体を穿つ。
「ウ……」
 体に風穴を穿たれたドラゴンは大きな音を立てて地面へと倒れ込み、動かなくなってしまった。
 大きく息をつき、武器をしまうファレ。
 この場は1人でどうにかなったが、まだニーズヘッグは別の場所に存在するかもしれない。あるいは……。
 背筋に寒気が走るのを、ファレは感じて。
「いずれにせよ、見過ごせない状況ね」
 彼女はこの事態の報告すべく、急いで急いで来た道を戻っていくのだった。


 何やら大きな発見があったということで、ヘリポートへと集まるケルベロス達。
「……竜十字島の探索を行っていたファレ・ミィドが、突然開いた魔空回廊からニーズヘッグが出てくるのを目撃したんだ」
 彼らへと、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)がすでに説明を始めていた。
 その巨躯に対し、魔空回廊自体が不安定な上、あまりにも小さすぎたことが災いしたのだろう。圧縮されたことで体が軋んでしまっていたニーズヘッグはズタボロで、瀕死の状態だった。
 放置しても死ぬ状態ではあったが、危険を察したファレはそのニーズヘッグへとトドメを刺し、『何かが起こっている』と考えて報告に戻ってきたそうだ。
「他にも、同じように移動して死亡したニーズヘッグがいるかもしれないね」
 この場に立ち会うファレ本人もそう語った。
 ニーズヘッグは知能を持たない為、本能的な行動だと想定される。
 帰巣本能で竜十字島に戻ろうとしている、という程度ならば問題は無いのだが……。そう即断するには、不自然な点が多過ぎる。
「島に何が起こっているのか、皆には確認と調査の為に、竜十字島へと向かってほしいんだ」

 現地点で、リーゼリットも事件を予知してはいないが、この島で何かが起こる危険性は高い。
「どのような危険がありえるか考えて対策する事ができれば、不測の事態にも対応できると思う」
 また、ニーズヘッグの拠点である城ヶ島の調査が進めば、そちらからも情報が得られるかもしれないが、現状では何とも言えない。
 現地点では情報が少ないが、ケルベロスの知らないところで何かが起きているのを裏付ける1件だ。この事態について、しっかりと調査を行いたい。
「皆のこの調査がきっと、新たな危機を打破する為の鍵となるはずだよ」
 そう信じているとリーゼリットは集まったケルベロス達を鼓舞し、この調査に奮って参加するよう願うのだった。
 
 

 竜十字島へと降り立ったケルベロス達は早速調査を開始するが、これまでの状況とファレのもたらした情報からチームをA、Bの二手に分けることにした。
 A班4人は事前にファレがニーズヘッグと接触した地点から調査を開始する。
「……コギトエルゴスムが転がってるね」
 そこで、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)がまず地面に転がる球体をいくつか発見する。
「肉片も地面に残っているね……こっちに続いてる」
 影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)は森に続くその痕跡を示し、メンバー達はそれをたどることに。
「確か、こちらはゲートのあった火口の方ですよね?」
 リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)が確認しつつそれをたどると、程なくコギトエルゴスムが発見されて肉片が途絶えていた。
「肉片の腐敗具合から見て、ゲートへと移動して力尽きた……と推察できますね」
 ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)は自らの主観を語る。
 では、今そこは今どうなっているのかと、A班は元々この地にゲートのあった火口を目指す。

 B班4人は『月の鍵』遺跡の調査へと向かっていた。
 一行にとって気になる場所ではあったのだが、この地下を調査したメンバー達はニーズヘッグのいた痕跡を見つけることができず。
「……当てが外れたな」
 軋峰・双吉 (黒液双翼・e21069)は仲間達と確認し合い、そう結論付けた。
 それでも、確実に気になる箇所をチェックしておくのは後の憂いを消すことにも繋がる。成果がないという結果は決して、無駄足だったことを意味するわけではない。
「元ゲートに向かおうか。そっちは何かあるかもしれない」
 千歳緑・豊(喜懼・e09097)の言葉に同意し、皆遺跡調査を引き上げ、変化のある可能性の高い元ゲート所在地を目指すことに。
「こうなると、A班が気がかりね」
 ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)が別班の状況を心配する。
 危険が考えられる場所で、すぐ別班に駆けつけられない距離での別行動は良くなかったかもとファレは口にするのだった。


 ファレの杞憂もあれど、元ゲートへと移動していたA班に追いつく形でB班は合流することができた。
「無事で何よりです」
 B班のバラフィール・アルシク(黒い噂に惑うた幾年月・e32965)は互いの無事に安堵する。
「……なるほど、元ゲートはどうなっているのでしょうね」
 A班の調査結果を受け、バラフィールはそちらへの関心を強める。
 実際、元ゲートのあった場所にもいくつかニーズヘッグの死骸を発見できた。
 地面のあちらこちらについた血や肉片。そして、所々に転がるコギトエルゴスム。苦しみながらも、ニーズヘッグが命を落としたことが一目でわかる。
「こいつは……」
 ニーズヘッグは豊にとって少なからず因縁の相手であるが、無残に肉片を散らし、コギトエルゴスムとなったそれらに驚く。
 一行は新たなニーズヘッグが出現するかもしれないと警戒を強めつつ、元ゲートの近辺の調査を進めると……。
「でも、死骸は手前側にしかないよね」
「ああ、反対側には死骸どころか肉片すらない」
 リナ、双吉の指摘もあり、ローゼスはさらにこう結論付ける。
「決まりですね。ニーズヘッグの目的地はここだと判断に足る状況です」
 その時だ。不意に何かを上空にヴィルフレッドが感じて。
「ん? 何かが光って……」
 空から降りてくるキラキラした小さな何か。目の良いケルベロス達のこと。他メンバー達もそれに気づく。
 同時に、周囲へといくつも展開して口を開く魔空回廊もどきから巨大な物体がもがくように這いだして地面へと落ちていく。
「「ニーズヘッグ!!」
 同時に叫ぶメンバー達は皆、ほぼ同時に武器へと手をかける。
 虚空より突如として現れた瀕死のニーズヘッグ達は、キラキラと降り注ぐ物体へと我先に食らいついていったのだ。
「皆、いくわよ!」
 ファレが仲間達へと促し、手前のニーズヘッグ目がけて攻撃を行う。
 撃ち込まれていく銃弾、刻み込まれる斬撃、叩き込まれる殴打、蹴撃、光や虚無の魔法……。
「ウ、ウゥ……」
 早くもその1体を撃破したケルベロス達が次なる敵をと周囲を見回すと、キラキラした物体に食らいついていたニーズヘッグ達の身体が干からび、塵と化していく。
「なんだ、こいつは……」
 異様な状況に、豊が警戒を強める。
 皆、戦闘態勢をとったままこの場の状況を注視していると、チリとなったニーズヘッグの中から更なる巨体のドラゴンが現れた。
 ――オオオオオオオオオオオオオォォォォ!!
 突如激しい咆哮が放たれ、皆耳を塞ぐ。
 刹那、大地すらも鳴動し、ケルベロス達は全身を震わせるほどの振動を感じた。
 実体を得てこの場に現れたのは、身の丈数十メートルはある暗色の鱗を持つ巨大な龍だ。
「ふむ、お前達の意志と力は受け取った」
「あ、あれは……」
 それに、リューインは心当たりがあったらしい。
「竜業合体したドラゴンの中でも、最も早く地球へと到達した最速のドラゴン……『制空龍ファトフ・シャマイム』」
「寒気の原因はこれね……!」
 リューインがその名を口にすると、1人で調査に来た際感じた悪寒の正体がこいつであることをファレは確信する。
「よかろう、お前達の全てを、我に続くドラゴンの為に、捧げさせてやろう。その為には……」
 周囲を見回して状況を確認しようとしたファトフ・シャマイムの意識は命を散らしたニーズヘッグ達へと向いており、ケルベロス達にはまだ気づいていない。
「皆さん、今です。奇襲をかけましょう」
 ローゼスが仲間達へと促すと、ケルベロス一行は次なる相手をその龍と見定めて攻撃を仕掛けていくのである。


参加者
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)

■リプレイ


 竜十字島の火口へと向かったケルベロス達の前に突然、巨大な暗色の龍が姿を現して。
「エルダードラゴン……!」
 バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)は直前にニーズヘッグ達が食らいついていた輝く物体も気にかけていたが、それどころではなさそうだ。
「あの竜を倒さなければ」
 そして、このことを今回の1件を説明したヘリオライダーに伝えなければとバラフィールは考える。
「まだここでの戦いは終わらないんだね……」
 影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)は頭上に留まって降りてこない新たな龍の姿に、戦いが続くことを思い知らされる。
「……『制空龍ファトフ・シャマイム』」
 リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)が改めてその名を呟きながら、強化ゴーグル型のヘリオンデバイスを着用する。
「ただ元ゲートを座標としたのか、あるいは竜十字島そのものを求めての行動ならば……機先を制す他あるまいか」
 龍の目的はまだ分からないが、ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)は相手に奇襲をかけることを提案する。
「ここを連中の橋頭保にされたら後々厄介ね。……やるしかないわ」
 悪の女幹部を思わせるファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)もまた、再度ゴーグル型デバイスを着用してみせた。
 まだ、敵は空を羽ばたいたままであり、地上からは攻撃が届かない。
「デバイスがありゃあ、自前の翼は武器に使うに集中できて便利だぜェ」
 そこで、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)がジェットパック・デバイスを使い、仲間を牽引して飛び上がっていく。
「これは楽しい戦いになりそうだ」
 島内調査と軽い戦闘を想定していた千歳緑・豊(喜懼・e09097)は思いもしない大物の出現に歓喜する。
 これから始まる戦いに胸躍らせる豊はさらに、地面へと倒れるニーズヘッグを見下ろして。
(「にしても、あったことがある気がするけど、気のせいかな?」)
 かつてダモクレスだった豊が戦った個体とはずいぶん見た目が変わったニーズヘッグ。
 献身の塊であるそれらに眩しさを覚える豊は仲間と共に、制空龍との戦いに臨む。
「さあみんな、殺っておしまい!」
 悪い笑顔を浮かべて仕掛けるファレ。
 すると、素早くヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が見上げんばかりの曲の敵に向けて言い放つ。
「ずいぶん遅い登場だね。地球の空を満喫する前にその咢、地面に叩きつけてあげるよ!」
 ジェットパック・デバイスの支援を受ければ、空中でも戦いながら仲間を庇うことができる。
 それを確認したヴィルフレッドは、妖精靴で理力を込めた蹴りを制圧龍へと浴びせかけていく。
「ぬ……?」
「名乗り無き奇襲を詫びよう。だが竜よ、その企みは見過ごしておけぬものと見た」
 その一撃を皮切りにケルベロスの奇襲は続き、今度はローゼスが相手に告げる。
「我名はローゼス! 竜の暗躍、粉砕させてもらおうか!」
 名乗りを上げた彼は赤い風となって空中で荒ぶり、鍛え上げた膂力で拳や蹴りを叩きつけていく。
 続く豊も飛行戦闘とあって、先程からダモクレス時代を思いだしながらも、地獄の炎でできた獣を相手へとけしかける。
「不意打ちしたのは謝るよ。ただ、君が格上だと思ってのことだ、誇って欲しいね」
 5つの瞳と長くしなる尾の先の棘が特徴的なその獣は、牙を剥いたドラゴンの動きを止めようとする。
 それでも、傍にいるだけで放たれてくる圧倒的な存在感にリナは身を竦めそうになってしまう。
「未知の相手ではあるけれど、怯んではいられない」
 気丈に振舞うリナは仲間と一気に倒すべく全身のオーラを魔力に変え、幻術と混じり合わせることで無数の風刃を巻き起こす。
「どかーんっ!」
 加えて、ファレは制空龍のグラビティ・チェインを汚染して「地獄化」させる。
 巨躯の龍とはいえ、グラビティ・チェインを直接狙われるのはさすがに効くらしく、爆発を伴う激しい燃焼を引き起こす。
「ぬおおおっ……?」
 纏わりつく炎と風に爆発。
 ドラゴンが空気を震わせるような声を上げるが、双吉は相手が完全に状況把握する前にと、相手の右手へと近づく。
「寝起きに悪いけどよー、痛んでもらうぜ!」
 そして、如意棒を相手の爪へと食い込ませ、一気に爪を引っぺがそうとした。
 まだ戦闘態勢が整わぬ敵が爪を1枚剥がされかける間に、バラフィールの翼猫カッツェがメンバーの体調を万全なものに保とうと大きく翼を羽ばたかせてくれる。
 主のバラフィールが休息の杖を意味する雷杖「Cane der Erholung」から迸る光を発して竜の体を撃ち抜けば、開幕ののろしを上げんと、リューインも不意打ちを仕掛ける。
「神々より託されしこの一投で神殺しの一撃を受ける栄誉と、真の死をあなたに……クングニルバスター!!」
 彼女による魔槍ゲイ・ジャルグの投擲は裁きの雷光となり、撃ち抜いた制空龍の体を駆け巡る。
 だが、ケルベロス総出で行った奇襲の連撃もさほど深い傷には至っておらず。
「随分な歓迎ぶりだな」
 余裕を感じさせる口ぶりで自らの周囲を飛ぶケルベロスを睥睨してきたのだった。


 調査の最中、発見した制空龍ファトフ・シャマイム。
 相手は最速のドラゴンという情報もあり、奇襲を仕掛けて出鼻をくじいたケルベロス達。
 思ったよりダメージを与えることができ、ジェットパック・デバイスを使う双吉も得意げだ。
「来てやったぜ、テメェの土俵によォ! 制するか? 俺達の上を行くか? やってみろよ!」
 翼を羽ばたかせて空中へと留まる制空龍ファトフ・シャマイムだが、その周囲にケルベロス達も浮かんでおり、空中での優位性は失われている。
 だが、相手はドラゴンであり、その力は途轍もない脅威。
 早速、吐き掛けてくる雷のブレスはこちらを痺れさせて来る。
 威力は高いが、すぐに動けなくなるというものでもないとヴィルフレッドはブレスを受け流し、冷静に判断して。
「大丈夫。落ち着けばいくら最速のドラゴンでも捉えられるはずだよ」
 普段は銃火器や体術で敵を翻弄するタイプであるヴィルフレッドだが、今回は何が起こるか分からなかったこともあり、仲間……この場はファレへのサポートを優先する。
 そのファレは後方から攻撃を続け、今度は神撃槌アニヒレイトスマッシャーを手に、轟竜砲を叩き込んでその動きを止めようとする。
「またニーズヘッグが出てくる可能性もありそうね」
 制空龍出現の直前、ニーズヘッグが突然現れたファレは思い返し、また魔空回廊が出現することも警戒しながら、目の前の龍との交戦を進めていく。
 この戦いを心から楽しむ豊は、複数のニーズヘッグが介入してくる状況も視野に入れて。
「それならそれで、心躍るよ」
 本音でウエルカムと言わんばかりの豊は暗色の巨竜目がけて地獄の炎を纏わせた弾丸を撃ち込み、その巨体を燃やしてダメージを稼ぐ。
 制空龍はその身の炎など気にも留めず、今度は竜の尻尾をしならせてケルベロス達へと叩きつけて来る。
 ローゼスはその強烈な攻撃を受け止め、制空龍へと揺さぶりをかける。
「ドラゴンよ、この地がそれほど恋しいか! 地球を己が物とする為にそれほど必要か!」
「無論だ。お前達も我等の為にグラビティ・チェインを捧げるがよい」
 それにノーを直接突き付けたいところだが、ローゼスはぐっと堪えて自身や仲間の回復の為、光の盾を展開させていく。
 現状はなんとか前線を持たせながら交戦できているが、いつ相手が本気を出して戦線が崩れるが分からない。
 宗吉はガンガンダメージを与えるべく接敵し、オラトリオの双翼に纏わせたブラックスライムをけしかける。
 左右から巨龍を捕食させ、その間から双吉自身が如意棒を叩きつけてラッシュをかけていく。
 リナは魔法の木の葉を降らせ、自らのジャマー能力を高めてから攻撃を行う。命中率をしっかりと確認し、ゲシュタルトグレイブを手にして稲妻を帯びた突きを繰り出して制空龍の体に強い痺れを与える。
 さらに、やや高めに舞い上がったリューインがエアシューズに重力を宿して相手の頭上から蹴りかかっていく。
「攻撃するからには相応の返礼をせねばなるまい」
 制空龍は鋭い爪を振り下ろしてくる。
 巨躯の龍とはいえ、布陣を整えるケルベロスの後衛メンバーにまでその爪は至らぬが、リューインのビハインド、アミクスがしっかりと前線メンバーを庇ってくれる。
 アミクスは即座に反撃にも出て、敵の背中から大鎌を振り下ろし、堅い暗色の鱗も切り裂いてみせていた。
 さすがはドラゴン、防御してもそのダメージはかなりの威力で、メンバーはかなりの体力を削られていた様子。
 そんな仲間達を、バラフィールが後方から支えて。
「誰も死なせはしません! 絶対に……」
 自身の翼猫も頑張ってくれてはいるが、最悪の場合は……。
(「例え、私が倒れようとも!」)
 強い気概を抱いながら、バラフィールは自らの光の翼から羽根の形をした光を仲間達へと飛ばしていく。
 羽根は仲間の傷を癒すと共に護る力を引き上げ、継戦能力を高めてくれていたのである。


 銃十字島の空で激しく続く龍とケルベロスの戦い。
 確かにドラゴンは強力ではあり、ケルベロス達は死力を尽くして交戦を続けていた。
 だが、制空龍にも戦ううちに異変が起きていて。
「ぐ、ぐぬううっ……」
 いくら力を振り絞っても、十全の力を出すことを出すことができないらしい。
 再び風の刃を舞わせ、敵の全身を切り裂いていたリナは激しく息つく間にそんな敵の様子に気付いて。
「もしかして……、復活は十分じゃなかったのかな……?」
 先程、ケルベロス達がニーズヘッグを1体撃破していたことが響いていたのだろう。
「オオオオオォォォ!!」
 だが、それでもなおドラゴンの猛攻は激しい。全身凶器ともいえる制空龍から放たれる攻撃は全てが脅威であり、ケルベロスを追い込む。
 ヴィルフレッドは深まる自らの傷に痛みを感じながらも、絶対零度手榴弾を投げつけた場所を凍らせ、仲間の攻撃をアシストする。
「さすがに出ないでくれよ……」
 例え、ニーズヘッグ1体でも追加されようものなら、それだけであっさり戦線を崩されかねないとヴィルフレッドは確信していたのだ。
 最前線で盾となるローゼスも攻撃はできず、防戦一方。
 傍で堪えていたビハインドのアミクスが制空龍の雷ブレスで消し飛ばされてしまうが、自らがそのブレスを堪え、痺れがこれ以上強まらぬようにと叫ぶ。
「これしきで倒れてはなるものか……!」
 徐々に赤熱しかけるローゼスの身体。ギリギリのラインで彼が堪えているのは、仲間達の支援あってこそだろう。
 バラフィールも前線で耐えてくれていた自身の翼猫が制空龍の翼の羽ばたきによって身を裂かれていたのを目にする。
 だが、この場はケルベロスが優先。これ以上はメンバーの身にも危険が及ぶと、バラフィールは雷の壁を幾重にも重ねていく。
「負けられぬ。後続の同胞達の為にも……」
 そんな制空龍の言葉に危機感を募らせるメンバー達。
「後続に来られる前に畳みかけるわよ」
 ファレは仲間達の攻撃が順調に命中し始めたことを受け、滅望砲から凍結光線の発射、さらに神撃槌からの砲撃を打撃に変え、火力へと攻撃をシフトさせて制空龍の傷を深めていく。
 後方のリューインも前衛陣に助けられながらも、簒奪者の鎌を投げつけて巨龍の鱗を皮膚ごと切り裂く。
 仲間もかなり疲弊しているし、いつ増援が来るかもわからないと豊は判断して。
「中々楽しい戦いだったが……ここまでだ」
 一気に攻勢をかけるべく、豊は素早くリボルバー銃「雷電」を発砲し、敵の爪、口、翼、尻尾といった攻撃に使用される部位を次々に狙い撃っていく。
 ニーズヘッグがここまで出なかったことは僥倖ではあったが、それ以上に目の前の龍を脅威に感じた双吉は再度ブラックスライムを展開して。
「悪いが、また眠ってもらうぜ!」
 左右からのブラックスライムの食らいつきで苦悶の声を漏らす敵の胸部へと激しい拳と蹴りの連打を浴びせかけ、思いっきり顎目がけ、双吉はアッパーを繰り出す。
 次の瞬間、その巨体が大きく仰け反って。
「我を倒したとて……、遠からず本隊が到着する。それまでの命だ。ケル、ベロス……」
 制空龍ファトフ・シャマイムはそんな捨て台詞を吐き、浮力を失って竜十字島の火口に向けて落ちていく。
 その最中、崩壊を始めた龍の巨体はマグマの中へと消えていった。
「さ、ゲート跡の再調査を始めましょ」
 大きく息をついたファレは仲間達へと促し、先に地上へと降り立っていくのだった。


 激戦の上、現れたドラゴンを倒したものの、その遺した言葉を気にするケルベロス達。
「あれが1体目……後続の本隊もやってくるのかな」
 リナは周囲へと散らばったままのキラキラした物体を回収しつつ口にする。
 ヴィルフレッドは近場でその物体を観察する。
 よくよく見れば、コギトエルゴスムであることが分かる。危険性はないと判断し、彼は空瓶へと入れていた。
「とはいえ、彼らの間近は天文学的単位です。今日明日ということは無いと思いますが……」
 それですぐ撤退するきだったリナに同調し、ドローンを使いつつ退路の確保に当たるバラフィールが主観で語る。
 もしかしたら、それは数年後になるかもしれないし、地球まで到達できない可能性もある。いずれにせよ、確定情報とまではいかないのは間違いない。
「ドラゴン達の到来の前に、城ヶ島の攻略を成功させたい所ですね」
 ローゼスは敵の出現がこの竜十字島であり、城ヶ島でなかったことを訝しんでいたのだ。
「ここに魔竜はいなかったな。ワード・ブレイカーはどこに行ったのかね?」
 双吉は周囲を見回し、新たなニーズヘッグが現れぬことを確認してからそう呟く。
「魔空回廊はゲートがなければ使えないはず。誰の物を借りたかも位になる所だね」
 豊は不必要な分までは無視できないからと、コギトエルゴスムを砕いていく。ニーズヘッグが新たな龍を呼び寄せることを懸念したのだろう。
 ともあれ、今度は城ヶ島を何とかしたいところ。
 ケルベロス達は次なる目標を確認し、今回の竜十字島での調査を終えて帰路についたのである。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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