強襲屍隷兵製造拠点~見たぞ! 工場の秘密

作者:大丁

 ボコボコと、湧き上がる泡が激しくなった。
 円筒状のカプセルのなかの、まぶたが開く。
 頭から胴体、脚までは人間のカタチを、何とか保っていた。だが、腕は。
 両肩と、肩甲骨のあたり、そして脇まで使って、複数本が生えている。それらは中途から機械化されており、先端はドリルやカッターなどの工具となっていた。
 ガボ、ガボ、ガボボ……。
 覚醒すると、チェーンソーでもって、内側からカプセルの強化ガラスを破る。
 こうして、新たな生をうけた屍隷兵には、搬送や整備をする作業ロボットたちが駆けつけて、手厚く運び出される。
 カプセルは、ひとつだけではない。
 まだ、死体の部品が浮いているだけのものから、異形の改造を施されて、再生間近なものまで、製造拠点いっぱいに並べられていたのだ。

 ブリーフィングルームに集められたケルベロスたちは、軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)が口を開くのを待った。
 説明機材を準備するのに、白いレインコートが壇上を左右に行き来する。
「はいはい、お待たせ。まずは、暴食機構グラトニウムの行動範囲などから、ジュモー・エレクトリシアンの居場所の探索を行っていたみなさんを紹介します」
 プロジェクターに映しだされたのは、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)にティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)、そしてナターシャ・ツェデルバウム(自称地底皇国軍人・e65923)と、その探索報告。
「このように、割り出された幾つかの予測ポイントについて、有志のケルベロスさんたちが現地調査を行っていたんだけど、宮城県の無人島を調査していた、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)くんが、八景島(やけいじま)にダモクレスの屍隷兵製造拠点がある事を突き止めてくれたのぉ」
 ジュモー及びユグドラシルの根は確認できていないが、生産されている屍隷兵は、ユグドラシル・ウォーで見かけた個体である。屍隷兵製造拠点の地下などに、ジュモーの本拠地がある可能性が高い、とのことだった。
「八景島は本土から2kmほど離れてる。今回は奇襲作戦となるので、ヘリオンで島の上空まで移動するよりも、宮城県の本土側から八景島へ、目立たないように上陸するようにお願いねぇ」
 冬美は、現地の地図を表示した。
 製造工場は八景島の中央部(瓢箪型の島のくびれの部分)に、地下への突入口が確認されている。が、他にも入口があると想定される。
 工場内には、生産された屍隷兵が多数存在していることだろう。
 生産された屍隷兵の多くは、作戦で使用するまで休眠状態で保存していると思われるので、動き出す前に一掃できれば、手間が少なくなる。
 以上の説明を加えたのち、差し棒を引っ込めた。
「稼働している屍隷兵の撃破、未稼働の屍隷兵の排除、研究施設の破壊、ジュモーの拠点への手がかりの捜索など、効率的に行った後、島から脱出してねぇ」
 コートの裾を直し、冬美は自信ありげに微笑む。
「ジュモーの拠点を割り出せれば、長い因縁に決着を付けられるかもしれないの。みんななら、きっと。……待ってるね!」


参加者
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)

■リプレイ

●八景島上陸
 海岸の岩場に上がってきた8人は、黒いウェットスーツを着ていた。
 ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)は、注意深く辺りを伺い、潜水装備を外す。
「海底に出入口はなかったですね」
「ええ。他の班は、どこかに見つけられたでしょうか」
 防水バッグから喰霊刀とバトルガントレットを取りだす、ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)。
 ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)はアームドフォートを入れていたので、ケースは大きめで、これは機理原・真理(フォートレスガール・e08508)のライドキャリバーにえい航してきてもらったものだ。
 ふたりでその、プライド・ワンを引き上げる。
 点検が済むと真理は、ウェットスーツのチャックを、ジリリと下げた。
 ケルベロスたちは各自、戦闘用に装備を整える。
「八景島(はっけいじま)と八景島(やけいじま)って違うんだねー」
 黒衣を脱いだ下には、愛用の白いフィルムスーツ。神宮・翼(聖翼光震・e15906)は、隠された森の小路を使って、島内の探索を容易にしようと準備する。
 小柳・瑠奈(暴龍・e31095)も、下に着ていたのはピッチリした服。
 ニンジャスーツだ。
 手足の各所に網タイツが張られ、鎖帷子にもなっていた。零式と螺旋の違いはあれども、もう一人の忍者、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)はスーツ、いわゆる黒服に身を包む。両袖に鎖を巻くところだ。
「準備完了……」
 シワひとつなく、早着替えかもしれない。
 エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)は、脱いだ途端にマインドウィスパーの連絡を受ける。
「こちらはエメラルド・アルカディアだ。感謝する」
 そしてそのままの姿で、仲間のほうへ向き直り、内容を報告した。
「他班がカモフラージュを破り、監視施設の屍隷兵を排除して、地下への突入口を確保してくれた。我々もそこから入ろう」
「お、おう……」
 ロディは、つい面前と返事する。ビキニアーマーをつける前のエメラルドに。
「……失礼!」
 彼女は、ウェットスーツの下が裸だったと思い出し、慌てて鎧の留め金を掛けた。
 翼が作った下生えの道をたどり、8人は八景島中央の括れた部分を目指す。

●地下施設潜入
 無人のフォークリフトが、大小さまざまなサイズで、行き来していた。日本の工場などで使う、人間が乗れるような大きさから、バースデーケーキの箱くらいの小ささまで。
 運搬や整備をする作業ロボットだ。自立して動けるらしいが、侵入者には反応しないようだ。
 もくもくと資材を運び、もくもくと機械類の組み立てを行っている。
 8人は、他班と別れて通路を進むうち、四方を壁に囲まれた空間に行き当たった。ラインハルトが戸口から、その動くものを観察する。
「どうしますか?」
 拠点の地下部分はかなり広かった。手当たり次第に暴れて、重要でないものを相手にしていては、時間が足りなくなる。
「警備システムではなかろう。潰す意味はないな」
 精神の会話が、エメラルドを介して飛び交う。
「害はなさそうですけど」
 ケイトには、雑事をこなす民生品に思えた。同時に、ありふれた産業技術こそが、兵器開発の土台であることも知っている。
 後者の見解を、翼が代わって言った。
「あの子たちも工場の設備なんだから、壊した方がいいんじゃなーい?」
 まあ、ロディの背中にくっついて、貧乏ゆすりしているところを見ると、苦手な隠密行動に飽きてきた感はあったが。
 床と壁は、銀色の金属製で、配管やレールが張り巡らされており、それらは所々で蔦や茎に代えられている。
 機械迷宮と植物迷宮の混ざった地下世界を眺めるうち、正面の壁の一部がシャッターとなり、スルスル開いた。2台のリフトに挟まれるように、ベッドが、そしてその上に寝かされた人型のモノが、運び出されてくる。
「完成した屍隷兵、なのです……」
 真理はその、機械の腕を複数本生やした姿に、心のざわめきを感じた。
 搬送用ロボットはケルベロスたちの前を90度ターンして、右奥の壁、別のシャッターの向こうへと消える。
 追えば追えたが、その経路の途中にある、小型ロボットを蹴散らかしそうだった。
 この、正面の壁の中が、製造プラント。そして、右奥の壁の先には、未稼働の屍隷兵を保管する場所があるのは確定だ。
「せっかくだから、この正面の扉を選ぼう」
 意見を取りまとめたエメラルドに、仲間たちは頷きを返す。
 瑠奈とシフカは、ここはニンジャの出番とばかり先行し、作業ロボットが出入りするのを待って、隙間から内部へと忍び込んだ。
 天井の高さは7、8mあろうか。森の木々を下から眺めているような光景だった。
 そびえる樹木の一本ずつは、下にいくにつれ、ツタのように別れて垂れ下がり、機械的な円柱に接続される。
 瑠奈は、円柱のひとつに用心深く手を触れた。
 緑の液体に満たされたカプセルであり、臓物をはみ出させた胴体が浮いている。シフカに視線を送ると、彼女の見上げるカプセルには、人のカタチに組みあがりつつも、関節を機械的なコードでつないだだけの個体が収まっていた。
「螺旋忍軍残党の関りが気になっていましたが、ここには含まれていないようですね」
 そこからは、カプセルの森を素早く移動し、数10体を製造しているドーム状の施設の概要を把握した。
「情報を頂戴できそうな、コンピュータ端末っぽいものもないな。まさに製造工場だよ。……ドッカンといきたいね?」
 瑠奈は、ピッチリニンジャスーツから、ケルベロスチェインを引き出した。シフカも腕に巻き付けたチェインを解くと、シャッターにむけて直線的に放つ。
 稲妻放電が起こって、壁ごと焼け堕ちた。
 それを合図に、残りの5人が、突入してくる。
 製造プラント内へと放射状に撒かれた瑠奈の鎖は、機械と植物とを問わず、刺し貫いては汚染する。
 施設の破壊が始まったのなら、徹底的にやるのだ。
 ケイトは、4つ足の人馬ではなく、人型の軍服姿でカプセルの並びを駆け抜ける。邪悪な研究成果が産み出しているのは、複数腕の屍隷兵。
 ガトリングガンから弾丸をばら撒いてはガラスを割り、アブソリュートボムを投げつけては中身の液体を凍らせた。
「一般人への脅威を、未来には残さないよ」
 ブレイジングバーストに、根元から爆炎をあげたカプセルは横倒しになる。
「なにか、もっと浪漫を駆り立てられる物が回収できるかと思ったのよね。記録ディスクやメモリなんかのデータ媒体すらナシ。……あら?」

●全ての技
 壁寄りにいた真理のそばが一部開いて、異形のシルエットが立った。
「は、動き出したです?!」
 影から振り下ろされたのはチェーンソー。真理のフィルムスーツの脇から刃がはいると、太腿あたりまで切り裂いた。
「あー。稼働状態の子がいるー」
 翼が指さす。破壊活動に対する警備役だろう。
 10体の同種の屍隷兵が、ぞろぞろと製造ドームに入ってくる。
「ここからは、完成体の迎撃です」
 真理は、服の破れ目を押さえていた手を離し、奇しくもやられたのと同じ武器、チェーンソーを構えた。メタルな床に、ズタズタになったフィルムスーツが、はらりと落ちる。
 敵の姿は、先ほど運び出されていたのと同じ。オールスペック型だ。
 腕の付き方に違いはあるが、ペンチやドリル、ハンマーに回転ノコギリといった武器が、機械椀の先端に備えられ、手首はない。それらが、ガチャガチャと動いて、真理に襲いかかってきた。
「フォームアップ!」
 ロディのジェットパックから、牽引ビームが放たれ、8人はカプセルの立ち並ぶなかを、樹木状になっている高さまで浮き上がった。
 ハンマーは逸れて、バリケードをクラッシュするように、ガラスを叩き割る。
「マーシャルさん、ありがとうです。危なかったのですよ」
 真理は空中で片膝を抱えて、全裸の要所を隠す。
「いや、こんくらいは……むむ、様子がおかしいぞ」
 オールスペックたちは、超鋼材のペンチで挟み、ドリルの突貫にはインパクトがある。しかし、それらは射程が短いようだ。
 飛行中の位置取りまで、届いてはこない。
 ロディは、アームドフォートのミサイルポッドから焼夷弾をばら撒いた。上がった火の手に、機械椀は大わらわだ。
「ヘリオンデバイスの前では、やつらの研究も時代遅れか。みんな、遠慮すんな」
 ケルベロスたちは、上から一方的に攻撃を加える。カプセルの中にいる未完成体を葬るのと同じだ。翼は、催眠魔眼で凝視した。
「あれ」
 よく見ると、5体ほどの回転ノコギリが勢いを増している。そのまま腕から外れて飛んできた。
「いやーん。助けてー」
 翼のフィルムスーツもスラッシュされる。
「盾役は私たちです!」
 ライドキャリバーのプライド・ワンと連携した真理が、飛来する回転ノコギリとのあいだに割り込んだ。
 全裸にされた翼は、ビョーンと牽引ビームが縮んだのをいいことに、恋人へと身体を押しつける。
「ロディくんが、引っ張ったんだよ?」
「おいおい」
 回転ノコギリは、瑠奈のニンジャスーツにも群がる。四肢の網タイツを破ると、胸元に集中した。
「ダメよ。潜入活動なんだから、ニンジャのスタイルでいさせて!」
 意識してピッチリさが過ぎたようだ。
 パンとはじけると、褐色の肌とスタイルの良さが露呈する。
 けれども、オールスペックたちは翼の催眠魔眼が効いてきて、ペンチでハンマーを挟みあい、ドリルとチェーンソーで削りあった。
 同士討ちを見下ろしてシフカは、まさにグラビティのスペックが全て(オール)、服破りだったと、呆れる。
 残った一体に、螺旋忍法『鎖縛斬頭狩(デザート・ヘッド・ハンティング)』でトドメを刺す。
 鎖に巻かれて、地獄門のかなたへ飲み込まれていった。
 ケイトは、未稼働個体の保管場所、右のシャッターを開けた。軍服は、ノコギリ裂きにあっていたので、見つけて拾った紙テープを身体に巻いて、肌を隠している。
「食い込むし、不規則な穴が空いてるけど……。昔の記録媒体の穿孔テープじゃないよね?」
 念のため、その穴の上からフローレスフラワーズの花びらを貼っておく。
「皆さん、脱出するための体力も温存しておかなければいけないのを、忘れないでくださいね?」
 ラインハルトが叫ぶ。
 実際、前のめりな編成にしてきたので、メディックがいない。
 保管庫には、オールスペックのベッドが並んでいたが、まだ満足に動けない未稼働屍隷兵で間違いなかった。
 腕の本数や体格にバラつきはあるものの、元になった生体には共通して、若い女性が使われている。
 仲間たちが我が身も顧みないでグラビティを振るう気持ちが、ラインハルトにも分かっていた。
「こんな施設は、完全に破壊しないと安心できませんね!」
 己の血と魔力からつくった『鮮血剣・烈火(センケツケン・レッカ)』。
 屍へと貫きとおす。
 八景島への突入からも、いくばくかの時間がたっていた。
 エメラルドは、『グラディウス』を歌い、戦いに赴くべく準備されていた屍隷兵らに、はなから戦いの虚しさを伝える。
 目覚める前から永遠に眠らせ、出陣の運命を塞いだ。
 熱唱の中途で、マインドウィスパーにコールが入る。
「了解だ。エメラルド班、撤収する」
 連絡してきた他班によれば、まもなく島が爆発するという。
 メンバー間にもすばやく伝達され、再びバラバラになった死骸をいくつも後にして、ケルベロスたちは、保管庫を去った。

●脱出
「すたこらさっさー」
 翼の靴は、チェイスアート・デバイス。みんなのデバイスにも連動し、整備ロボットも踏んづけながら通路を逃げる。半分ほどが全裸で。
 プライド・ワンは、真理に引っ張られるようにして走っていた。
 施設内で敵が混乱していようと、関係ない。監視ブロックにまで戻り、地上に出ると共に、ロディとラインハルトは出力全開でジェットパック・デバイスを展開した。
「瑠奈さんは、僕が背負います!」
「ええ?! ラインハルト君、ちょっと……」
 確かに、メンバー中でもダメージが大きい。しかしながら、損傷を受けた服のままで運ばれるというのは。
 普段は小悪魔的に振る舞っていても、急にされたら気恥ずかしいものだ。
 一行は、高度50mのギリギリ。島から離れた。
 直後に、爆風に煽られる。
「ふう。間に合ったようだな」
 エメラルドの呼吸の荒さに、ビキニアーマーの胸が上下している。
 爆発の中から見えたのは、連絡をくれた班も無事に脱出した姿だ。
「やれるだけのことはやりました」
 火の粉をかぶり、ちょっと煤けた黒服で、シフカが呟く。
 解けかけた紙テープをなびかせ、ケイトも頷いた。
「ええ。どこかの班が、ジュモーの手掛かりを得ていることに期待しようよ」
 8人は、帰還の途につく。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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