アルセイデスvs死翼騎士団~刻待たずして

作者:質種剰


 磨羯宮ブレイザブリクが鎮座する東京焦土地帯にて。
「はあっ、はあっ……」
 エマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314)は、今しもその奥地から帰還しようと急いでいた。
「急がないと……早く伝えないと、『奴ら』が……!」
 日頃の明るさはどこへやら、ゴーグルの奥の顔は引き攣り、脳裏からはついさっき見た光景が焼きついて離れない。
 奴らは、あのエインヘリアルの大軍勢は、確かに磨羯宮へ向かっていたから。
 その異形の二本腕を生やした星霊甲冑と光る花弁の仮面を着けた連中は、今まで戦ってきた、どの王子の配下でもないと判る。
(「この腕つきの甲冑、まさか攻性植物? 一体何者なんだろう……」)
 エマが急ぐのは、新勢力の危急を報せるためだけではない。エインヘリアルの進軍だけではない。彼女自身、今現在エインヘリアルから追われているのだ。
「このままじゃブレイザブリクが……お願い、間に合って……!」
 自分では到底届かないと、諦めかけていた祈り。
(「……?」)
 不意に後方から迫りくる靴音が止んで、恐る恐る顔を上げるエマ。
「死翼騎士団……助かった!」
 前方に見える集団は、敵の筈なのに彼女へ深い安堵をもたらした。
 団長シヴェル・ゲーデンが率いる、死翼騎士団。
 デウスエクスでありながらも、時にケルベロスと共闘する関係の一団だったから。


「この星霊甲冑……アルセイデスに間違いないな」
 水中戦闘用ゴーグルⅡ型が捉えていた映像とシヴェルたち死翼騎士団の知識が合わさってエマに新たな情報を与える。
「アルセイデス?」
「アスガルドを裏切り、攻性植物に与した反乱勢力で構成されるエインヘリアルの氏族だ。本国から排除された後、アスガルドとユグドラシルの国境にある戦線では、目覚ましい活躍を見せていると聞く」
 シヴェルに続いて、知将、勇将、猛将も口を開いた。
「ふむん。アスガルド本国の状況が伺えるようで、たいへん興味深いですな」
「エインヘリアルはゲートを失ったユグドラシルを制圧しつつある。此度の派兵は磨羯宮の奪還を見据えての前哨戦……という事か」
「断言は出来かねますが、可能性は高いかと」
 思案する知将と勇将に比べて、拳を突き上げる猛将は簡単だった。
「つまり敵ってわけだな。なら話は簡単だ、叩き潰すだけよ! なぁ団長!?」
「まあ待て猛将。……知将、勇将、敵の力量をどう見る?」
「総合戦力では騎士団が上でしょう。奴らは本国にとって単なる捨て駒ゆえ。ただ……」
「うむ。指揮官まで討つとなれば、一筋縄では行くまいな……」
 団長と三将が話す傍ら、エマも考えを休めなかった。
(「彼らの話、ちゃんと皆に伝えなくちゃ」)
 この戦いで、死翼騎士団はどう動くんだろう。
 ――彼らはデウスエクス。過度の信頼を置くのは危険だけど……。
「ヴァルキュリアの少女よ、状況は理解した。この戦い、我等も協力しよう」
「本当に?」
「無論だ。今お前達に味方する事は、我々にとっても利となる。……詳しい事はこの書簡に纏めておいた、後で目を通しておけ」
「分かった。その言葉、信じるよ」
 書簡を受け取って、いよいよ陣幕を辞するエマ。
「気をつけろ。アルセイデスに勝利しても、恐らくは時間稼ぎにしかならん」
 団長シヴェルの言葉がエマの耳を打った。
「死者の泉への門。それを繋げることに、全力を尽くしてほしい」
「……うん。それも伝える」


「エマ・ブラン殿が、東京焦土地帯の奥側にてエインヘリアルが磨羯宮奪還のための軍備を進めていることを、察知してくださったであります」
 と、集まったケルベロスたちへ説明するのは小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)。
「この情報は死神の死翼騎士団も掴んでいたらしくてですね、死翼騎士団と協力してこの前衛部隊を撃破する作戦を行うことになりました♪」
 死翼騎士団からの情報によれば、エインヘリアルの軍団は『アルセイデス』というエインヘリアル氏族で構成されているようだ。
「アルセイデスとはアスガルド内の反乱勢力で、エインヘリアルをも裏切ってはユグドラシルに与し、ユグドラシルとアスガルドの国境の戦いで活躍してたようでありますよ」
 そんなアルセイデスがエインヘリアル軍の前衛として駆り出されたということは、エインヘリアルによるユグドラシル制圧が順調に進んでいる証左かもしれません——とかけらは推測した。
「さて、今回のアルセイデス軍との戦いは、主力を死翼騎士団が務めてくれるであります」
 死翼騎士団の団長シヴェル・ゲーデンからは、
「『エインヘリアルの侵攻準備が整いつつある』『アルセイデスを撃破しても、多少の時間稼ぎにしかならないだろう』『ケルベロスは、死者の泉への門を繋げることに全力を尽くしてほしい』……と、役割分担について言付かっているであります」
 その上で、『主力は死翼騎士団が対応するが、指揮官などの強敵に対してはケルベロスの精鋭部隊の方が対処力も上回るので、少数で良いから強敵相手の決戦部隊として同行してもらえないか』という打診をされている。
「そんなわけで、ケルベロス側は死翼騎士団長と3武将がそれぞれ率いる4軍団に1部隊ずつ同行して、アルセイデスの4指揮官との決戦に挑むでありますよ」
 エインヘリアル側は、もはや『裏切り者の捨て駒としてしか』アルセイデスを見ていないので、戦力的には死翼騎士団が有利である。
「皆さんの部隊が合流するのは、死翼騎士団は『勇将』の軍勢でありますね」
 精鋭と期待されているケルベロスが敵指揮官を討ち取れば、最小限の被害でアルセイデス軍を撃退できるだろう。
「ユグドラシルに与する分派とはいえ、エインヘリアルが動き出した……死者の泉の門の攻略も急がなければなりませんし、やることいっぱいでありますが、どうぞよろしくお願いしますね!」
 かけらは説明を締めくくりがてら、彼女なりに皆を激励したのだった。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)

■リプレイ


 東京焦土地帯。
 8人は、桜の指揮官率いるアルセイデスの一軍勢へ攻め込むべく、まずは死翼騎士団の勇将の部隊と合流した。
「大きな戦場には総じて頭を置くもの。其処を叩けば勢いも削げると解き、やはり定石を打つのが悦ばしい」
 ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)は相変わらず難解極まりない物言いながら、戦の常套手段たるシンプルな作戦に賛同を示す。
「兎角――私と称される胎内が在るのだ。早々に歓喜して身を投げるが好い――HAHAHA」
 何せ死翼騎士団と共闘までする大規模な作戦である。ユグゴトがやる気充分なのは非常に喜ばしいが、その反面、彼女独特の胎内回帰願望も垣間見えて何とも言えない気分になる。
 もっとも、デウスエクスは彼女にとって抱擁や捕食も含めたお仕置きする対象らしいので、頼もしいに違いはない。
「お久しぶりです。勇将のおじさま!」
 愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)は、勇将の姿を認めるなりぴゅーっと勢いよく飛んでいって、そのまま抱きつきそうだった。
 ぴたっ。
 それでもミライとて遠慮があったのか寸前で静止、勇将が殆ど反射的に振り下ろした青龍偃月刀は空を切り、鈍い音を立てることもない。
「猛将が増えたようで鬱陶しい」
 刃を向けておきながらも、勇将の声に険はなかった。
「先日はなんせ心配おかけしましたも、の! ……顔よりも、今度は歌で覚えて欲しい、なんて」
 ミライとて勇将の迎撃などどこ吹く風で、素直に話しかけている。
「顔など武勲を立てれば自ずと売れる。名を轟かせたくば他の……今はアルセイデスの首を多く獲れ」
 勇将の返事はあくまでもデウスエクス——殊に死神の将軍らしい答えだ。
「彼女が、前に仲間のお尋ねした白い髪の……おかげで無事に見つかったのですよ。本当に、本当に、ありがとうございました」
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)はミライの後ろから、襟を正し丁寧に——それでも親友と共に来られた嬉しさを隠しきれない様子で報告する。
「知らんと言って感謝されるのも妙な気分だ」
 勇将は怪訝そうな顔をしたが、それらの会話を覚えていただけでもフローネには嬉しかった。
「私はとても愉快な気分です」
 事実、ミライが斬られそうになった時は一瞬肝を冷やしたが、続く勇将の言葉で、フローネはおおよそを察していた。
 勇将を兄貴と慕う猛将は、互いの戦の腕を確かめるかのごとく、時に不意打ちを仕掛けていたのかもしれない、と。
「久しぶりだね。瑠璃将の時はありがとう、なんだよ」
 七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)は、にこやかに勇将へ声をかける。
 元より穏やかで笑顔の親しみやすい瑪璃瑠だが、勇将には以前フローネが差し出した饅頭やらを食べてくれた事への感謝の念も相まって、殊更和やかに話せるようだ。
(「互いに』利害一致の共闘だと理性的に捉えてる点は信頼できるしね」)
 そう満ち足りた様子の彼女を勇将は一瞥して、
「あの時の斥候か。よくやった」
 こちらもどこか満足そうな声音で言った。
「お久しぶりです勇将殿。また共闘できるとは光栄ですな」
 そう紳士的に語りかけるのは据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)。
「貴様か。貴様は覚えた。色と形に特徴がある」
 勇将は抑揚のない声で真面目に応じた。もしかすると、瑪璃瑠とミライの区別がつかないことが内心悔しかったものか。
「貴様も判る。猛将並みに喧しい。その喧しさなら敵も堪えよう」
 と、視線を移した先にはシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)。
 甚だ失礼な発言ではあるものの、最初の交渉時にギターを鳴らして歌うように喋っていたシィカの努力の成果とも言えよう。
「光栄デース!」
 シィカも屈託のない笑顔で、勇将の期待(?)通りに、バイオレンスギターをじゃらーんと掻き鳴らしてみせた。
(「どうせ一緒に戦うなら、お互い全力でセッションするのがロックデス!」)
 そんな気概に満ちたシィカの思いは仲間たちも同じで、あえて死翼騎士団側の戦力を消耗させるという選択肢には、機内で相談していた時から誰も興味を示さなかった。
(「この後来るであろう本隊との戦いだって、協力する可能性あるかもしれないデスしね!」)
 と、元気いっぱいにはしゃぐ傍ら、しっかり先々のことまで考えているシィカだ。
「私は初めましてだね。羽丘結衣菜よ。こっちはまんごうちゃん、よろしく勇将さん」
 羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)もまた、人懐っこい笑みを浮かべて挨拶する。
 胸の前へ両手で抱えあげられたまんごうちゃんも、ぺこりと無邪気にお辞儀した。
(「なんだかんだで奇妙な縁になっているけど、今は味方なんだし、あまり変なことはしないでおきましょう」)
 勇将の部隊との共闘を、そんなふうに割り切って納得している結衣菜。
(「まずは目の前の相手に勝つことが優先よ」)
 一方。
「初めまして、ワタシはマヒナ・マオリ。よろしくね」
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は、今まで協力態勢に漕ぎつけてきたミライや仲間の努力を決して無駄にはすまいと、いささか緊張気味に挨拶した。
(「一時的に手を組んでるに過ぎない……とはいっても、こうやってデウスエクスと肩を並べて戦えるって胸が熱くなるなぁ」)
 その反面、死神という思わぬ同盟相手と共闘できるまたとない機会に、胸を躍らせてもいる。
「こっちはアロアロ……ちょっと臆病だけど、やる時はやる子だから!」
 と、やる気と緊張がない混ぜになっているマヒナに力強く紹介されるも、元より内気なアロアロは完全にビビッてしまっていた。
「シヴェル麾下の勇将だ」
 勇将も結衣菜とマヒナへ短く応じた。
 そして話題はケルベロスから勇将たちへの作戦提案に移る。
「アルセイデス軍の動きは私たちが把握できます。まずは指揮官のところまで、兵の薄いルートを見繕って、共に進軍しましょう」
「指揮官の位置の見当も、敵が密集しているところを探してこちらでつけましょうぞ」
 フローネと赤煙が、ゴッドサイト・デバイスの存在をぼかしつつ、代わる代わる説明する。
 半径1km以内にいる『全ての敵味方』の位置をおおまかに把握できるゴッドサイト・デバイスならば桜の指揮官の居場所など知れたも同然なのだが、それはそれでこちらの手の内を勇将に明かしてしまうことになる。
 だから、2人とも確かな自信を滲ませつつも、不必要に言葉を紡ぐのを避けた。
「よかろう」
 勇将の返答は拍子抜けするほど簡単だった。手の内を見せずに策を練り勝ちを引き寄せる知将の策謀を間近で見ているために、慣れていたらしい。
 それでも指揮官の位置を兵も何も放たずに把握するという離れ業には疑問が残ったようだが。
「エインヘリアルに要塞が、死神にサルベージがあるように、我々にもグラビティ以外の武器があるという事です」
 その赤煙の説明で納得してくれた。
 後はミライが、もし死翼騎士団がコギトエルゴスム化したら回収を手伝いたいと申し出た。
「下手にアルセイデス軍に拾われたりしたら、攻性植物で何かされたりしないか心配なんだよ!」
 瑪璃瑠も言葉を添える。
「此方でも拾い集めるだろうが、まあ、勝手にしろ。止めはせん」
 しかし、アルセイデス軍への降伏勧告の協力については、
「しくじると判りきった策に力を貸す道理はない」


 共同作戦が始まった。
「最大限活用せねば宝の持ち腐れか」
 まずはユグゴトたちスナイパーが、ゴットサイト・デバイスを最大限活用して、敵兵の密集している場所を探す。
「4時の方向デスね!」
 シィカはスピーカーや楽器が付随したゴーグルで戦場を見渡すと、程なくして断言。
「おじさま、桜の指揮官の位置までご案内します、ね!」
 班内唯一のクラッシャーでジェットパック・デバイスを装着したミライが、死翼騎士団の面々へ空中から声を投げる。
 ヘリオンデバイスなしでも元々飛べるオラトリオの彼女だけに、デバイスの存在を隠すのにうってつけだ。
「敵襲!」
「ブレイザブリク制圧の邪魔はさせるな!」
 桜の指揮官を守るアルセイデス一般兵たちは、いくら方々へ散っているとはいえそこそこの人数で、ケルベロスや死翼騎士団の姿を見るなり応戦してきた。
 それでも、ユグドラシル戦線の兵が駆けつけるより早くケルベロスたちは次々と兵を薙ぎ倒し、桜の指揮官へ近づいていく。
「抱く私は此処だ。存在を晒し給え」
 ユグゴトは醜悪なる母体の偶像を高々と掲げて、星座の輝きを放つ。
 眩い光がアルセイデス一般兵たちを包み込み、高熱で一気に焼き払った。
 ミミックのエイクリィも主の意思に忠実に、一般兵の足へガブリと喰らいついて離さない。
「紫水晶の盾、参ります!」
 アメジスト・ピラーを構えて、星の輝き宿りし魔力の柱を顕現させるのはフローネ。
 紫水晶の六角柱に似た柱が淡い光を振り撒いて、前衛陣に加護を齎した。
「この場所でミライさんと勇将さんと共闘できる。嬉しいことだよ」
 瑪璃瑠はにこにこ笑顔で呟くと、零夢現・月光華からオーラを放出。
 吸い込まれるように飛ぶオーラの弾丸が牙を剥き、一般兵の頭に囓りついた。
(「アルセイデス達はどんな理由があってここにいるのか……」)
 ミライも宙に浮いたまま、星霊甲冑を着た一般兵たちに狙いを定める。
「だけど、譲れないものがあるのなら。……あるから」
 九尾扇の羽を多節鞭のように長く伸ばして、兵たちをひと息に薙ぎ払わんと打ち据えた。
「頼りになるフローネさんが居てくれる」
 結衣菜は自らに言い聞かせると、エクトプラズムを練り上げて疑似肉体を作成。
「きっと勝てるはずよ」
 祈りを込めてそれらを前衛陣に装着させ、彼らの異常耐性を高めた。
 そして威勢よくアルセイデス一般兵へ肉薄するのはまんごうちゃん。
 『原始の炎』を召喚して、一般兵に相当な大火傷を負わせた。
「それではケルベロスライブ、スタートデース! ロックンロール!!」
 いつもの景気づけか、高らかにギターを奏でるのはシィカ。
 その傍ら、リズムに合わせてドラゴニックハンマーを思い切り振り下ろして、竜砲弾を一般兵の膝へぶち当てた。
「頑張ろう、ね」
 マヒナはHoku loaを握り締めて祈りを捧げる。
 周辺に使われている鉄骨とうまく同調して精神を安定させ、エクトプラズムの具現化力を高めた。
 アロアロは未だにガクガクと震えつつも、勇気を出して一般兵へ向かっていく。
 非物質化した爪による引っ掻きが、一般兵の霊魂へ確かな打撃を与えた。
「気脈の流れはグラビティチェインの流れ……」
 精神集中して鍼の形に凝縮させたオーラを飛ばすのは赤結。
 光の鍼は一般兵の秘孔に直撃、武器を取り落とすほどの痛みと衝撃を見舞った。


 アルセイデス一般兵を全員仕留める必要はなく、ただ指揮官を狙うべく護衛を蹴散らして突破するだけで良いのは楽だった。
「弱い者ほど群れたがるというけれど、妙な組み合わせの連合軍ね?」
 そして、ケルベロスたちが桜の指揮官と相見えたタイミングで、勇将率いる死翼騎士団の部隊は、指揮官への増援を防ぐために戦場の包囲を進めた。
「いかがです? 本隊の情報を渡して降伏してくださるなら、私たちもコギトエルゴスム化だけで済ませてあげる用意はありますよ!」
 そのための妙な組み合わせです——簡潔に降伏勧告を突きつけるのはミライ。
 しかし、本国からも捨て駒扱いで進退窮まったアルセイデス軍に対してただ命を助けてやるというだけでは、何のメリットにもならない。
 また、それ以上のメリットの提案や証明もできなかったので、交渉は決裂した。
「寝言は寝てから仰いな」
 桜の指揮官の携えていた薔薇の槌が、唸りを上げて振り下ろされる。
 咄嗟に両腕を顔の上に組んで、頭を庇う赤煙。
 だが、赤煙の腕に痛みは訪れず、ただ眼前に眩い白が広がるだけだった。
 白銀の巨大バックパックアーム——フローネのヘリオンデバイスである。
「防ぎ切ります!」
 薔薇の槌は、フローネの構えた、紫水晶のごとき輝きの盾に受け止められていた。
「瑠璃と瑪瑙も紫水晶と共に!」
 それでも肩代わりしたダメージは少なくなく、すかさず瑪璃瑠が自分とフローネと大自然を霊的に接続。
 大いなる力によってフローネの傷を治癒した。
「かたじけない」
 赤煙は短くお礼を言うや、
「攻性植物寄りの勢力だけに、執拗なことで。皆さん油断なさいますな」
 お返しとばかりに、理力を籠めた星型のオーラを桜の指揮官へ向かって蹴りつけた。
「殺せ。殺せ。殺して終え」
 桜の指揮官へ飛びかかっていくのはユグゴトだ。
「奴が我等を滅ぼすものだ。殺される前に殺して終え」
 さわさわと繁みを揺らす風のように、風と共に林の乙女が言葉を投げて、桜の指揮官の精神を蹂躙した。
 エイクリィも変わらぬ気勢で桜の指揮官へ噛みつき、鋭い歯を立てている。
「アメジストの光からは逃れられません……! アメジスト・リフレクター・シュート!!」
 フローネは自律稼動型アメジスト・ドローンに小型アメジスト・ビーム・シールドを展開させる。
 盾たちが指揮官の周囲へリフレクターのように散ったところでアメジスト・バスター・ビームを命中させて、狙い通りに乱反射を起こした。
「今日の歌は優しい歌ではないけれど——」
 パラディオンたる声量を活かして、重力の鎖に縛られた少女の歌を歌い上げるのはミライ。
 じっとりと湿り気を帯びた重苦しい歌詞が、桜の指揮官を文字通りに束縛せしめた。
「ミライさんだって居る。なら、怖くない」
 結衣菜は仲間の力強い一撃に安心しながら、自分も大量のエクトプラズムを懸命に圧縮。
「いっけぇ~っ!」
 完成した大きな霊弾を両手で抱えると、桜の指揮官目掛けて力一杯投げつけた。
 まんごうちゃんも結衣菜と息を合わせて、指揮官に神霊撃を喰らわせている。
「ナル、力を貸して」
 脳裡に故郷の砂浜を思い描いて、いたずらな波を召喚するのはマヒナ。
 まるで意思を持つかのように自由自在に動くさざ波が足元に纏わりついて、桜の指揮官の動きを阻んだ。
 アロアロも原初の炎を撃ち出し、桜の指揮官の白く分厚い星霊甲冑を燃やそうと必死だ。
「イェイェイェェェイ!」
 シィカは自らを鼓舞してか怪気炎を発し、エアシューズを履いた足で滑走。
 ローラーダッシュの摩擦で生じた炎を武器に、激しい蹴りをぶちかました。
「私を殺したと……で、菫やき……には叶うま……」
 それが桜の指揮官の最期の言葉だった。
「死翼騎士団とも、もう半年になりますか……お互い後背を突かれたくはないものですな」
 赤煙がしみじみ呟けば、勇将は珍しく髭の奥の口元を弛めて、
「貴様らの指揮のおかげで愉しく戦えた。また、共闘したいものだ」
 いかにも武人らしい本音を洩らした。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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