命と冥のゲートウェイ

作者:坂本ピエロギ

 世界は静まり返っていた。
 双魚宮へ繋がる転移門、エインヘリアルさえ存在を知らない異空間。
 この場所には、侵入を拒む『人ならざるもの』の意志が、隅々にまで満ちている。
『…………』
 固く閉ざされた門前では、剣を提げる黒騎士が彫像めいて立っていた。
 外見はエインヘリアルと変わらない。ただ一つ異なるのは、その存在がデウスエクス――いや、生命体ですらない『死をもたらす現象』である事だ。
『……殺……殺殺殺……殺殺殺殺……』
 その現象は生命を奪う。すべてを吹き飛ばす嵐のように。
 その存在は抹殺のみを行う。一切合切をのみこむ雪崩のように。
 その名は『門』――アスガルド神に封印されし防御機構、その端末である。

「アルセイデスの撃退、お疲れ様でした。ですが情勢はいまだに予断を許しません。敵本軍の到達前には死者の泉への道を拓きたいところですが……防御機構の化身である『門』は、現在もそれを阻んでいる状況です」
 ムッカ・フェローチェは、ヘリポートのケルベロス達を見回してそう告げた。
 エインヘリアル勢力における生命線、『死者の泉』。磨羯宮の隠し領域で発見された泉への転移門は現在、泉の防御機構に護られている。そして、これを突破する以外に泉に向かう手段は存在しないとムッカは告げた。
「引き続き、皆さんには『門』の撃破をお願いします。『門』は通常のエインヘリアルとは違い死んでも復活しますが、無限に蘇る事は出来ません。撃破回数が42回に達した時点で復活は不可能になり、防御機構も破壊されるでしょう」
 『門』との戦闘は、磨羯宮と双魚宮をつなぐ魔空回廊のような空間で行われる。この場所では敵の戦闘力が数倍にまで強化されるため、たとえケルベロスでも苦戦は免れないだろうとムッカは述べた。
「今回の『門』は守備に特化した個体です。守りを固め、相対する獲物の生命力をじわじわと削る……そんな戦闘スタイルだと思って下さい。この手の相手は、通常ならば防御以外の能力は高くない事が普通ですが――」
 回廊を護る『門』の攻撃力は決して低いものではない。油断すれば泣きを見るだろう。
 半面、回避の力は強化された状態でも低いため、命中確保については心配ないとムッカは付け加えた。恐らくはこの戦いが『火力』と『護り』のせめぎ合いになるはずだ、とも。
「この依頼ではヘリオンデバイスが使用可能です。及ばずながら私もサポートしますので、どうか全力を尽くして『門』を撃破して下さい」
 勝つのはケルベロスの火力か。あるいは『門』の護りだろうか。
 答えを知る者はいない。少なくとも、今はまだ。
 そしてムッカは番犬達の勝利があるよう祈りを込めて、コマンドワードを唱える。
「ゴッドスピード、ケルベロス。――どうか確実な遂行を!」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ

●一
 景色がゆらぎ、世界が一面の虹色へと切り替わる。
 磨羯宮ブレイザブリクの隠し通路の内部、泉の転移門に繋がる異空間。そこに辿り着いたケルベロスを迎えたのは、番人たる黒騎士の殺気だった。
『殺。殺殺。殺殺殺殺――』
「また会ったね。……さて、面倒な話は抜きだ」
 大剣を構える『門』めがけ、源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)が先陣を切った。
 挨拶と同時に、超鋼金の竜鎚を砲撃形態に変形。ジェットパック・デバイスで後衛を飛行しながら、眼下の黒騎士を射程に収める。
「早速で悪いけど、撃破させてもらうよ!」
 愛用の『機龍鎚アイゼンドラッヘ』が唸り、砲弾発射。
 異空間の空気を揺さぶる轟竜砲の衝撃が、戦闘開始の合図となった。
『殺殺……殺殺殺殺……』
 嵐のごとき猛弾幕に足を止めながらも、『門』が動じる様子はない。
 アタッカーである瑠璃の攻撃を正面から防ぐ姿は、まさに鉄壁そのものだ。そんな敵の姿を上空から見下ろしながら、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)はその守りに舌を巻いた。
「……これハ、生半可な防御ではありませんネ」
「ええ。俺達も全力で行きますよ!」
 隣で北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が頷きを返し、隊列の仲間達を見渡した。
 この戦いにおける後衛は全6名。そのうち5名をクラッシャーに据える形でケルベロスは戦いに臨んでいる。防御に優れる『門』を叩き潰すための、超攻撃的陣形であった。
「さて。あの『門』を、死者の泉への道程の礎にしてやりましょうか!」
「まずは回避の完封からですネ。――参りまショウ」
 同時、計都とエトヴァは息を合わせ、飛んだ。白銀と漆黒の機翼が異空間を舞い、地上の『門』めがけ一直線に急降下していく。
「貴方とは二度目の対峙になりますネ……憶えてはおられないでショウカ」
 無反応を貫く『門』に、エトヴァはそっと目を伏せた。
 意思的な無視でない事は明らかだった。もうあの騎士には意思などないのだ。できる事はただひとつ――速やかなる撃破、それしかない。
 白銀の翼から伝わる推力をエアシューズに集中。オーラを纏って放つスターゲイザーは、青空色の流星となって『門』の脚部を蹴り砕く。そこへ間を置かず続くのは、漆黒の機翼を広げて迫る計都だ。
「そこで止まって貰おう! こがらす丸、デットヒートドライブだ!」
 展開した機械装甲に身を包み、青い炎の噴き出すデバイスを背負って飛行する彼の姿は、レプリカントのそれを彷彿とさせる。速く、重く、威力に満ちた蹴りが立て続けに命中し、『門』の回避を封じた。
 序盤からの息もつかせぬ猛攻。だが『門』は不動のまま、黒き大剣を振り被る。
 そして、計都のライドキャリバーが黒騎士に炎上の突撃を浴びせた刹那。大剣から迸る闇の波濤がケルベロスの後衛を襲う。
(「――させるか!」)
 射線に割り込んだ玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は、即座に波濤を防ぎきると同時、『キジムナーの悪戯』で前衛を包み込んだ。
「さ、出番だ。ちょっとだけ手伝ってくれよ」
 陣内の声に応じるように、可愛い妖精が群れを成して現れた。
 そうして小さな赤髪の妖精達は前衛の仲間達の肩にふわりと舞い降りると、妨害力上昇の祝福をもたらしていく。『門』は更に追撃を試みるも、ウイングキャット『猫』の投擲するキャットリングが、すかさずそれを妨害した。
(「よし。妖精はうまく行き渡ったな」)
 傷を塞ぐ妖精をそっと撫でる陣内。その背後では彼が庇った山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)がレスキュードローン・デバイスの力を漲らせ、百戦百識陣の陣形で前衛の傷を塞いでいく。
「ありがと陣内さん。どんどん回復していくよ!」
「援護は任せろ、敵の守りを打ち砕く!」
 ことほのヒールと同時、攻勢に転じたのは相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)だ。
 泰地が中衛から発動するのは、『アーマーブレイク』の一撃。精神集中がもたらす爆発が黒騎士を捉え、頑丈な鎧を派手に吹き飛ばす。ひとたび守りを損じてしまえば、それを癒す術を『門』は持たない。
「どんどん攻めろ! 息つく間もなく攻めろ!」
「はい。今日もよろしく、泰地様」
 泰地と息を合わせ、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)が飛ぶ。尻尾と巨大な蝙蝠羽根のデバイスを装着し、両手にはカラフルな塗料入りのバケツを提げながら。
「逃がしませんわ。……ええいっ!」
『殺殺……殺……』
 ルーシィドのぶちまけたペイントラッシュが『門』の鎧を染め上げる。
 一撃。二撃。仲間への信頼を胸に、猛烈な追撃を浴びせ続けるルーシィド。ペンキの色が異空間を派手な虹色で彩る中、メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)は更なる攻撃を加えるべくデバイスで宙を加速する。
 タキシードにシルクハット――マジシャンスタイルの彼女が自ら駆るジェットパックは、鳩モチーフにも見える流線形のデザイン。しかし繰り出す攻撃は猛禽のそれだ。
「ふふっ。中々いいね、これは趣があるよ」
 スカーフが翻り、顕現した御業の業炎が『門』の体を紅蓮に染めた。
 クラッシャー5名の猛攻に、未だ有効打の気配はない。しかし、その攻撃が決して無為ではない事をメロゥ達は知っている。ダメージを積み重ね、状態異常を蓄積させ、敵の守りが決壊する時はいつか必ず来ると。
「さあ。今日も楽しいショーの始まりだ」
 勝利の好機を掴むため。その刹那を逃さぬように。
 確かな連携を取り合いながら、ケルベロスは戦闘を続行していった。

●二
 攻防の応酬が、轟音と光を伴って異空間を満たす。
 回廊の地形が歪みそうな猛攻を浴びながらも、『門』はいまだ不動の姿勢を保っている。どこまでも淡々と繰り出す波濤とルーン、それらをケルベロスは盾役のガードと回復を織り交ぜて凌いでいく。
『殺殺殺……』
「もー。本当さぁ、しぶといのっ!」
 軽い口調とは裏腹に、ことほの心には苦いものがあった。戦い自体は嫌いではない。だが他者を傀儡に変える防御機構と、それに操られる黒騎士との戦いには、楽しさよりも嫌悪や哀れみが勝ってしまう。
「藍ちゃん、レッツゴー!」
 『門』が攻撃の間隙を縫うように、光の障壁で傷を癒した。
 同時、ことほは祝福の矢でルーシィドを癒すと、ライドキャリバーの藍に攻撃を命じた。百戦百識陣に導かれた突撃が炎を帯びて命中し『門』のバリアを軋ませる。しかし運悪く、紙一重でブレイクには至らない。
 それを繋いだのはルーシィドが紡ぎ出す、魔女の呪いの言葉だ。
「わたくしの中で眠るもの。夢から覚めるにはまだ遠く――」
 『眠りを守る死の茨』――実体化した言の葉が茨に姿を変えて、黒い鎧のそこかしこから溢れ出す。茨の棘は死の呪い。破剣を帯びた追撃の棘が『門』の全身を捉え、その身に深い傷を刻み込んだ。
「呼び声に応えて蠢くのは、すべてを覆う茨の垣。命を奪う、死の茨」
 茨の棘はバリアを絡め捕り、跡形もなく破壊した。
 守備が破れた刹那を狙い定め、すぐさま瑠璃は急襲をかける。
「貰った!」
 振り下ろすのは、重圧をもたらすマインドソード。剥がれた鎧の隙間に光剣をねじ込み、瑠璃が黒騎士を内側から引き裂いていく。
 並のデウスエクスなら消し飛んでもおかしくないダメージを負いながら、しかし『門』は倒れない。既に自我を無くし、もはや痛みを感じる心もないのだろうか。エトヴァはその姿に一抹の哀しみを覚えながら、漣ノ戦鎚を振り被る。
 幸い『門』の回復力は高くない。ここは火力をもって叩き潰すのみだ。
「貴方は俺達が破壊しマス――必ず」
 白銀の翼を背に、エトヴァが飛ぶ。
 デバイスの加速と共に叩き込むは、進化の可能性を閉ざす一撃。漆黒の鎧に霜が降り、『門』の体が氷に覆われた。
「さあさあ、お次は不思議な奇術をご覧に入れるよ」
 悠々と空を駆けるメロゥのスカーフからは、あらゆる物が飛び出てきた。
 時には火炎を放つ御業。時には氷騎兵を誘う道化の手札。そして、今まさに顔を覗かせたのは一本のステッキ型ライフル銃である。
「バスタービーム、発射!」
『殺殺……殺殺殺……殺殺殺殺殺殺……』
 光線のクリーンヒットを浴びた『門』が、黒い飛沫をまき散らす。
 その足取りに乱れはなく、剣筋も未だ健在のままだ。しかし、バリアによる回復が次第に数を増しているのを、陣内の観察眼は見逃さなかった。
(「効いているな。いい感じだ」)
 もう少しだ。もう少しで、あの『門』を防戦に追い込める――。
 陣内は爆破スイッチに手をかけた。幾度も戦った相手だからこそ、けして油断はしない。戦いは慣れた頃が最も危険である事を知っているからだ。
「行け!」
 ブレイブマインの爆発が後衛を派手に彩った。
 祈る気持ちで視線を向ける陣内。6名を数える人数ゆえ、付与率は通常に比べて薄い。
 と、そこへ上空からサムズアップを返す者がいた――計都である。
「突っ込みます。相馬さん、援護を!」
「ああ任せろ。ヤツの守り、派手に剥ぎ取ってやる!」
 泰地が虎爪刃手甲を構え、跳躍する。脛当型のチェイスアート・デバイスがもたらす力は飛躍的な命中強化をもたらし、空の霊力を帯びた刃で繰り出す泰地の絶空斬を、寸分の狂いなく命中せしめた。
『殺……殺殺……』
 鎧を剥がれ、剣の刃を砕かれる『門』。
 その身が微かに仰け反ったのは単なる反射か、あるいは刹那だけ『痛み』が戻ったか。
 否応なく仰いだ空間の天井、その先に居たのは――こがらす丸と合体した計都である。
「クラッシャーとしての経験は薄いけど、俺だっていけるはずだ!」
 カラフルな爆発で得た勇気を胸に、ライドキャリバーと合体し、上昇からの急降下。
 最大出力のエンジンで炎の翼を加速して、増幅したグラビティを残らず脚へと注ぎ込み、いま計都は全力を込めた『ストライクデッドヒート』を叩き込む。
「これが、俺の……俺達の! 精一杯だぁぁぁッ!!」
 追撃を伴う蹴撃が、雷と化して直撃。
 計都の一撃は『門』の胸甲を粉砕し、鉄壁たる守備を打ち破るのだった。

●三
 そうして更に戦うこと数分、番犬達の猛攻は『門』の守備を圧倒し始めた。
 エトヴァが振り下ろす大斧。ルーシィドのばら撒く塗料。瑠璃の蹴撃にメロゥの御業。
 足止めを重ねる『門』にクリーンヒットが立て続けに命中し、氷の浸食がじわじわとその身を蝕んでいく。
『殺。殺殺殺』
「頑張るぞ猫。もう少しだ」
 対するケルベロスも、癒えぬ傷がじわじわと重なる。特に被弾が激しいのは前衛だ。
 ことほを『門』のルーンから庇った猫を励まし、陣内は絶空斬の構えを取る。
(「そう……もう少しだ。あと一押しで『門』は崩せる」)
 服破りで剥いだ防御。壊アップによる支援。炎や氷による継続ダメージ。
 ケルベロスの講じた手段がその三つのみであれば、長期の消耗戦は必須だったろう。
 そんな『門』の頑強な守備さえも凌駕したのは――『火力』。クラッシャー5名の編隊が織り成す、有無を言わせぬ圧倒的な攻撃力だった。
「このまま、一気に攻め切るぞ」
 決意を胸に、爆破スイッチを起爆。空の霊力を帯びた爆弾が『門』の鎧を吹き飛ばす。
 すかさず『門』が展開するのは、傷を癒す光のバリアだ。
「その守り、砕いちゃうからねー!」
 ことほのオウガナックルが即座にバリアをぶち破り、漆黒の肉体にめり込んだ。
 苦悶の呻きを漏らす『門』。そこへ泰地が手甲を構え、ひと跳びで間合いを詰める。
「決めさせてもらうぞ。一気にな!」
 陣内の絶空斬で吹き飛んだ鎧の隙間を狙い、手甲の爪をジグザグに変形。
 デバイスの力を込めた一撃に引き裂かれて炎上する『門』めがけ、ジェットパックを駆る5名が一斉攻撃を開始する。
 先陣を切ったのは、瑠璃だった。
「これが僕の全力だよ!! 喰らってみる?」
 太古の月が秘める力を凝縮し、光の弾に変えて射出。上空からの一撃が弧を描いて飛び、大剣を盾と為す『門』のガードを穿つ。破片をまき散らしながら剣が構えられたその瞬間、間合いを詰めた計都が機巧刀【焔】を抜き放った。
『殺殺殺殺……』
「逃がすか!」
 計都の最高火力を誇る一撃が、『門』を霊体で汚染する。
 同時、竜鎚を振りかぶったエトヴァが急襲。頭上から渾身の一撃を振り下ろした。
「最後まで油断せず、ですネ」
 進化の可能性を幾度も叩き潰され、全身を霜で覆われていく。
 泉を守る――その使命に忠実に、『門』が傷口を塞ごうとしたその瞬間であった。
「――君が悪いんだよ。僕に触れたから。触れさせたから。君が」
 メロゥの声が、ふいに禍々しさを帯びた。
 声だけではない。背には竜翼を生やし、下半身は大蛇のそれへと変貌し、ミステリアスな笑顔は、牙剥く捕食者の動作へと変じる。
「これは嫌いだ。とても嫌いだ。けれど今だけ、この一瞬だけ、好きになってあげよう」
 己の血に流れる呪いを慰撫し、メロゥは一息で『門』との距離を詰めた。
 鎧の隙間に素手を突き刺す。こじ開け、引き裂き、蹂躙する。
 そうして叩き込むのは、渦巻く呪いを込めて見舞う劇毒の一手。
 『慰撫呪術:自因自果さえ揺らめいて』――敵の命蝕む、メロゥ秘蔵の切り札である。
「だから、ほら――呪え、僕という存在を」
 癒す力を失い、原型さえ失い始めた『門』。その身体を、ルーシィドの呪いの言葉が茨となって包み込む。幾重にも絡まった茨が鋭棘と共にもたらすのは、逃れえぬ死だ。
「これでお終い……お休みなさいませ、ですわ」
『殺殺……殺…… ……』
 棺桶と化した茨の中で、呻き声がぴたりと途絶える。次第に蒸発を始める茨。それと共に黒騎士の闇は霧散し、後には何も残らない。
 ――それが、泉の番人である『門』の迎えた最期だった。

●四
 程なくして空間は静寂に包まれ、ケルベロス達は戦いの勝利をようやく実感する。
 死闘を演じた『門』は躯も残さず消滅し、欠片ひとつも残ってはいない。
「お疲れ様。今回も手強かったねー」
 離脱の準備を終えたことほは、重傷を負った仲間がいない事に安堵の吐息を漏らした。
 騎乗する藍も、大成功の戦果を称えるようにブルンと唸る。
「じゃ、帰ろっか! 長居するのは危険だしね」
「異論なク。これで丁度、折り返しに入る頃ですネ」
 短い瞑目を終えて、エトヴァは『門』となった戦士達に思いを馳せる。
 これが終わりではない。残る戦いに勝利を重ね、防御機構が破壊された時。その時こそが彼らの真に解放される時なのだ。
 一人また一人と離脱する仲間に続きながら、メロゥは閉ざされた転移門を振り返った。
「種と仕掛けと神秘と魔法、また考えておくよ。次の出会いもお楽しみにね♪」
 佇まいを整えて再戦を誓うメロゥの言葉を残して、回廊はひと時の幕間を迎える。
 残る『門』は、いまだ数多い。
 いずれ始まる戦いに備えるため、ケルベロス達は地上への帰還を果たすのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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