●狭間の中で
でたらめに絵の具をぶちまけた水の中めいた空間。
見つめ続ければ目が回ってしまいそうな、魔空回廊じみた空間の中に伸びる道を、ゆるりゆるりと歩む異形のもの。
異形の……禍々しい甲冑に身を包んだ騎士は、ずるりずるりと巨大な剣を引き摺り、あてどもなく道を彷徨う。
ふと、びゅうと騎士の横を風が吹いて――その音に反応したのか、騎士は音がした場所を切るように大剣を薙ぎ払う。
薙ぎ払ったところでそこに何かがあるはずもなく、大剣は虚しく空を切るが、
「グガァアアァア!」
騎士は狂ったように、大剣を振るい続ける。
まるでそこに敵の姿が見えているかのように、敵を完全に消滅させるまで止まらぬとでも言うかのように、大剣を振るい続ける。
暫くして、騎士は大剣を道へと叩きつけ……目の前の敵を消滅させたのだろう、再びあてどもなく彷徨い始める。
ずるりずるりと、大剣を引き摺りながら。
●防衛機構
「みんなは、死者の泉に興味ある?」
小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスたちの前に立つと話を始める。
それから、自分の話に興味を持った様子のケルベロスたちをじっと見つめて、
「みんながブレイザブリクを探索したことで、ブレイザブリクの隠し領域から死者の泉に繋がる転移門を発見できたんだよ!」
凄いねと目を輝かせた。
もし死者の泉に辿り着くことができれば、何か発見があるかもしれない。
となれば今すぐにでも、調査に向かいたいところだが……透子は少し悩むように腕を組む。
「それでね、この隠し通路。双魚宮の死者の泉に繋がっているみたいなんだけれど……死者の泉を守る防衛機構『門』に護られていて、『門』を突破しない限り向かえないみたいなんだ」
どうやら簡単にはたどり着けないらしい。
それにしても防衛機構の『門』とは? と、ケルベロスたちが透子に目を向ければ、
「『門』は『死を与える現象』が実体化したような……黒い鎧のエインヘリアルなんだよ。それで、この『門』は死んでも蘇って、この場所を守り続けているみたいなんだ」
その視線に気づいた透子は組んでいた腕をほどいて、防衛機構の一つとして取り込まれたエインヘリアルをそう呼ぶのだと答えたのだった。
「まずは、その門を倒せば良い……と言うことでしょうか?」
説明を聞いていた、斬宮・紅緒(憧憬の雪路・en0267)が問いかければ、透子は大きく頷き、今度は門について話始める。
「みんなに戦ってもらいたい門は、大剣を振り回して薙ぎ払ってきたり、叩きつけてきたりして攻撃してくるよ」
攻撃方法については大方見た目通りのようだが、
「あとは、音に反応して狙いを定めるみたいなのと、一度狙いを付けた相手をなりふり構わずに攻撃し続けるみたい」
その性質は苛烈なようだ。
「ある程度は攻撃を誘導できる、と言うことでしょうか」
しかし、その性質を利用することもできるだろうと紅緒が問えば、透子は少し考えこんで、
「うん。でも、通路の中では門の能力が上がるから……みんなでも苦戦しちゃうかも」
無理はしないでねと、ケルベロスたちを見つめた。
一通りの説明を終えた透子は、両手をぐっと握りしめて、
「門を42体撃破すれば、死者の泉に転移が可能になるはずなんだよ。だから先に進むためにも門を倒してきてね!」
あとのことをケルベロスたちに任せるのだった。
参加者 | |
---|---|
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172) |
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462) |
楡金・澄華(氷刃・e01056) |
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753) |
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525) |
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244) |
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965) |
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678) |
●そこへ至る道
異界……と言うものが存在するのならば、まさにこのような場所を指すのだろう。
様々な色が渦を巻く空間の中を進む漆黒の毛皮を持つ豹のウェアライダー、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が、そのふさふさした顎に手を置きつつ周囲を見回していると、
「未知の中に道があるー。んー、あまり上手くはありませんわねぇー」
ふよふよと宙に浮きながら、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)がアームドデバイスで自分たちが進む道を叩いていた。
叩いた回数分コツコツと固い感触を返してくる道に、フラッタリーは目を細め……むしろほぼ瞑ったままに微笑みを浮かべる。
「どうだ?」
そしてまた浮遊の感覚を確かめるようにふらふらと浮き上がるフラッタリーに、陣内は問うてみる。
飛行は今回の作戦の肝となる部分。
故に、フラッタリーはこの場所での機動力を確認するためにふらふらと飛んでいるのだ。
「良いですわねー、玉榮も飛んでみてはー」
陣内の問いに何の問題もないと答えたフラッタリーが、空中で器用にくるりと反転して気になるなら試してみればと誘うと、
「ふむ、後にしておこう」
ほんの少しだけ思考してから、どの道あとで飛ぶことになると、陣内は首を横に振った。
「先に試すのも悪くはないか」
前を歩く黒豹が大きく揺らす尻尾を眺め、マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)は口元に手をあてる。
陣内は後で良いと言ったが、結局戦闘前には飛ぶことになるのだ、ならば今からでも良いだろうと、マルティナは仲間たちを飛行させている牽引元へ目を向ける。
マルティナが目を向けた先にあるのは、彩り豊か過ぎる空間に滲んだ僅かな暗闇。
しかしよくよく見れば、それが気配を消した、楡金・澄華(氷刃・e01056)だと気づいただろう……否、よほど訓練された者でなければ気づきはしないだろうか。
その姿はあまりに自然に、この場所に溶け込んでいたのだから。
「要望があれば、いつでも言ってくれ」
忍び潜入することこそが澄華の十八番……そんな自分を見つけたマルティナに目を細め、その体を牽引して浮かせた。
「ヘリオンデバイス……地球の皆さんが授けて下さった力、お借りしますね」
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)は胸元に手をあてる。
澄華に牽引され、強化ゴーグル型のヘリオンデバイス越しに味方の位置を把握していると、その力の恩恵を実感できる。
そしてそれは人々の想いの結晶ともいえるもの。
ならばそれらを胸に抱えて敵を屠るのが、託された自分たちの役目だろう。
「敵の姿は見えないね」
風音と同じように、屠るべき敵……今回は『門』と言われる敵を索敵していた、影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)がそちらはどうかと首を傾げてたずねる。
ゴーグルにより味方と敵の場所が分かるとは言え、それは大まかなもの。
より正確な位置を掴むためにはある程度の情報共有も必要だろう……それとて限界はあるけれど。
「こちらも同じですね」
リナの意図を察した風音がゴーグルに意識を集中させるもそこには、未だ敵の姿は無く。
「まだ、門まで遠いのかな」
風音の答えを聞いたリナは再び正面を向くと、首を傾げた拍子にはらはらと流れた絹糸のような髪を後ろに払う。
「門かー……こういう修行向きの機能はプラブータの塔に欲しかったなー」
リナの門と言う言葉に、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が反応する。
門のようなものが故郷に存在すれば、さぞかし修行がはかどっただろうと、ことほは考えるのだ。
「確かに相手には困らないかもしれませんね」
ことほの鍛錬そのものを好むオウガらしい考え方に、バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)は目を細める。
戦いを好まないバラフィールだが、戦うための力が必要なことは十分に知っている。
力無き者の末路を知っている。
「そうなんだよー。あ、でも誰かが犠牲になって取り込まれるのは良くないよね。今のナシで!」
そう、知っているのだ……バラフィールに頷きかけた、ことほだが、愁いを帯びた赤い瞳の奥に揺らぎに何か気づいたのだろうか。
ことほは自分の考えに、何かの犠牲が伴う可能性に気づいて、ぶんぶんと首を横に振って見せた。
「死者の泉への道を護る門……強力な相手、油断せずに参りましょう」
首を振る、ことほに風音は微笑む。
ことほのように鍛錬が目的ではないにしても、門はそれなりに倒す必要がある。
ことほにその気があるのならば、今回を除いても戦う機会はあるだろう。
そして、門を倒せば倒すほど、死者の泉に近づく。
死者の泉へと至るには、まだ少しかかるやもしれないが……これもまた大切な一歩なのだ。
「はい、死者の泉に到達するための一手です」
風音の言葉に、バラフィールは大きく頷く。
死者の泉への道を切り開くためにも門は必ず倒さなければと、バラフィールもまた思う。
「カッツェ、今回はいつも以上に、貴方にも負担をかけてしまいますが……門を撃破するために、それに、全員無事に帰還するためにも。よろしくお願いしますね」
そして、自分の近くを浮遊するウイングキャットのカッツェに手を添えれば、カッツェはその手に甘えるように顔を寄せる。
「何度立ちはだかろうと何度でも撃破してみせるよ。さぁ、やっと敵の姿が見えて来たよ」
それからリナが門を感知したと告げると……一行は戦闘態勢を整えるのだった。
●此方と彼方の狭間
ずるりずるりと大剣を引き摺り歩く影一つ。
否、影……と呼ぶにはあまりに禍々しい……その姿は死そのものを体現したかのような漆黒の甲冑を纏う騎士。
不意に、『門』と呼ばれるその騎士の真後ろに、逆さまの澄華が出現し、雪のような刃紋と蒼く輝く刀身が美しい大太刀を薙ぎ払う。
薙ぎ払われた大太刀は、刀身と刃紋を空間に刻むがごとく、蒼と白銀の軌跡を残して――音もなく落下してきた、澄華の不意打ちを避けられる訳もなく門は背中を大きく抉られる。
そして背中を抉られた門が振り返るより早く、三人のケルベロスが門を囲むように、降り立つ。
一人はフラッタリー、四肢を地面につけて着地すると同時に、アームドアームで道を掴み、蜘蛛のように門へと飛び掛かる。
普段はほぼ閉じている双眼を見開き、黄金色の眼を見せたフラッタリーは狂気じみた笑みを浮かべ、開かれた額のサークレットからは、隠されていた弾痕からは地獄が迸っている。
門へ接近した、フラッタリーは両腕で敵を挟む様に殴り……さらに、アームドアームで門を叩き続ける。
迸る地獄に身を任せるように、狂気に焼かれるように、ただ叩き続ける。
フラッタリーの猛攻に門の意識が向いている間に、澄華は道を両手で弾いて再び音もなく空中に戻る。
もう一人は陣内、猫のようにくるりと回転して着地すると、
「お前だけの美しい夢を描き出してやる」
何もない空間に筆を走らせる。
何も無いはずの空間には、陣内が素早く筆を走らせるたびに、形が、色が描かれ……それはどこかで見たような絵、場面、記憶として、瞬く間に完成する。
絵を見た門は、うめき声のようなものを漏らすが、その声はフラッタリーが拳を打ち付ける音と、陣内がドリルに変形させたアームドアームで駆動音で掻き消される。
音に反応すると言われた門の性質を利用し、あわよくば駆動音で自分を狙うように仕向けようというのだ。
そして、陣内が騒音を撒き散らす間に、彼のウイングキャットである猫が、尻尾の輪を飛ばし門の大剣に絡みつく。
最後はマルティナ、落下時に風に煽られふわりと広がった金糸のような髪の毛が元の位置に戻るよりも早く。
「私が相手だ」
誰よりも速く、確実に届くように放たれた言葉。
その言葉を聞いた門は、ぎりぎりとマルティナに向かって首を動かし……自分を殴り続けるフラッタリーのアームを掴んで放り投げる。
放り投げられたフラッタリーが眼前に迫るが、マルティナは冷静に飛び上がって回避する。
「ルオオォオオォ!」
それを見た門が忌々し気に吠えれば、音が明確な力となってマルティナの体を縛り付ける。
ぎりぎりと巨大な手に掴まれたかのような圧力に、マルティナは歯を食いしばるが、
「はい、そこまでだよ!」
それも一瞬のこと。
ぶん投げられたフラッタリーが獣のような体制を取り直して門を睨むその横を、炎を纏うライドキャリバーが猛烈な勢いで駆け抜けると、そのまま門の腹に突撃をかます。
そしてライドキャリバー……藍にまたがっていた、ことほが追撃とばかりに門の鳩尾を右手で殴りつければ、門の体はくの字に曲がって咆哮は止まる。
「確実に行かせてもらいます」
さらには網状の霊力によって体を絡めとられる門の膝に、風音が流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、ぐらりと門の体が揺れたところで、ボクスドラゴンのシャティレに炎を吐かせる。
シャティレが炎を吹いている間に、ことほは藍を猛烈な勢いで下がらせ、風音は門の膝を足場に大きく後ろに跳ぶ。
「風舞う刃があなたを切り裂く」
風音たちが後ろに下がると同時に、リナは斬霊刀に手をかけ一息に引き抜くと、そこから魔力と幻術が混じり合った無数の風刃が放たれる。
放たれた風刃は門の体を切り裂き、あるいは衝撃に構えた心の虚を突き、更なる斬撃を与えていく。
虚実を交えた斬撃を脳裏に焼き付け、次の行動を制限することだろう。
「癒しを」
リナの風刃に刻まれ続ける門を横目に、バラフィールはマルティナへと手を差し出すと、魔力で編み上げた手を作り出す。
そしてその手をマルティナの体の中に差し込み、内側から強引に傷ついた部分を再生させたのだった。
●立ちはだかるもの
バラフィールの癒しによって、体力を戻したマルティナに門は視線を向ける。
「お願い、カッツェ!」
その様子をみたバラフィールがカッツェに声をかければ、カッツェは尻尾のリングを門へと飛ばす。
飛ばされたリングは門の大剣に絡みつき……ふいに、門はマルティナから視線をカッツェに向けると、一息に距離を詰めて大剣を振り下ろす。
叩き潰すように振るわれた大剣はカッツェの黒い毛並みに一筋の線を刻むが、カッツェはその場に踏みとどまる。主が望んだとおりに。
「沙阿、永剛ノ回廊ヲ修ムモノ、羅卒乃軛ヲ解キ摩セウ」
踏みとどまったカッツェに向けて門が再び大剣を振り下ろそうとするも、それより早くに飛び込んだフラッタリーが包帯を纏った見えざる器を振るう。
無数の霊体を憑依させ、殴りつけるように振るわれた腕は門の体に爪痕のような傷をつけ、汚染して……それでもまだ足りぬとばかりに追加したアームと両手を振り回して門を殴りつける。
「こいつも食らっといてくれよ」
フラッタリーの攻撃で僅かに仰け反った門の、その胸元に向けて陣内は、心を貫くエネルギーの矢を放つ。
ケイローンの弓から放たれた矢は違わず門の胸を貫き、
「ここからなら絶対に外さないよ!」
陣内の矢を追うかのごとく、一息で門の懐まで駆けたリナが、稲妻を帯びた超高速の突きを矢の上から捻じ込んだ。
突きを捻じ込んだ瞬間、門はびくりと体を震わせるが……その意識はリナの頭の向こう、マルティナに向いたままだ。
では何故カッツェが攻撃されたのかと言えば……攻撃できなければ反射的に殴れるものを殴ると言ったところだろう。
「冒されぬよう……病魔よ、消え去りなさい」
体を震わせる門を見つめつつ、バラフィールが白鋼の避雷を掲げれば、彼女の翼から羽根の形をした光が放たれる。
その光は、カッツェと猫に注がれ、カッツェに刻まれた傷を消すとともに、それぞれの持つ守る力を引き上げた。
切り結ぶこと幾度目か。
「隙だらけ、だぞ」
斬宮・紅緒(憧憬の雪路・en0267)から受け取った魂の力で狙いを定めた澄華は、漆黒の刀身を持つ喰霊刀と、蒼く輝く刀身を持つ喰霊刀を同時に門の両肩へと突き立てる。
唐突に真上から落ちてきた澄華に反応すらできなかった門は、無数の霊体を憑依させたそれらの刀をまともに受けて、体を揺らすが……まだ倒れる様子はない。
それどころか、肩に乗った澄華へ手を伸ばそうとするが、
「しつこい人は嫌われちゃうよ!」
門の横から駆けてきた、ことほが流星のごとき蹴りを下から抉りこむように顎に入れると門の動きが一瞬止まり、その隙に澄華は空中へ飛びあがる。
そしてほぼ同時に突っ込んできた藍が、門の目の前でスピンすると、ことほは藍につかまり門の真横を抜ける。
「さすがに強いですね。ですが、私たちは負けません」
藍に足を惹き潰された門だが、微動だにせず、その姿を橙の目でじっと見つめていた風音は負けるわけにはいかないと、マインドリングから光の剣を具現化する。
具現化した剣は違わず門の胸元を切り裂き、
「ああ、その通りだ」
風音の言葉に頷いた、マルティナが右手を差し出せば、その手の先から放たれたブラックスライムが大口を広げて門を丸呑みにした。
●ここから先へ
「グオオォォオ!」
マルティナのブラックスライムに飲み込まれた門が吠えると、その体に纏わりついていたブラックスライムは飛び散る。
そして鳴りやまない咆哮は、見えざる手となってマルティナに迫るが……その手がマルティナに届くより前に、フラッタリーが割り込む。
割り込んだフラッタリーは手に掴まれ、蜘蛛のように生やしたアームから、生身の肉体から、木が軋むような音を立てるも……その顔に浮かぶは愛も変わらず狂気じみた笑み。
「――!」
その笑みをみた門はさらに吠える声を荒らげるが、その胸元には陣内が佇み、左手に纏ったオウガメタルを門の胸に突き立てていた。
空の霊力を帯びたそれは、陣内自身が、仲間たちが与えたあらゆる傷跡を広げて、門は一歩二歩とふらふらと後ろへ下がる。
「お休み。良い夢を見ろよ」
それから陣内が言い放てば、門は大剣を思いっきり横なぎに振るって――その刃を自分の体に埋め込む。
「とどめを刺すぞ」
フラッタリーにバラフィールの魔法の手が差し込まれるのを横に見つつ、マルティナは両手の斬霊刀から、霊体のみを斬る衝撃波を放つ。
迫りくる衝撃波に門はびくりと体を震わせるも、震わせるだけで衝撃波をまともに受ける。
刻み込まれた舞い踊る刃が、絡みつく糸が、捻じ込まれた重みが、門の体をとらえたからだ。
「音には敏感なようですが……さて、音無き者達の声、貴方には聞こえるでしょうか」
その様子をみた風音は、門の目の前に歩み寄って両手を広げる。
自然界に存在するあらゆる無機物が放つ波動を感じ取り、衝撃を放つ刃として両手に具現化する。
「……お伝えしましょう。……鼓動なきもの達の声を、意思を」
それから、具現化した刃を門へと振り下ろすと、刃が放つ衝撃は門の身体と精神を捕らえ、その鼓動を無機物達と調和させる。
「凍雲、仕事だ……!」
風音が与えた衝撃は体を、精神を壊すのか、石化した様に固まった門の首をめがけて、澄華が凍雲の力を解放すれば――門の首が宙を舞うのだった。
「終わったー!」
さらさらと砂のように崩れていく門を前に、ことほは大きく息を吐く。
ことほの言葉に頷きながらマルティナは周囲を見回す。
「皆、無事か」
仲間たちの中には、傷を負ったものも居るが、いずれも軽傷。ケルベロスたちならばすぐに回復する程度のものだ。
マルティナは良かったと胸に手意を置いてから、さらに通路の中をじっと見て回る。
死者の泉に繋がるものが何かないかと、思ってのことだ。
「カッツェ、よく戦ってくれました」
マルティナが周りを調べている間に、バラフィールは負担をかけてしまいましたねとカッツェを抱えれば、カッツェは抱えられた腕に頬を寄せる。
その姿に感化されたのか、シャティレも風音に「きゅ」と寄り添ってきて、
「シャティレも頑張りましたね」
そんなシャティレの姿に風音は微笑んで、背中を撫でてやる。
戦闘後のほんの少しの安らぎを単横していると、マルティナが戻ってきて、
「何か見つかったか?」
陣内が訪ねてみれば、マルティナは小さく頭を振るだけだ。
「敵地真っ只中だからな、さっさとトンズラしよう」
マルティナの様子に仕方がないさと、澄華は首を振り……帰り支度を始めるのだった。
それから一行は来た道を戻り始める。
「まだ死者の泉に辿り着くには遠い道のりかな」
だんだん遠のいていく門との戦いの場所を振り返りながらリナが道のりは遠いと息を吐けば、
「何事も根気がー、大切と存じますのー」
フラッタリーがおっとりと応える。
死者の泉の場所は分からなかったが、門を倒し続ければ自ずと分かるだろう。
だから今は一歩ずつ確実に歩みを進めるしかないのだ。
「そうですね。ですが、いつか必ず……!」
そして確実に前には進んでいる。
いつか必ずと言ったバラフィールの言葉に促される様に、一行は一度だけ後ろを振り返ると――あとは真直ぐに帰路へ着いたのだった。
作者:八幡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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