銀波揺れる

作者:崎田航輝

 秋めく涼風が瑠璃紺の夜空から優しく吹いてくる。
 透明に澄んだ空気は、身も心も濯ってくれるように穏やかで。同時にそよそよと、心地良い音を響かせていた。
 辺りを見回せば──そこにあるのは銀色のすすき畑。
 月の灯りを淡く受けたように、薄い金色も刷きながら。風にゆっくりと踊り、柔い煌めきを見せていた。
 なだらかな坂にどこまでも広がるそのすすきの絨毯は──月灯りにほの光る雲と遠景で溶け合って、空まで昇っていくよう。
 さらさらと揺れるその只中に入ると、美しい夢幻の世界に踏み込んだようで。すすきの間のあぜ道で、少なくない人々がその光景に見惚れていた。
 そこは観光名所ではないけれど、一年のうち今の短い時期だけこの景色が現れる。
 その出会いを時に心に焼き付けようと、時に写真に残そうと。人々は秋風に波打つ眩い彩を眺めてゆったりと歩んでいた。
 ──けれど。
 銀色の景色の中に、一層鋭い光が明滅する。
「眩き月と、風の舞台──」
 静かに、けれど何処か朗々と唄うように。
 夜色の袴を靡かせ歩むそれは、一人の巨躯の男だった。きらりと煌めくのは──長く鋭い二振りの刀。
「鋭き戦意と刃を披露するには、格好の夜であろう──」
 ならば剣戟を、と。
 二刀を構え、結った長髪を風に揺らすその男は──坂の上から跳んで道へ降り立つと、刀を大きく振るって人々を斬り裂く。
 血潮が風に流れゆく中、強者を求めるように、剣戟を求めるように。男はただ只管に刃を踊らせ続けた。

「少しずつ、涼しい日も増えてきたでしょうか」
 初秋の夜のヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へそんな言葉をかけていた。
「秋らしい景色も、所々では見られるようになってきたみたいです。とある地方では、一面のすすき畑が綺麗だとか」
 ただ、そこにエインヘリアルの出現が予知されてしまったと言った。
 現れるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
「人々を守るために……この敵の撃破をお願いします」
 戦場はすすき畑。
 中にはあぜ道が伸びていて、敵の出現時にはそこを人々が歩いている状態だ。
「こちらが到着する段階で、敵は人々の正面方向に迫っているでしょう」
 こちらはヘリオンでその直上から降下する形となる。
 人々の避難をしつつ戦うか、皆で包囲して敵を釘付けにするか、対応を考えておくと良いかも知れませんと言った。
「戦いを好む性格でもありそうですから、挑発をしてみても効果的かも知れません」
 何にせよ、相応の実力もある敵なので警戒を、と言った。
「すすき畑を守ることも出来るはずです。美しい景色のためにも、是非撃破を成功させてきてくださいね」
 ふわりと吹く涼しい風の中で、イマジネイターはそう皆へ言葉を贈った。


参加者
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●月夜
 風に銀色の穂が波紋を作り、夜の中に眩く明滅する。
 空の機上、タラップに足をかけながらスウ・ティー(爆弾魔・e01099)はその景色に現れる巨躯を発見していた。
「あれが奴さんか」
 芒畑へ踏み入るそれは浪人姿の罪人、エインヘリアル。今しも人々の元へ迫ろうとしているから。
「それじゃ、引きつけますかね。まさに身も心も釘付けって、ね」
 野郎相手じゃあなぁ、とぼやきながらも、スウは手の内で遊ばせていた爆破スイッチを軽く握り締め──。
「行こうか」
 空へ跳び出しひらりと地に降り立つ。
 直後に番犬達も降下。風に紛れるよう、一瞬後には罪人へ立ちはだかっていた。
 侍風情の巨躯は、此方へ眼光を向ける。
「……其方達は」
「番犬」
 と、端的に応えたのはレフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)。静やかに、けれど気を惹くように言葉をかけていた。
「随分と風流を好まれるご様子。一人舞台より、合戦ものは如何ですか?」
「そうそう、強い相手と戦いたいならあたし達が適任だと思うわよ」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)も言ってみせる。同時に槍を構えながら、挑発の声も投げて。
「怖気付いたなら逃げるといいけど!」
「──」
 微かに感情を滲ませるように、罪人は刃を握り締める。
 更に誘いをかけるよう、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は手招きの仕草。
「来ないの? 私達相手なら戦いを楽しめるわよ。弱い物苛めしか出来ないなんて、下等な性格じゃないならね」
「……良いであろう」
 罪人は応ずるように、地を蹴り二刀を振り翳す。
 だが予想していたレイは即座に反応。扱いの慣れぬ槍でもしかと握り締め、その穂先に眩い雷光を纏っていた。
「薄に二刀流なんてまるでサムライね。いざしょーぶ!」
 刹那、雷撃を伴う一撃で足止めをする。
「自然を巡る属性の力よ、加護の力を与えなさい!」
 と、直後にはリサが自身を蒼く耀く光で包み込み、護りの態勢を盤石に整えて。同時にレフィナードは敵方へ手を翳していた。
「此方ですよ」
 いざなうように、逆撫でするように。燃え盛る焔を放ち巨体の膚を灼いていく。
 この間、突如の出来事に人々の多くは惑ってもいたけれど──。
 きら、きら。
 空から優しい雨滴が注ぐ。
 宙を翔ぶメロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)が翼から降らせる雫。心を静めさせ、落ち着かせた上でメロゥは言葉を伝えた。
「大丈夫だよ、僕たちケルベロスが駆け付けているからね。安心して、でも立ち止まらずに、避難して欲しいな」
「ええ、ここに剣戟の銀色は不要ですから」
 地上から呼びかけるのは天原・俊輝(偽りの銀・e28879)。壁となるよう位置取りながら、皆を声で導いていく。
「直ぐに掃除をします。ですから皆さんは落ち着いて一旦避難を」
 すると人々は我に返ったように、退避を始めていく。
 見下ろすメロゥは、状況をデバイスによって皆へと共有している。故に罪人が人々へ視線を向けようとも、それは即座に皆へ伝わり──。
「余所見してる暇はないよー!」
 風の中に低く唸る駆動音。
 ライドキャリバーの藍に乗った山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が罪人へ剛速で迫っていた。
 そのまま強烈な突撃で巨躯を後退させながらも、自由を許さぬよう喰らいつく。罪人は微かな苦慮を浮かべながらも、此方の策に気付いて声を零した。
「人間を逃す算段か。剣戟の風情にそぐわぬ事を──」
「あぁ、ほんと馬鹿の一つ覚えなんだよなぁ……殺す言い訳にやたら風情を引っ張り出す」
 と、肩を竦めるのはスウ。
 まず目の前の相手だけ気にしてみろよと、そう言ってみせるように。
「何にせよ、弱い者苛めで強がられても恐くはないけどね。その鈍ら二振り、刈茅だって作れまいよ」
「──侮辱を」
 罪人は僅かに歯噛んで、鋒を向ける。
「ならば芒も命も、全てを斬り裂いてみせよう」
「そんな事はさせないのよ」
 鈴を転がすような声音で、リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)は凛然と言っていた。
 同時に手に取る鎖を風に踊らせて。
「犯した罪を悔いることもできない罪人に……すすき一本踏む権利はないのよ!」
 眩い魔法陣を虚空に描いて加護を成し、戦線を強固に守護していく。
 罪人はその輝きをも斬り伏せようと踏み込む。だが、その足元からちかりと明滅するのが──仕掛けられていた機雷。
「下は見なきゃ駄目だよ」
 スウが口元に笑みを浮かべた瞬間、スイッチが遠隔から信管を撃発。白光する焔を吹き上げさせて、巨体を高熱の衝撃で煽った。
 罪人はよろめきながらも氷風を放ったが──リュシエンヌが即座に翼猫を飛び立たせる。
「ムスターシュ、お願い!」
 声に応じたムスターシュが羽ばたき皆を治癒。
 前線で衝撃を抑えていたことほもまた、藍に素早く方向転換させて加速する。
 そのまま前線を通り過ぎながら、煌めくエクトプラズムを振りまいて自身と仲間の体力を保っていた。
「これで大丈夫だよ!」
 皆が頷き再び攻勢の構えを取る。
 罪人もまた連撃を狙って刃を握るが──その横合いから、ふわり。近づくのは俊輝の娘たるビハインド、美雨。
 ──あなたは皆さんと無粋者のお相手をして差し上げて下さい。
 その言葉を守るように風を渦巻かせ、巨躯を取り巻いて動きを止める。
 その数秒後には──。
「お邪魔するよ」
 涼やかな声音で、上方よりメロゥが滑空。
 くるりと回りながら、鮮やかな蹴撃を叩き込むと──追随する俊輝も、ひらりと舞い戻る美雨に穏やかな視線を返して。
「ありがとうございました、美雨」
 柔らかな声を向けながら、敵へは手を差し向けて。
 『洪霖』──降り注ぐ強烈な雨で挙動を阻みながら肉迫。零距離から蹴撃を叩き込み、巨体を大きく吹き飛ばす。

●決着
 一瞬の静寂に、さわさわと銀色が鳴る。
 ゆらりと立ち上がる罪人は、血で口元を穢しながらも微かな喜色を湛えていた。
「……見事な戦意だ。なれば、この刃の錆にする甲斐もある」
「君は、そんな事ばかりだね」
 と、メロゥは視線を巡らせる。
 落ちる月光が包み込む、眩くも優美な光景。
「美しく楽しむべき世界が広がっているというのに、戦意と刃か……風情が無いなぁ」
「そうね。この景色に見向きもしないなんて、綺麗さが理解できないのかしら?」
 リサの言葉に、罪人は視線を逸らさず刃を握り直すだけだ。
「良い剣戟の舞台になる。堂々と、静謐に、夜気の中で斬り合える舞台に。其方達こそそれでは不満か」
「まあ、そういう考えは卑怯な連中なんかよりはよっぽどマシだと思うわよ」
 レイは腕組みをしつつも声を返す。
 でも、と銃を構え直すと。
「無差別に人を襲うなんてブシドーじゃない。だから、ここで倒させて貰うわ!」
「ええ」
 今、護るべきものを護るためにと──地を蹴り夜風を縫うのは俊輝。
 罪人はとっさに刃を振るって迎撃しようとする。が、横合いより飛んだ美雨が金縛りに蝕み、生まれた隙に俊輝が打突を叩き込んでいた。
 揺らぐ罪人はそれでも刃を振り上げる、が、その面前にことほ。
「風に揺れる輝きの絨毯で果し合い──いいよね」
 血の滾る舞台。
 そこでの真っ向勝負に、秘めていたオウガらしさを覗かせて。ことほは超新星の如き光の奔流を放って滂沱の衝撃を巨躯に撃ち当てる。
「おっと、いっけなーい」
 余波すら暴風の如く吹き荒れる中、軽く舌を出して自身の戦意を抑えつつ。すぐにことほが飛び退けば──開いた射線にレイ。
「ズルだなんて言わないでよ。あたしはガンマンなんだから当然、遠距離でだって攻撃するわよーっ♪」
 閃くフラッシュと共に銃撃。罪人の躰を連続で穿っていく。
 血潮を零しながら罪人も刺突を打つ、が。
「通すとお思いですか」
 穏やかに、けれど刃の如き冷たさも湛えて。滑り込むレフィナードが斬撃を正面から受け止めていた。
 直後には、リサが自身に巡る呪われた力へ語りかける。
「忌まわしき血の力だけど、今はその力を貸してね」
 脈打つ鼓動がその血に溶けた魔力を顕現させる。
 ゆらめく陽炎、耀く蒼。己が血より立ち昇った濃密な癒やしの力が、苦痛を喰らい尽くすかのようにしてレフィナードを癒やした。
「これであと少しね」
「任せてくださいっ……!」
 同時、掌に白く柔らかな光を溜めるのがリュシエンヌ。
 日々の喧騒をひととき忘れ、心穏やかになれる場所と時を護れるように。
 そのために、この闘争を戦い抜くために。祈る思いは光を無数の羽へと変え、はらはらと優しく体を包んで体力を万全とする。
 戦線に憂いがなくなれば、ムスターシュが肉球パンチで反撃。惑った罪人へ、メロゥはトランプを放り投げていた。
「さぁ、次は鮮烈な驚きを」
 刹那、宙に舞い踊るダイヤのスートが、煌めく氷の結晶となって槍騎兵を喚び寄せる。
 罪人が振るう剣撃をも、その槍で受け止めてみせた騎兵は──そのまま刃を弾き攻撃。鋭利な一閃で胸部を斬り裂いた。
 呻く罪人に、反してスウはあくまで愉快げに。
「まだまだ、もっと頭に血が上ってないとさぁ」
 舌なめずりしながら言ってみせると──虚空に何かが明滅していた。
 罪人は違和感を以て見回すが既に遅い。それは透明化された無数の機雷。一つ一つが致命の衝撃を生む程の爆薬の檻。
 かちりとスウが起爆する音を鳴らせば、その瞬間、視界が白む程の爆炎と爆風が巨体を覆っていく。
 声を上げながら、足掻くように罪人は氷風を振りまく。それが此方へ及ぼすダメージも軽くはないが──リサが即座に翼をはためかせ、氷気を弾く風を生んでいた。
 吹き抜ける暖かさは、傷を拭うように治癒する。
「大丈夫かしら、落ち着いて、頑張ってね」
「ええ。ありがとございます」
 応えたレフィナードはその腕にファミリアの犬鷲を留まらせていた。
「さあ、存分に暴れて来なさい」
 まるで鷹狩の如く、飛び立った犬鷲はレフィナードの意思に応じて宙を翔けて。罪人が振り払おうと繰り出す剣戟をも縫いながら、目元へ飛びつき爪を奔らせる。
 巨躯の視界が奪われた一瞬、レフィナード自身も至近へ。零距離から腕を突き出し、放つ業炎で巨体を灼熱に包む。
 斃れゆく罪人へ、レイは銃口を向けていた。
「ヴァルハラでは黄昏の日に備えて永遠の戦いが繰り返されている……あなたにはぴったりね。さぁ帰りなさい」
 引き金を引いて一撃。命を貫く弾丸が、巨躯を四散させて跡形も残さなかった。

●銀波
 夜風がさらりと髪を撫ぜる。
 秋らしい温度を感じながら、リサは景色を見渡していた。
「これで、大丈夫かしら」
 ヒールを終えた道は、戦いの痕跡も残らずすべらかに整えられている。揺れる芒畑は被害もなく、美しい輝きを保っていた。
 避難した人々も、そのうちに帰ってくるだろう。
 なれば、静かな景色へとメロゥは歩み出す。
「折角だから、散歩でもしていこうか」
「いいわね」
 リサも頷き、共に歩を進めた。
 穂が靡く音は、静謐の中に心地良い背景音を奏でてくれる。心が落ち着く中では思考も捗るように、メロゥはうん、と呟いていた。
「こういう場所では良く、アイデアが浮かぶものだね」
 思いついたものを心に留めて、それから改めて畑を見回す。何よりも、その輝きに触発されるように。
「やはり、眩いものは美しいね」
 夜に光るものは何処か舞台に似ている。そんな事を感じながら、メロゥは一歩一歩と道を歩いていった。

 柔い風に導かれるように、レフィナードはゆったりと道を行く。
「自然の美観──良いものですね」
 夜に溶けるような黒髪を仄かに揺蕩わせ、誰にともなく声を零す。
 心の中は、変わらぬ静けさを湛えたまま。
 月光を反射して煌めく景色には、些か眩すぎるものも感じるように、時折瞳を細めてみせながら。
「……もう暫し」
 ──歩いていきましょうか。
 月闇の影に、いっときの安寧を得るように。
 レフィナードはゆるりと、散策の歩を進めていった。

 スウは帰路につきがてら、芒畑を散策する。
「なるほどねぇ」
 こりゃ確かに、と。
 さざめき、触れ合う穂を眺めて笑みを含んだ。
 空から降りる夜の光を纏って、柔らかに波打つ様はまるで水面のようで。それでいて、さらりと乾いた音が重奏のように調和を生む。
「このざわめきだけでも肴になるかねぇ♪」
 風に帽子が落ちないよう、軽く押さえつつ。道の終わりに立つと、改めて遠巻きに眺め──スウはその美しさを視界に留めていた。

「美雨、少し見て回りましょうか」
 俊輝が静かに歩み出すと、傍らの美雨もそっと頷いて道へ。揺れる銀波を共に眺め始めていた。
 改めて瞳に映す芒は、爽風に心地良く踊っているようで。
 それが愉しげで、けれど優美で。美雨が耳を澄ますから、俊輝もそうしてみれば──せせらぎのように耳朶を撫ぜる音。
「──ああ」
 俊輝は今一度実感するように頷く。
「これは風流な所ですね」
 なればこそ、護ることが出来てよかったと。
 思いを確かに、耀く景色を見つめていた。

「こうやって見るとやっぱ綺麗だねー」
 ことほは感心の声音でぐるりと回って視線を巡らす。
 道を挟む芒畑は、遠景で月灯りと同化して幻想的な色合いを見せていた。目の離せぬ景色、だからこそレイの腕を取って。
「向こうまで見にいこ!」
「あら、坂を上っていくの?」
 連れられるレイは、ここだけでも十分綺麗だけど、と言うように見回す。うん、と頷きつつ……それでもことほは物理的にもグイグイと。
「今だけの季節限定ってエモいじゃん? どうせなら全部見ておきたいし!」
 というわけで長い坂を上がって芒畑の中程へ。
 おっとっと、と転びそうになりつつもことほについていくレイは──わぁ、とそこで目を見開いた。
「確かに、違うわね」
 小高い丘の上にも似たその場所は──銀色を高くから見下ろす空の上のようで。
「写真いっぱいとってこー!」
 ことほがスマホを取り出すと、レイもそれには賛成。
 秋の美しい思い出をひとつ、またひとつ。二人でレンズに収めていった。

 ヒールが無事に済んだ事を確認していたリュシエンヌは──ふと空を仰ぎ見た。
「ムスターシュ、見て? お月さまに照らされて……すすきの穂が金銀に光ってる」
 空の光と、そして地面の輝き。
 視線を動かして実感する程に、強く想うのは。
 ──うりるさんにも見せたい。
 お家で待っている、大好きなひと。
「そうだ! お写真撮って見せてあげよう」
 お月さまとすすき畑。がんばって護った風景を見て欲しいと、アプリを駆使して綺麗に撮った写真を確認して。
「うりるさん、褒めてくれるかしら」
 するとムスターシュが、肯定するかのように鳴いてくれる。
 だからリュシエンヌは微笑んで。大きな優しい手を広げてお帰りと迎えてくれる、彼の姿を思い浮かべ──家路へと急いだ。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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