刀剣士と刃交える者たち

作者:塩田多弾砲

 その日。
 聖ラファエロ女子大剣道部との練習試合を控えていた、西海大第二キャンパス……第一キャンパスとは別の県に位置する……の、女子剣道部。
 そこでは、部長の八千草じゅりが、最後の追い込みにと、部員たちとともに竹刀を振っていた。
 道場内部は、大きな板間が広がっており、内部では50人近くの女子部員が竹刀の素振りをしていた。
「今度こそ……勝つ! いつもぎりぎりで、負けてる事が多いけど……」
 今度こそ、大差をつけて勝つ。その事を誓っていた。
「……そして、勝った暁には……姫香……」
「向こうの部長さんに告るんですよね? 部長」
「ええ……って、琥珀?」
「……ま、じゅりの事、応援しますよ? 幼馴染としては、相手が誰だろうと、ね」
 副部長のコルレオーネ・琥珀……イタリア人のクォーターの少女が、にっと笑顔を向ける。
 ありがとうと、礼を述べそうになったじゅりだが。
 何者かの、道場の扉を破る音が、それを遮った。
「!? 誰!」
「ちょっと! 神聖な道場に何してけつかるねん!」
 全員が身構え、部長と副部長はその闖入者へと目を向けた。
 そこにいたのは、腰から剣を下げた、長身の人影。道着らしきものを身に付けていたが……ぼろぼろで、表面は薄汚れている。見たところ、体型からして女性らしい。なで肩で、胸と腰は女性らしい曲線を描いているが……肩や腰などに、日本の甲冑のような装甲板が装着されている。
 腰から下げているのは、長い刀身の日本刀。その鞘を払うと、正眼の構えで、部長の前に……すなわち、じゅりの前に進み出た。
「……他流試合? いいわよ、相手になる!」
「部長!」
「琥珀、あんたは他の部員を連れて逃げて! 告白前の一勝負よ!」
 そう言って、壁の木刀を手にしたじゅりは、それを構えた。
 刹那……、
 乱入してきた、長身の剣士が踏み込むと、じゅりに打ち込んだ。
 その一撃を受け止めたじゅりだが、二刀目までは受けきれない。
「!!」
 木刀ごと、じゅりは切り捨てられ……鮮血とともに、道場の床に倒れた。
 剣士はそのまま、副部長の琥珀と、部員たちへとその切っ先を向けた……。
 数分後。琥珀たちは血だまりの中に倒れ……剣士以外に動くものは、いなくなった。

「まえに、弓をつかうエインヘリアルが出たけど……こんどは、剣をつかうエインヘリアルなの」
 ねむの予見が、君たちに伝えられる。
 一か月以上前に、燈家・陽葉(光響射て・e02459)たちが対戦した、強弓使いのエインヘリアル。正確には弓というより、弓に見えるバトルオーラ使いではあったが。
 だが、今回は……実体のあるゾディアックソードを携え、同じように道場に現れ、襲い掛かろうとしているのだ。
「この剣士のエインヘリアル……『ソードステッパー』って命名したけど、能力はシンプルなのね。だからこそ……」
 だからこそ、倒すのが難しい。ねむはそう告げた。
『ソードステッパー』は、刀剣を武器とする。手にしている剣は、日本刀の、太刀に近い。
 が、このエインヘリアルの恐ろしい点は、ステッパーの名の通り『踏み込み』にある。
 剣士に必要な技量は、剣を振るう腕と上半身だけでない。……腰と両足、下半身もまた重要。
 接近戦は、踏み込みが大事。踏み込む事で、移動し、腰の入った必殺の一刀を打ち込む事が可能となる。これは剣道のみならず、全ての武道、否、全ての格闘術、戦闘術に共通する要素。
 このエインヘリアルもまた、例外ではない。こいつは踏み込む事で、一気に間合いを詰め……剣道における基本的な一刀を打ち込んでくるのだ。
 正眼の構えで、間合いを詰め、一刀を打ち込む。剣道の基本中の基本。しかし、それを達人の域、極限の域にまで高めている。5m程度の間合いなら、一歩踏み出し、一秒程度で間合いを詰め、一刀を打ち込める。
 否、打ち込むのは一刀のみではない。その素早さから換算すると、一秒で五回は刃を打ち込めるだろう……と、ねむは言った。
 それに加え、飛び道具などは切り払うだろう、とも。光線や電撃など、非実体的なものならば、なんとかなるかもしれないが……その場合は踏み込みを利用して回避される可能性がある。矢や弾丸、ミサイルなどは切り捨てられるかもしれない。火炎や気体などを放っても、やはり剣圧で切り払われるだろう。要は……飛び道具は思った以上に効果が薄い、という事だ。
「……べつの方向から、どうじに攻撃すれば、ひょっとしたら当たるかもしれないの。でも……そんな小細工は、たぶんあまり通用しなさそうな相手だと思うの」
 ねむは、『ソードステッパー』は、とにかく剣での戦いを望んでいるかのようだと告げた。剣で戦い、剣で討ち取られる。それを望んでいるのだと。
「だから、こっちも剣で、一対一で勝負って挑戦したら、乗ってくれるかもなの」
 ただし、剣士としてはかなりの腕前なので……生半可な技量では押し負けてしまうかもしれないが。
 道場は校舎内にあり、一般人はもちろん、剣道部以外の生徒や教員は中々来られない場所にある。なので、部員たちを避難させれば後は問題はない。部員たちも、基本的に素直な者ばかりだから、避難誘導には従ってくれるだろう。
 剣道場は広く、戦うのに支障はない。部員たちを避難させている間に、ケルベロスが戦いを挑めば、敵はそれに応えるだろう。
「みなさんにお願いしたいの。このエインヘリアル、『ソードステッパー』を、どうかやっつけてほしいの!」
 もしもこのまま放置したら、しゅりや琥珀のように切り殺される者が増えていくだろう。そうなる前に……手を打たねば。
 君たちはねむの言葉にうなずき、立ち上がった。


参加者
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
雑賀・真也(英雄を演じる無銘の偽者・e36613)
ピュアニカ・ハーメリオン(淫蕩なる偶像の小淫魔・e86585)

■リプレイ

●武士道は、死ぬ事と見つけたり
 西海大第二キャンパス。
 その女子剣道部の武道場は、いささか……『におい』がする事にピュアニカ・ハーメリオン(淫蕩なる偶像の小淫魔・e86585)は気付いた。
(「うー、なんだか……あんまりいい『におい』じゃないなあ。とゆーか、臭わないのに『におう』って、どゆこと?」)
 道場に入った彼女は、なんとなくだが、嫌な予感めいた『におい』、これからあまりよろしくない状況が発生する『におい』……そんなものを嗅ぎ取っていた。
「……あらあら、かわいいっ。お嬢ちゃん、見学希望?」
 そこに、八千草じゅりが近づいてきた。
「ちょっとちょっと、そこのお嬢さん。道場に無断で入って来ちゃだめでしょー。ご両親は?」
 じゅりに続き、コルレオーネ・琥珀が。彼女はあまり歓迎してない様子。
「え、えっとねー。おねえちゃんたちに、お願いがあって……今ここに……」
 エインヘリアルが来る、だから避難してほしい。それを言った、次の瞬間。
 道場の扉が、破られた。
「ちょっと! 神聖な道場に何してけつかるねん!」
 琥珀が叫ぶが、闖入者……エインヘリアル『ソードステッパー』は、
 剣を抜き、正眼の構えで……、じゅりと琥珀の前に接近、
 しようとした。
「「ッ!!」」
 ガッ……と、白刃を受け止めたのは、
「悪いが、お前の相手はこの俺……いや、俺たちだ」
 双刃を両手に構えた、雑賀・真也(英雄を演じる無銘の偽者・e36613)。
「ええ……戦闘準備完了……では、行きましょうか」
 そして、道場には彼に続き、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)の姿が。
「……強そうだけど、僕が……ううん、僕たちが、討伐してあげる」
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)もまた、燈影夜想……抜き身の日本刀を構えていた。
 三人に、三方向から囲まれているのを知った『ソードステッパー』は、
 足さばきを用い、後退した。
 その動き、まるで……『幻影』。気配など全く感じさせず、動いた後に気配が後から付いてくる、そんな印象を受ける。
 それは、エインヘリアルは……、
 改めて、三方のケルベロスへと、正眼の構えを向けた。

●敵との死合い、斬り捨て殺す事こそ、剣士が全て。
「……えーと、おねがいおねえちゃんたち、逃げて」
『もらえませんか』と、ピュアニカが頼む前に、じゅりは、
「みんな! 逃げて!」
 叫んでいた。
「あ……う……」
 そして琥珀は、動けなかった。
 彼女は、『ソードステッパー』の漂わせる圧倒的な『気迫』の前に、言葉を失い、行動力すらも失わせていた。
 こんな奴、勝てるわけがない。こうやって同じ空間にいるだけで、自分の生殺与奪権があいつの手に、強制的に移されてしまっている。そうとしか思えなくなっていた。
 部員たちが逃げる中、琥珀だけは尻餅をつき、動けない。逃げようとしただけで、あいつは動いて、自分を一刀のもとに……いや、手足を切って芋虫にして生殺しに……、
 生じた恐怖に、自分が失禁した事に気付くが、
「おねえちゃん! はやく!」
 ピュアニカに促され、
「何やってるの!」
 じゅりに起こされ、
 琥珀はのろのろと、武道場から姿を消した。

『ソードステッパー』は、まるで傷んだ五月人形、もしくは鎧武者のよう。
 それが剣を、正眼に構えた。数ある流派の中、扱われるは最多。基本にして最強の型とも言われる、戦闘の態勢。
 その剣先には、『ぶれ』が無い。まるで置物のごとく、動きが無い。なのに……戦場の『殺気』が充満している。
 間合いは、約5m程度。道場の中心に『ソードステッパー』が立ち、そこから半径5mの円上に、陽葉、シフカ、真也が立つ。
「……悪いが、お前の相手はこの俺だ」
 真也がそいつの正面に、双剣を手にして進み出る。だが彼は、それ以上、
(「……言葉が……」)
 出ない。すくんでいた。蛇に睨まれた蛙のように、虎に狙われ逃げ道の無い兎のように、圧倒的戦闘力の前に気圧され、ハッタリでも『かける言葉』が出なかった。
 その様子は、仲間二人も、
「……雑賀さん?」
「真也、さん?」
 訝しく思った。
 刹那、
「……ッ!!」
 張り詰めた空気の中、一瞬で。5mを四歩くらいで間合いを詰め、予想以上に『神速』の勢いで、
『ソードステッパー』が、真也に剣を打ち込んだ。
「……ぐっ!」
 真也は、二刀流で剣を構えていた。が、二刀流は『剣を両手に持つ』故に、より有利になると思われがちだが……そんな事はない。
 二刀流は、相当な腕力がないと、十分な攻撃速度が出せない。それに、利き腕でない方の腕にも相当の技量が必要。故に……実戦に用いるには、相当の技量が必須。
 そして真也は、専門は弓と銃。剣術は嗜み程度。それでも並大抵の相手なら、十分に渡り合える程度の実力は持つ。
 が……『ソードステッパー』は、『並』ではなかった。
「……え?」
 接近されたと思ったその瞬間、次に見たのは、肩口から噴水のように噴き出す自身の鮮血。
 そして、弾き飛ばされた自分の剣。さらに……回転する世界。
 自分が袈裟懸けに切り裂かれ、剣とともに身体ごと弾かれたのを知ったのは、ずっと後になってから。
「……このおぉぉぉぉっ!」
 陽葉が、叫びとともに踏み込んだ。
 彼女に、考えなど無かった。むしろ、『挑むなら相手してあげる』と、結構挑発的に構えていた。しかし……彼女はその考えを改めていた。
 この相手に、剣で向かったところで『無駄』だと。
 あまりに実力差が違い過ぎる。恐らく剣で切り払えば……軍隊一個師団相手でも、引けは取らないだろう。既にこうやって、同じ空間内に存在しているだけで、こちらの敗北、何をしようと『無駄』に終わる。そんな事を本能的に、理解してしまった。
 しかし……『無駄』だからと、この相手に背を向けて逃げるなどと、そういう選択は浮かばなかった。
 陽葉は真也が打ち込まれ、切り込まれ、弾き飛ばされたのを目の当たりにし、『覚醒』したのだ。
 彼女自身、意識をしていなかったが、陽葉は目前の光景を見た事で、純粋なる戦闘用に己が肉体、己が精神を『作り変えた』。それほどの衝撃、それほどの衝動が、陽葉を強化していた。
 今の彼女は、身体機能全てが『戦闘』にのみ特化していた。
 神速の月光斬が、『ソードステッパー』に襲い掛かる。恐らく……否、間違いなく、過去に彼女が相対したエインヘリアルなら、一撃で屠る斬撃だった。
 だが、『ソードステッパー』は違っていた。規格外、でたらめ、予想外。そいつの剣の腕は、そう形用するにふさわしいものだったのだ。
 振り向き、正眼に剣を向けた『ソードステッパー』は、
 踏み込み……、打ち込んできた陽葉の刃を刃で弾き、その柄を彼女の胴へ突き込んだ。
「ぐっ! ……ああああっ!」
『白露の戦衣』が、なんとか彼女の肉体を守った。が……柄の一撃は彼女をくの字に折らせ、弾き飛ばされ、意識を奪わせるのに十分だった。
(「……だ、だめ……強すぎる……勝て……ない……」)
 陽葉が見たのは、『ソードステッパー』が剣を正眼に構え、そのまま自分を斬り捨てんとする光景だった。

●剣士なれば、勝つ事のみが望み。死して屍、拾う者無し。
「い、いや……いやぁぁぁぁぁっ!」
 部員たちは、既に避難完了。
 あとはじゅりと、琥珀だけ。しかし琥珀は、避難先の教室へ続く廊下の途中で座り込み、パニック状態に。
「ちょ、ちょっと琥珀! どうしたのよ!」
「こわい、怖いの……! 殺されるの怖い! あんなに殺されたくない!」
 子供のように、いやいやと首を振る琥珀。
「お、おねえちゃん!?」
 ピュアニカも促すが、やはり動けない。
「や、やめてよ琥珀。わたしだって……あなたがそんなんじゃ……」
 そして、じゅりも。時間差で怖くなったのか、その場に座り込んだ。
「あ、あなたみたいに……強いあなたみたいに、なって……姫香に、告白……す、するつもり……なのに……」
 じゅりも、震え出した。今まで必死に抑えていた恐怖が、噴き出てしまったかのように。
「こ、怖い……怖い! 怖い怖い怖い怖い! あんなのに、じゅりへの気持ち伝えられないまま、殺されたくない!」
 琥珀の言葉とともに、殺戮される事の恐怖の空気が、蔓延する。
 が、その空気が、いきなり甘くなった。
「……こんな時に、『サキュバスミスト』はきくかなーって思ったけど……」
 だが、効果はあった。怖がる女子二人は抱き合い……、
 まるで、互いの恐怖を和らげんとするかのように、口づけを交わしていた。
「……姫香は、告白しても……受け入れてくれないってわかってた。けど、それを認めるのが怖くて……強がってたの……」
「わ、私も……ラファ女の部長に、じゅりを取られるんじゃないかって……」
 まだ二人は、怖がっている。そんな二人を、勇気づけるかのように、
「……おねえちゃんたち、大丈夫ですよ」
 優しく、ピュアニカは肩に手を回した。
「……あれは、ここまではきません。それに……おねえちゃんたちは、お互いに、お互いのコトを、好きだったけど……何も言えず、離れるかもって『怖かった』んでしょう?」
 涙で濡れた二人の瞳が、ピュアニカに向けられる。
「でも、こうやって、お互いに『好き』って事が、もうわかったんなら……問題はもうないよー! さ、立って。ここより、もっといいトコで告白しなきゃ! 応援するよー♪」
 立ち上がった二人を見上げ、こちらはもう大丈夫……と、ピュアニカは悟った。
 この二人を送ったら、すぐに戻らないと。たぶんあのエインヘリアル、倒されちゃってるかも。
 ピュアニカはいささか希望的観測とともに、そんな事を考えていた。

 希望を絶望が断つように、陽葉の生命も断たれようとしていたその時。
『ソードステッパー』の剣に、両腕に、大量の白い鎖が襲い掛かった。
 白い鎖は、そいつの周囲から出現していた。空間そのものに穴がいくつも空き、そこから放たれていたのだ。無数の白き蛇が一体の獲物を狙うかのように、空間から現れた多数の鎖は、エインヘリアルへと迫りくる。
『ソードステッパー』は、すぐに気づき、バックステップで襲撃をかわしつつ、その鎖を切り払う。だが、鎖の数は多く、追いつかない。たちまちのうちに……その剣の刃に、腕に、首に、胴体に。
 白き鎖が巻きつき、その動きを拘束した。
「……し、シフカ!?」
 吹き飛ばされ、壁に叩き付けられ、転がされていた真也は。
 自身にシャウトをかけて回復させつつ……シフカの様子を見て……驚愕していた。
 廃命白刃『Bluと願グ』。愛用の日本刀を手にしたシフカは、疾風怒涛の勢いで、『ソードステッパー』に襲い掛かる。剣を手にしたエインヘリアル、ないしはそいつの死角から切り込み、突き刺し、叩きのめす。
『ソードステッパー』が動けぬ状態で、装甲の隙間へと容赦無き白刃の切り込みが襲い掛かった。何度も、何度も、それは神速ならぬ、魔風が如き勢いを伴うそれ。
「……押している、か? だが!」
 そう、押している。しかし……押してはいるが、安堵はできない。勝利を目前にした『余裕』が感じられない。
「……ッ!」
 シフカは『吠えた』。理性無き獣の咆哮が、その場に響いていた。
 だが、『ソードステッパー』もまた、無力に攻撃を受けるのみではない。強引に身体を振るい、鎖を引きちぎると、
 切りかかるシフカに、切りかかった。
「シフカ!」
 かろうじて回復した真也と、
「シフカ……さん!?」
 血反吐を吐きつつ意識を取り戻し、立ち上がった陽葉の目前で、
 シフカと『ソードステッパー』の刃が交差し、互いにその肉体へと、その刃が食い込み、赤い血潮が迸っていた。
 シフカの身体から、胴体と四肢から、切り裂かれて血が噴き出る。
『ソードステッパー』の神速の剣先が、一撃と見せかけ、少なくとも五つの斬撃を放ち、その全てが、シフカの身体を切り裂いていた。
 それに対し、シフカの剣は。一撃、たったの一撃しか当てられていなかった。
 エインヘリアルは、振り返った。その動きに合わせ、
 ごろり。そんな音とともに、兜と面頬に包まれた頭部が、道場の床へと転げ落ちた。
『Bluと願グ』の刃は、『ソードステッパー』を斬首していたのだ。
 ……見事、也……。
 真也と陽葉は、幻聴を聞いていた。
 エインヘリアルの首なき骸が呟いた、シフカへの賛辞を。
 そして、シフカは。
『暴走』したまま……道場の扉を破り……、
 荒れ狂いながら、そのまま去って行った。

「……ええと、真也お兄ちゃんに、陽葉おねえちゃん? シフカおねえちゃんは?」
 避難を終え、道場に戻って来たピュアニカは。
 斬首された『ソードステッパー』と、疲れ切ってはいるが、無事な様子の真也と陽葉を見て、安堵したが、
 シフカの姿が見えない事に気付き、悟った。
 彼女が暴走して、エインヘリアルを倒したのだと。
 そして今回の件は、そうでもしなければ解決できなかったほど……恐ろしい相手だったのだと。

●……否、死して屍、拾う者、『無き者』と、『在る者』が在り。
「……ね、ねえ。内緒にしておいて、よね?」
「ないしょ? ……にげるときに、琥珀がおもらしした事を?」
「そうそう……って、じゅり、気付いてた、の?」
「実は最初から気付いてたりして……琥珀。やっぱり私、姫香との試合に勝つよ。けじめとしてね。そして……勝ったら、あなたに告白して、正式につき合いたいと思う。待ってて、くれる?」
「……うん、待ってる」
 道場の前で、語らう二人の様子を見て。とりあえず彼女たちに関しては解決したと、ピュアニカは悟った。
 しかし、こちらの二人……仲間の二人、ケルベロスの二人の様子を見て、ピュアニカは別の事を悟っていた。
「……シフカおねえちゃんが、『暴走』したのね?」
 疲れ切った面持ちの二人は、こくりと頷いた。
「……シフカに、助けられたな。くそっ、奴の相手をするどころか、剣を受ける事すらできず、一撃で瞬殺とはな……格好悪すぎだぜ、俺」
「……今度は、僕たちが彼女を、シフカさんを助けます」
 確かに、『ソードステッパー』は倒せた。しかし、それはシフカが身を張ってくれたから。
『試合には勝ったが、勝負には負けた』そんな敗北感が、二人を苛んでいた。
 このまま、負け犬気分を満喫するか?
 否!
 ならば、彼女を探し出さねばなるまい。それが、この命を拾ってくれた相手への義務であり礼儀。
「……一休みしたら、シフカを探し出すぜ」
 真也の言葉に、陽葉とピュアニカは、頷いていた。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:シフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532) 
種類:
公開:2020年10月8日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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