拒絶の魔草少女

作者:雷紋寺音弥

●誤解からの家出
 夜の帳が落ちた公園。人気もなく、ひっそりと静まり返ったその場所で、三代・朝美(みしろ・あさみ)は大きく溜息を吐いた。
「なによ……お父さんも、お母さんも、皆してお兄ちゃんの味方ばっかりして……」
 日中から家に籠り、おまけにオタク趣味の兄。そんな兄のことを友人から馬鹿にされたことがきっかけで、朝美は両親や兄と度々喧嘩をした。実際、20歳を過ぎても未だに彼女も作れず、常にセンスのない格好で家の中をうろつく兄を、疎ましくさえ思っていた。
 だが、今までに幾度となく兄に出て行って欲しいと告げても、反対に朝美の方が叱責される始末。そして、とうとう堪忍袋の緒が切れて、両親の制止も振り切って家を飛び出したというわけだ。
「はぁ……。とはいえ、お金もないのに飛び出して、この先どうするのかって話よね……」
 もっとも、衝動的な行動故に、後先考えていなかったのは拙いと思ったのだろう。再び、朝美が大きな溜息を吐いたところで……唐突に、彼女の前に奇妙な生物が現れた。
「やあ、こんばんは。突然だけど……君、魔草少女にならない?」
「えぇっ!? ちょっ……なんなの、あなた!?」
 突然のことに驚く朝美だったが、その生き物は全く構うことなく話を続けた。
 曰く、魔草少女になれば、世界中の誰もが幸せな世界を作ることができる。同じ理由で力を得た友人もたくさんおり、そこにはきっと君の居場所もあると。
「そういうわけで、この種を貰って欲しいんだけど……駄目、かな?」
「……なんか、物凄く胡散臭いんだけど……。でも……」
 啖呵を切ってしまった手前、どの道、自分は家になど帰れない。未だ迷いを残しつつ、朝美が種に手を伸ばすと、次の瞬間に彼女の身体は眩い光に包まれた。
「え……これって……」
 輝きと共に衣服が消え、代わりに植物の蔓が全身に巻き付いて来る。それらは融合して緑色のインナーとなり、更には葉を重ねたような形状の肩当てやスカートが出現し。
「うんうん、これで君も今日から魔草少女だね。さあ、君の居場所を奪った悪い奴ら……君のご両親とお兄さんを、殺しに行こうか」
 耳元で囁く生き物の言葉に、朝美は軽く頷いた。そんな彼女の胸元には、黄色いカーネーションの花を模したアクセサリーが静かに輝いていた。

●魔草の種を播く者
「召集に応じてくれ、感謝する。ユグドラシル・ウォー後に姿を消していた『攻性植物の聖王女アンジェローゼ』が行動を開始したようだ。どうも、配下を使って親衛隊の魔草少女を増やそうとしているらしいが……」
 問題なのは、その魔草少女が、元は人間の家出少女だということだ。このままでは、少女は攻性植物に乗っ取られて完全なデウスエクスとなり、両親と兄を手に掛けてしまうと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に告げた。
「家出少女の名前は、三代・朝美。私立高校に通う現役の女子高生で、歳の離れた兄がいるようだ」
 その兄なのだが、仕事は在宅ワーク中心のフリーランス。きちんと働き、実家に金を入れてはいるものの、身形が悪く容姿にも無頓着なことから、朝美は随分と前から毛嫌いしていたらしい。
 実際、友人からも朝美は兄のことを何度も馬鹿にされた。その結果、朝美は兄を『引き籠りのニートと似たようなもの』と見下し、彼のオタク趣味に対しても、露骨に嫌悪感を示すようになってしまったのだとか。
 正直、これは酷い誤解である。フリーランスであっても働いている以上、彼女の兄はニートではない。実際、彼は朝美の学費も幾分か肩代わりしており、在宅ワーク中心とはいえ、しっかり家計も支えているのだ。
「まあ、そのことは、朝美本人は知らないんだがな。どうやら、妹に変な気遣いをさせないよう、兄が口止めしていたようだが……」
 そのことが、今回は話が拗れる原因となってしまったのだから笑えないと、クロートは苦笑した。そして……誤解から両親や兄と喧嘩をし、衝動のままに家を飛び出した彼女の前に現れたのが、他でもない聖王女アンジェローゼの配下、播種者ソウであった。
「播種者ソウが朝美に接触するのは、彼女の家の近くにある公園だ。時刻は夜で、周囲に人はいない。だが、魔草少女になった朝美は、播種者ソウに囁かれるままに、自分の兄や両親を殺しに向かってしまう」
 残念ながら、朝美が魔草少女になるのを止めることはできない。そのため、彼女が肉親を手に掛けるのを止めるために戦うことになるのだが……これが、少々難しい。
「魔草少女になった朝美は、そのまま戦って倒された場合、デウスエクスとして死亡してしまうからな。おまけに、元凶である播種者ソウを倒さない限り、お前達の言葉も届かない」
 朝美を救うためには、先に播種者ソウを倒す必要がある。幸い、デウスエクスとしては極めて弱い存在なので、グラビティの一発でも命中させることができれば容易に退治できる。播種者ソウさえ倒してしまえば、こちらの言葉も朝美に届くので、彼女の誤解を解いて納得させた上で撃破すれば、攻性植物の種子と朝美を分離できる。
「問題なのは、播種者ソウが朝美を盾にして来ることだ。こいつは朝美の肩に乗っていて、まともに狙いをつけることは難しいぞ。どうしても播種者ソウを先に撃破するなら、狙撃が行える者がいなければ、まず不可能だろうな」
 反対に、先に朝美を倒してしまえば播種者ソウは逃げようとするので、そうなれば狙撃などせずとも撃破は容易い。身代わりにできる魔草少女がいなければ、播種者ソウにケルベロスの攻撃を避けたり防いだりする術はない。
「朝美を助けようとした場合、かなりの苦戦が予想されるぞ。だが、それでも彼女を助けたいという場合は、長期戦も視野に入れて、播種者ソウだけを先に倒す術を用意しておいてくれ」
 実際、朝美は心の奥底では、両親や兄を殺したいとまでは思っていないはず。それ故に、一度でも誰かを手に掛けてしまったら、もう彼女は人間には戻れない。
 魔草少女としての朝美の力は、黄色のカーネーションに由来するもの。花言葉は『拒絶』『失望』そして『軽蔑』。しかし、それらは全て朝美の思い込みよる誤解である。
 できることなら、人でなくなる前に彼女を救いだして欲しい。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)
除・神月(猛拳・e16846)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●拒絶の少女
 公園の街灯に照らされて、奇妙な姿をした少女が一人佇んでいる。こんな時間に、いったい何故。何も知らない者からすれば、なんとも奇異な光景に思えたが。
「お待ちなさい!」
 歩みを進めようとしたところで、唐突に誰かが少女を……魔草少女となった三代・朝美を引き留めた。朝美が振り返ると、そこに立っていたのはLED投光器を手にしたルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)だった。
「……っ!」
 いきなり光を浴びせられ、思わず目元を手で覆う朝美。次の瞬間、茂みから飛び出した除・神月(猛拳・e16846)が、問答無用で銃を構えて引き金を引いた。
「オラァッ! 先手必勝だゼ!」
 闇を切り裂き、銃弾が跳ぶ。朝美の頬を掠めたかと思われたその弾は、彼女の後ろに置かれていた街灯の支柱に命中して跳ね返り、今度は朝美の肩に乗っている奇妙な生物へと向かって行くが。
「おっと! いきなり攻撃して来るなんて、とんでもないやつだね」
 その生き物、播種者ソウは朝美の身体を盾にして、神月の攻撃を軽々と避けた。
 なるほど、これはなかなか厄介だ。朝美の動きを封じる手段はいくらでも考えられるが、その上に乗っているソウの動きを封じる手段は限られる。おまけに、ソウは朝美の身体を盾にして逃げ回るため、朝美が持っている所持品を狙い撃つのとはわけが違う。
 恐らく、先程のLEDの光も、朝美の後ろに回ることで視界を奪われることを避けたのだろう。おまけに、攻撃されたことを逆手にとって、ソウは再び朝美の耳元で何かを囁いているようだ。
「ほら、今の見たでしょ? あいつらは、君を殺そうとする悪い奴だよ。君の居場所だけでなく、君の命まで奪おうとしているんだ」
 だから殺せと、ソウは命じた。先程の攻撃は自分を狙ったものではなく、朝美を狙ったものであると偽って。可愛い顔に似合わず性格は最悪。正に外道と呼ぶに相応しい。
(「そういえば、悪魔って可愛いものに化けて人間を騙すって聞いたことあるよ……」)
 事の成り行きを見守っていたリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が、ふとそんなことを考えた。
 悪魔。確かに、ソウのことを形容するなら、それが最も相応しい言葉だ。人間の心の弱さに付け入り、言葉巧みに悪の道へ導くという点では、ソウは間違いなく悪魔なのだろう。
(「さて……これは、一筋縄じゃ行かなそうね。下手に連射するよりも、位置取りをしっかりしておかないと拙いかも」)
 そんな中、未だ茂みに隠れつつ、モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)がソウに狙いを定める。
 残念ながら、今の状況ではソウを一撃で狙い撃てる保証はない。ならば、少しでも狙撃を成功させるため、少しばかり準備が必要だ。
 その間、なんとしても朝美を押さえていて欲しい。仲間達の力に全てを託し、モモはこっそりと狙撃に適した場所へ移動を開始した。

●囁く者
 朝美を盾に逃げ回る播種者ソウ。朝美の持っている武器などを撃ち落とすならまだしも、朝美とは異なる意思を持ち、自ら動き回る標的を狙い撃つのは容易ではなかった。
「ほらほら、頑張って。ここで僕がやられちゃったら、君は自分の居場所を守ることができないよ」
 ソウに促されるままに、朝美は自らの身を盾にしてソウを守り続けた。ソウと朝美、二人が別々の動きをするので、それらの動きを同時に予測して狙い撃つのは困難を極める。
「ちっ……ちょこまか逃げんじゃねーゼ!」
 神月の放った気弾がソウに迫るも、朝美が横跳びに動き、更にソウが朝美の背後に隠れたことで、やはり避けられてしまった。それでも諦めず、次の一手を考える神月だったが、それを繰り出すよりも早く、朝美が両手から凄まじい衝撃波を放って来た。
「げっ! な、なんだよ、こいつハ!?」
 身体が重い。破壊力は大したこともないが、これでは腕が振るえて狙いが上手く定まらない。
「なんとしても自分を狙わせないつもりなんだね。でも、そう好きにはさせないよ」
 巨大な氷柱を戦場に展開することで、リリエッタは守りを固めた。これで衝撃波の影響を少しでも緩和できれば幸いだが、過信は禁物。
「ご安心下さい。茨の棘に刺されても、あなたがたは決して死にません。ただ眠り続けるだけ……」
 ルーシィドの繰り出す荊が神月達に巻き付き、しかしそれは直ぐに解けるようにして消えた。が、それと同時に身体を覆う重しのような感覚まで消えており、敵の魔術による効果もまた消滅していた。
「あらら、魔法が解けちゃったね。でも、それで勝てると思ったら間違いだよ」
 お前達では、絶対に自分を狙えない。既に勝利は決まったと確信しているソウだったが……果たして、そんなソウの言葉に対し、ケルベロス達は何故か余裕の表情を見せており。
「ハッ! そいつはどうかナ? あたしにばっかり気を取られ過ぎて、もっとヤバいやつが他にいるの、忘れてねーカ?」
 神月がニヤリと笑った。確かに、彼女の攻撃は、先程からソウを捉えてはいなかったが。
「……悪いわね。残念だけど、チェックメイトよ」
 代わりに、モモの構えた拳銃が、しっかりとソウを狙っていた。それでも、朝美の背後に逃げれば関係ないと嘲笑うソウだったが、周囲の様子を見て思わず固まった。
「えっ……? こ、これって……」
「今頃気付いた? ……間抜けだね」
 冷たく言い放つリリエッタ。見れば、彼女が味方を守るために展開した氷柱が、そこら中に立っている。その表面は鏡の如く四方八方からソウの居場所を映し出し、更にモモの放った銃弾を跳ね返す壁でもあり。
「さあ、逃げられるものなら、逃げてみるがいいわ」
「うわわ! ちょ、ちょっと待ってよ!?」
 ソウが気付いた時には既に遅く、モモの放った銃弾は、周囲の氷柱を使って何度も跳弾しソウに迫った。最初は鉄柱やベンチくらいしか弾を跳ね返す場所のない公園だったが、戦いを通して障害物が多数作り出された今、それは無力なソウを封じ込め、確実に命を奪うための檻と化していた。
「ひっ! こ、こんなの! 避けられるわけな……ぎゃぁっ!!」
 逃げ回るソウだったが、さすがに今度ばかりは逃げきれない。ほんの一発、銃弾が身体に命中しただけで、ソウの身体は青臭い何かを撒き散らしながら、木っ端微塵に弾け飛んでしまった。
「他人を唆し、嘲ることにばかり夢中で、ご自分が謀られていたことに気が付かなかったようですわね」
 賢者を気取る愚者程、御し難いものはない。ルーシィドの口から語られる痛烈な皮肉に、しかしソウは既に答える術を失っていた。

●少女の本心
 播種者ソウは砕け散り、残すは魔草少女と化した朝美のみ。
 ここで彼女を倒せば、彼女の家族が殺されることはない。だが、それだけでは駄目だ。朝美に殺人を思い止まらせることができなければ、彼女は魔草少女として……デウスエクスとして死んでしまう。
 救えるものなら、救いたい。長引く戦いにより消耗の激しいケルベロス達だったが、それでも最後まで諦めなかった。心を閉ざし、全てを拒絶する朝美を説得するのは容易ではないが、それでも彼女が人に戻れる可能性があるのなら、それに賭けるのが正解だと。
「他人に誇れねー身内が居るってのは確かに辛いかも知れねーナ? でもお前の兄貴、ちゃんと働いてるらしージャン」
「どうして家族は兄の味方をするか……兄はあなたを影ながら支えてるからよ。友達は兄を馬鹿にしてるみたいだけど、あなたを馬鹿にする事は許さないはず」
 多少、身形がイケていなくとも、趣味がオタクであろうとも、朝美の兄が朝美を影から支えていたのは間違いない。だから、彼を恨むのは筋違いだ。そう言って語り掛ける神月やモモだったが、ここまで来てしまった以上、朝美にも退けないものがある。
「ちゃんと働いてる? 影ながら支えてる? 一日中、部屋の中に引きこもってパソコンばかり弄って……それの、どこが働いてるっていうのよ! あんなの、ただのキモいニートじゃない!!」
 兄の仕事が何なのかを知らない以上、朝美は神月やモモの言葉にも耳を貸さなかった。が、それでも二人は諦めず、更に朝美に畳み掛けた。
「兄貴に失望したのは期待してたからだロ? 人に見せねーように努力するとカ、ヒーローみたいでカッコいいじゃねーカ? 今はそう思えなくてモ、ちゃんと話せば見直すところも多いかも知れねーゼ!」
「うるさい! 私に力をくれた子を……私の居場所になってくれるかもしれなかった子を殺したくせに!」
 再びの拒絶。播種者ソウに心酔している彼女の目を覚まさせるのは、やはり並大抵の言葉では難しい。しかし、そのあまりに狭小かつ自分勝手な視野に、モモは大きく溜息を吐いた。
「……全然分かってないわね。あいつはあなたを利用しただけの詐欺師よ。家族の思いを知らない点を付け込まれただけで、殺したいって思ったかしら?」
「そ、それは……」
 本当に兄を始末したいと思ったのか。本当に家族を殺したいと考えていたのか。さすがに、モモからそう問われれば、朝美も答えに詰まってしまった。勢いで殺すしかないと思っていただけで、朝美も最初から殺したいと思ってはいなかったわけで。
「本当に殺したいなんて思ってるの? 友達に家族を馬鹿にされて、本当は悲しかっただけじゃないの?」
 どうにもならない現実に、憤りを覚えて八つ当たりすることはある。だが、それが人を殺す理由になってはいけないと、今度はリリエッタが朝美に語り掛け。
「それに、お兄さんもお家で仕事してるって聞いたよ? ぱそこんとか使ったお仕事だと、今ならお家にいてもできるみたいだね」
 満員電車に乗って会社に出勤するだけが仕事ではない。そして、自宅で出来る仕事だからと言って、安月給とは限らない。
 時代は変わっているのだ。だから、朝美も考え方を変えねばいけない。それは確かに正論であり、朝美も少しばかり足を止めて、俯きながら考えたが。
「でも……それでも、私はもう、魔草少女になっちゃったのよ! だから、あの家にはもう帰れないの! 私と同じ、魔草少女の仲間がいるところへ行くしかないの!」
 半ば強引に迷いを振り切るようにして、朝美は強烈な雷撃を放って来た。狙いなど、誰でも構わない。これ以上、自分に構わないでくれ。自暴自棄な感情のままに放たれた攻撃は……しかし、仲間達の前に躍り出たルーシィドが、全身を盾にして受け止めていた。
「……っ! その程度……ですか? それでよく、殺すなどと軽々しく口にできたものですわね」
 全身から黒い煙を上げながらも、ルーシィドは立っていた。その口調は普段の彼女からは想像できない程に、手厳しく、そして強い意志の感じられるものだった。
「殺すというのは、こういうことですわ。簡単にそれを口にした者の、それが末路です」
 播種者ソウが残した緑色の染みを指差し、ルーシィドは告げた。殺してしまえば、もうその相手とは言葉を交わすこともできない。本当は何を思っていたのか、それを知ることも叶わない。
「でも、あなたは分かっているはずですわ。あなたに『殺せ』と命じたモノの邪悪さを」
 本当に相手のことを考えているのであれば、安易に殺人など命じない。ましてや、家族を殺させようとするなど鬼畜の所業。取り返しのつかない罪を犯させようと囁いた時点で、あの生き物は天使でも妖精でもなく、紛れもない悪魔だ。
「あ、悪魔……。そんな……それじゃ……私は……」
 自分の信じていたものが崩れ去り、朝美は力なく膝を付いた。もはや、彼女に戦う意思はない。ならば、ここで確実に仕留めることで、彼女の身体から魔草少女の種子だけを取り除くことができるはず。
「これで動きを止めるよ! ライトニング・バレット!」
 まずは、リリエッタが雷の魔弾を撃ち込むことで、朝美の動きを封じ込め。
「ちょいと痛むゼ。歯ぁ食いしばりナ!」
「私の本当の切り札、その身に刻みなさい!」
 神月の拳が、モモの握った銃身が、それぞれに朝美を殴打したところで、彼女の身体が吹っ飛んで行き。
「あ……うぅ……」
 瞬間、朝美の着ていた魔草少女の衣装が弾け飛ぶと同時に、背中から一粒の種が排出された。それは、まるで朝美の受けるはずだった衝撃を代わりに全て受けたかの如き勢いで吹っ飛んで行き、近くのベンチに激突して無残に割れた。

●和解
 播種者ソウの企みを打ち破り、ケルベロス達はなんとか朝美を助けることに成功した。
 だが、誤解こそ解けたものの、朝美の表情は暗い。あんな啖呵を切って飛び出してしまった以上、いったい家族になんと言って顔向けすれば良いのか分からないようだった。
「……大丈夫。あなたは悪い夢を見てただけよ」
 朝美を励ましつつ、モモは彼女を自宅まで送り届けた。他の者達も、その後に続く。やがて、朝美の家に辿り着いたところでインターホンを押すと、一番最初に飛び出して来たのは、父や母ではなく兄だった。
「朝美! お前、どこ行っていたんだ! 皆、心配していたんだぞ!」
 これ以上、連絡が取れないのであれば、警察に捜索願を出すところだった。そう言って諫める朝美の兄は、しかし朝美に対して怒りを見せることはなく。
「言いたいことがあるなら、伝えるのは今ですわ」
「ね、もう一度きちんと話し合ってみよ?」
 ルーシィドとリリエッタに背中を押され、朝美も小さく頷いて兄と向き合った。その上で、改めて自分がどう思っていたのか、本当に兄は家計を支えていたのかなど、色々と思うことを吐き出した。
「……なるほどね。まあ、確かに朝美にそう思われても仕方がないな。ただ、俺が稼いでいるっていうのは本当だよ。フリーランスではあるけど、一応はSE兼プログラマーとして、それなりに仕事をさせてもらっているしね」
 ちなみに、先日ようやく自分の手掛けていた新しいプログラムが完成し、2ヵ月ぶりに収入を得た。その額、およそ200万円。その額を聞いて朝美だけでなく、ケルベロス達も唖然とした。
「に、200万!? なんだよ! お前の兄ちゃん、メチャクチャ凄いじゃねーカ!」
 両目を丸くして神月が叫ぶ。収入こそ不定期だが、一度にそれだけの金を稼げる人間が、ニートなんぞであるはずもない。
「朝美……お前、大学に行きたがってただろ? だから、これはお前の学費に使ってもらうつもりだよ。父さんと母さんの稼ぎには……こう言っちゃ悪いけど、あまり期待できそうにないしね」
 本当は秘密にしておくつもりだったが、仕方がない。そう言って苦笑する兄の姿に、朝美は気が付けば涙を流していた。
「お兄ちゃん……ありがとう!」
 主観と見た目だけで人を判断するのは愚かなこと。今回のことを通して、朝美もそれに気が付いたようだ。本当に自分のことを大切にしてくれているのは、いったい誰なのかということを。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月18日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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