キララの誕生日~魔女の祝祭

作者:つじ

●魔女の隠れ家
 小さな森の片隅に、木造建築の小屋が一つ。丸太で組んだ、素朴な雰囲気のその建物は、木々の合間に紛れるように、そこに在った。
 ドアノッカーを鳴らして扉を開ければ、様々な構想の入り混じった、不思議な香りが広がるだろう。
 そして、小屋の中には女が一人、竈に乗せた鍋に向かっていた。
 ドレスのような黒衣、大仰な格好をしたその『魔女』は、しばしの間、曰く言い難い色合いのそれをぐるぐると掻き混ぜていたが。やがて口の端に不気味な笑みを浮かべて、ゆっくりとこちらを振り返る――。

「ああ、いらっしゃい。今お茶が出来上がるからちょっと待っていてくれるかな?」
 
●秋分のサバト
 そろそろ秋分の日が近いだろう、と五条坂・キララ(ブラックウィザード・en0275)はそう切り出した。一年の内、季節と共に昼と夜の長さは変わる。その二つの時間が等しくなるのが、春分の日と秋分の日だ。
「秋分の日を過ぎると、昼の時間の方が短くなっていく。つまり太陽の力が弱っていくのだとみる事もできるだろう? それゆえに、それまで大地を照らし、様々な恵みを与えてくれた太陽に感謝するため、魔女はこの時期に祝祭――サバトを執り行うんだよ」
 まあ、魔女と言っても様々だけどね、と彼女はそう付け加える。黒魔術に傾倒したタイプの儀式や、乱痴気騒ぎ、ドリームイーターのあれやこれやとはまた違い、今回キララが言っているのは素朴な『収穫祭』に近い。
 恵み多き豊穣の作物をいただき、季節と太陽に感謝を捧げる――。

 そんな解説を一通り並べたところで、ふう、と彼女は肩を竦めた。
「平たく言うとあれだね、ハーブと果実を私の隠れ家に集めてあるから、一緒にお茶でもどうかと思って」
 摘んできたものや取り寄せたそれらが棚にいっぱい。香りと効用を考えてブレンドしたハーブティーも作れるし、果実を絞ってジュースにしたり、煮詰めてジャムにしたって良い。
 それでは物足りないならば、野イチゴやブドウを漬け込んだ秘蔵の果実酒を出してこよう。
「気が向いたらで構わない、是非来てくれたまえよ」
 ふふん、と小さく鼻を鳴らして、一同にそう告げた彼女は、早速自家製らしいハーブティーを優雅に啜った。


「――にっが!?!?」


■リプレイ

●贈り物を
「あ、これはアタシ達から」
「誕生日おめでとうございます!」
 誕生祝に、翔子とシアからキララへと、小さなキッチンウィッチが贈られる。
「ありがとう――いいね、どこに飾ろうかな」
 魔女の隠れ家には丁度良いだろう、そう笑ったキララは、早速良い感じの場所を探し始めた。

「折角です、私達もオリジナルドリンクを作って交換しましょうか」
「……ま、どんなモンが出来上がっても良けりゃあ構わないよ」
 弟子の提案に頷いて、二人もまた魔女らしく、今日という日を楽しむことにした。
「せんせいはお酒好きですからねえ……」
 やはりベースは果実酒を使うのが良いだろうか。レモン、オレンジ、ローズヒップにハイビスカス――色鮮やかなそれらを加えて軽く似て、シナモンスティックを添えれば。
「特製サングリアの完成です!」
 それでは師に贈る前に、少しばかり味見を。スプーンで掬ったそれを、口に運んで。
「すっっぱいですわ!?」
「……何をやってるんだい、シア」
「ええ、丁度せんせい用の飲み物が完成したところですわ」
「ふうん、どれどれ――うわすっぱ!!?」
 悲鳴を上げた翔子に、「でしょう?」とシアは笑みを向ける。
「でも栄養は満点、のハズ!」
「そうかい……蜂蜜加えて良い?」
 どうぞと答えて、シアは翔子の持ってきたティーカップに口を付けた。
「せんせい……適当に詰め込みました?」
「師匠に対して失礼じゃないかい?」
 でも、中々見た目は良いだろう、と言う翔子の言葉に小さく笑いながら、それを味わう。カモミールにミント、レモングラスにレモンバーム。ハーブの知識に関してはシアに及ばないかもしれないが、この辺りのものならば翔子も知っていたのだろう。
「んん……美味しいですよ! 気持ちがシャキッとしそうです」
「それは何より。こっちも蜂蜜入れたら良い感じになってきたよ」
 そうして二人は、互いの『作品』を味わって笑い合い――。
「あ、白鳥沢さんと黒柄さんにも持って行ってみましょうか」
「あの二人も来てるの?」
 視線を巡らせた先に見つけた顔馴染みへと、声をかけに行った。

●大人の苦味
「さあ、今日は飲もうじゃないの」
 ちょっと良い蜂蜜とクラッカーを手土産に、キララの向かいに座ったサイファが言う。
「良いとも、それじゃあ果実酒を――」
「いや、今回飲むのは、それだ」
 ふふん、と気取った笑みを浮かべて指差したのは、彼女の手元の自家製ハーブティーだ。
「そうかい? 構わないけれど……」
 サイファのカップにもそれを注ぎつつ、「結構苦いよ」と付け加えるが、彼はそれを笑い飛ばして見せた。
「オレだって今年でアラサーのイケおじ候補生だぜー? 苦いお茶くらい飲めないで……んん!?」
 一口啜ったところで、眉が跳ねる。
「ええと、健康的? な味? ……ごめん、水ちょうだい」
「ああ、健康面への効能は保証するよ……」
 サイファへと水を差し出しつつ、キララも自分のカップを傾けて眉根を寄せた。
「でもさ、これ蜂蜜入れればイケんじゃね?」
「多少はマシになるかもね。……おかわりもあるよ」
 当初の格好付けもどこへやら、こうして二人の試行錯誤は続く。

●真理の探究
 棚に並んだ瓶の中、香草や薬草を視線で撫でて、未明とティアンは「ふむ」と揃って顎に手を遣る。未明にとっては覚えのあるものが大半、しかしティアンにとっては『こちら』の植物は少しばかり馴染みが薄いか。
「だが、ティアンはジャム作り……というか火の番をしているのは得意だぞ」
「ああ、それは心強い」
 うむ、と未明が頷いて返す。くつくつと、ジャムが煮えて美味しくなるのを待つのは楽しいものだ。
「甘酸いのがいいな」
「ノイチゴだと酸っぱくなりすぎないか?」
「では林檎も入れよう」
 材料を揃え始めたティアンを見て、未明も方針を定める。
「おれはお茶を作ろう」
 お祝い事だから香りは華やかに、それから、飲むと温まるようなものがいい。鍋を火にかけたティアンの横で、瓶のラベルとハーブの匂いを確かめながら、未明は大事な一杯を淹れるべく準備を始める。
 手際よく、けれどどこかのんびりと、ジャムを煮詰めるペースに合わせて。
「なるほど、良い匂いがしてきた……出来たら味見させてほしいな」
「ああ、是非しよう」
 ティアンの言葉に、未明が頷く。それから、「どうせならジャムをつまみながら飲みたい」と付け足した。
「おいしいものとおいしいものを混ぜたらおいしい。これは真理だ」
 悟りを得たか、良いだろう。ティアンもそれに深く頷いて。
「おいしいものはわけっこするともっとおいしい、これも真理」
 うむうむ。二人の賢者が並ぶそこで、くつくつと鍋が煮えていった。

「ああ……とても良い匂いがするね」
「キララか、丁度良い所に来た」
「ぜひ試食していくと良い」
 主賓、ということになるだろうか、二人は出来上がったジャムとハーブティーをキララに振舞う。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう……美味しい。ほのかに香るスパイスが、ジャムとよく合ってる」
 カップに口を付け、幸せそうな顔をする彼女に、ティアンが問う。
「キララは、調合は普段はしないのか?」
「あまり、ね。調合自体は楽しいんだけど……」
 ああ、と苦笑交じりに未明はティアンと視線を交わし、頷き合った。
「味見はした方が良い」
「……!」
 きっとそれもまた、真理のひとつ。

●専門家
「秋分……サバト的にはメイボン、っていうべきかな」
 節目の時だ、と和は思う。一日で言うなら夕暮れ時、実りと共に、新たな一歩を踏み出す時。過ぎ去った時間を、彼女は思い返す。どうしても頭に浮かぶのは、少しばかり昔の、家族がいた頃の記憶。
 どうしようもなく生まれる感傷を、胸の奥に押し込めて、彼女は向かいに座るキララへと視線を向け直して。
「それで……どうしてこんなに苦くなっちゃったの?」
「いやあ、過去の疲れをデトックスできればと思ったんだけど……」
「効能にばっかり目が行っちゃった? それだと――」
 そうなるのも道理かな、と苦笑する。ハーブティー中心とした喫茶兼バーを営む彼女にしてみれば、教えられる知識は山ほどある。
「詳しいんだね」
「一応これでもハーブで食べてるわけだしね」
 肩を竦めて、ちょっとしたアドバイスを付け足す。平和なその時間に、ボクスドラゴンのりかーが、和の膝の上であくびをひとつ。

●標星
「ご無沙汰してます、お元気でしたか、キララさん」
「勿論だとも。久しぶりだね、イルシヤ君」
 故郷にはない多くの種類の植物が並ぶのを、物珍し気に眺めた後、彼はキララへと視線を戻した。
「キララさんは酒には強い方ですか?」
「嗜む程度だね」
 ははあ、と笑う彼女に、イルシヤは頷く。『秘蔵の果実酒』などと煽るものだから。
「どうにも気になってしまって。俺にも少し、その秘密を分けて頂けませんか」
「ああ、魔女の秘伝の味、披露しようじゃないか」
 要するに『家庭の味』ってことだけどね。そう笑いながら、キララは果実の色に染まった酒瓶を持ってきた。
 酒精に混ざる色濃い果実の風味、それらを味わいながら、イルシヤはグラス越しに彼女を見る。自然と、思い浮かぶのは過去の光景。
 数多を失くしながら、綱渡りみたいに繋がってきた道の先。そこに輝く星が、どれほど救いになるものか――。
「――あなたを見ていると思い出すんです」
「ははあ、嬉しいね」
 微笑身を交わして、グラスを掲げた。
「君にも、星の導きがありますよう」

●賑やかなお茶会
「ねーキララ、お花飾るならこの辺かな?」
「入口にかい? 悪くはないと思うけれど」
「誕生日プレゼント、『祝21周年』みたいな花輪でどう?」
「なゆきち君、ここを何だと思ってるのかな?」
「キララの隠れ家だよね。着替えとか置いといてイイ?」
「別に良いけども……!」
「んじゃー気を取り直して、紅茶でも淹れてあげよっかなー」
 はあ、とこめかみを押さえるキララを置いて、棚に並んだハーブを眺め――。
「キララ―、何か面白いハーブとかない?」
「やんちゃな娘を大人しくさせるヤツで良い?」
「言うねー、でもアタシはキララちゃんがもっと素直になってくれるヤツがいいなー」
「ないけど」
「キララちゃんが少女チックになってくれるヤツとか」
「ないけど!?」
 軽口を叩きながらも、玲衣亜は迷いなくハーブを混ぜ合わせていく。
「ははあ、手際が良いね……」
「でしょー? 飲んでみてよ」
 そうして淹れてもらったお茶に、口を付けて。
「まっず!?!?」
「あー、やっぱテキトーじゃダメかー」
 お詫びに奢るからさ、今度飲みに行こうよ、と。そんな感じでこの場は落ち着くことになった。

●二人だけの
 深呼吸をしてみれば、不思議な香りがリュシエンヌの五感をくすぐる。木々の匂いに混じるそれらは、集められたハーブや果実によるものだろう。ウリルから「サバトに行きたい」と誘われた時には、どうなることかと思ったけれど。
「それでは――」
「ああ、サングリアを作らせてもらおう」
 まずは最初に、と真っ赤な林檎に手を伸ばしたリュシエンヌは、棚に並んだ色とりどりの果実を見遣る。
「果実酒に混ぜるなら葡萄やレモンもいいかしら?」
「特に決まりはないだろうし、好きなフルーツを使ってみよう」
 何しろこれは、『二人だけの』サングリアなのだから。嬉しそうに頷いて、リュシエンヌが果物を選び取っていくと、ウリルもそれに合わせるようにいくつかの果実と、シナモンスティックを手元に加えていく。
 二人並んでそれぞれに、果物を切って絞り、混ぜ合わせれば自然の味のジュースが出来上がる。目指すサングリアまではあと一工程、といったところだが。
「……ジュースの味が気になる?」
「……そんなにわかりやすかった?」
 照れるリュシエンヌへ、ウリルは混ぜていたスプーンでひと匙、それを掬って差し出した。
「果実酒で割るとまた印象が変わると思うから、その前に」
 ね? と促す夫に従って、彼女はそれを口にする。
「どう?」
「……んん~じゅーしぃ!」
 加えられたシナモンが、果実の香りをさらに引き立ている。さすがは、と愛しの旦那さまを褒め称えて、彼女は花咲くような笑みを浮かべた。

「ははあ、これで割るわけかい。考えたね」
 感心したように言うキララから、秘蔵の果実酒を受け取って、リュシエンヌは二人のグラスへそれを注ぐ。
「うりるさんはもっと入れる?」
「うん、もう少し入れてもらおうかな」
 濃厚な果物の香りに、酒精が加わる。手の内で、くるりと一つ掻き混ぜれば、サングリアの完成だ。
「何だか贅沢ね」
「ああ、それじゃ――」
 二人だけのサングリアと、魔女の祭りに乾杯を。合わせられたグラスが、軽やかな音色を奏でる。
「ん、美味しい!」
「ん……なかなかの出来ばえだ」
 広がる味と香りに舌鼓を打って、二人はそうして笑い合った。

●リンデンフラワー
 誕生日おめでとう。お茶を啜っているキララに、マルティナがそう伝える。こうして面と向かって喋るのは一昨年のタロットの件以来だろうか。
「その時の想い人の事だが、先日籍を入れた」
「へっ!?」
「君のアドバイスのお陰だ、ありがとう」
 思いっきり素っ頓狂な声を上げた彼女は、咳払いを一つ。
「そ、そんな、君の行動の成果だとも」
 だから誇ってくれたまえ、本当に、おめでとう!

 ――という一幕を終え、今度はリーズレットの前に、マルティナがお茶を淹れたカップを置いた。
「今日はやけに真剣な顔してるけど、どうしたんだ?」
「……リズ、そろそろ話してもらうぞ」
 そうして向けられた視線の意味を悟って、リーズレットはとうとう来たかとお茶を口に含んだ。かすかに感じる花の香り。やわらかなそれは、少しばかり気を楽にしてくれる。
「私は生まれつき不治の病に侵されていて、翼の変化は病の進行を表しているんだ。元々は真っ白だったのだが進行と共に黒く染まって……」
 今の有様だ、と翼を広げてみせた。光に当たれば紫色にも見えるだろうか、実際のところ、それはほとんど黒く染まっている。
「……これはこれでイイだろ?」
「全然」
 やはり笑ってはくれないか、と肩を竦めて彼女は続ける。
「でも治療法がないって訳じゃないんだ。薬はある。ただ……」
「その薬は、君に宿縁がある死神が持っている……違うか?」
 先回りしたマルティナの言葉に、頷いて。
「うん。私が追ってる組織が必ず薬を持っているはずなんだ」
 紅茶をもう一口、啜った。
「……ありがとう。言いにくいことをすまないな」
 首を横に振って返し、マルティナの瞳を見る。言わなくたってわかるだろう、彼女はきっと私を心配して、今の話で決意を固めたに違いないのだ。それはやはり、どうしても、嬉しく思えてしまうもので。
「……私は良い友人を持ったなぁ」
 本人には聞こえないように、リーズレットは小さくそう呟いた。

●思い出を交わして
 ひとつふたつと白いブーツを鳴らして、クラリスがやってきたのは魔女の家。どこか故郷に似た森の空気を吸い込んで、そこに立つヨハンへと手を振る。
「すみません、急に呼び立てて」
 謝罪の言葉に首を振る。独り過ごすことを苦にしないはずの彼に誘われること、その意味を、彼女も分かっているのだから。
 一緒に扉をくぐって、二人は共にこの日を楽しむ。ふと覗き込んだ彼女の手元には、くつくつと良い音を立てる小鍋が。
「クラリスさんは何を?」
「野苺のコンポート――おかあさんが私に教えてくれた、最初のレシピなの」
「野苺がこんなに深い赤色になるのですね……!」
 感嘆の声を上げるヨハンへと、クラリスもまた視線を向けて。
「ヨハンのそれは?」
「自家製の焙じ茶です。これは師匠直伝のレシピなんですが――」
 彼の師匠と言えば医術に通じているはず。そう思い返しながら、その手捌きに見入る。
「確かに、古いやり方で薬を作るのとよく似てる」
 でしょう、とヨハンは小さく微笑む。
「実はこのお茶は、普段旅団で出しているのと同じものなのですが……今回は、焙じたてを飲んで貰いたくて」
 マグカップに注がれたそれは、目を見張るほどの香りを立たせる。けれど。
「……ほんとだ、いつもの香り」
 非日常の空間の中で味わう、ちょっとした『特別』。深く優しい味に、安らぎの吐息をひとつ。
「こちらもどうぞ、召し上がれ」
「はい、いただきます」
 お返しに、と勧めたコンポートに、今度はヨハンが息を吐いた。
「お味はどうかな」
「とても美味しいですよ」
 胸に落ちる、この温かく優しい感覚は、きっと一人では味わえなかったもの。
「たまには二人で過ごすのも悪くないでしょ。ね、魔法使いさん?」
「ええ、貴女をお呼びしてよかったですよ」
 悪戯っぽく笑う彼女に、目元を緩めてヨハンは応えた。

●色とりどり
 森の中の魔女の隠れ家。何やら秘密を抱いていそうな扉を、ルヴィルとダリア、そして保が開ける。見回せば、壁の棚には香草や薬草、果実が並び、加工されるのを待っているのがわかるだろう。
「わぁ、いっぱいある…」
「色々あるんだな~」
 それらを眺めているだけでも、結構楽しめそうではあるのだけど。
「うん、ボクはお茶作ってみよかな」
 そう言って、保はいくつもの瓶へと手を伸ばした。蓋を開けて匂いを確認したりしながら、それらを混ぜ合わせていく。カモミールとエルダーフラワー、オレンジピールにほんの少しの薔薇とラベンダー。
「保はそういうの詳しいんだ?」
「すごいな~、楽しそ~」
 お花も入れるんだね、とダリアとルヴィルも感嘆の声を上げる。花束を作っていくようなそれに、しばし見入っていたが。
「じゃあ、僕はジャムを作ろう」
 甘いもの欲しくなりそうだし、とダリアは鮮やかな果実を手に取った。
「この季節ならクランベリーとかラズベリー?」
 摘まんだそれ等を、細かくしすぎないようざっくりと潰す。鍋に入れたそれらから、芳醇な果実の香りが広がり出すと、保とルヴィルもそちらに視線を向ける。
「わぁ、色も綺麗」
「へ~ジャムも自分で作れるのか~」
 焦がさないようにゆっくりと鍋をかき混ぜながら、ダリアはルヴィルに向かって小首を傾げる。
「ヴィルはどうする?」
「ん~、迷うな~」
 二人の作業と出来上がり品に興味津々ながら、何を作るか決めかねていたようだが。
「あ……果実酒も、あるんだっけ……」
「ああ、あるけれど?」
 丁度通りかかったキララの顔を、ルヴィルがじっと見つめる。訴えかけるような視線で、それを伝えようとして。
「うん……?」
「果実酒が飲みたい!!」
 結局直接言った。ははあ、と唸ったキララは、すぐに笑ってグラスと果実を漬け込んだ瓶を持ってくる。
「なるほど、君は作るより味わう方が専門ということかな」
 ご賞味あれ、と彼女がそれを振舞ったところで、丁度お茶もジャムも並べる準備ができたようだ。

「え、ヴィルもう始めてるの?」
「ふふ、ルヴィはんはお酒好きやねぇ」
「お茶の方もいただきたいな~」
 はいはい、と頷いて、保の淹れたお茶に、ダリアがホイップを浮かべて。
「ねえヴィル、この粒の大きいトコ、いる?」
「おお、甘そうなとこ貰うぞ~」
「果実酒は、どんな味がするんかな……」
「保は飲めないから、風味だけなら?」
 興味津々な様子な保にも配慮しつつ、粒ジャムにお酒も垂らして。
 鮮やかなジャムと、花束みたいなお茶と、果実酒。それぞれを味わいながら、三人のお茶会は続いていく。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月21日
難度:易しい
参加:17人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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