毒キノコ軍団からリンゴ園を守れ!

作者:秋津透

 紅葉の名所や温泉、そしてリンゴの産地として知られる青森県黒石市の人里離れた山奥で、一体のデウスエクスが新たな眷属を生み出そうとしていた。
 そのデウスエクスの名は『番外の魔女・サーベラス』という。ドリームイーターの魔女に攻性植物が寄生し、両腕から地面へ垂らした涎からモザイク混じりの毒性攻性植物を繁殖させて生み出す力を得た。
「……この程度、かな」
 地面から生えてきたモザイク混じりのピンクのキノコ……のような毒性攻性植物の一群を見やって『番外の魔女・サーベラス』は呟く。
「頼りないシロモノだけど、人間を殺してドリームエナジーを得れば、いくらでも繁殖できる。戦いは数だ。さあ、人を見つけて殺せ!」
 創造者に命じられ、一群のピンクのキノコはふらふらと歩きだす。その足取りでは、当分人里にはたどりつかない……かと思えたのだが。

 場面は変わって、山中のリンゴ園。ログハウスの中で、若い夫婦と男の子が、不安そうな様子で窓から外を眺めている。すると、モザイク混じりのピンクのキノコ……毒性攻性植物が飛び出して、ぴょんと窓に貼りつく。
「きゃああああっ!」
 母親が悲鳴をあげ、三人は窓から飛びのいたが、それより早く、毒性攻性植物は窓ガラスを易々と破り、室内に飛び込んで毒胞子を噴く。家族三人はひとたまりもなく倒れ、毒性攻性植物はぶくぶくと膨れ上がって分裂した。

「ドリームイーターがリンゴ園を襲うのでないかと危惧していたのですが、やはり予想どおりでしたね」
 チャル・ドミネ(シェシャの僕・e86455)が丁寧な口調で、しかしどこか得意げな調子を隠しきれずに告げる。そしてヘリオライダーの高御倉・康が、何でそんな予想ができたんでしょう、と言いたげな表情で続ける。
「はい、その通りです。青森県黒石市で、一部がモザイク化した攻性植物が毒胞子を撒き散らし、現地でリンゴ園を営む家族が殺されてしまう事件が予知されました。モザイク化した攻性植物を生み出したのは、ドリームイーターの残党『番外の魔女・サーベラス』ですが、もはや元凶を捕捉することはできません。山中で生み出された毒性攻性植物が、リンゴ園に移動して殺戮を始めるのを止める、という依頼になります」
 そう言って、康はプロジェクターに画像を出す。
「モザイク化した毒性攻性植物の外見は、こんな感じです。予知で確認された数が十八体。毒胞子と催眠胞子と回復胞子を使います。デウスエクスとしては非常に弱いのですが、一般人にとっては致命的な脅威です。生み出された山中からリンゴ園まで、てんでんばらばらに移動してくるようなので、最初の一体が襲来する時間は予知で判明しているのですが、その後、どこからどう集まってくるかはわかりません」
 そう言うと、康は難しい表情で続けた。
「既に地元警察に連絡を取って、一帯を立ち入り禁止にしているので、外部から人が入ってくることはありません。しかし、被害に遭うリンゴ園の住民は、下手に避難すると山中で毒性攻性植物に遭遇しかねないので、デウスエクスが山中に出現したので家から出ないでください、とだけ連絡してもらっています。大至急現地に飛び、予知から外れた状況が起こらないよう、かつ、予知された悲劇を防ぐよう、適切な行動をお願いします」
 そして、康は一同に告げる。
「毒性攻性植物を退治してリンゴ園の人々を守るのはもちろんですが、この事件を解決していけば、元凶の『番外の魔女・サーベラス』を捕捉することができるようになるかもしれません。新装備『ヘリオンデバイス』での支援も可能になりましたし、どうかよろしくお願いします」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は頭を下げた。


参加者
日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)
テオドール・ノーネーム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e12035)
八島・トロノイ(あなたの街のお医者さん・e16946)
チャル・ドミネ(シェシャの僕・e86455)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
 

■リプレイ

●臨機応変にも程がある!
「これが、現場の地図だ。皆、持っておいてくれ」
 現場に向かうヘリオン内で、日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)が、テオドール・ノーネーム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e12035)八島・トロノイ(あなたの街のお医者さん・e16946)チャル・ドミネ(シェシャの僕・e86455)オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)の四人に地図を配り、作戦の概要を説明する。
「見ての通り、一般人家族のいるログハウスは、リンゴ園のほぼ中央にある。ドミネが召喚したレスキュードローンに一般人家族と八島さんを乗せ、ログハウスの真上に滞空させる。八島さんの索敵範囲内に毒性攻性植物がいれば、逐次出向いてすみやかに退治する。いないようなら、俺がリンゴ園外周を回って索敵する。状況はノーネームに伝え全員で共有するが、基本的に誰がどこへ出るという指示は八島さんに出してもらう。可能な限り遠くで敵を潰し、ログハウスに迫られないようにするのがキモだ」
「つまり、俺はできるだけ戦闘状態にならず、指示だけする状態を保つんだな?」
 トロノイの問いに、蒼眞はうなずく。
「ええ、できれば八島さんは一度も戦闘状態にならず、ゴッドサイトデバイスを切ることなく依頼を終えるのが理想です」
 そう言って、蒼眞は他の三人を見回す。
「ありがたいことに、皆、飛行ができる種族だ。地上を這ってくる毒性攻性植物に出し抜かれることは、そうはあるまい」
「おまかせアルよー!」
 ドラゴニアンのテオドールが能天気に応じ、チャルとオズ、二人のメリュジーヌは少々牽制するような表情で互いに見やりながらうなずく。
 たぶん、この方針で何とかなるだろう、と、蒼眞は思ったのだが。
 現場に到着して、ヘリオンから降下。ケルベロスに勝利を、というヘリオライダーのコマンドワードに応じ、蒼眞が斬霊刀を掲げた時。
「アイヤー! 間違えたアルー!」
 テオドールが素っ頓狂な声を出し、全員が一斉に彼女を見る。
 何とテオドールは。予定されていたキャスターのマインドウィスパーデバイスではなく、蒼眞やトロノイと同じ、スナイパーのゴッドサイトデバイスを装着しているではないか。
「最初、スナイパーにしよ~かな~と思って、やっぱりキャスター、と変更したつもりだったのだけど、何と、変更し忘れてたアルー!」
 竜翼を広げ、空中でじたばたしながら、テオドールは狼狽した声を出す。
「こ、こうなっては仕方ないアル。女の子だけに許される、中国四千年の秘儀を使うしかないアルね……ごめんチャイチャイ、てへぺろ~!」
「あ、あのなあ……」
 内心頭を抱えつつも、蒼眞は懸命に声を張る。
「確かに、やっちまったもんは仕方ない。作戦変更だ。皆、ちょっとこっちに寄ってくれ!」
「……どうするんです?」
 憮然とした表情でチャルが訊ね、オズは無言で体勢を整え近づいてくる。トロノイは、サーヴァントのオルトロス『ベルナドット』に掴まって蒼眞の方へ近づく。本来、オルトロスに飛行能力はないのだが、『ベルナドット』は器用に空中で体勢を変化させ、トロノイもろとも蒼眞に近づく。そして、さすがにばつの悪そうな表情のテオドールが接近してきて、蒼眞は降下、というか落下しながら急ごしらえのプランを語る。
「八島さんは予定通り、一般人の護衛についてください。申し訳ないですが、キャスターなしなので連携は期待できません。できるだけカバーはしますが、もしデウスエクスが近づいてきてしまったら『ベルナドット』に頑張ってもらってください」
「やれやれ」
 苦笑するトロノイから、蒼眞はテオドールへ視線を移す。
「ノーネームは、スティンソンと『トト』と組め。戦闘主力を任せる。自力で索敵して、デウスエクスを見つけ次第すみやかに潰せ。ただし、できるだけ自分では戦わず、スティンソンと『トト』に指示を出せ。スティンソンは済まんが、このおっちょこちょいが見落とししてないかチェックしながら殲滅実行を頼む。『トト』をうまく使ってくれ」
「……わかったアル」
「仕方ないね。頑張るよ」
 テオドールとオズからそれぞれ応答を得ると、蒼眞は最後にチャルを見やる。
「ドミネは俺と組んで遊撃だ。どう動くことになるかは状況次第だが、取り落としとイレギュラーに備える」
「要するに、尻拭い役ですね」
 憮然とした表情のまま、チャルが応じる。
「臨機応変と言えば聞こえはいいが……まあ、仕方ない、やりましょう」
 そして、その瞬間、蒼眞は地上に落着した。

●こちら、本陣&遊撃。
「さあ、乗った乗った。慌てなくていいからな」
 殊更に無雑作な口調で、トロノイはリンゴ園の家族にレスキュードローンへの搭乗を促す。
 両親は不安そうだが、子供はレスキュードローンに目を輝かせ、更に『ベルナドット』にじゃれつくようにして一緒に乗り込む。
「あ、あの、この犬もケルベロス……なんですか?」
「ああ、オルトロスというサーヴァント種族でな。言葉こそ喋らんが、俺より利口で勇敢だ」
 訊ねる母親に、トロノイは笑顔で応じる。
「ベルはリンゴが好きなんでな。事が済んだら、ご馳走してもらえると嬉しいぞ。もちろん、俺にもな」
「は、はい、それは……」
 戸惑いながらも、母親は夫とともにレスキュードローンに乗り込む。最後に乗り込んだトロノイの合図で、召喚者のチャルがドローンをログハウスの屋根の上、かなりの高度まで上昇させる。
「よし、OKだ。この高さなら、地上から毒キノコが胞子を噴いても届かないだろう」
「それならいいんですけどね」
 確かめてみるわけにもいかないし、と呟いて、チャルは蒼眞を見やる。
「戦闘はどうなってます?」
「デバイスで見る限り、順調のようだ。既に、最先行していた奴を含めて、三体潰している」
 ゴットサイトデバイスの画像を確認しながら、蒼眞が応じる。
「その後から二体来ているのが索敵範囲内に見えるけど、これはノーネームたちに任そう。まさか、取り逃がしはしないだろう」
「それならいいんですけどね」
 まあ、お調子者のドラゴニアンは信用ならんが、仮にもメリュジーヌがついているのだから何とかなるだろう、と、チャルは自分に言い聞かせるように呟く。
「それで、我々は?」
「予定通り、反対方向を索敵しようと思う」
 そう言って、蒼眞は歩き出す。最先行していた毒性攻性植物、及びその後続四体は、リンゴ園に通じている南側の道路から来ており、山林を抜けてくる敵はまだ発見されていない。
「もしかすると、十八体全部、道路から来るのかもしれないけどね。それならそれでいい」
「デウスエクスも、道路の方が山林より動きやすいんですかね?」
 チャルも飛行せず、蒼眞について移動を始める。
「さあ、わからないな。これが知恵のある奴なら、見つからないように動こうとか、まとまって行動しようとか、何かあるかもしれないが」
 そう言いながら、蒼眞は歩を進める。
「ただ、毒キノコは、人間……豊富なグラビティを持った相手に引き寄せられる。一般人三人に加え、俺たちケルベロスが四人、サーヴァントが二体来てるんだ。たぶん一目散にこっちを目指して来ると思うぜ」
 そういう意味では、もしも予知通り、最先行していた奴が一般人三人殺してグラビティを奪っていたら、後続の連中は方向を変えて集落へ向かっていた可能性が高い、と、蒼眞は言葉には出さずに続ける。
 するとチャルが、考え深げな口調で訊ねる。
「先日の毒性攻性植物は、キノコ採りの老人を惑わして人の多い場所まで自分たちを移動させようと画策しましたが、今回は、すぐに毒殺に走りましたね。その違いは何でしょう?」
「だから、わからないってば。まあ、想像すれば、前回は市街地が近かったから、目の前の獲物を殺すより、惑わして移動に使った方がいいと本能的に判断したのかもしれない。あるいは、グループの中に、突然変異的に知能の高い奴がいたのかもしれない。何とも言えないよ」
 わからない、何とも言えないと言いながら、蒼眞はなかなか穿った想像を告げる。
 と、不意にその口調が変わった。
「索敵範囲ぎりぎりに一体見つけた。急げば、敵がリンゴ園に入る前に始末できそうだ。行くぞ」
「飛行で運びましょうか?」
 チャルが訊ねたが、蒼眞は首を横に振る。
「君は飛んでくれて構わんが、俺を運べば速度半減だろ。こんなこともあろうかと、前回に続いて「隠された森の小路」装備を用意してきたんだ。俺は走る」
 そう言いながら、蒼眞は走り出す。チャルは翼を広げ、飛翔して続く。ざあっ、と雨が地上に降り注いだ。

●こちら、戦闘主力。
「カーカッカッカッカッカ! 大漁アルネ! もはや十一体潰したのコトヨ!」
 空中でホバリングしながら、テオドールが呵々大笑する。
「自分で攻撃しちゃダメと言われた時は、ちょっとメゲたアルが、他人に指示して攻撃させるのも、なかなかヨイネ! ワタシ、ちょいと目覚めたアル!」
「それはいいが、もう索敵範囲内に敵はいないのかい?」
 傍らを飛行しながら、オズが訊ねる。するとテオドールは、ハイテンションのまま応じる。
「ん~、ちょい南へ飛んだところへ、一、二……三体発見したアルネ! さっそく急行して潰すアル!」
「南? 山林の方だな」
 蒼眞から渡された地図を律義に参照し、オズは眼下の地形を見やる。
「しかし、リンゴ園からけっこう離れてしまっているけど、更に南へ進んでもいいのかな?」
「気にしない、気にしないのコトネ! そのための三段構えアルヨ!」
 さっさと移動を開始しながら、テオドールは言い放つ。
「十体だの十五体だの、潰さずに通しちゃったら、そりゃヤバいアルけど、敵は十八体! ここで三体潰せば、十四体潰して、残りたったの四体アル! 遊撃と最終護衛で、阻止できないわけがないアルネ!」
「そうか……」
 とにかく、発見した敵は潰さないとな、と呟き、オズはテオドールの後を追う。
「だいたいあのへんアルヨ! 行って潰すヨロシ!」
「そう言われてもな……」
 呟いて、オズは慎重に降下する。路上に出ているなら接近すれば容易に発見できるが、山林の中ではそうもいかない。
 すると、オズに従って飛行していたウイングキャット『トト』が、猫ならではの直感で何か察知したのか、翼を鳴らして急降下をかける。そして、藪の中にいた何かに向け、容赦のない猫ひっかきを炸裂させる。
「ニャニャニャニャ、ニャッ!」
「やっつけたのか? デウスエクスを?」
 オズが半信半疑で声をかけると、上空からテオドールの大声が降ってくる。
「よーし、手早く潰したアルネ! では、次行くヨ! こっちアルヨ!」
「よくやったな。よく見つけたな、えらいぞ!」
 オズが褒めると『トト』は誇らしげに翼を広げて藪から舞い上がる。蒼眞さんが『トト』をうまく使えと言ったのは、こういうことだったんだな、と納得して、オズも雨を降らしながら高度をあげた。

●そして、遊撃。
「よし、いたぞ。やってくれ」
「了解です」
 防具効果「隠された森の小路」によって蒼眞の目の前の藪が左右にわかれ、モザイクのついたピンクのキノコ……毒性攻性植物の姿が露わになる。
 低空を飛んでいたチャルが、雨を降らしながら降下し、デウスエクスと戦闘状態に入る。
「くらえ、遠気投げ!」
 当然のように先手を取ったチャルが、光輪拳士の遠距離攻撃を駆使。触れずしてデウスエクスを投げ飛ばし、地面に叩きつけてあっさり潰す。
(「正直、絶対に触りたくないですからね」)、
 声には出さず呟くと、チャルは潰れた毒キノコが粉々になって消えるのを確認。振り返って蒼眞に訊ねる。
「これで、索敵範囲内に敵はいなくなりましたか」
「そのようだ」
 デバイスを確認しながら、蒼眞が応じる。
「俺たちが潰したのが、これで四体。ノーネームたちの側からどのくらい来たのか知らないが、いったんログハウスに戻って情報を付け合せるか」
 実は、この時、テオドールたちは十四体の敵を倒しており、十八体の毒性攻性植物は見事全滅しているのだが、その事実は、まだ彼らの知るところではない。
「では、戻りましょうか」
 そう言って再び翼を広げかかったチャルだが、なぜか離陸せず、蒼眞の後について地上を移動する。
「トロノイさんが、事が済んだらサーヴァントと自分にリンゴをご馳走してほしいと、リンゴ園の奥さんに言ってましたね。私もお相伴させてもらえるかな」
「そりゃ大丈夫だと思うが、リンゴ、好きなのか?」
 それでリンゴ園を守るとか言い出したのかな、と思いながら、蒼眞は訊ねる。
 するとチャルは、少し遠くを見るような目になって応じた。
「ええ。もっとも、私が本当に好んだのはアスガルドの林檎ですが。地球のリンゴも、劣らず良いものだと思いますよ」
 またアスガルドの林檎を賞味できる機会はあるのでしょうかね、と、チャルは声には出さずに呟いた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月17日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。