クレームの多いビデオカメラ

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 高性能が売りのビデオカメラがあった。
 これさえあれば、高画質で録画する事が出来るだけでなく、対応ソフトを使って編集可能。
 機能も色々とついており、至れり尽くせりの仕様であった。
 だが、オシャレ過ぎるデザインが災いしたのか。
「これって4K対応なのに、どうして画質が悪いの? えっ? テレビが対応していない? いや、ビデオカメラが4K対応なんだろ? だったら、これを使えばテレビも4K画質になるんじやねーの? いや、そうだって。なんで違うの? 意味が分かんねーし!」
 と言った事や……。
「なんで編集ソフトって、パソコンでしか使えないの? スマホに対応してねーじゃん! いや、俺のスマホが古すぎて、スペックが足らないとか、そう言う言い訳は聞きたくねーから! そんな専門用語はイイから! 早く対応させろって! それが、お前達の仕事だろう? ちゃちゃっとやれよ!」
 と言った事……。
「つーか、機能多過ぎ! 訳が分かんねーから! えっ? 説明書? そんなの見なきゃ駄目なの? だって、分かりづらいじゃん。無駄に説明も多いし。3行で纏めろって!」
 などの意見が多く、『やってられっか、コンチクショウ』と言う事態に陥り、製造中止になったようである。
 そのため、倉庫には沢山の在庫が山のように眠っており、働く機会すら与えられていなかった。
 そこに小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、ビデオカメラにヒールをかけた。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したビデオカメラが、耳障りな機械音を響かせ、倉庫の壁を突き破るのであった。

●セリカからの依頼
「アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)さんが危惧していた通り、都内某所にある倉庫で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある倉庫。
 この場所に保管されていたビデオカメラが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、ビデオカメラです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは沢山のビデオカメラが合体したロボットのような姿をしており、ケルベロスを敵として認識しているようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「どうやら、私の予想通りになりそうですね。まぁ、事前に対策が出来て幸いという事にしておきましょうか」
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された倉庫にやってきた。
 倉庫のまわりには、まったく人の気配がなく、まるで見えない壁が出来ているのではないかと思うほどの威圧感があった。
「……こういうのはね。素人が手を出すもんじゃないのよ……。スペックを重視しすぎても、使う人のスペックが低いとダメなのよ……。だって説明書見てもわかんないもん」
 そんな中、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が、薄っすらと涙を浮かべた。
 実はレイにも、経験がある。
 ビデオカメラではなく、一眼レフであったが……。
 おそらく、ビデオカメラが売れなかったのは、見た目に反して、手軽ではなかったため。
 みんな見た目に騙されて、簡単操作で、色々な機能が使えると思い込んでいたのだろう。
「ビデオに限らずカメラって、玄人向けだと思うんだよねー。たぶん時代と作戦を誤ったんだと思う……たぶん」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が何かを悟った様子で、何処か遠くを見つめた。
 事前に配られた資料を読む限り、購入者が勘違いしても仕方のないパッケージと、売り方。
 その気持ちに反して、説明書は文字だらけ。
 思わず購入者が説明書を叩きつけ、『絵が無い! 写真が無い! 文字が小さい!』と騒ぎだしてしまいそうなほど、硬派な印象を受けた。
 だからこそ余計に……少なくとも購入者の大半が、『もう無理! 有り得ないし、分かりづらい!』と言う結論に至ってしまったのだろう。
 だが、それも至極当然な事。
 購入者の大半が、御通夜モードで、どんよりしてしまう程、難解な説明書であった。
「ビデオカメラも、記録を取るためには便利だけど、色々な機能があっても、購入者が使いこなせなければ、意味がありませんね」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が、深い溜息を漏らした。
 使えなければ、無いのと同じ。
 少なくとも、購入者達は、そう考えたのだろう。
 場合によっては、その事に腹を立て、『詐欺だ! 訴えてやる!』と騒ぎ立てた者がいたかも知れない。
 そのどれが引き金になったのか分からないが、メーカー側は製造の中止を決めた。
 その結論に辿り着くまで、どれほど悩み、苦しみ、悶え、のた打ち回ったのか分からないが、とにかく『もう造らない! 絶対に……、絶対に造らないんだからね……!』と言う気持ちになった事は間違いない。
 その事に腹を立てた購入者達が『もっと頑張れよ! お前達にはプライドが無いのか? こんな事を言われて、悔しいと思わないのか? だったら、もっと頑張れよ! 俺達の出来るってところを見せてくれよ!』と騒ぎ立てていたようだが、その言葉がメーカー側の心に響く事はなかったようである。
「ビデオカメラって、色々な機能が付いているけど、私も上手く扱えなくて、苦労したわ。そう言った意味で、少し気持ちが分かるけど……」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、ある程度の理解を示した。
 どちらか悪いか、悪くないか、と言う話になってしまうと、答えを出すのが難しい。
 どちらも悪いし、どちらも悪くない。
 それは、どちらの立場に立つかによって、変わってくる。
 そんな問題であるような印象を受けた。
「これって素直にスマホで動画を撮るんじゃだめだったのかな……。それぞれの機能に歴史があって譲れなかったのなら、仕方ないけれど……」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、複雑な気持ちになった。
 購入者達が、どんな考えでビデオカメラを買ったのか、分からない。
 しかし、ビデオカメラでなければいけない理由が、何かあったはず。
 そうでなければ、ビデオカメラを買おうと思わなかっただろう。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したビデオカメラが、耳障りな機械音を響かせ、倉庫の壁を突き破って、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは、沢山のビデオカメラが融合したロボットのような姿をしており、幾つものレンズをギラギラさせ、ケルベロス達の様子を窺っているようだった。

●ダモクレス
「あっ……分かった! この流れって、あたしが華麗に戦う姿を撮影してくれるわけね♪ あんた、けっこーFankyなデザインだし、ハイスペックなんだから、撮影に失敗する事なんてないでしょ? それじゃ、期待しているわよ、カメラ界のイケメンさん!」
 そんな空気を察したレイが、ダモクレスを持ち上げ、神輿に担ぐ勢いで褒めまくり、華麗な延髄蹴りを喰らわせた。
「ビ、ビ、ビデオ……」
 その一撃はダモクレスであれば、容易に避けられる攻撃であった。
 それでも、ダモクレスは、撮影する事を重視した。
 カメラ界のイメケンとして……。
 ある意味、プリンス的な立場として……。
 命懸けで撮影する事を選択したのであった。
 それはダモクレス的な思考で考えれば、愚かな事だったのかも知れない。
 しかし、カメラ界のイケメンプリンスであり、神的な立場であるダモクレス的には、『よくやった!』と褒め称える選択であった。
 そのため、ダモクレスが『イイ画が撮れた!』とばかりにサムズアップ!
 レイも、釣られてサムズアップ!
 それがキッカケになって、ふたりの間に友情っぽい何かが芽生えていた。
「何だか邪魔したら、駄目な空気になっているような気が……。だって、ほら……アングルとか凄くこだわっているし……。いや、トトもノリノリでポーズを取ったりしたら駄目だから……」
 オズが気まずい様子で、ウイングキャットのトトに声を掛けた。
 だが、トトは困り顔。
 ダモクレスからノリノリで指示を出されているため、断りづらい空気になっているようである。
「おそらく……罠ね。例え、違っていたとしても、相手はダモクレスだもの。この場で倒さなければ、此処に来た意味がないわ」
 すぐさま、リサが気持ちを切り替え、グラインドファイアを繰り出し、ローラーダッシュの摩擦を利用して、炎を纏った激しい蹴りを喰らわせた。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃がダモクレスの心に火をつけた。
 『まだ撮っている途中だろうがァァァァァァァ!』と言わんばかりに、ブチ切れモード。
 即座に収納されていたビデオカメラ型のアームを伸ばし、様々なアングルからケルベロス達を撮りまくった。
 そこに悪意はなく、プロ的な何かを感じてしまう程、本格的。
 『素人は黙っておけ!』と言わんばかりに、ピリピリムードであった。
「……って、何……この空気! 怖い、怖い! 絶対に、変な事を考えているでしょ? 一体、何が目的なのか知らないけど、これ以上撮ったら承知しないんだから……!」
 その事に危機感を覚えたことほが猟犬縛鎖を仕掛け、精神操作で鎖を伸ばし、ダモクレスを締め上げた。
 それに合わせて、ライドキャリバーの藍が体当たりを仕掛け、ダモクレスを吹っ飛ばした。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァ……」
 だが、ダモクレスは諦めていなかった。
 『プロをナメるんじゃねええええええええ!』と言わんばかりに、ケルベロスと戦いながら、撮り続ける事を選択した。
 それはダモクレスにとって、枷でしかなかったが、プロとして退くに退けなかった。
「そこまでして、私達を撮っている意味が解りませんが……。とにかく、倒します。これ以上、被害者が出る前に……!」
 その隙をつくようにして、玲奈がボクスドラゴンと連携を取りつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 だが、ダモクレスは御立腹。
 『違う! その動きじゃない! もっとスタイリッシュに! 決め顔で!』と怒っているようだった。
 その気迫に圧倒されたのか、ネオンがビクッと体を震わせた。
「まるで監督……いえ、監督気取りね。だからと言って、誰も逆らえないと思って、調子に乗っていると、痛い目に遭うわよ」
 リサがダモクレスに警告しながら、尋常ならざる美貌の放つ呪いによって、完全に動きを封じ込めた。
「それでは、虚無の世界に誘ってあげましょう」
 次の瞬間、アクアがディスインテグレートを仕掛け、不可視の虚無球体を放って、ダモクレスの一部を消滅させた。
「ビ、ビ、ビ、ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その事にショックを受けたダモクレスが、ビデオカメラ型のミサイルを飛ばしてきた。
 それは……怒り。
 ……ダモクレスの怒り。
 その怒りがミサイルとなって、雨の如くケルベロス達に降り注いだ。
「そこまでして、私達を撮りたいの? でも、お断り。勝手に撮っていいほど、私達は安くないわよ」
 すぐさま、リサがミサイルを避けながら、ダモクレスにグラインドファイアを炸裂させた。
「その代償は高くつきますよ? 覚悟は良いですか?」
 それに合わせて、玲奈が凶太刀を仕掛け、ダモクレスの身体を刺し貫き、刃から伝わる呪詛で魂を汚染した。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それでも、ダモクレスは撮る事を止めなかった。
 まさに、プロ。
 プロの中のプロ!
 ダモクレスとは思えぬほどのプロ根性を丸出しにしながら、ケルベロス達を撮って、撮って、撮りまくっていた。
「そのプロ根性は認めますが、この状況でそんな事をすれば、自殺行為でしかありませんよ……? それでも、撮り続けるのであれば、仕方がありませんね。これも運命だと思って受け入れてもらうしかありません」
 次の瞬間、アクアがケイオスランサーを仕掛け、鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムで、ダモクレスを貫いた。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、断末魔にも似た耳障りな機械音を響かせ、崩れ落ちるようにして完全に機能を停止させた。
「随分と壊れちゃったけど、使う人によっては活躍するはずよね、これ! あたしは機械オンチだから微妙だけど、処分するのなんて勿体ないし可哀想な気がするし! とにかくヒールして撮れた写真だけでも形に残しておこーっと」
 そんな中、レイがヒールを使って、壊れたビデオカメラを修復し始めた。
 おそらく、メーカー側にとって、このビデオオカメラは、必要のないモノ。
 ある意味、黒歴史にも等しいモノなので、このまま持ち帰っても文句を言われる事はないだろう。
「せっかくだし、録画に特化したカメラの使い方を覚えながら、記念に何か録画していこうか」
 オズも壊れたビデオカメラを拾い上げ、同じようにヒールを使って修復した。
 事前に配られた資料を見る限り、製品自体に問題はない。
 説明書をきちんと読めば、色々な機能を使う事が出来るため、持ち帰っても損をする事はないはずだ。
「今回は記録用の機器ときた! 私の秘密基地計画の防犯カメラ相当のパーツが集まったんじゃない!? 首領の部屋で踏ん反り返って、マルチモニタで見るとかしたーい。とりあえず、事前に持ち主さんの許可も貰っておいたから、持って帰ろうッと♪」
 そう言って、ことほが鼻歌混じりで、ビデオカメラを持ち帰るのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月6日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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