吸引力は真似できない

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 何処にも真似できない驚異の吸引力が売りのコードレス掃除機があった。
 その吸引力は、どんなゴミでも吸い取り、向かうところ敵なしであった。
 だが、最大駆動時間は、30分。
 充電には6時間掛かり、バッテリー自体も短命という事がネックとなり、あっと言う間に在庫の山を抱えてしまったようである。
 その在庫の山がある倉庫に、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた。
 蜘蛛型ダモクレスはコードレス掃除機に機械的なヒールを掛け、ダモクレスに変化させた。
「ソウジキィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したコードレス掃除機が、耳障りな機械音を響かせ、倉庫の壁を突き破るのであった。

●セリカからの依頼
「シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)さんが危惧していた通り、都内某所にある倉庫で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある倉庫。
 この場所に保管されていたコードレス掃除機が、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、コードレス掃除機です。ダモクレスと化した事で、コードレス掃除機はロボットのような姿をしており、まわりにあるモノを手当たり次第に掃除しながら、街に繰り出しているようです。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「私が危惧していた通り、掃除機のダモクレスが現れたか。被害が出る前に対応できたのは不幸中の幸いかな」
 シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された倉庫にやってきた。
 倉庫は無駄に馬鹿デカく、まるで巨大な棺桶のようにも見えた。
 その上、倉庫の入り口には幾つも錠が掛かっており、いかにもヤバげに雰囲気が漂っていた。
「コードレス掃除機って便利そうだけど、充電時間と駆動時間が全く釣り合っていなかったようね。どんな家電製品も、高性能なものが生き残る世の中だもの。これは仕方のない事なのかも……」
 雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が殺界形成を発動させ、自分なりの考えを述べた。
 実際に、長時間の掃除には向いておらず、途中で動かなくなってしまう事が問題視され、滑り台の如く勢いで売り上げが下がっていったらしい。
 そうなってしまうと、売り上げを元通りにする事は難しく、誰にも見向きをされぬまま、人々の記憶からも忘れ去られてしまったようである。
「確かに、稼働時間と充電が割に合わないのは致命的ね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、納得した様子で答えを返した。
 だからと言って、すぐには改善する事が出来なかったらしく、かなりの苦戦を強いられたようである。
 そもそも、コードレスの時点で、稼働時間が限られている。
 その時間を延ばすためには、大容量のバッテリーを組み込む必要があるため、重くなる事は確実……。
 しかし、重くなってしまうと、別のクレームが増えてしまうため、開発陣も頭を抱えて、白旗を上げてしまう程だった。
 まさに降参、両手を上げたまま、工場内を歩き回ってしまう程、肉体的にも、精神的にも、お手上げ状態だったようである。
「……と言うか、6時間かけて充電して30分の稼働時間って、商品として、どーなの? よく販売に漕ぎ着けたよね。ひょっとして、普段はコード付きで運用して、コンセントが届かないとこの掃除だけ、コードレスにするのが正解なんじゃ? そうよ、きっと、そう! えっ? 違う。もしかして、考え過ぎ?」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、大きなハテナマークを浮かべた。
 おそらく、開発陣がその言葉を聞いた瞬間、『それだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』と叫びながら、両目をカッと見開き、一斉に迫ってくる事だろう。
 そうなれば、ことほは神輿に担ぎ上げられ、本人の意志とは無関係に、街を練り歩く事になるだろう。
 だが、それは迷惑。
 非常に迷惑。
 何より、凄く恥ずかしい。
 ……と言うか、『開発陣、大丈夫?』と思わず、問いかけてしまいそうなほど心配になった。
 もちろん、それは単なる妄想。
 実際には、違う……はず。
「やっぱり、掃除機は省エネの方が良いですね。あまりにも、このコードレス掃除機は容量が悪いです」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、事前に配られた資料に目を通した。
 事前に配られた資料を見る限り、驚異の吸引力を得るため、色々なモノを代償にしてしまったようである。
 だが、その代償はあまりにも大きく、取り返しのつかないモノだった。
 そもそも、短時間で掃除が終わるような家庭が、少なかったという事を意味していた。
「まあ、僕から見ると、中からゴミを取り出すのもまた一苦労にみえるんだけど……。皆が好んで使うということは、地球では当たり前の機械なんだね。とにかく、ダモクレスは倒さないと……。もうすぐ時間のようだしね」
 そう言ってオズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、倉庫をジロリと睨みつけた。
「ソウジキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したコードレス掃除機が、耳障りな機械音を響かせながら、倉庫の壁を突き破った。
 ダモクレスと化した事で、コードレス掃除機はロボットのような姿になっており、ケルベロス達を威嚇するようにして、再び耳障りな機械音を響かせた。

●ダモクレス
「さあ、行こうか、トト。ダモクレスが妙な事をする前にね」
 すぐさま、オズがウイングキャットのトトに声を掛け、「碧落の冒険家」を歌い出した。
 それに合わせて、トトが仲間達を援護するため、ダモクレスの射程範囲外まで逃れた。
「コォォォォォォォォォォォォォォォドレェスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その事に気づいたダモクレスが殺気立った様子で、電波状のビームを放ってきた。
 それは稲妻の如く鋭く、トトが驚いて上空まで飛び上がってしまう程の威力であった。
 だが、当たらない。
 そのビームはケルベロス達に当たる事なく、近くのブロック塀を破壊。
 何の罪もない無害なブロック塀が、悲鳴にも似た音を響かせ、木っ端微塵に砕け散った。
「なかなか、強力なビームのようですが、殺気のせいでモロバレですよ? それとも、あえて避けてもらうために、ビームを放っているのですか? そうでなければ、意味が解りませんね、この攻撃……」
 紅葉が仲間達とダモクレスを囲みながら、達人の一撃を放ってビームの発射口を傷つけた。
「コ、コ、コォォォォォォォォォォォォォォォォドレスゥゥゥゥゥゥウ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、再びビームを放ってきた。
 そのビームは先程と比べて、乱れている上に、歪んでおり、威力も激減しているようだった。
 その分、不規則な動きになっており、何処に飛んでいくのか分からない感じであった。
 まるで暴走機関車、もしくは目隠しして、スイカ割。
 とにかく、ヤバイ。
 予測不可能な状況であった。
「これなら、簡単に打ち消そうね」
 リサがクリスタルファイアを発動させ、熱を持たない水晶の炎で、ビームを切り刻むようにして好き消した。
 しかも、一瞬ッ!
 ダモクレスが、二度見してしまう程の勢いで……!
「コ、コ……コード・レス?」
 それを目の当たりにしたダモクレスが、信じられない様子で動きを止めた。
 それはダモクレスに、あるまじき動揺っぷり。
 『……と言うか、あの攻撃で、ビームが相殺されていいの? 良くないよね? 絶対に良くないよね? だって、ほら……そういうものなの? 違うでしょ? いや、違うって! 絶対に違うって! 良くない! 消えちゃ駄目、ゼッタイ!』と言わんばかりに迫ってきた。
「何だか、よく分からないけど、私に言われても困るから……! だから、来ないで! 近づかないで! 鬱陶しいから!」
 バニラが全身に鳥肌を立たせながら、ダモクレスに黒影弾を撃ち込み、影の弾丸を放つ事で、その内部を侵食していった。
「ソウジキィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それはダモクレスにとって、苦痛。
 苦痛そのもの。
 まるで肉体が腐り……いや、錆落ちてしまう程の……痛み!
 しかし、逃げ場はない。
 何処にも逃げ道はない。
 逃げたいけど、逃げられない状況。
 出来る事なら、装甲を剥ぎたい。
 ……剥ぎ取りたい!
 そんな衝動に襲われるほどの苦しみだった。
「実に……愚かだね」
 そこに追い打ちをかけるようにして、オズがポイズンテイルを仕掛け、下半身である大蛇の尾に毒のオーラを纏い、ダモクレスを何度も叩いた。
 それはダモクレスにとって、拷問。
 まさしく傷口に塩を……いや、ハバネロを塗りたくるような行為であった。
 それでも、オズは止めない。
 根っからのドSだからと言う理由ではなく、相手が敵だからと言う理由から……。
 故に、情けをかける必要もなく、躊躇う必要もまったくない。
「コォォォォォォォォォォォドレェェェェェェェェェス!」
 だが、ダモクレスは諦めていなかった。
 その痛みから逃れるようにして、ダモクレスが再びビームを放ってきた。
 それは何処に放たれているのか分からない程、不安定。
 それでも、ケルベロス達を傷つけ、警戒心を増幅させた。
「ドローンの群れよ。皆を御願い!」
 その事に危機感を覚えたシルフィアが、ヒールドローンを展開し、自らのグラビティで小型治療無人機(ドローン)の群れを操って仲間達を援護した。
「ソウジキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、アンテナ型のアームを阿修羅の如く伸ばしてきた。
 それはアンテナにしては鋭く、不気味で、禍々しかった。
「えっ? ちょっと待って! いきなりフェンシング!? ね、ねぇ! 藍ちゃん助けて! 車輪のついた機械という意味では、お仲間……じゃないの? ごめん、ごめん。てっきりって……、冗談だから! だから置いてかないで~」
 ことほが涙目になりつつ、ライドキャリバーの藍を追った。
 しかし、藍は爆走ッ!
 土煙を上げながら、全力逃走ッ!
「ソウジキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その事に興奮したダモクレスが、アスファルトの地面をガリガリ削りながら、ことほ達を大追跡ッ!
「竜砲弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 その行く手を阻むようにして、紅葉がハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾でダモクレスの動きを止めた。
「コードレェェェェェェェェェェェェェェェス!」
 ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、掃除機型のミサイルを飛ばしてきた。
 そのミサイルは巨大でドシンと落下し、アスファルトの地面をブチ割り、大爆発を起こして、大量の破片を飛ばしてきた。
「みんな、大丈夫? すぐに治してあげるからね!」
 それと同時に、シルフィアがスカイクリーパーを発動させ、希望の為に走り続ける者達の歌を歌い、傷ついた仲間を癒した。
「さっきは納得していなかったようだけど、これなら納得でしょ? 安心して痺れてしまうと良いわ」
 それに合わせて、リサが含みのある笑みを浮かべ、ライトニングパルスを仕掛け、高速で流れる電気信号を放ち、綺麗な電気の光を輝かせつつ、ダモクレスを痺れさせた。
「コ、コ、コ、コ、コ……」
 その途端、ダモクレスの身体がビリビリと痺れ、真っ黒な煙をブシュッと上げた。
「弱点を見抜いたわ、この一撃を受けなさい!」
 次の瞬間、バニラが破鎧衝を繰り出し、高速演算で敵の構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃を放ってダモクレスのコア部分を木っ端微塵に破壊した。
「……うう、掃除機なのに、吸引してこなかった……。せっかくだから、使うべきでしょ、驚異の吸引力ってヤツを……。あ、でも、ちょっとホラーかも。皮膚がベリベリって剥がれて……。あ、無理っ! やっぱり、無理!」
 そう言って、ことほが全身に鳥肌を立たせ、頭に浮かんだ妄想を消し去るのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月3日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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