太陽の忘れ形見

作者:崎田航輝

 季節が終わりに向かい始める頃。
 陽射しは仄かに柔らかくなって、風の温度も肌に優しい。それでも、未だ夏が薫るのは──畑はまだまだ夏の色に満ちているからだった。
「この辺りは、スイカ畑でしたか──」
 自然の豊かな道を歩きながら、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)は景色を見渡す。
 鮮やかな緑の葉に、丸々と成長した形。瑞々しいことが見るだけでも分かる、スイカがそこには多数実っていた。ただ──。
「……?」
 おや、と奏過は足を止める。
 その畑には、一部に荒らされたような跡があった。ほんの一部だけで、後の果実はしかと守られたように無事なのが不自然なほどに。
「そういえば、変わった噂がありましたね……」
 嘗て畑を荒らしていた若者達がいた。とあるおじいさんの畑も被害に遭いかけたが、それを守ろうとして一匹の犬が傷ついて倒れたという。
 その犬は行方不明になったという、そんな話だったが──。
「まさか、それが近所だということは……」
 呟いてから、奏過はいやと、すぐに首を振って歩こうとする──と。
 のそり、のそり。
 不意に畑の陰から出てくる、丸いシルエットがあった。始めは小動物かと思ったが、それよりも大きな姿に、奏過は一歩下がって驚きを浮かべる。
「これは……」
『ワン!』
 鳴き声と共に近づいてきたそれは──スイカのような色と形をした、大きな犬。
 否、それは確かにスイカでもあるのだろうと奏過には分かる。その気配はまごうことなきデウスエクス──攻性植物に違いないのだから。
 見た目は……とても可愛い。
 可愛いけれど──ワン、と吼えて攻性植物は奏過へ敵意の牙を剥く。そこには見目に相反するほどの、人への鋭い殺意が同居していた。

「鞘柄・奏過さんが、デウスエクスに襲撃されることが判りました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロスへ説明を始めていた。
「予知された未来はまだ訪れてはいませんが……時間の余裕はなさそうです」
 奏過は既に現場にいる状態。
 こちらからの連絡は繋がらず、敵出現を防ぐ事もできないため、一対一で戦闘が始まるところまでは覆しようがないだろう。
「それでも、今から現場へ急いで戦いに加勢することは可能です」
 時間のラグは出てしまうだろうが、奏過を助けることは十分に可能だ。ですから皆さんの力を貸してください、と言った。
 現場はスイカの畑に沿って伸びる道。
 元々人通りも少ない場所らしく、戦闘時は辺りは無人状態。一般人の流入に関しては心配する必要はないだろう。
「皆さんはヘリオンで現場に到着後、すぐに戦闘へ入って下さい」
 周辺は静寂で、奏過を発見することは難しくないはずだ。
「敵は攻性植物です」
 相応の戦闘力を持っており、一人で長く相手できる敵ではないだろう。放置しておけば奏過の命が危険であることだけは確かだ。
 それでも奏過を無事に救い出し、この敵を撃破することも不可能ではない。
「奏過さんの無事のために──さあ、急ぎましょう」


参加者
露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)
戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
安海・藤子(終端の夢・e36211)
リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)

■リプレイ

●襲撃
 優しく輝く晩夏の太陽の下。
 畑に並ぶスイカの間から、のそっと出てきたその影を──鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)は驚きを以て見つめていた。
「まさか、こんな所にデウスエクスが……」
『ワン!』
 吼えるそれは差し詰めスイカ犬──緑縞の不思議な毛並みを、ふるふると靡かせている。
 つぶらな瞳と丸いシルエット。可愛らしさに奏過は覗き込んでしまう、けれど。
『ワンッ!』
 ぴょん! がぶがぶっ!
「痛たたっ!」
 突如頭から齧られて奏過は身悶える。何とか外そうとするも──ぐるると轟く声と共に、頭蓋に鋭い牙がめり込んでくる。
「ぐっ……見た目に反して意外と獰猛ですねっ!?」
 奏過は慌てて如意棒を使い、梃子の原理で引き剥がす。
 スイカ犬はころころと転がるが、素早く立つとまたジャンプ。器用に木の棒を振り下ろしてきた。
「くっ、これは──」
 奏過はとっさに白刃取りしようと腕を上げ──すかっ、ばきっ!
「がふっ!」
 思い切り失敗して直撃し、うずくまった。
「くぅ……強敵には違いない、という訳ですか」
 奏過は気合を纏って自己治癒しながら、間合いを取ろうとする、が。
 さっ、と。
 高速でスイカ犬が背後に回り、立ち位置すら自由に取れない。
 攻撃力も無論、向こうの方が上だ。
「どうやら、時間稼ぎをするしかなさそうですね──」
 奏過は瞳を細めて算段を考え込む……けれど。
 それより速く、がぶがぶがぶっ!
「痛たたた!?」
 頭からスイカ犬をぶら下げながら、奏過は右に左に走り回る。

「嫌な空気だな」
 農道に降り立った戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)は、長閑な空気に漂う気配に呟きを零す。
 唐揚げを頬張りながらも、瞳でつぶさに周囲を探りつつ。
「奏過に何もなければいいんだが」
「ま、このメンツなら問題ないはずよ」
 と、仮面の下に笑みを見せるのは安海・藤子(終端の夢・e36211)。見回す面々は、幾つもの戦いを共に経た仲間だから。
「早く助けてしまいましょうか」
「そうだな、行くとしよう」
 頷いて踏み出すのは四辻・樒(黒の背反・e03880)。夜色の瞳を隣に向ければ、視線を合わす月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)もこくりと頷いて。
「皆で急ぐのだ!」
「了解、と。さて、やりますか」
 応える久遠も軽く柔軟し、走り出せば皆も続く。
 と、そこで戦列に加わったリリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)がレスキュードローンを展開。
 備えたセンサーを反応させ、遠くに人影を捉えた。
「もうすぐですわ。林を越えた先で、それらしき影があるようです」
 それに皆が頷き木々を縫えば──開けた先に、確かに奏過と……もう一つの不思議な姿を発見する。
 灯音は目をまんまるにしていた。
「あれは……なんか緑のわんこさんなのだっ! 楽しんで戯れているのだー」
「犬、というよりはスイカか? 確かに戯れてるが」
 と、樒も観察しながらあくまで冷静。
 見れば、奏過が手を噛むスイカ犬を必死に振り払おうとしているから。
「あのスイカからは殺意が溢れている気はするな」
「とにかく、手助けは必要ってことだよね」
 艶めく巻髪をふわりと揺らし、靭やかに手を翳すのはニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)。
 なら遠慮は要らないね、と。
 すらりと抜き放つ獲物に、冥府より出る南瓜頭の姿を映り込ませて。狙いは確かで、間合いは充分。ならば外す道理もないと──『切裂く鬼火』。
「そんなに殺気を振り撒いていたら、可愛いお顔が台無しだよ」
 刹那一閃、薙いだ刃から顕れたその影が敵へ一閃を叩き込んだ。
 衝撃にスイカ犬が遠くへ転げていく、その間に露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)は奏過の元まで走り寄っていた。
「間に合ったね。それにしても……あれは確かにスイカみたいな……?」
「見てると、スイカが食べたくなるわよねぇ。ま、それはお楽しみってことにしておこうかしらね」
 藤子も眺めながら──仮面を取って奏過へ向き直る。
「助けにきたよ。まだ平気かい?」
「……ええ」
 奏過は息をついて、人心地がついたように見回していた。
「皆さん、来てくれたのですね」
「奏兄! お待たせなのだっ」
 と、灯音も合流。魔力を込めた銀槍でとんとんと触れて、奏過の噛み傷を癒やしていく。
 藤子も大地から治癒の力を揺らめかせた。
「仕事の時間だな。傷はこっちで対応する。ほかは任せたぞ」
 言いながら魔力の陽炎を渦巻かせ、奏過に残った負傷を祓っていくと──頷く久遠は金色の闘気を眩く纏っている。
「じゃ、術式開始だ。守りを固める──いくぞ」
 瞬間、爆発的に輝かせた闘気を雷の如く迸らせ、防護壁として空間に固定した。
 応ずるように、沙羅も星剣を鞘から引き抜いて。
 刃先を天に掲げると、不意に夜が訪れたかのように空が明滅。星が降りてきたかのように煌めく光が満ちていき──護りの祝福が皆へ宿ってゆく。
「これでひとまず、準備は完了かな」
「後は、敵だな」
 と、樒は漆黒の刃を握る。スイカ犬が起き上がり、此方に駆けてきていた。
 けれどリリスは焦らず煌めく流体を解き放ち──。
「補助させていただきますわ」
 美しいメロディを口遊む。
 響く旋律に、譜の上を踊るかのようにオウガメタルが流動すれば、舞い散る粒子が知覚を明瞭に研ぎ澄ます。
 その力を活かすよう、樒は確かな狙いで一閃。黒色の雷撃を伴った刺突でスイカ犬を大きく吹き飛ばす。

●反撃
 転げていたスイカ犬は、すぐに立ち上がってぶるるると埃を払う。
 その姿を、物珍しげにニュニルは眺めていた。
「それにしても随分変わった攻性植物みたいだね。スイカのようなわんこのような……」
 ワン、とスイカ犬は吼えた。
『ワン! ボクメロン! ボクメロン!』
「それが名前?」
 ニュニルの言葉にスイカ犬──ボクメロンはワンと鳴き、奏過へ駆け寄っていく。
 奏過は「またですか!?」と困惑する……そんな様子に、灯音ははっとしていた。
「あんなに仲いいなんて……奏兄のお嫁さんなのだ!? これは義妹としてご挨拶しなきゃなのだ」
 言うと新鮮なトマトを取り出して献上。ボクメロンががぶがぶと食べている横へ、藤子の傍からオルトロスも連れてくる。
「藤姐も来てるからクロスも一緒なのだ。もふもふできるのだっ」
 すると犬的な共鳴があったのかどうか……暫しボクメロンとクロスは何やらワンワンと吠え合っているのだった。
 樒は眺めつつ腕を組んでいる。
「しかしボクメロンとは。スイカなのにメロン? いや、ウォーターメロンだからか? いやいや、デカメロンをもじっている可能性もあるか……とにかく深い名前だ」
「そもそも、犬なのかスイカなのか……」
 奏過も考えつつ呟く、と。
 そこで少しはっとする。スイカであり、同時に犬でもあるとしたら、と──再び噂の話を思い出したのだ。
 沙羅も少々意味ありげに、シリアスな空気を醸している。
「鞘柄さん、このデウスエクスは……」
「或いはそうかもしれません」
 実際、そうであるならば心に憐憫の情は生まれる──けれど。
「デウスエクスと化したのであれば倒すしか……ないですね」
「……うん。夏は確かにスイカの季節だけど……こんな悲しいモンスターがなぜ生まれてしまったんだろう」
 沙羅がそっと目を伏せると、ニュニルもそうだね、と。リボンで腰に結わえたピンククマぐるみを見下ろす。
「もう少し大人しい子なら、マルコの遊び相手にもなれたのになぁ」
 それでも、ボクメロンは再び敵意を湛えている。
 ならばこちらも手を緩めることは出来ないと。
「心苦しいけれど確り役目を果たそう、ね、マルコ?」
 ニュニルがクマぐるみを見つめてから、その手に武器を握れば──沙羅もまた頷いて。
「うん、僕らがおいしく供養! あ、ちがう、えっと、鞘柄さんと皆を助けるために、ここで倒そう!」
「まあ、気乗りはしないが」
 と、応える樒も再びその手に刃を握り、研ぎ澄まされた戦意を見せる。
「──殺意を向けるなら仕方ない」
 刹那、地を蹴って風を裂き、縦横の剣閃でボクメロンの膚を斬り裂く。
 ボクメロンは鳴きながら、それでも牙を立てた。
 久遠はとっさに奏過を守ろうとするが──。
「く、何故だ。足が動かん。奏過ぁぁぁぁ!!」
 がぶがぶがぶ。
「痛たた! でも……受け止めてみせます!」
 久遠は正面から喰らいながらも、逃げず。
 想いを受け止めるように一身に痛みに耐えていた。
 直後には灯音が『癒しの手』。奏過自身と、残霊として喚んだサキュバスの力をも借りて癒やしを成す。
「もう少しなのだ」
「助力致します」
 同時、リリスも弓弦を引き絞っていた。
 魔力を湛えて淡く煌めくその弓は、放つ一矢にも治癒の力を宿す。飛来しながら清らかな音色を鳴らしたその矢は──溶け込むように奏過を癒やしていった。
「これで問題ありませんわ」
 ただ、ボクメロンも木の棒を振り回して連撃を狙ってくる。が、
「おっと危ない」
 ニュニルは軽やかに、ひらりとステップを踏んで避けていく。
「そんな暴れん坊とじゃれ合うのは、流石のボクも御免かな」
 淑女にはもっと丁寧に接して? と、声音を清楚に艶めかせながら──反撃の斬閃を加えていった。
 細く啼きながら、ボクメロンはそれでも下がらない。
 だが牙で衣の一部を引き裂かれ、二重螺旋の鎖の如き傷と胸元の傷を露わにしながら──藤子も決して退きはしなかった。
 道化は決別を経て、少しだけ変わったろう。
 けれど戦うその背中は、変わらず命を捨てるかのようで。
 畑を護ろうとする、敵の心に少しだけ自身を重ねてみるけれど。
「忠犬だろうと敵は敵。始末するしかないさ」
 容赦はしない。護ると行動に移せた相手だから。瞬間、藤子は剣撃を奔らせボクメロンの体を抉った。
 ボクメロンはよろめきながらも種の弾幕を飛ばす、が。
「これ以上、攻撃は通さん。絶対にだ」
 久遠が己の体で防御しながら、オーラを天へ昇らせ治癒の雨滴を注がせる。
「連携するぞ」
「了解だよ」
 応える沙羅もそこへ靴音を奏で、藤の花嵐を吹かせる。慈雨に加わる鮮やかな色彩が、癒やしの力を増すように皆の体力を保った。
「反撃を、させてもらいます!」
 時を同じく、奏過が如意棒を振るい一撃。暴れるボクメロンへ突きを繰り出し、その体を地に打ち付けさせてゆく。

●夏
 起き上がっては、よろよろとふらついて。ボクメロンは目に見えて弱りつつあった。
 その姿を瞳に捉えて、灯音は迷いながら手を止める。
「やっぱりダメなのだ! 可哀想なのだっ」
 ボクメロンを庇うように、走って手を広げて。
「どうしても、どうしても救出はできないのだ!?」
 言うと目に涙を浮かべて泣き出してしまう。樒は静かに歩み寄ると、そっと抱き寄せ灯音の頭を撫でていた。
「スイカの癖にメロンと名乗る心意気は大いに買うし──灯に免じて救ってやりたいとも思うがな……」
 それでもそれは、人類の敵となってしまったから。
「やらないといけないんだ」
「ええ。せめて──安らかに眠らせてあげましょう」
 奏過の言葉に、リリスも頷く。
 今、出来ることをする。自分も同じ気持ちだから。
「参りましょう」
 言葉に皆も頷き戦闘態勢。
 ボクメロンは意志の力で自己治癒するが──ニュニルが鋭い杭を打ち出し一撃。
「次、お願いするね」
「ああ」
 頷く藤子も魔力を込めた拳を見舞い、敵の加護を砕いた。
 ボクメロンは藻掻きながらも種を放つ。だが奏過はそれを腕で受けながら──。
「私にも守りたいものがありますっ」
 ──『それは幸せへのキセキ』。
 義理の家族の姿を思い浮かべて心を強く保ち、斃れない。
 リリスが癒やしの旋律を歌い、灯音が癒やしの雫を降らせれば皆は万全。
「畳み掛けるか」
 直後には久遠が『万象流転』──掌打で陰陽のバランスを崩壊させ、内部より生命力を朽ちさせ始めていた。
 同時に沙羅も真っ直ぐ手を伸ばす。
「さぁ、君は今幸せかい!!」
 刹那、問うて作り出すのは『幸福空間』。弾けて爆裂したそれが、ボクメロンを宙へ飛ばした。
 そして樒が高く跳び上がり──。
「後はちゃんと、幕をひこうか」
 縦一閃に『斬』。鋭利な衝撃でボクメロンを斬って落とす。
 それを見つめながら、奏過は鎧の如く胴から左腕を覆うオウガメタルを鋭く輝かせた。
「終わりましょう」
 瞬間、握り込んだ拳で一撃。裂帛の打突でボクメロンを貫き、その命を破砕した。

 奏過は消えゆくボクメロンの亡骸を、土に埋めて弔った。
 藤子は見下ろしながらそっと語りかける。
「大事にしてたものを護ろうとする姿はかっこよかったわよ」
「そうだね」
 言ったニュニルも両手を結んで、冥福をマルコと一緒に祈った。
「──次に生まれ変わったら、キミが人の愛情に恵まれますように」
 きっとそうあることだろうと、奏過も静かに見つめながら心に願った。
 それから暫しの後、皆へと視線を向ける。服はボロボロであったけれど、表情だけは爽やかに。
「皆さん、ありがとうございました。お陰で助かりました」
「無事で何よりですわ」
 リリスが言えば、久遠も同意して頷く。
「恐ろしい敵だったな」
 それから皆の様子を診て、傷があれば丁寧に応急手当をした。
 樒は軽く息をつきながら見回す。
「ボクメロンの次はボクパイナップル? いや、ボクヨウナシか? 鞘柄の前には、第二第三のボクメロンが現れるかもしれないな……」
「ま、その時はまた助けに行きましょ?」
 藤子は仮面を付け直し、そこに笑みを湛える。
 そして周囲をヒールし始めると、奏過も手伝った。ボクメロンがここまでして守りたかった畑も、綺麗に保つようにして。
 作業が終わると、藤子は提案するように視線を巡らせる。
「どうせならスイカ食べて帰りましょう?」
「いいねぇ。行こうか」
 沙羅も頷くと、近所の果物屋さんへ。メロンも美味しそうだと見ると、少々悩みつつ。
「メロンかスイカか……それが問題だ。お店屋さんのおすすめはどっちだい?」
 ちなみに沙羅はかき氷も食べたかった……けれど今はやっぱりスイカということになって、購入。
 縁側を借りられるということで、その場で切って頂くことにした。
 灯音はクロスをもふもふしながら、未だに悲しさにえぐえぐと泣いている。樒はそこへスイカを差し出した。
「ほら、灯」
「ありがとうなのだ……はぐはぐ、美味しいのだ」
「ああ、この季節のスイカは美味いよな。次は花火でもしながら堪能しようか」
 そっと灯音の手を握る。すると灯音も涙のあとに笑顔を浮かべて、頷いていた。
 皆もスイカを味わう。瑞々しく甘い、夏の味だ。
 灯音は青空を仰ぐ。
「もう夏も終わりなのだ」
「ええ」
 奏過は小さく応えた。
 これから、空も雲も秋めいていく。
 夏に眠っていったあの可愛らしい敵は──移ろう時を天の彼方から眺めるだろうかと、そう思いながら。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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