禁じられた電波

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 高性能が売りのトランシーバーであった。
 このトランシーバーは、受信感度が良好で、どんな場所からでも相手の電波をキャッチできると言われていた。
 だが、実際には違法に出力をアップされた海外製で、すべて回収される事となった。
 そのトランシーバーが保管されていた倉庫に、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた。
 蜘蛛型ダモクレスは、トランシーバーの違法な電波を受信したのか、そのまま中に潜り込み、機械的なヒールによってダモクレスに作り替えた。
「デンパァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したトランシーバーが、耳障りな機械音を響かせ、倉庫の壁を突き破るのであった。

●セリカからの依頼
「花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)さんが危惧していた通り、都内某所にある倉庫で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある倉庫。
 この場所にあったトランシーバーが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、トランシーバーです。ダモクレスと化した事で、トランシーバーは異形の存在と化しており、まるでロボットのような姿になっています。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、間違いなく街に繰り出す事でしょう。そうなれば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは他のトランシーバーを取り込み、ロボットのような姿をしているようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「まさか私の危惧していた通り、トランシーバーのダモクレスが現れるとは……。まだ被害が出ていないのは、不幸中の幸い、ですね」
 花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された倉庫にやってきた。
 倉庫のまわりには人気がなく、セミの鳴き声だけが辺りに響いていた。
 そのおかげで人払いをする必要が無かったものの、何とも不気味な雰囲気が漂っているため、近寄り難い場所である事に違なかった。
「ねえ……なんか当たり前のようにトランシーバーが流通してるけど、衛星とか使ったスマホの回線じゃだめなの……?」
 そんな中、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、不思議そうに首を傾げた。
 事前に配られた資料を見る限り、トランシーバーはスマホと比べて、色々と制限が多いため、使いづらいような印象を受けた。
 それでも、世の中に普及しているという事は、何らかのメリットがあるという事だろう。
 それが何なのか分からなかったため、頭の上で沢山のハテナマークがダンスを踊りまくっていた。
「トランシーバーって、使った事ないですけど、今の時代だとスマホで代用できそうですし、そうしなければいけない理由があったのかも知れませんね」
 ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)が、何やら察した様子で答えを返した。
 それが何の目的なのか分からないが、スマホでは都合の悪い何かであった事は間違いない。
 そもそも、このトランシーバーを購入した者達の大半が、高い出力のモノを求めていたようなので、何の理由もなしに選んだわけではないようだ。
「僕はアスガルド以外の文化には詳しくないから、答えに困ってしまうのだけれど、ダモクレスやレプリカントの人の通信手段とは、また違う感じなのかな? ただ、この資料を見る限り、通話料が掛からず、一度に多くの人と会話をする事が出来るってメリットがあったからなのかも知れないね」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、自分なりの考えを述べた。
 事前に配られた資料を見る限り、スマホの電波が届かない場所でも、使用する事が出来たようなので、その辺りも関係があるのかも知れない。
「だからと言って、違法はマズイわね。例え、海外では認められていたとしても、日本の法律がある訳だから……」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、深い溜息を漏らした。
 こればかりはトランシーバーを輸入したメーカー側の不手際としか言えないのだが、普通であれば起こりうる事のないミスである。
「確かに、違法なものを作ったら、回収されるのは当たり前ですね。まぁ、人々に危害が加わる前に、ダモクレスを倒してしまいましょう」
 タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が、ただならぬ気配を感じ取り、仲間達に対して声を掛けた。
「トランシィィィィィィィィバァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したトランシーバーが、倉庫の壁を突き破り、ケルベロス達の前に陣取った。
 ダモクレスは沢山のトランシーバーが融合したロボットのような姿をしており、溢れんばかりの殺気をマントの如く羽織っているような感じであった。
「何あれ、カッコイイ! そう言えば、トランシーバーってボディーガードが使ってるやつだものね。何だか一匹狼の悪役が乗るロボットみたい!」
 その途端、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が、瞳をランランと輝かせた。
 それは今まで見たダモクレスの中で、上位にランクインする程の恰好良さ。
 敵でなければ、是非とも乗り込んで、操縦したいところである。
 そう思ってしまう程、格好いいデザインのため、戦闘どころでは無くなっていた。
「そんな事を言っている場合ではありませんよ。面倒な事になる前に倒してしまわないと、取り返しのつかない事になってしまうのですから……」
 そんな空気を察したアクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)がレイに対して警告しながら、ダモクレスの攻撃を警戒して間合いを取るのであった。

●ダモクレス
「トトトトトランシィィィィィィィィィィィィィィィィバァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、格好良くガシィーンとポーズを決め、電波状のビームを放ってきた。
 それが稲妻の如くアスファルトの地面を削り、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となれ!」
 すぐさま、タキオンがエナジープロテクションを発動させ、属性エネルギーの盾でダモクレスの放ったビームを防いだ。
 だが、ダモクレスのビームは、強力!
 違法に出力をアップされていた影響もあるのか、ビームの一撃を喰らってタキオンが後退してしまう程の威力があった。
「何だか、ちょっと……マズくない?」
 その事に危機感を覚えたことほがサークリットチェインを発動させ、地面にケルベロスチェインを展開し、仲間を守護する魔法陣を描いた。
 しかし、その背後には死亡フラグ達がドッシリと待ち構えており、隙あらば肩を抱いて、記念撮影をしてきそうな勢いでノリノリだった。
「その心配はありません。次にビームを放つ前に、発射口を破壊してしまえばいいのですから……。さぁ、夢幻。一緒に、行きますよ……!」
 その間に、綾奈がウイングキャットの夢幻に声を掛け、ダモクレスの注意を引いた。
 それに合わせて、夢幻がダモクレスのまわりを飛び回り、怒りの矛先が綾奈だけに向けられないようにした。
「それじゃ、行こうか、トト」
 その事に気づいたオズがウイングキャットのトトに声を掛け、「碧落の冒険家」の歌を歌い出した。
 その間に、トトが仲間達の所まで飛んでいき、清浄の翼を使う準備を整えた。
「ト、ト、ト、ト、トランシィィィィィィィィィィバァァァァァ!」
 それと同時にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、再び電波状のビームを放ってきた。
 そのビームは先程割も出力がアップされており、見るからにビビビッと来そうな感じであった。
「そこのダモクレス、いい加減にしなさーい!」
 レイが素早い身のこなしでビームを避け、ダモクレスにガツーンと華麗な蹴りを喰らわせた。
 だが、ダモクレスは止まらない。
 そのまま、レイを弾き飛ばしそうに勢いで、スピードアップ!
「……!」
 それでも、レイは諦めなかった。
 ここで弾かれてしまったら、お空の星になってしまう。
 キラキラと輝くお星様ではなく、ピカーンと光るアレである。
 だが、そんな展開は、お断り。
 吹っ飛ばされたら、最後。
 帰ってくる前に、戦いが終わってしまう可能性もあるのだから、退く訳にはいかなかった。
「違法に出力を上げているだけはありますね。しかも、限界がない。こんな状況で感心するのもアレですが、とにかく発射口を破壊しておかないと……。せっかく稼いでくれた時間を無駄にする訳にはいきません……!」
 一方、アクアはダモクレスの死角に回り込み、ハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾でダモクレスの発射口を破壊した。
「トランシィィィィィィィィィィィィバァァァァァァァァ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、ボディに収納してあったトランシーバー型のアームを次々と伸ばしてきた。
 そのアームは何処からか電波を受信しているらしく、ブツブツと声が聞こえてきた。
「それにしても、うるさいわね。一体、何を受信しているの? 警察無線? タクシー無線? まあ、何でもいいわ。これで大人しくしてもらうわよ」
 リサが苛立ちを隠せない様子で、スターイリュージョンを発動させ、へびつかい座の形に並べてオーラを飛ばした。
「……それに邪魔ですね。変な電波を出されて、仲間を呼ばれても困りますし……」
 ルピナスがジグザグスラッシュを仕掛け、ダモクレスのアームを次々と斬り落とした。
 その拍子にザザザザッと耳障りなノイズが響き、暢気に日向ぼっこをしていた猫達が一斉に飛び跳ね、ぴゅーっと何処かに逃げていった。
「トランシーバァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それと同時にダモクレスがケモノにも似た耳障りな機械音を響かせ、怒り狂った様子でトランシーバー型のミサイルを飛ばしてきた。
 トランシーバー型のミサイルは、何やらブツブツと呟きながら、アスファルトの地面に落下し、次々と爆発していった。
 爆発していったミサイルは、大量の破片を飛ばしながら、ザクザクとアスファルトの地面に突き刺さった。
「ところで、あなたのトラウマは何ですか? いまから、このナイフに映してあげましょう」
 しかし、ルピナスは臆する事なくダモクレスの前に陣取り、惨劇の鏡像でナイフの刀身にダモクレスのトラウマを映し出した。
 そこに映っていたのは、沢山のクレーム。
 『なんで!』、『なんで……』、『なんで?』、『なんでぇ』。
 納得いかない、信じられない、あり得ない。
 そんな言葉が波となって、ダモクレスに襲い掛かった。
「トランシィィィィィィィィバァァァァァァァァァァァァ!」
 それはダモクレスにとって、恐怖でしかない。
 恐怖以外のナニモノでもない。
 だが、逃げ道は何処にもない。
 逃げるだけの余裕もない。
 だからこそ、ダモクレスは思った。
 ……戦うしかない、と!
 例え、この身が滅びようとも、戦わねばならない、と……!
 その気持ちに気づいた時、ダモクレスはミサイルを放っていた。
「まさか逆ギレ? この状況で、随分と余裕ね。そんな事をしても、自殺行為でしかないのに……」
 即座にリサがミサイルを避けていき、尋常ならざる美貌の呪いを放って、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「薬液の雨よ、仲間を清め給え」
 それに合わせて、タキオンがメディカルレインで薬液の雨を降らせ、仲間達の傷を瞬時に癒した。
 それはケルベロス達にとって、癒しの雨。
 しかし、ダモクレスにとっては、忌まわしき雨だった。
「トランシィィィィィィィィバァァァァァァァァァァァ!」
 その事に苛立ちを隠せない様子で、ダモクレスがケルベロス達に突っ込んできた。
 それは、まるで巨大な弾丸。
 それが徐々にスピードを上げていき、ケルベロス達に迫っていった。
「エンジェリックメタルよ、私に、力を……!」
 その行く手を阻むようにして、綾奈がダモクレスに戦術超鋼拳を叩き込んだ。
「トランシィィィィィィィバァァァァァァァァァァァァァ!」
 だが、ダモクレスは怯まない。
 装甲が剥がれ、次々と弾け飛んでも、前に進む事を止めなかった。
「そろそろ終わりにしましょうか。このまま虚無の世界へと、消えてしまいなさい」
 その隙をつくようにして、アクアがディスインテグレートを仕掛け、触れたもの全てを消滅させる不可視の虚無球体をダモクレスに放った。
「トランシィィィィィィィィィィィバァァァァァァァァ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、断末魔を響かせた。
 次の瞬間、ダモクレスの身体が、まるで砂の如く消えていった。
 それはダモクレスにとって、望まぬ最後。
 ……想像していなかった未来。
 だが、ダモクレスに拒否権はない。
 故に、塵の如く消え去り、跡形も残らなかった。
「さて……、ダモクレスを倒す事は出来たけど、在庫の山はどうしようか? これって処分にも困っているようだから、何かに使えるといいんだけど……。例えば修理用のパーツとか」
 オズがヒールで倉庫の壁を修復しながら、仲間達に声を掛けた。
 どうやら、処分にも費用が掛かってしまうため、メーカー側も扱いに困っているようである。
「たまたま昨日、映像面でのパーツが手に入ったばっかりなんだよねー。独自通信の技術ってことで今日も研究所に持ち込もう!」
 そんな中、ことほが御機嫌な様子で、倉庫からダンボールを運んでいった。
 使えるか、使えないかは、研究所に運んでから、考えればいい。
 そこで使い道が無ければ、その時はその時である。
「もし使えないようだったら、しっかり供養するとして……。とりあえず、持って帰っちゃおうかしら! スマホはあるけど、これも素敵なコネクトツールだもん」
 そう言ってレイもダンボールを抱え、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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