思い出は高画質で

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 高性能が売りのブルーレイ・レコーダーがあった。
 これ一台でブルーレイだけでなく、CDやDVDも再生可能。
 しかも、高画質で、大容量!
 この時点で向かうところ敵なしに思えていたのだが、実際には……違っていた。
「つーか、ハードディスク・レコーダーの方が便利じゃね?」
 それはブルーレイを買う機会がなく、テレビで放送している番組を録画する事をメインにしている者達の言葉。
 一応、ブルーレイ・レコーダーにもハードディスクが内蔵されていたのだが、容量は500GBしかなかったため、アリがゾウに挑むようなモノ。
 あっと言う間に、在庫の山が倉庫の中に築き上げられ、処分にも困るシロモノと化した。
 だが、ブレーレイ・レコーダーは諦めていなかった。
 何の根拠もなく、頑張れるという自信があった。
 その残留思念に引き寄せられたのか、小型の蜘蛛型ダモクレスが姿を現した。
 蜘蛛型ダモクレスは、ブレーレイ・レコーダーに機械的なヒールを掛け、ダモクレスに変化させた。
「ブルーレェェェェェェェェェェェェェェェイ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したブレーレイ・レコーダーが、耳障りな機械音を響かせながら、倉庫の壁を突き破った。

●セリカからの依頼
「雪城・バニラ(氷絶華・e33425)さんが危惧していた通り、都内某所にある倉庫で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある倉庫。
 この場所にあったブレーレイ・レコーダーが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、ブレーレイ・レコーダーです。ブレーレイ・レコーダーは、ダンボールに山積みされていましたが、そのうちのひとつがダモクレスと化してしまったようです。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、間違いなく街に繰り出す事でしょう。そうなれば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょぅ」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは他のブレーレイ・レコーダーを取り込み、多脚型の戦車のような姿をしており、ブルーレイを飛ばして攻撃してくるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
不動峰・くくる(零の極地・e58420)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)

■リプレイ

●都内某所
「どうやら、この場所のようでござるな」
 不動峰・くくる(零の極地・e58420)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された倉庫にやってきた。
 ダモクレスが確認された倉庫は、禍々しい雰囲気が漂っており、まるで黒いモヤのようなモノが、身体に纏わりついてくるような錯覚を覚えた。
 それは単なる気のせいではなく、倉庫の中に放置されたブレーレイ・レコーダーの残留思念。
 本来であれば、もっと必要とされるはずだったブレーレイ・レコーダー達の嘆きや、悲しみであった。
「ブルーレイ・レコーダーって結構最近のモノだと思いますけど、それでも破棄されることもあるのですね」
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が、しみじみとした表情を浮かべた。
 それだけ技術の進歩が目まぐるしいのかも知れないが、必要とされなくなった立場からすれば、たまったモノではない。
 壊れて捨てられてしまうのであればまだしも、いらなくなって捨てられてしまってしまったのだから尚更である。
「いまやブルーレイ・レコーダーまで破棄される時代かぁ。綺麗な画像で見られるから、桜子は愛用しているのだけどね」
 天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が、自分なりの考えを述べた。
 実際に、それなりに需要があったようだが、目標の売り上げに繋がるほどのレベルではなかったらしい。
「私はHDD派かなー。ブルーレイって扱い方が繊細だから、怪力王者でなくともパキンといっちゃうんだよね。うっかり踏んだりとかさぁ……あるよね……」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、乾いた笑いを響かせた。
 そのためか、レコードからCDになった時、下宿先のおばあちゃんが『せっかく頑丈になったのに、何で戻ったの!』と騒いでいたようである。
「それでも、ブルーレイ・レコーダーの性能が悪いとは思えませんが……。ただし、容量が少ないのは致命的ですね」
 タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が、何処か遠くを見つめた。
 そもそも、ブレーレイ・レコーダーに内蔵されていたハードディスクは、オマケ程度のモノ。
 メインで使う事が想定されていなかったため、仕方のない事かも知れない。
 だが、それはメーカー側の事情であって、御客側が納得していた訳では無い。
 それ故に、理解を得られる事が出来なかったのだろう。
「うーん、難しいところだね。何かに記録したいって気持ちを否定する訳じゃないけど、そういったモノは長くは保たないしね」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、複雑な気持ちになった。
 しかし、定命化した事によって、物に託さなければ、思い出は残らない。
 そう言った意味でも、何かに記録するという事は大切な事なのかも知れない。
 その結論に達した時、今まで感じた事のない感情に気づいた。
「ブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウレイィィィィィィィ!」
 次の瞬間、耳障りな機械音を響かせ、ダモクレスと化したブルーレイ・レコーダーが、倉庫の壁を突き破ってケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは多脚型の戦車のような姿をしており、ケルベロス達に対して狙いを定めていた。
「まったく、最近は色んなものがダモクレスになるわね。ともあれ、人々に危害が加わる前に、倒してしまわないと……」
 その事に気づいた雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が覚悟を決めた様子で殺界形成を発動させ、ダモクレスの前に陣取った。
「ブブブブブ、ブルーレェェェェェェェェェェェェェイ!」
 その視線に気づいたダモクレスが、ケルベロス達を威嚇するようにして、耳障りな機械音を響かせた。
「そう言えば、こいつを倒したら、元の状態に戻るんだっけか? 壊れてないなら持ち帰るか……」
 そんな中、神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)が、含みのある笑みを浮かべた。
 だが、それはブルーレイ・レコーダーにとって、救いの言葉。
 おそらく、ダモクレスと化す前であれば、尻尾を振って擦り寄ってくる事だろう。
「ブルゥレェェェェェェェェェェェェェェイ!」
 しかし、ダモクレスと化した事で、怒りの感情に囚われているらしく、ケルベロス達を敵として認識しているようだった。

●ダモクレス
「くっくっく、今こそ機械に対して無敵の秘奥義を魅せる時。それは……斜め四十五度からの打撃だ!」
 すぐさま、柧魅がくわっと表情を険しくさせ、ダモクレスの背後に降り立った。
「……!」
 それはダモクレスにとって、予想外の出来事。
 背後からのトン!
 ドン! ドコである。
 その拍子にトレイが開いた。
「まあ、そんなに怯えるな。オレは、これを再生したいだけだから……。それに、オレはお前が必要だ。そもそも、ハードディスクには容量の限界がある。壊れたら全部消えるし録画もできなくなる。ブルーレイディスクに保存すれば割れない限り永久的だ。しかも、意外とブルーレイディスクは丈夫だ。そう言った意味でも、お前には価値がある!」
 柧魅がダモクレスを評価しながら、ブルーレイディスクをトレイに入れた。
「……」
 しかし、再生するために必要な画面が……ない。
 そのため、キュ~ン。
 雨の日に捨てられた子犬の如く、キュ~ンである。
「……ん? 何やら妙な気配が……。まさか!?」
 その途端、くくるが身の危険を感じて、その場から飛び退いた。
「ブルーレェェェェェェェェェェェェェイ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、青いビームを放ってきた。
 おそらく、自分の限界を悟り、逆ギレしてしまったのだろう。
 『もう無理! ボクの限界!』とばかりに、ブチ切れモード。
「ここにテレビかモニターがあれば、状況が違っていたかも知れませんね」
 タキオンが何やら察した様子で、エナジープロテクションを発動させ、自然属性のエネルギーで盾を形成した。
 それと同時に青いビームが弾け飛び、キラキラと光って消え去った。
「綺麗……って、そんな事を言っている場合じゃないよね。藍ちゃんも気を付けて! あのビーム……当たったら、凄く痛そうだし……」
 ことほが色々な意味で危機感を覚え、ライドキャリバーの藍に声を掛けた。
 その警告に従って、藍がダモクレスの射程範囲外から逃れるようにして、少しずつ間合いを取り始めた。
「ブルーレェェェェェェェェェェェイ!」
 その間に、ダモクレスが背中からリモコン型のアームを伸ばし、耳障りな機械音を響かせながら、再び青いビームを放ってきた。
 しかも、ダモクレスがリモコン型のアームを操る事で、青いビームの軌道が変わり、ケルベロス達を狙って迫ってきた。
「あのアームを放っておくと、厄介な事になりそうでござるな」
 その事に危機感を覚えたくくるが、轟震天・対神近接散弾陣(ゴウシンテン・アンチデウスエクスクレイモア)を仕掛け、右腕『轟天』、左腕『震天』の外部装甲板を展開すると、内部で生成した無数の対神近接散弾の嵐を、ダモクレスめがけて一挙に解き放った。
「ブルーレェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その攻撃が雨の如く降り注ぎ、ダモクレスのアームが次々と壊れていった。
 だが、リモコン型のアームが盾となり、ビームの発射口自体は、まったくの無傷であった。
「さすがに、何度もビームを撃たせる訳にはいかないね」
 すぐさま、オズが微かな希望を掴み取る冒険家の歌を歌い、ウイングキャットのトトにアイコンタクトを送った。
 それに気づいたトトが清浄の翼を使い、仲間達の援護に回った。
「確かに、このまま放っておくと面倒な事になりそうだから、ここで破壊しておかないとね」
 桜子がオズの歌声に合わせて勢いをつけ、ダモクレスにスターゲイザーを炸裂させた。
 流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りは、リモコン型のアームをへし折り、ダモクレスのボディを剥ぎ取った。
 しかし、ビームの発射口までは、残念ながら届かず。
「ブルーレェェェェェェェェェェェェェェェェイ!」
 ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ビームのエネルギーをチャージし始めた。
「この熱で装甲ごと発射口を溶かします!」
 その事に危機感を覚えたミントが、グラインドファイアを仕掛け、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
 次の瞬間、ビームの発射口がドロドロに溶け、行き場を失ったビームが内部で弾け、ダモクレスの装甲を吹っ飛ばした。
「貴方の構造的弱点を見抜いたわ、この一撃を受けなさい!」
 それに合わせて、バニラが破鎧衝を仕掛け、高速演算で敵の構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃でダモクレスの装甲を破壊し、無防備なコア部分をあらわにした。
「ブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウレェェェェェェェェェェイ!」
 次の瞬間、ダモクレスが身の危険を感じて、アスファルトの地面を滑るようにして後退し、ケルベロス達を牽制するようにして、ブルーレイ・レコーダー型のミサイルを放ってきた。
 そのミサイルはアスファルトの地面に落下すると、青い光を放って爆発し、大量の破片を飛ばしてきた。
 どうやら、青い光自体に害はないようだが、大量の破片が無数の刃となって、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「皆さん、こちらに!」
 即座にタキオンが仲間達に声を掛け、メディカルレインを発動させた。
 それと同時に薬液の雨が降り注ぎ、仲間達の傷を癒していった。
「ブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウレイイイイイイイイイイ!」
 その邪魔をするようにして、ダモクレスが再びミサイルを放とうとした。
「そう何度もミサイルを撃たせる訳にはいかないよ!」
 それと同時に、桜子がスパイラルアームを仕掛け、肘から先を内蔵モーターでドリルのように回転させ、ダモクレスの装甲をガリガリと削り取った。
「ブルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その影響でダモクレスがバランスを崩し、ミサイルを発射する事が出来なくなった。
「……今のうちに倒してしまいましょう!」
 その隙をつくようにして、ミントがイガルカストライクを仕掛け、杭(パイル)に雪さえも退く凍気を纏わせ、ダモクレスの脚部に突き刺した。
 その影響でダモクレスの脚部が凍りつき、まったく動く事が出来なくなった。
「これで終わりよ。……覚悟しなさい! いまさら逃げようとしたって、無駄なんだから……!」
 その間に、バニラがダモクレスの逃げ道を塞ぎ、無防備なコア部分に黒影弾を撃ち込んだ。
「ブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥレェェェェェェェイ!」
 次の瞬間、ダモクレスのコア部分が侵食され、大爆発を起こして完全に機能を停止させた。
「在庫をいつまでとっておいても仕方ないから、これは処分かな……?」
 その事を確認した後、オズが倉庫に視線を移した。
 倉庫には沢山の在庫が山積みになっており、処分にも困っている様子であった。
 一応、ダモクレスが現れた影響で壊れてしまったモノは、ヒールを使う事で元通りにする事が出来るものの、このまま処分するのであれば、何もしなくても良さそうだ。
「んー、部品とかって何かに使えないのかな? ケルベロスたちのデバイスとかに使えないか、研究者の人に聞いてみようっと!」
 そんな中、ことほが倉庫の掃除をしながら、ダンボールを外に運んでいった。
 この時点で何に使えるのか分からないが、どうせ要らないモノなのだから、有効利用しなければ勿体ない。
「確かに、このまま放っておくと、また増える気が……。せっかくだから、持って帰るとするか」
 柧魅も納得した様子で、同じようにダンボールを運んでいった。
 ある意味、それがダモクレスと化したブルーレイ・レコーダーに対する供養。
 ブルーレイディスクを再生できずに逝ったダモクレスも、きっとあの世で喜んでくれるはず。
 そんな思いを胸に秘め、柧魅が倉庫を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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