飛来せし災厄

作者:神無月シュン

 突如飛来したドラゴンによって、街は一瞬にして恐怖に包まれた。
 雄たけび一つでビルの窓ガラスが粉々に砕け散り、尻尾を振るうだけでビルが次々と倒壊していく。
 圧倒的な力の前に、人々は逃げる間もなく命を落としていく。
 街一つを滅ぼし、十分なグラビティ・チェインを集めたドラゴンは、更に巨大で凶悪な魔竜へと成長を遂げると、次の街へと向かい飛び立つのだった。


 ケルベロスたちはユグドラシル・ウォー後に姿を消していたデウスエクス達が活動を開始したらしいという情報を受け、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の元へと集まった。
 セリカは『ユグドラシルの根と共に姿を消した樹母竜リンドヴルムは、その胎内に魔竜の卵を孕んでいたのだが、その卵が遂に孵化したらしい』という情報を得た事を伝えた。
「孵化したばかりのドラゴンは、まだ魔竜の力を発現していないようですが、多くのグラビティ・チェインを奪って魔竜化しようと、都市に襲撃を仕掛けてきます」
 このままではドラゴンが人々を虐殺し魔竜へと成長してしまう。それを防ぎドラゴンを倒す事が今回の目的になる。

 ドラゴンは飛行して移動するが、都市の人間を虐殺してグラビティ・チェインを得る為に、地上付近まで降下してくる。その為地上からも迎撃が可能だ。
「ドラゴンの大きさは20mもあり、尻尾や爪でビルを軽々と薙ぎ倒す力があり注意が必要です。それ以上に危険なのが、ドラゴンの吐く毒のブレスです」
 その大きさ故、地上からは足を攻撃することが精々だろう。だが高層ビルを足場にすれば頭や背中を狙う事も可能かもしれない。
「今回、戦闘予定の区域の避難は事前に済ませてありますが、都市すべての避難は行っていません」
 都市全てを避難させてしまうと、素通りして別の街が襲われてしまう可能性がある。その為最低限の避難しか行えなかったのだ。

「何としても避難区域内でドラゴンを撃破してください」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
国東塔・蘭理(独り言の多いインキャ・e86421)

■リプレイ


「――ヘリオンデバイス・起動!」
 ヘリオライダーのコマンドワードを受け、降下中のケルベロスたちへとヘリオンから光線が発射され、実体化したヘリオンデバイスを装着。そのままビルの屋上へと着地した。
(「これがヘリオンデバイスの力なのね」)
「うっわー。びっくりしたー。近くにいるんだし普通にしゃべってよー」
 突然の国東塔・蘭理(独り言の多いインキャ・e86421)の思念話に平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が驚き、声をあげる。
「ごめんなさい。どんな感じか気になって……」
「まあ、分かるけどさー。ボクもゴーグル覗いてた最中だったし」
 知識欲が強い2人はヘリオンデバイスの機能について、あれこれ話し始める。
「おいおい、気持ちは分かるが作戦を忘れないでくれよ?」
 ジェットパック・デバイスを使い上空から戦闘区域の確認を終えた水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が2人へと声をかける。
 新たな力となれば試したくなるのは当然の事。そう考えると、今色々試していることについて強くは言えないのだった。

「束の間の休息も許しては貰えないということか。まあいいさ」
 カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)は事件続きの現状にため息を吐きつつ、作戦の為気持ちを切り替える。
「それにしても宇宙を渡るわ、地球で生まれるわ……しぶとさも此処まで来ると、脱帽もんだな、こりゃ」
 鬼人の呟きを聞いていた山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が何やら考え込む。
「卵持ったのが逃げると増える……うーん、黒くて素早い害虫みたいに厄介じゃん! そのうち巣ごと駆除しようよー!」
 ことほは水まわりに良く現れる昆虫が頭に浮かぶと、嫌な顔をするのだった。
「ドラゴンも今まで数え切れないほど倒してきた。その中には今回より不利だったり困難な状況が幾つもあった。地の利があり相手が未熟な幼竜なら俺達が負ける理由は無い」
 そう言うと、渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)は目立たない様都市迷彩のマントを羽織るとビルの陰へと移動を始めた。
「私もそろそろ配置につくわ」
 ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)も『消音コンバットブーツ』と『闇纏い』を利用し、上空から見つからない物陰へと潜む。
「さーて、どこから来るかなー」
「今のところ異常はないわ」
 ゴッドサイト・デバイスを使い、周囲の警戒をする和とファレ。
「お、これかな?」
「こっちに接近する飛翔体を確認」
 ドラゴンの接近を感知し、2人が警戒を促す。
「それじゃ、ジェットパック・デバイスの力。使うとしようか」
 鬼人から他のメンバーのヘリオンデバイスへとビームが伸びていく。ビームを受けたメンバーたちが次々と飛翔を始める中、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)が鬼人へと話しかける。
「俺は遠慮しておく。地上にてドラゴンの注意を引こう」
「そうか。無理だけはしないでくれよ」
「了解だ」
 ケルベロスたちが戦闘の準備を進める中、上空から飛来したドラゴンが道路へと着地する。その質量に地面が揺れ、アスファルトが盛り上がる。
「こいつ、純正のドラゴンとは、違うよな? 地球生まれってんだったら、何かしら、地球に順応してそうな気もするが……そればかりは調べてみない事には……な」
 上空からドラゴンを見下ろす鬼人。ドラゴンを調べてみたい所だが、まずは倒す事を優先する。
「果たせなかった大阪城のドラゴン勢力掃討。ようやくリベンジ開始ね」
 物陰で様子を窺っていたファレはゴーグルを外すと、武器を手にする。
「グオオオオオオオォォォォ!」
 突如ドラゴンが雄叫びをあげ、周囲のビルのガラスが砕け散る。
 ドラゴンの視線の先には、道路の真ん中で待ち構えているマークの姿があった。
「目標捕捉。SYSTEM COMBAT MODE」
 ドラゴンの敵意を一身に受けたマークの一言が、戦闘開始を告げた。


「まずは手始めに、こいつでどうだ!」
 鬼人はドラゴンの死角から近づくと、背中目掛けて刀を振るう。
「いくら魔竜でも生まれたてでは戦闘経験も不十分な筈」
 容易く背後を取られた様子を見て、数汰は同じように背中へと蹴りを見舞う。
『警告! 警告! ドラゴンニ正面カラ挑ムベキデハアリマセン』
「この程度のドラゴンに後れを取る自分ではない」
 装備しているAIが発する声を無視し、マークはバスターライフル『DMR-164C』の銃口をドラゴンの顔面へと向ける。
 マークの射出したエネルギー光弾がドラゴンの顔へと着弾するのと同時、合わせるように放ったカロンのエネルギー光弾がドラゴンの後頭部へと命中する。
 その隙に乗じてカロンのミミック、フォーマルハウトがドラゴンの後ろ脚に噛みついた。
「たー! スライムちゃん、食べちゃってー!」
 和が上空から急降下しドラゴンの背へと乗ると、ブラックスライムを捕食モードへ。そのまま丸呑み……とまでは大きすぎて流石に無理だったようで、ブラックスライムは懸命にドラゴンの背へと噛り付く。
 ドラゴンが煩わしそうに体を揺らし、和を振り落とす。和はそのまま地面すれすれに浮遊すると、ドラゴンに向かって指を突き出した。
「むむっ、一般人さんたちを犠牲にしてパワーアップなんてさせないぞー! けちょんけちょんにしてやるんだから!」
 和の言葉に腹を立てたのか、ドラゴンが前脚を振り上げた。
「わーっと、危ない危ない」
 その動作に慌てて上昇。ドラゴンの振るう爪は、むなしく空を裂いた。
「少しでも毒の対策になればいいけどー」
 地上で戦っているメンバーへ支援することほ。
「壁役頑張って!」
 ことほの言葉にライドキャリバーの藍は張り切り、ドラゴン目掛けて炎を纏って突撃していく。
「どかーんっ!」
 ファレの言葉に呼応してドラゴンの体で爆発が起こる。
「あっはっはっはっはっはっはっ!」
 額に地獄化した正気の炎を灯もし、ファレはドラゴンが爆発する様を上空から見下ろし、狂的に笑う。
「さあみんな、やっておしまい!」
 気分の良くなったファレの放つ言葉は、服装も相まってまるで悪の女幹部の様だ。
「部下になった覚えはないんだけど……」
 蘭理は呟きながらドラゴンの背後へと回り込むと、エゴを具現化した無数の黒鎖を放出してドラゴンに巻きつけていく。
「この隙、逃すわけにはいかねぇな!」
 鎖を断ち切ろうと藻掻くドラゴンへと距離を詰め、鬼人の放った斬撃が三日月を描く。更に上空からの急降下蹴りを浴びせる数汰。
「LOCK ON」
 休む暇も与えずに、マークのアームドフォートによる一斉射が始まる。続けてカロンの放った凍結光線が砲撃で熱を帯びたドラゴンの皮膚を急速に冷やす。
 立て続けに繰り出される攻撃に、ドラゴンが苦しみ暴れだす。振るわれた尻尾が地上のマークたちを薙ぎ払うと、吹き飛ばされビルの壁へと叩きつけられる。
「神様ー! にぎにぎしてくださいなのー!」
 和の御業がドラゴンを掴むと、ファレと蘭理が攻撃を加えていく。
 3人がドラゴンを引き付けているうちに、ことほはケルベロスチェインを展開し魔法陣を描くとマークたちの回復を開始した。


「この動き……危険よ!」
「みんな、ブレスが来るよ! 退避して!」
 上空からの攻撃を繰り返す中、ドラゴンの口元から緑色をした煙が漏れ出してくる。その様子を確認した蘭理と数汰が皆へと注意を促す。
 思う様に攻撃が出来ない上空のケルベロスたちに向かって、ドラゴンはその大きな口を開く。
 飛行中のケルベロスたちは急ぎビルの陰へと退避した。
 ドラゴンの口から放たれる毒の奔流が、ケルベロスたちが隠れるビルへと襲い掛かる。
「ゴホッ! ゴホッ! こ、これは……」
「ブレスが危険ってー、こういうことだったのね……」
「やってくれる……」
「うー苦しいー」
 直撃は防いだはずだった。しかしドラゴンの放ったブレスは、ビルへと命中するとたちまち広範囲へと広がり毒の霧となって周囲に漂い始めたのだ。
「このままじゃマズい。この霧から出るぞ!」
 漂う毒の霧を抜け、ケルベロスたちは着地も満足に出来ずに地面へと転がった。
 それを好機と捉えたドラゴンが前脚を高々と上げる。振り下ろされるその瞬間、仲間の前へと躍り出たマークがショルダーシールドでドラゴンの爪を受け止めた。じりじりと押され始めると、マークは踵のパイルバンカーを地面に刺し込み更に踏ん張る。
「今のうちに態勢を立て直せ」
 マークがドラゴンの攻撃を受け止めているうちに、ことほが皆の治療を始める。
 回復を終え皆が空中へと飛び上がるのを確認したマークは、仕切り直しと後方へ飛び退いた。

 その後、毒のブレスを警戒しつつ攻撃を続けていくケルベロスたち。その間一度もドラゴンはブレスを放つことは無かった。
「もしかしたら、まだまだ未熟な幼竜。あれほどの量の毒、すぐには溜められないのかもしれない」
 戦いの最中もずっとドラゴンの観察を続けていた数汰が推測する。
 その推測が正しいのならば、次のブレスが来る前に畳みかけるべきだ。そう判断したケルベロスたちは一斉に攻撃を開始する。
「TARGET IN SIGHT」
 マークが『DMR-164C』を構え、魔法光線を発射。続くカロンが引き金を引きエネルギー光弾が撃ち出される。
「空と大地の狭間に流れる悠久の風よ――この身にその翼と爪牙を貸し与えよ!」
 数汰はジェットパック・デバイスの最高高度まで上昇すると、そこから急降下を開始。落下の速度を乗せた強力な蹴りがドラゴンへと襲い掛かる。
「知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す。今だ! 渾身のー……てややー!」
 和の詠唱により、ドラゴンの頭上に一冊の本が出現し、掛け声と共にその本が落雷の如き速さで、ドラゴンの頭に直撃する。
「ねえ知ってる? レモン1個には、農家さんの想いがぎゅーってたくさん詰まってるんだよー」
 ことほはエクトプラズムの果実を生みだすと、果実の酸をドラゴンへ向かって浴びせる。更にファレが『神撃槌アニヒレイトスマッシャー』を頭目掛けて振り下ろし、蘭理の虚無魔法がドラゴンの脚を抉り取る。
「……刀の極意。その名、無拍子」
 ドラゴンがバランスを崩したその瞬間、鬼人が刀を一振りする。その無駄のない一撃はドラゴンの首を両断し、頭は地面へと転るのだった。


「やったー! ヴィークトリー!」
 戦いが終わり、和が喜びをあらわにする。
 ことほは『怪力王者』を使い瓦礫の撤去を始めた。
 鬼人は『希望のロザリオ』に手を当て、無事に終わった事を祈ると、動かなくなったドラゴンへと視線を向けた。
「相手は攻性植物から、発生してる奴だからな。杞憂なら、いいんだが」
 どう調べようかと、鬼人は考えを巡らせるのだった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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