鳥さんが夏祭りイベントを発生させたようです

作者:星垣えん

●踊れと彼は言いたい
 青黒い空を、提灯の明かりが横切っている。
 夏祭りが催されていた。気が滅入りそうな蒸し暑さが続く中で、その日は珍しく過ごしやすく、両脇にずらりと夜店が構える通りは浴衣を着た人たちでごった返している。
「お母さん、あれ食べたーい」
「ねぇ次どこ行くー? ってか何買うー?」
「花火とかやるのかなー?」
 家族連れや友人グループ、カップル等々がそれぞれに時を過ごす。喧騒と祭囃子が入り乱れて聞こえる空間を、彼ら彼女らは夜店を巡りながら大いに楽しんでいた。
 ――だが一方、その盛り上がりに比して中央のやぐら周辺はおとなしい。
 本来ならば盆踊りをする人で溢れているはずだが、やぐらが小さくて目立っていないのが大きいのだろう。人がいないわけではないが夜店通りに比べると一段劣る。四方に伸びた祭り提灯に照らされるそこは、しかしちょっと埋もれていた。
 それが、気に喰わんかったんでしょうな。
「くぉぉぉぉらああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ひいっ!?」
「な、何だぁ!?」
 人がひしめく夜店通りに奴が……鳥さんが両腕ばっさばっさしながら乱入したのです。
 たこ焼きとか焼き鳥とか、りんご飴とかかき氷とか持ってる一般の皆さまを、鳥さんは怒りの形相で睨みつけました。
「貴様らぁぁぁぁ! 夏祭りのメインイベントと言ったら盆踊りだろうが!
 それをおまえ、メインを差し置いて夜店で盛り上がるとか……バカっっ!!
 気分がアガっちゃって色々買っちゃうのはわかるけど……盆踊りは絶対でしょ!?
 盆踊りをやらない奴は夏祭りに来る資格はないよ! 帰れ! 全員帰れぇぇぇ!!」
 浴衣姿の方々を前にして、「かーえーれ!」を連呼しはじめる鳥さん。

 何でしょうね。盆踊りが好きな人なんでしょうかね。

●夏祭り行こうぜ!
「夏祭りです♪」
「夏祭りっす!」
 猟犬たちがヘリポートに上ってくるなり、ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)と黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は『祭』と描かれた団扇を見せてきた。
 対する猟犬たちは、一様に頷く。
『おっ、今日は夏祭りか』
 てな感じで諸々を察したからである。
 きっと夏祭りに関して何かを許せない鳥が出てきたんだな、と察したからである。
 一同の顔を見て話が早そうだと思ったダンテは、依頼について手短に説明した。
 夏祭りなのに盆踊りしない奴は許せない、と言う鳥が夏祭りを襲撃すること。
 信者を伴わない単騎突撃なのでサクッと殺れること。
 そのあとは夏祭りを楽しんでくればいいこと。
「お仕事ついでに夏祭りに寄れるなんて、とってもお得ですね♪」
「そうっす! 一石二鳥っすよ!」
 ビルシャナへの言及もそこそこに、もう夏祭りのことしか見ていないロージー&ダンテ。
 しかし仕方のないことだと、猟犬たちは瞑目しながら思った。
 いくつも連なった祭り提灯が頭上を走り、賑やかな人々の声と祭囃子が聞こえる。通りの脇では煌々と明るい夜店が人を集めているのが見えて、こちらの好奇心をくすぐってくる。
『こいつぁ行くしかねえぜ!』
 てな感じで覚悟を決めた猟犬たちは、こくりとダンテに頷きました。
「皆さんなら快諾してくれるって信じてたっすよ! さ、それじゃ自分のヘリオンに乗って下さいっす!」
「夏祭り、みんなで楽しみましょうねっ♪」
 手招きしながらヘリオンのほうへ走ってくダンテについていきながら、ロージーがニッコリ楽しげに微笑む。
 鳥のこととか、たぶんもう忘れているんでしょうな!


参加者
灰霧・懶(鍛冶屋の金属加工師・e01662)
七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)
新条・あかり(日傘忍法ドット隠れの術・e04291)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
ヴァルカン・ソル(緋陽の防人・e22558)
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ

●炎祭り
 夜店の続く情景。
 ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)は明るい顔で振り返った。
「さぁ、楽しんでいきましょう!」
「うむ。せっかくの祭りじゃからな」
「僕も大賛成だよ」
 夜店を指差すロージーへ微笑み返すのは、灰霧・懶(鍛冶屋の金属加工師・e01662)と新条・あかり(日傘忍法ドット隠れの術・e04291)だ。
「りんご飴もいいし、焼きそばもいいよね。お面屋さんは絶対外せない」
「タコ焼きにお好み焼き、わたあめとかも外せないですよね!」
「逸るのはよいが、食べすぎんようにのう」
 わいわい話す三人は揃って浴衣姿である。あかりは鬼灯柄を纏い、ロージーは涼しげな水色の浴衣(ミニ丈)、懶は物言い相応に落ち着いたものを着ている。
 楽しむ気満々だった。
 七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)が、緊迫した顔でヴァルカン・ソル(緋陽の防人・e22558)を振り返る。
「大変よ、ヴァルカンさん! 撮影係をお願い!」
「どうしてそんなに高まっているんだ……」
「念のため画像は残さないと!」
 呆れ調子で見つめてくる夫にさくらは両腕をひろげた。白桜柄の浴衣の濃藍の袖をふわりと揺らして、ものすごい目力で訴えかけてくる。
「……まあ撮るだけなら構わないが」
「ありがとうヴァルカンさん!」
 ヴァルカンにスマホを押しつけ、小走りで三人を捕まえるさくら。
 そうして和やかな撮影風景が生まれる一方。
「これが日本の夏祭り……ゲームでしか見た事なかったものが現実に!」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)は自身を取り巻く情景にわなわなと震えていた。
 どうすればこの画面の中に入れるのだろう――とか真剣に考えたこともあるアホの子がギラついた眼で辺りを見回す。
「どっか、どっかにフラグがっ!」
「レイさん、落ち着いて」
「そうだよー。落ち着こー」
 ツインテを振り乱すレイの両肩を押さえる、陽月・空(陽はまた昇る・e45009)とエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)。
「屋台巡りは食べる順番も大事だよ」
「出来上がりまでの待ち時間とか計算しないとねー」
 食べ物のことしか考えていない顔だった。
「はっ、そうだったわね!」
 レイもアホの子なのですぐ同じ顔になった。
「よーし、みんな今日は楽しみましょう!」
 拳を突き上げるロージー。
 だが皆が手を上げかけたとき――『奴』は現れた。
「貴様らぁぁぁ!!」
 手羽を振りたくり、猟犬たちの前にドリフトで仁王立ちする鳥!
 そう、鳥!
「夏祭りを何と心得て――」
「どーーん!!」
「ぐあああーーっ!!?」
 登場シーンもそこそこにフォートレスキャノンをぶっ放すロージー。いい感じに宙を舞った鳥さんは数秒間くるくるしてからドサッ。
「まだ台詞の途中……」
「すいません、邪魔だったので」
 けろりと言いのけるロージー。
「人の話は最後まで聞くべき――」
「鳥さん、僕は屋台巡りに忙しいの」
「ぐあああーーっ!!?」
 説教もそこそこに空が鳥の背中へパイルバンカーをズドォォン!
 のたうち回る鳥さん。背中から腹に杭が通された状態で時計回りにぐるぐる。
「これでは一本芯が通った男になってしまう……!」
「なんだかお腹空いちゃったなあ」
「おい誰だ私を見て焼き鳥を想像した奴は――」
 不意に放たれた声に反応した鳥が、口を止める。
 倒れている自分を、ホッケーマスクつけた少女(あかり)がぬっと見下ろしていた。
 恐怖だった。
「誰だァァーーー!!?」
「こんがり炙ってあげるね☆」
「やめろォォーー!?」
 掌からドラゴンの幻影をゆらゆらさせるホッケーマスク。
 その後の展開は述べるまでもない。
「盆踊りは元来、死者の供養の行事と言われておる。つまりは先立つ気持ちがあってこそじゃ」
 甲高い断末魔を聞きながら、ごうごう燃えるキャンプファイアに目を細めながら、懶はしみじみと呟いた。

●戦場
 十分後。
「ふんふんふーん♪」
 両脇に夜店が並ぶ通りを、レイは上機嫌で歩いていた。
 その左手には貯金箱。右手にはアメリカンドッグである。
「やっぱり食べでのある粉ものは必須よね。あ、あそこにたこ焼きが!」
「たこ焼きも行っちゃいましょう!」
 口にイカ焼きをくわえ、両手をじゃがバターとお好み焼きの器で塞いだロージーが我先にとレイの指すほうへと駆けだしてゆく。
「食い気がすごいのう」
「食べるのも早いし沢山食べるし、すごい」
 串焼きもぐもぐしながら二人に追随する懶の横で、からころと下駄の音を響かせていたあかり(頭にお面までつけてる)がりんご飴をガリッと齧る。
「あっ、あかりさんがりんご飴を! どこで買ったんですか?」
 飴を齧った音に秒で振り返るロージー。
「少し前に通ったところかな?」
「どうやら見落としていたみたいですね……戻りましょう!」
「そうね! りんご飴は外せない気がするわ!」
 レイを先頭にして猛然と引き返す猟犬たち。そのUターンに従いながら懶は食べまくる二人の背中へ諫めるように言葉を投げた。
「財布の紐を緩めすぎて後で後悔すること無きようにな」
「はひ! わはってはふ!」(チョコバナナで口が塞がってるロージー)
「大丈夫、みんなのお腹はあたしが守るわ!」(胃薬を掲げるレイ)
「まったく聞いとらんじゃろ」
「まあまあ」
 財布の紐が緩むレベルではない二人にジト目でツッコむ懶。それを宥めるあかり。
「楽しんじゃうのは無理ないと思うよ」
「……まあ、そういう雰囲気まで含めてこそではあるがのう」
「そうでふよ!」
「そうよそうよ!」
 ここぞとばかりに乗っかってくるロージー&レイ。調子の良い二人に懶はため息をついたが、その後くすりと笑ったのはお許しのサインだったのだろう。

「みんなもすっかり楽しんでるみたいね」
「ああ。そのようだ」
 人混みの内へ消えてゆく四人を目の端に留めたさくらが、隣を歩くヴァルカンに微笑む。
 二人は人波の中を歩いていた。
 不慣れな下駄で足元を気にする妻の手を夫が握って、ゆっくりと。未だ巡った夜店は数えるほどだが、それでもきっちりさくらの空いた手にはふわふわの綿飴がある。
「あ、見てヴァルカンさん!」
「ん?」
 一軒の夜店の前で足を止めたさくらがヴァルカンの手を引いた。
 彼女が見下ろす先には、簪が並んでいる。
 見るも美しいそれらを眺めて、さくらは思わせぶりな流し目を送った。
「折角だから浴衣に合う簪が欲しいなぁ」
「……なるほど」
 察しの良い夫が少し腰を曲げ、簪たちを見比べる。
 やがて手に取ったのは――紅薔薇の装飾が艶やかな逸品。
「俺達の思い出の花、君を飾るにはいいものだろう?」

 仲間たちがわいわい賑わったり良い雰囲気になっていた一方。
「おじさん。焼けてるぶん全部くっださいな」
「全部……だと……!?」
 エヴァリーナはニッコニコの笑顔で、焼き鳥屋台のおっさんを戦慄させていた。
「……本当にお嬢ちゃん食べられるのかい?」
「全種類50本ずつ追加でお願いしまーす」
「What……!?」
 焼き鳥を包んでいたおっさんが手を止め、思わず母国語を忘れる。
「なるはやで焼き上げよろしくー。私は隣でお好み焼き食べて待ってるね」
「いや焼き鳥食ってれば時間潰せ――ない!?」
 焼き鳥の包みを渡したおっさんがビビり散らす。エヴァリーナが受け取った瞬間に焼き鳥をまるっと平らげたからである。
 もちろんエヴァリーナはお好み焼き屋台のおっさんにも同じ無茶ぶりをして、二人のおっさんは地獄の労務を強いられることとなった。
 バター醤油が香るトウモロコシを齧る空が現れたのは、そんなときだ。
「焼き鳥とお好み焼きは、待ち時間がありそう……?」
「あ、空くんおひさー」
 数分ぶりの再会を果たした空へ、口元にソースつけたエヴァリーナが手を振る。
「空くんも食べる? いっぱい頼んだから少し分けてもいーよ?」
「ん……じゃあお言葉に甘えて」
 大容量のゴミ袋を引きずりながら着席する空。中身は彼が夜店全制覇を目指す道で打ち倒してきたブツの容器たちである。焼きそばを詰めてたパックだったり、フルーツ飴を刺してた割り箸、かき氷の紙カップもある。
「夏祭りって忙しーよね……」
「ん……忙しい……」
 二人並んでしんみりするエヴァリーナ&空だった。
 まさに戦場の中の小休止――休憩して力を蓄える二人の姿は、戦士以外の何物でもなかった。

●のんびり
 ところ変わって、射的なり籤なりが並ぶ通り。
「はあっ!!」
「むんっ!!」
「ママー。あの人たちすごーい」
「そうねー。近づいちゃダメよー」
 さくらとヴァルカンは人目も憚らず、金魚すくいでやりあっていた。突き入れるポイが盛大な水しぶきを上げるたび、金魚と人間がすーっと離れてゆく。
 なぜそんな傍迷惑な状況になったのか。
 流れはこうだ。
『ねぇ、どっちが上手いか勝負してみない?』
『ふ、挑まれたからには受けて立とう』
『わたしが負けたら、なんでも言うこと聞いてあげる』
『これは本気でやらねばな』
 とゆー感じである。
「ここまでは互角ね……!」
「ならば勝負を決めるのは最後の一匹……!」
 うおおお、と白熱を極める夫婦の戦い。
 ――を横で水ヨーヨー釣りながら眺めていたあかりは、そそくさと戦利品を持ってその場を去った。本人の評判のために言うが他人のフリしたかったわけじゃない。
「水を差しちゃ悪いもんね」
 ヨーヨーばいんばいんさせながら、あてどなく歩くあかり。小腹が空いてきた彼女はたこ焼きでも食べようかと夜店巡りを始める。
 で、行き遭う。
「おじさん。たこ焼き全部くっださいな」
「ふぁっ!?」
「あと追加で50パックお願いしまーす」
 エヴァリーナがまたやってた。性懲りもなく。
「エヴァリーナさん。よく食べるね」
「あ、あかりちゃーん」
 てくてくと歩いてきたあかりにぶんぶん手を振るエヴァリーナ。
「たこ焼き食べたかった? ごめんね、今ちょうどなくなったの」
「なくなったって、エヴァリーナさん持って――」
「んー?」
 あかりが見ている前で一瞬でたこ焼き10パックを吸うエヴァリーナ。
 もちろん何も言えなかったので、あかりは一緒にたこ焼きの完成を待ちました。

 一方。
「これがジャパニーズダンス……!」
「ここが盆踊り会場かな? 周りより人の流れが緩やかだから、踊りやすそう」
 レイと空は、たまたま行き着いた櫓で顔を合わせていた。
 どんどんと太鼓が鳴る中、人々が輪を作って踊っている。夜店通りに比べればその流れはゆったりと余裕がある。
「じゃあとりあえず輪に入ってみましょうか……」
「ん、盆踊りはちょっと勉強しておいたから、少しは踊れるはず……」
 そろーり、と人の輪に加わってゆくレイと空。
 周りをちらちらと窺いながら、見よう見まねで始めた盆踊りはそれなりにサマになっていた。空は段々と慣れていってもはや見本を見る必要もないほどだ。
 が、レイはなぜか、一向に動きが硬いままだった。
「振りつけを間違えると切腹……気の抜けない作法だわ……!」
 誤情報を握らされていた。

「盆踊りですねー。私たちも踊りましょうか!」
「ふむ、まあ折角じゃからのう」
 買い食いの末に流れ着いたロージーが懶(財布の紐をきっちり締めてた)にニッコリと笑顔を向ける。踊っても損はないだろうと、懶も彼女と一緒に踊りの輪へ向かう。
 だがそのときだ。
「あっ!」
「むっ、ケチャップが」
 ロージーが持っていたフランクフルトから、ケチャップが垂れ落ちた。浴衣のシミになってはいけないと懶は布巾を取り出して拭おうとする。
 で、そこでちょうどね。
「あ、すいません」
 通りがかった人がロージーとぶつかるんですわ。
 背中を押された形のロージーはそのまま懶に向かって倒れて――。
「あらーっ?」
「むっぷ!?」
 はだけた胸元の爆乳が、懶の顔に襲いかかったァァーー!!

●祭りの締めは
 どぉん、と空に響く重低音。
 天空に咲く花火を見上げて、ロージーは懶の袖をくいくいした。
「すごーい! 見てください懶さん!」
「うむ。綺麗じゃのう」
 はしゃぐロージーの隣で、落ち着き振る舞う懶。ついさっき壮大なラッキースケベに襲われていた男とは思えませんね。
 空には炸裂音が絶え間ない。
 鮮やかにひろがる花火の光を、空は遮るもののない中空から眺めていた。
「色んな音で賑やか。夏祭りってこういうものなんだね」
「そうねー。夏祭りって恐ろしいわ……」
 同じく光の翼で滞空していたレイが、重いため息をつく。その手にはすっからかんの貯金箱がある。祭りを楽しみ尽くしたあとのその軽さは地味に堪えた。
 空が彼女の肩をぽんと叩く。
「まあ、気を落とさないで」
「そうよね……楽しかったことには変わりな――あ、イケメン!」
「……」
 恐ろしい振れ幅で持ち直したレイが、地上に見つけたイケメンめがけて急降下する。見ず知らずの人を兄貴とするべく飛び立った彼女を見送りながら、空は手応えのなくなった手をぐっぱーするのだった。
 他方、祭りの喧騒を離れた静けさの中。
「花火は綺麗だけど……終わりって感じもして少し寂しいわよね」
「まあ、わからなくはないな」
 さくらとヴァルカンのおしどり夫婦は、二人きりで空を見上げていた。
 ヴァルカンが妻の肩を抱く。
「なに、夏が終われば秋が、秋が終われば冬がある」
「……そうね。楽しい時間は、これからもたくさんあるものね」
「ああ。四季折々を、これからも共に」
 大きな音が響き、光が空に咲く。
 その光から、さくらはヴァルカンへ目を向けた。
「……あのね、ヴァルカンさん」
「ん?」
「――――――」
 一際大きな炸裂音が、さくらの言葉を覆う。
 何を言ったのだろうか。それはわからない。だが熱く見つめてくる妻の顔を見ればその奥の想いははっきりとわかった。
 花火の下で、二人の顔が重なる。
 誰が見ることもない、二人だけの空間だった。

「やっぱり夏のマスクは暑いなあ……」
 お面を外したあかりが、ふぅと息をついて瓶ラムネを飲む。
 買ったお面とホッケーマスクを重ねて仕舞った少女は、巾着からスマホを取り出した。
 画面を滑る指。
 花火を見上げながら待っていると、やがて呼び出し音が止まり『彼』の声が聞こえた。
「タマちゃん? 今から夏祭りに来ない? おニューの浴衣見せたいなあ」
 二言三言交わして、それから笑みが零れる。
 彼女の夏祭りはもう少し、続くのかもしれない。

 咲き続ける花火が空を彩る。
 祭りはそろそろ最高潮――誰もがそう疑わないとき。
「到着……!」
 エヴァリーナさんは、近場の業務スーパーの入り口に立っていた。
「屋台料理をお土産に……それもいいけど甘いんだよ……! こーいうお祭りの時は人出を見込んだ近所のお店や、屋台相手の業務スーパーにお得な食材がたくさん売られるんだよ!」
 くわっ、と言いきって突入するエヴァリーナ。
 退店したときは、そらもうホックホクだったそうです。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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