夏の弟切草

作者:芦原クロ

 真夏の夕暮れ時、2人の少女が河川敷でなにかを探している。
 陽が沈み、少しは涼しくなった散歩道を、ランニングする者や、ペットを散歩させている者。
 色々な者が通っては、時折、少女たちに心配の声を掛ける者もいた。
「あのね、夏の花を探してるの」
「黄色いお花で、小さくて、名前は……えっと、オト?」
 声を掛けられた少女たちは、自分たちがしていることを素直に答える。
 だが、花の名前を忘れてしまい、お互いに顔を見合わせて、首を傾げる2人。
 その真横を、異物が漂ってゆくことに、誰1人、気づかない。
 花粉のようなそれは、河川敷にひっそりと黄色く小さな花を咲かせていた、オトギリソウにとりつく。
 小さな花がどんどん巨大化し、咆哮と共に少女らを含む一般人を、次々と殺めていった。

「天司・桜子さんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来たぜ。早速だが、討伐を頼みたい」
「急いで現場に向かわなくちゃね」
 霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)の言葉の後に、分かっているとばかりに頷く、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)。

 この敵に、配下は居ない。
 一般人の避難誘導に関しては、警察などが迅速に対処してくれる。
 ケルベロスたちが現場に到着する頃には、避難は完了している。
 現場に到着後、現れる攻性植物を、迎撃する形となる筈だ。

「現場から歩いて2分ほどのところに、人気のカフェが有る。討伐後に立ち寄って、涼んでみたらどうだろうか」
 桃を贅沢に使ったピーチパイや、苺が盛り沢山のストロベリーパフェや、濃厚な葡萄のソフトクリームなど、夏限定の人気メニューらしい。
「放っておけば、多くの命が失われてしまう……死者を出さない為にも、確実に撃破してくれ」
 真面目な口調と共に頭を下げ、願った。


参加者
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)

■リプレイ


(「まさか桜子の危惧していた攻性植物が本当に現れるとは驚きだよ。でも、被害が出る前に予測が当たったのは不幸中の幸いかな」)
 現場に到着し、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)は油断無く、周囲を見回す。
「一般人の避難誘導は既に終わっているみたいだし、私たちは攻性植物を迎撃することに専念しようね」
 人の気配がしない無人の散歩道を見て、笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)がメンバーに声を掛ける。
 直後、河川敷から、なにかが這って来る音が聞こえた。
 周囲の雰囲気も重々しいものに変わり、異形が姿を現す。
(「この花はわたしも好きだけど、人々を襲う様になったからには見過ごす訳にはいかないわね」)
 素早く戦闘態勢に入る、天月・悠姫(導きの月夜・e67360)。
「敵を取り逃がさない様にしましょう」
 タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)の掛け声に応え、メンバーは敵を囲むように配置につく。
(「弟切草か……もうそんな季節になったのね。夏らしくて素敵な花だとは思うけど、人を襲うなら容赦しないわ」)
 一般人に被害を出さない為にも、確実に撃破しようと気を引き締める、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)。
「さぁ、行きますよ、夢幻。サポートは、任せます……!」
 花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)の言葉を合図に、戦いの火蓋が切られた。


(「弟切草ですか、小さくて黄色の花は綺麗でもありますけど、攻性植物となったからには、被害が出る前に倒してしまいましょう」)
 タキオンは形成した盾で、先ずは自身の護りを高める。
「この弾丸で、その身を汚染してあげるわ」
 バニラが放った影の弾丸が、敵を侵食し、敵は苦しげに呻く。
「私は主に、敵への攻撃に専念するね」
 氷花が宣言し、武器を手に持つ。
「あはは♪ 貴方を、真っ赤に染め上げてあげるよ!」
 躍り回りながら武器で敵を切り裂き、大きなダメージを敵に与える、氷花。
(「私も花は好きですけど、それが人々に危害を加えようものなら容赦はしませんよ」)
 高々と跳躍し、頭上からの叩き割る一撃を敵に食らわせ、仲間を庇える位置に着地する、綾奈。
 夢幻は指示通り、清浄の翼を展開し、味方に耐性を付与した。
 怒りの咆哮と共に、敵が放つ、灼熱の光線。
 標的となったタキオンを、綾奈が素早く庇い、負傷する。
「綾奈さん、大丈夫?」
「平気、です……」
 綾奈が傷つくと、桜子は慌てて心配の声を掛ける。
 燃えるような焼け付く痛みに耐えつつ、綾奈はそう言い切った。
「桜子は怒ったよ。……桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 仲の良い綾奈を苦しめる敵に対して怒りを燃やし、創造した桜の花弁で敵を囲む。
 桜子が放った桜の花弁は、一瞬で紅蓮の炎に変わり、敵を焼き払う。
「霊弾よ、敵の動きを止めなさい!」
 悠姫がエクトプラズムで作った大きな霊弾を、敵に撃ち込む。
「大丈夫ですか、緊急手術を施術しますね」
 敵が怯んだ隙を狙い、タキオンが綾奈の傷を癒やす。
「……ありがとう、ございます」
 痛みと炎が同時に消え、苦痛から解放された綾奈は礼を言った。
(「弟切草かぁ、可愛い花は私も大好きだけど攻性植物になったからには倒すしかないよね」)
 氷花は思案しつつ、敵の真後ろへ回り込む。
「お返しだよ! あはは、この炎で焼き尽くしてあげるよ!」
 綾奈が苦しんだ分を返そうと、炎を纏い、蹴りを激しく浴びせる氷花。
「それっ、ドリルの腕だよ、その身体に穴を開けてあげる」
 桜子も後に続き、肘から先をドリルのように回転させた。
 激しく回転するそれで敵を突き、威力の高い一撃を食らわせる。
「わたしは、敵へBSを沢山付与することに専念するわね。わたしの狙撃からは、逃れられないわよ!」
 ガジェットの形態を変化させた悠姫は宣言通り、麻痺させる弾丸で、敵を撃つ。
 続くメンバーたちも、各々の役割に沿った行動をし、確実に敵を追い詰めてゆく。
「自然を巡る属性よ、皆を護る力となりなさい」
 油断せず、エネルギーの盾で、しっかりと仲間の護りを固め続ける、タキオン。
「神速の突きを、見切れますか……?」
 一気に畳みかける好機が訪れると、綾奈は雷の霊力を武器に宿し、目にも留まらぬ突きで敵を貫く。
「一気に傷口を広げてあげるよ」
 バランスを崩し、よろけた敵目掛け、桜子が放つのはジグザグスラッシュ。
 回復しづらい形状に、敵を斬り刻む。
「魔導石化弾よ、これで石化しなさい!」
 不思議なポケットを拳銃形態に変形させた悠姫が、石化の弾丸で敵を撃ち抜く。
「雪さえも退く凍気で、凍えてしまえー!」
「此処だけは寒い空間にしてあげるわ」
 氷花が強烈な凍気を纏わせた杭を、敵に突き刺すと同時に、バニラがコールド・サイクロンを射出して敵を切り裂いた。
 冷気を帯びた2人の激烈な同時攻撃がトドメとなり、敵は霧散し、完全に消滅した。


 戦場の痕跡を消し、ヒール作業や片づけなどをしている内に、一般人の避難が解除された。
 守り抜いた平和な風景を、暫し眺めて。
「私達も休息しておきたいわね」
「カフェで涼んでみたいわね」
 バニラと悠姫が口を開き、仲間たちに声を掛ける。
「うん、皆でカフェにいってスイーツを頂きたいな」
「桜子もカフェでスイーツを食べたいよ。涼みたいなー」
 氷花と桜子が賛成し、タキオンは、綾奈はどうするのかを問う。
「葡萄のソフトクリームを頂きたいです」
「それでは、私たちもカフェに寄ってスイーツを頂きましょう」
 綾奈の返答を聞いてから、タキオンは全員でカフェに行くことを決定した。
「ピーチパイを食べてみたいな」
「桜子もピーチパイを頂きたいな。甘いものは大好きだから、どんな味か楽しみだなー♪」
 夏限定の人気メニューを選ぶ、氷花と桜子。
「わたしは、ストロベリーパフェを食べたいわ。やっぱり一仕事終えた後は、甘いものを沢山食べたいわね」
「私もストロベリーパフェを頂きますね」
 悠姫とタキオンが、同じものを選ぶ。
「私は、葡萄のソフトクリームを頂くわ。やっぱり夏は冷たいものが一番ね」
 バニラが決め終えると、綾奈もバニラと同じものを注文した。
「わぁー、とっても美味しそうな香りがするね! んー、とっても甘くて凄く美味しいよ!」
「桃がみずみずしくて、美味しいー♪」
 みずみずしい桃に、さくさくの食感で香ばしいパイ生地。
 一口食べると、口の中いっぱいに、桃のまろやかな甘みが広がる。
「苺が甘酸っぱくて美味しいわ」
「この苺の濃厚な甘み、まさに絶品ですね」
 冷えたパフェグラスに、ぎっしりと苺が詰まり、濃厚で程よい甘さの苺アイス、生クリーム、大粒の苺……と、3段の贅沢なパフェ。
 絶妙な味の組み合わせを堪能する、悠姫とタキオン。
「葡萄の濃厚な甘みがとても美味しいわね」
「冷たくて美味しいです……葡萄の甘みも素敵ですね」
 葡萄の濃厚な味が口の中で広がる、暑い時期にピッタリの、爽やかで冷たいソフトクリーム。
 華やかな香りも満喫出来、バニラと綾奈は感想を伝えて美味しそうに食べている。
「ストロベリーパフェも、葡萄のソフトクリームも、見てると食べたくなるね」
 桜子が、仲間たちにじっと視線を送る。
 次に桜子が言うセリフを、なんとなく察する仲間たち。
「シェアしようー♪」
「言うと思ったわ」
「私は大丈夫ですけど、食べ過ぎには注意して下さいね」
 桜子と仲の良い、バニラとタキオンが慣れた様子でシェアに応じる。
 メンバーは和気あいあいとしながら、涼んで休息をとった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月20日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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