ずるっ……。ずっ……ガッ。ずるっ……。ずっ……ガコ……。
暗い空間の中を、暗い鎧を纏った騎士が歩いている。右手には彼の武器であろうか、巨大な剣が握られている。
ただ、その剣は握ってあるだけで、剣先は地に着き、彼が歩くたびにそれが引き摺られた音だけが、空間にこだましていた。
「……アア……アァァ……」
ここは、魔空回廊のような異次元の通路だった。ブレイザブリクから死者の門へと続く転移門の内側。
そんな場所で、『彼』は死に取り込まれたように、狂気へと己を支配されているようだった。
永遠と続くのかそうでないのかも判らず、ただただ、死を与えるためにさ迷い歩いていた。
●ヘリポートへ
「運動会。お疲れさんやったな!」
宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は集まってくれたケルベロス達に、にっこりと笑いかけた。
「まあ、集まってもらったんは他でもない。当然、依頼や。
ええっとや、ブレイザブリクの探索を進めて行ってたわけやけど、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)さんが、ブレイザブリクに隠し領域があって、なんと死者の泉に繋がる転移門を発見したっちゅうことや」
『死者の泉』と言えば、死神が真っ先に浮かぶケルベロスもいただろう。重要な場所になる。ケルベロス達は、おお……。と、思わず感嘆の声をあげた。
「でや、その後にちょっと調査した結果、双魚宮「死者の泉」に繋がっている事までは確認できてんな。でも、そこに、死者の泉を守る防衛機構『門』によって護らてる事も同時にわかったんや。
どうやらその『門』を突破せえへんかぎり死者の泉に向かう事はできへんらしい」
すると一人のケルベロスが、門を壊せばいいだけのことだろう? と絹に聞く。
「いやまあ、それがそうもいかんらしいねん。『門』言うてもそれは『死を与える現象』が実体化したような黒い鎧のエインヘリアルなんよ。で、そのエインヘリアルを倒しても、なんか蘇ってしまうらしい」
倒した敵が蘇る。それが『門』。事情が掴み難い話ではあったが、ケルベロス達は一先ず絹に先を促した。
「ん。とりあえず、皆に向かってもらうんは、その『門』が現れている現場や。うちのヘリオンで案内するから、そっから先は任せるで。
戦場は魔空回廊のような異次元空間の回廊。知っての通り、魔空回廊はデウスエクスの能力が跳ね上がる空間や。つまりこの『門』の戦闘力は数倍に強化されている状態となるな。
今回の『門』は両手持ちの巨大なゾディアックソードで武装しとる。攻撃に特化したヤツみたいやから、こっちもその対応をせな、一気に持っていかれるで。その辺の作戦は任せるけど、気は絶対に抜いたらあかんで」
なるほど。と、情況を把握しつつあるケルベロス達に、絹はあくまでも予測の範囲なんやけど……と、言葉を繋いだ。
「その『門』やねんけど、おそらく42体撃破したら、死者の泉に転移が可能になるらしい。
あと、今の時点ではエインヘリアル側は、うちらがこのルートを発見した事はバレてへん。せやけど、攻略に時間がかかり過ぎると、ルートをつぶされる可能性はある。強敵やけど、確実にな」
そこまで絹が言うと、あ、せや。と目を見開いてケルベロス達の足を止める。
「ヘリオンデバイス、うちのヘリオンにも装着済みや。皆が向かう時に発動させるから、そのへんも作戦にいれてみてな。ほな、よろしくな!」
参加者 | |
---|---|
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550) |
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) |
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
浜本・英世(ドクター風・e34862) |
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973) |
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807) |
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384) |
●『よっしゃ。ヘリオンデバイス、起動や!』
「この辺りからは、一旦歩くとするか?」
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は、周囲を見渡した。仲間たちには、ヘリオンからの降下中に起動したヘリオンデバイス『ジェットパック・デバイス』から出力されているビームが伸びている。そのビームがもたらすのは、飛翔である。
ケルベロス達はそれぞれ頷き、ゆっくりと下降した。
「空をこう飛ぶというのも、悪くないな。こういう感覚は新鮮だね」
目的地ブレイザブリクの隠された領域に降り立った浜本・英世(ドクター風・e34862)は、ヘリオンデバイスの力で得た『飛翔』という感覚に興味があるようで、自分に接続されたビームを様々な角度から観察した。そして、自分自身のヘリオンデバイスも続けて確認した。
「増強の具合は悪くないが、サイズがちと邪魔っけじゃのう」
すると、同じように降り立った服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が、自分に装着されたジェットパック・デバイスをまじまじと見る。確かに、彼女の体には少しそのデバイスは大きいように見える。
「まあ、形や大きさはそれぞれで設定できるという話だ。今後自分に合わせた形にカスタマイズして行くのも良いだろう」
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)はそう言って、目の前にある瓦礫をひょいと持ち上げて、飛ばす。すると、勢い良く瓦礫が遠くの壁にめり込んだ。
「なかなかのパワーだな。うむ」
と、呟く晟には『アームドアーム・デバイス』が装着されている。ただでさえ巨漢であるのに、一際大きい。そして、重厚。彼のその分厚い装甲の上にはボクスドラゴンの『ラグナル』がちょこんと座っていた。心なしか、彼も楽しそうである。
「新たな力ですか……履き心地は抜群です……」
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)はというと、靴型の『チェイスアート・デバイス』を、とんと地面に軽く打ちつけ、具合を確かめていた。少し不気味なほど静かになっているブレイザブリク内部に、カツーンという音が響く。
「こちらの感度も、良好のようです。そちらはどうでしょう?」
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)は装着しているゴーグル型の『ゴッドサイト・デバイス』を少し触りながら、微調整を行う。
「問題ありません、如月さん。良く見えます」
問いに答えたのは、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)だった。彼の視界には、仲間達の存在がありありと映し出されていた。
「今の所、我々しか存在していないようです」
「ええ、こちらも同じです」
沙耶は頷き、大丈夫です、と最後に付け加えた。
ケルベロス達は、そのままゆっくりと奥へと進んで行く。神経を研ぎ澄まし、来るべき時を待つ。
「回復はお任せを。皆様は思う存分その力を……」
最後尾で鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)は、全員に伝える。彼の頭上には『レスキュードローン・デバイス』である饅頭型スライムが、ぽよんぽよんと跳ねるようにして飛んでいた。
静かな時間と、張り詰めた空気。ケルベロス達は更に奥地へと足を進めて行く。
「来たか!?」
すると先頭を歩いていた泰地が、周囲の空気が一変したことに気がついた。
「確かに、魔空回廊のような異次元性……ですね」
英世は周囲を見渡し、様子を確認する。
『来ます!』
そして、和希と沙耶が同時にそう叫んだとき。目の前に黒い甲冑を纏った騎士が存在していたのだった。
●黒騎士
「……アア……アァァ……」
目の前の黒い騎士は、巨大な剣を引き摺り、ケルベロス達にゆっくりと歩み寄っていた。その歩みの速度は一定であり、此方に気付いているのかいないのかもわからない。その変わらない速度が、一層不気味さを感じさせる。
しかし、ケルベロス達は怖気づく事無く、陣形を張る。間違いなくデウスエクスであり、絹の情報ともリンクする。
「アァ……。アアアアアアア!!」
次の瞬間、聞えてきた咆哮と共に、斬劇が飛び込んでくる。
ぎぃぃん!!
咄嗟に晟が飛び出し、その剣を受け止める。
「ぬ……!」
晟の手にはゲシュタルトグレイブ『蒼竜之戟【淌】』。そのお互いの刃が交錯し、空間に火花が散る。
両者の力は互角……いや、徐々に晟が押され始め、その勢いのまま黒騎士が押し切る。
「ぐ……ぉ!!」
吹き飛ばされ、胸に斬撃を喰らう晟。そのダメージは大きく、重たさのようなモノも感じられた。
「奏過さん、回復をお願いします!」
真っ先に動いたのは沙耶だった。ドラゴニックハンマー『The Mallets of Slugger』の竜砲弾を打ち放つ。彼女のゴーグルは、間違いなく敵である事を示している。
そしてそれは和希も同じだった。
沙耶の竜砲弾が着弾したと同時に、和希が上空から飛び込み、重力を叩き付けた。
「動けます、ね?」
「ああ……。有難う奏過君」
奏過は、晟の傷の様子をすぐに判断し、素早い切開と無理矢理な縫合で傷を塞ぐ。晟は礼を言うと、前線のラグナルに指示を出した。するとラグナルからの属性の力が、奏過に降り注いだ。
「さぁ! いざ尋常に、勝負ッ!!」
「いくぜ!」
和希の蹴りを喰らった黒騎士が、その勢いに押されたところに、無明丸と泰地が飛び込む。日本刀『天輪刀』に空を纏わせ、斬る。
しかし、その切っ先が切り裂いたのは黒騎士の残像。
「ほう……。やるのう?」
無明丸は、自分の刀と残像を見比べ、少し笑う。
「はあああ!」
そしてオーソドックススタイルから繰り出す、泰地の左右の連打もまた、同じであった。
「やはり、一筋縄ではいかないみたいだね」
英世はその二人の攻撃を見て、素早い判断を下す。妖精弓を素早く出現させ、刃蓙理へと祝福を携えた矢を打ち放った。
「なるほど。念には念を……ですかね……」
祝福を受け取った刃蓙理は、その狙いを理解し、まず自らのオウガメタルから粒子を前衛へと撒いたのだった。
「暫く、お待ちを……」
●狂気
戦況は、激しい打ち合いとなっていっていた。刃蓙理のオウガメタルが素早く作用し、空を切っていた攻撃が当たり始めたためだ。
しかし、ケルベロス達も、当然無傷と言うわけには行かなかった。
「アアア……アアッ!!」
だらりと両手を下に下げた状態から、上段へと剣を振るう黒騎士。すると、其処から放たれた黒いオーラが、後衛の奏過と和希、沙耶へと襲い掛かる。
バヂィ!!
それを英世が腕の『アームドアーム・デバイス』を目一杯伸ばし、塞ごうとする。沙耶へと向かうはずだったオーラは、その英世のアームによって防がれる。だが、そのダメージは当然英世へと向かう。
「この攻撃を喰らうのは、余り得策ではないですね」
ちらりと英世を確認すると、英世はアームに付着した氷を確認しながら、此方に頷きかけた。
「ならば……」
奏過が赤光のメスを顕現する。
和希、沙耶は、少し目を疑う。先ほどから瞬時にして奏過の姿が反転した為だ。
『今瞳に映るは鏡像…信じて身を委ねて欲しい…』
そして数秒の後、和希はそれが彼の力なのであると、付着していた氷が霧散した事を認識したと同時に確信したのだ。
回復が後回しなった英世は、情況を判断しだす。ここを踏ん張ることが、勝利に繋がる。
「怯まない方が良いね。皆さん、動きを止めるよ!」
その意図を理解した沙耶と和希が、同時に動く。
『貴方の運命は・・・皇帝の権限にて、命じます!!「止まれ」』
沙耶の占いが、黒騎士の『運命』を示す。
『――動くな。壊せないだろうが』
和希が異形を作り出し、複数の蒼い魔法剣が出現していくと、ゆっくりと呪詛と共に黒騎士を蝕んで行く。
しかし、喰らった刃の効果は、いかほどであろうか。それ程無反応だったが、動きがぎこちなくなっている所は理解できた。
ならばと、刃蓙理が如意棒をヌンチャク形態へと素早く分離させ、それを分と振り回した。
ゴィン!
鈍い音と共に、黒騎士の剣が弾かれ、明らかなる隙が発生する。
「追加と行こうか」
其処へ晟が巨体とは思えない速度で稲妻を帯びさせた矛で、黒騎士の肩を貫いた。
明らかなるダメージである。だが、ケルベロス達の攻撃はここでは終わらない。
『ぬぁああああああああああーーーーーッ!!!』
無明丸の声が、空間にこだまする。
無明丸は、ただ、一気に突進し、拳を振り上げ、グラビティ・チェインを籠めて振り下ろす。
果たして、その単純な動作は、黒騎士を顔面から殴り倒すことに成功する。
吹き飛ばされる黒騎士だが、そこに控えているのは泰地だった。地面に打ち付けられ、何とか立ち上がるが、そんな黒騎士の側面から高速の蹴りが放たれた。
『旋風斬鉄脚!』
光の弧を描くその強靭な回し蹴りにも、当然グラビティ・チェインが籠められている。
「やったか? 確かこいつを殴り倒せばよかったのじゃのう!?」
無明丸はそういうが、警戒は解かない。
まだ終わっていない。
自らの本能と言うものが、そう呼びかけるのだ。
「アアアアア……アアアアアアア……」
そして、ゆっくりとまた、起き上がる黒騎士。その仮面の奥には『狂気』ともいえる怪しい光があった。
●唸りと共に
「ウアアァァ……!!」
黒騎士は、自らの体が思うように動かないことに苛立ったのか、唸り声と共に剣から力を自らに降り注がせ、黒い光が全身を覆うのだった。
戦う事を止めようとしない。
いつまでこの戦いが続くのか。
そう思わせる為かもしれない。
「出番ですね……」
その時、刃蓙理が舞う。その塵芥は彼女の作り上げたものだ。灰色の塵芥が彼女が妖しく動くたびに、黒騎士の周りへと集まっていく。
『死灰復然……くらって……泣いとけ。』
そして、それは一気に爆発を起した。
カラン……。
大剣が手から離れ、無造作に地へと落ちる。見ると、先ほどの黒い光は消えている。
英世の付与した破剣の力が、オーラを吹き飛ばしたのだ。
『……切り裂け、ギア・スラッシャー!』
そして放たれたのは、英世の三枚の歯車だった。今までの傷を、抉る。
「ガァ……」
歯車が切り付けるごとに、動きが鈍くなっていく。そして、黒騎士に、動く力は残っていなかった。
『砕き刻むは我が雷刃。雷鳴と共にその肉叢を穿たん!』
ドッ……!
そして、最期に晟の突きが胸部に突き刺ささる。
「終わりだ」
晟がそう呟いた時、狂気の騎士はその穿たれた中心から霧散し、消滅して行ったのだった。
「まだ終わりじゃないとは、どういうことじゃ?」
異空間に、無明丸の声が響き渡った。それは、彼女が高らかに勝利を宣言した時のことだった。
「ああ、確か42回撃破しないといけないそうだぜ」
少し情況を理解していた泰地が、彼女にそう言うと、続けて奏過が頷いた。
「ええ、他の仲間達の力も加えて、全て42体です」
奏過の言葉に、刃蓙理が頷いて付け加える。
「此方に……まだ余力は少し、ありそうですが……」
「そうですね。ヘリオンデバイスのおかげで、体力は戻るでしょう。ですが……」
沙耶もまた、少し何か引っかかることを加える。
「復活する。と言っていたしね。その2時間で済めばいいんだけど、まだ相手の事も良くわかりきっていないという情況だから。私はここで撤退を提言させてもらうよ」
英世は、情況を整理し、全員にそう伝えた。
「私も、その方が良いように思う。敵の攻撃は、強大である事は、よく判ったからな」
すると晟もまた、英世に賛同する。
「ヘリオンデバイスも、もう少しうまく使うことが出来るかも知れませんし。僕たちもまた、準備を整えることが出来ます。ここは一旦退きましょう」
今回の報告をすることによって、ケルベロス全体の作戦もまた、効率が上がることも確かだろう。
和希の言葉に、全員が頷いた。
「では……。撤退という事で、これを……試してみたいです……」
刃蓙理はそう言って、有無を言わさず全員に『チェイスアート・デバイス』のビームを繋ぐ。
「賛成だね。これもまた、面白そうだ」
英世は自らの足に伝わる力を感じ、興味深げに頷いた。
こうしてケルベロス達は、この空間から脱出する。
未知なる力と未知なる敵。
どちらがどうなるかは、まだ詳しくは判らない。
だが、ひとまずケルベロス達は、新しい力にその身を委ねたのだった。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年8月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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