花開く、新たなるもの

作者:白石小梅

●魔竜の孵化
「ねえ、パパ、ママ。見て見て」
 子供が指すのは、華々しい映像を夜の街に散らす街頭の巨大モニター。
「ケルベロス大運動会の記録映像ね。あの人たちが世界を護ってくれているのよ」
 映るのは、誰よりも速く、力強く……超人的な動きで人々に希望を与える、番犬たち。
 その姿は世界の希望。記録となった映像にすら、人々は夏の夜長に足を止め、顔を綻ばせてそれを見上げる。
 だが、その時。
「……なんだ、アレは?」
 ひらり、ひらりと、花びらのようなものが空を舞っている。蝶の羽ばたきの如く、赤に白に、色を変えながら。だが、花びらにしてはあまりにも……。
 そしてそれはモニターの上まで迫り、まるで芙蓉の花が開くように翼を広げ、花芯の如く色づく竜の姿を現した。
「ドラゴンだ!」
 空へ向けた咆哮が、人々の悲鳴と重なった瞬間。大地から芙蓉の花が飛び出して、アスファルトごと人々を刺し貫く。その吐息は花びらとなり、逃げ惑う人々を薙ぎ払う。
「逃げろ! 早く! 逃げ……!」
 やがて悲鳴は途切れ、紅白に彩られた花びらが、動く者のいなくなった都市に舞うのみ。人々は皆、眠るように芙蓉の花に包まれながら、息を絶やしていた。
『……母竜さま。この力にて、わたくしも立派な魔竜となりましょう』
 グラビティ・チェインを吸いあげた竜は、智慧を花開かせて流暢な言葉を口にする。
 森が育つようにその身から花を零れさせ、都市を酔芙蓉の花畑に呑み込みながら……。

 それは、ユグドラシルの根と共に姿を消した『樹母竜リンドヴルム』の育んだ仔。
 花竜の素養に、魔性を宿した卵が孵化した姿。
 解き放たれた、魔竜へと至る雛の一体であった……。

●胎動
「大運動会、お疲れ様でした。しかし早速ですが、悪い報せです。『ユグドラシル・ウォー』の勝利の際に姿を消したデウスエクス達が、活動を再開し始めました」
 呼集に集った番犬たちの前に、望月・小夜は地図を表示する。
「私はその胎内に魔竜の卵を孕んだまま姿を消した『樹母竜リンドヴルム』の動向の一端を掴みました。奴は本星から切り離されたユグドラシルの根から力を吸い上げ、遂に卵を孵化させ始めたようです」
 孵化したばかりの竜は雛鳥と同じで、まだ魔竜の力を発現させてはいない。だからこそ力を得て魔竜化せんと、人々を虐殺するため都市部に飛来するというのだ。
「雛竜が襲来するのは、関東地方のとある都市です。戦場となる区画からは一般人を避難させますが、都市全体からの避難は人数的にも予知がずれないためにも不可能です」
 つまり、ことは単純明快。都市に舞い降りる魔竜の雛と殺し合い、勝てば犠牲はなく、負ければ都市が陥ちる。
 それだけのこと。
「そう。この竜を迎撃し、魔竜化を防いで人々を護る……以上が、今回の任務です」

●新たなる力の激突
「敵は虐殺のため、都市の街頭モニター前広場に舞い降りて来ます。現場は高いビルに囲まれ、足場も広さも十分。ビル外壁や内部を駆使して立体的に闘えば、地上からの迎撃も可能でしょう」
 だが相手は、持って生まれた攻性植物と竜の力を合わせ、花吹雪のブレスや大地を裂く草花を召喚するなどして、激しく攻め立ててくるという。
「芙蓉の花のような翼に覆われた竜なので、仮に『酔芙蓉』と呼称しましょう。孵化したばかりとはいえ、流石に魔竜の眷属。その力は強大で、侮れぬ相手です……が」
 小夜は一拍おいて、モニターにヘリオンを映し出す。そして、それの秘める『常駐型決戦兵器』を。
「この任務より、ヘリオンデバイスを実装いたします。詳しくは資料を読み込んでください。攻め、護り、補助、場合によっては撤退支援も含め、皆さんにとって新たな、そして大きな力になるはずです」
 小夜はそう言って資料を渡し、ため息を落とす。
「長らく、戦地に向かう皆さんを見送るだけでしたが……私たちがヘリオンデバイスを輸送・実装させることでほんの僅かでも力になれるならば、これに勝る喜びはありません」
 そう。新たな力が芽吹きつつあるのは、敵だけではない。
 決戦都市『東京』に力を集めた人々の想いを力に変えて、敵を迎え撃つのだ。

 目を拭い、小夜はふうっと息を整えて。
「敵の飛来する方角などから『樹母竜リンドヴルム』の拠点位置の解析も始めております。迎撃任務を成功させていくことで、いずれリンドヴルムへ決戦を挑めるでしょう」
 そう結び、彼女は頭を下げる。
「それでは……出撃準備を、お願い申し上げます」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
新条・あかり(日傘忍法ドット隠れの術・e04291)
小車・ひさぎ(さまさまばけーしょん・e05366)
輝島・華(夢見花・e11960)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)

■リプレイ


 ヘリオンのハッチが動き、眼下に大都市が広がる。魔竜の雛が、花弁の如くひらひらと舞い降りる。
 それはいつもの、出撃風景。だが。
「ふふ……わくわくしますね。小夜姉様、よろしくお願い致します」
 ブルームを撫でながら、輝島・華(夢見花・e11960)が目を輝かせて気合を入れる。
「望月、新兵器の試運転ダな。行ってくル」
 警告灯が赤から緑に切り替わり、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)がキリノを引き連れ、跳躍する。
 そう。今回は一つだけ、いつもと違う。
『ええ……! 皆さん、お願い申し上げます! それでは、【作戦開始】!』
 ヘリオンからコマンドワードが響いた瞬間、八条の閃光が瞬いた。風を切りながら、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は天に向けて腕を掲げる。
「Roger! Device wake up!」
 受け止めた輝きは身を流れ、ランドルフの片目に螺旋状の機械として組みあがる。視界に浮かぶは『You get Eyes of future』の文字。
「ヒュー、すげえ! 街の人の居場所も把握できるっぽいぜ、コレ!」
 一方、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が雄叫びのように軋ませて、己の背から無骨な鉄翼の如き機腕を広げる。同じく片翼の如く機腕を展開する眸と、笑みを交わして。
「小夜、任務了解だぜっ。でもこれ、みんなのも俺のも、すげえカッコいいなあっ」
「ああ。新たな力を得ルのは、心地よいものダ。敵にも不足はなイ、全力でいくぞ」
 人々の願いを基に、それぞれの番犬が組み上げる、常駐型決戦兵器。
 その名は。
「これが、ヘリオンデバイス! 空を飛ぶ敵と戦うのは難しかったが、これさえあれば……!」
 ルーク・アルカード(白麗・e04248)が背負ったジェットが、吼え猛る。
 くるくると舞う小車・ひさぎ(さまさまばけーしょん・e05366)の片目には、艶やかな花形のゴーグルが開き、新条・あかり(日傘忍法ドット隠れの術・e04291)の足に絡むは朝顔の蔓花。
「敵も花属性だし、対抗心が形になったんかな? あ、いや、べ、別に浮かれてへんからね! えーと、戦場周辺一キロ四方は、ほぼ避難完了みたい!」
「うん、確認ありがとう。さあ……どんなに美しかろうが、その花が開き切る前に葬るのが番犬の務め。行こう」
 己が構築したドローンを、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)がちょいちょいと触ると、ドローンは擦り寄るように身を寄せる。
「ん、なかよしだ。はなればなれに、しないからな。ドローン、はっしんだ」
 己が顕現させた専用機である以上、例え消失してもそれは必ず側にある。その本質を知ってか知らずか勇名はドローンの上に乗って。
「初めましてドローンさん、よろしくお願い致しますね。さあ皆さん、ドローンを足場に!」
 華の一声に、番犬たちは二機のドローンの上を跳ね、広場を囲むようにそれぞれビルの屋上へと着地する。ルークとあかりのデバイスから光が散って、まるで結界のように戦場を囲う。
『……!』
 広場の中心に降りていた花竜は、飛翔と追跡の力が共有されているのを見上げて、額にしわを寄せた。
 あれは何だ……武器か? 母から聞いていた敵と、少しだけ違う……。
 訝しみつつも、羊を護る番犬の存在は織り込み済み。大輪の竜は花翼を広げ、迎え撃つ構えを見せる。
「「……行くぞ!」」
 新たな力を得た番犬たちと、花の魔竜……どちらが未来へ花開くのか。
 闘いが、始まった。


「俺と眸は、地上で迎撃するぜっ」
 広喜たち前衛が、ビル壁を走って突貫する。
 待ち受けるのは、竜の放つ紅白の花吹雪。広場全体に渦を巻いて。
「了解した。強力な敵だが、新しい力を試すにはもってこいだ」
 ルークのジェットが火を噴いた。デバイスを装備できないブルームと、地上での闘いを選んだ二人が花渦を駆け抜ける後ろで、彼は身を宙に翻してそれを避ける。
『……!』
 思いがけぬ飛翔に羽ばたいた竜を狙い、ルークはそのまま螺旋の氷結を撃ち放つ。胸を撃ち抜かれた花竜の体が吹き飛んで、ビルにめり込む。放った本人も受けた相手も、目を剥くほどの威力だった。
「これは、凄まじいな! この力、存分に振わせてもらうぞ……!」
「ブルームたちサーヴァントにデバイスの力がつけられないのは残念ですが……これなら近距離攻撃は完全に無効化できますね!」
 駆け抜けた前衛たちを雷壁で護りながら、華が稲妻の如く空を舞う。めり込んだビルから抜けようと足掻く竜の爪の間を、あかりが駆け抜けて。
「敵の技を完封できるなら、敢えて飛行しない理由はない……残念だったね、魔竜雛。その爪は、もう僕には届かない」
 縦横無尽に空を駆けるこの足があれば、狙えるはずのない位置を取れる。ビル壁を跳躍し、朝顔の蔓が虹のように引かれた時には、竜弾が華麗に竜の横面を撃ち抜いて。
 ドローンに掴まってぶら下がりながら紙兵を撒く勇名が見るのは、下へ横へと撃ち抜かれ、まるで広場が檻であるかのように動きを封じられる竜の姿。
「んう。ぱわーあっぷ、すごい……でも飛ぶとみんなうしろに来ちゃうなー。ヒールのしかた、かんがえないとな。後衛たくさんのたたかいかた、なー……」
 仲間が飛ぶと、癒しの力が広がりすぎてしまうという欠点はある。それでもなお飛翔の効力は大きく、それ以上に各デバイス全体の持つ増幅効果が大きい。
 ランドルフのサイトが敵の動きを完全に捉えて、滑り込むようにその顔面を蹴り抜けた。
「人から笑顔を奪おうってんだ……人々の笑顔を力に変えることを、卑怯たあ言うまいな。そもそもお前らは宇宙やら高空やら飛んできたりしてきたんだしな!」
 その蹴りは顎を打ち抜き、完璧な当たりが花竜の頭蓋を揺らす。
『……!?』
 ぐらついた竜の頭上には、すでにひさぎが指先に御業を舞わせて、躍り込んでいる。
「自ら成長しようって心がけは立派だけれどね。ここから先は、行かせない。魔竜へ育ちきる前にその花摘んでやるんよ」
 御業が関節を撃ち抜いて、その動きを牽制する。この目でなければ捉えられない、敵の動きの僅かな隙。竜を相手にしてさえ、狙撃手たちの視線は狙いを外さない。
 地上すれすれで二人が身を捻らせた瞬間、竜は怒りに目を歪ませて咆哮した。大地を破って酔芙蓉が突き出した瞬間、割って入るのは広喜と眸。仲間の腕をアームで掴み、そのままビルへと放って射線からずらす。
「ここは任せろ。盾は、俺たちだぜ」
「わわっと……! ありがと!」
「綺麗な花にゃ毒があるつっても……コイツはやりすぎだっての!」
 球状に身を覆ったアームを広げ、護り手二人が大地に立つ。傷の多いブルームをキリノが援護する前で、二人は体から花びらを掃って。
「まだ行けルな……だがワタシたち以外は力の組み方に関わらず後方配置か。とすれば、奴は必ずそちらを狙ウ」
 爪牙を受ける危険を冒して、前衛から攪乱するか。全員を後衛に下げ、決め手を封殺するか。どちらも一手。今回は、前者。
「へへ、一長一短って奴だな。さあ、やろうぜ、眸。俺たちの闘いって奴をっ」
「ああ。経験の差を見せてやろウか」
 そして二人は、突貫する。虹を纏った蹴りが竜の注意を引き付け、怒りの呪縛を以て振るわれる【碧蓮火力式機械剣】が竜の背を薙ぐ。
 竜は花弁の如き翼で身を護りながら、混乱した思考を巡らせる。
 馬鹿な……目に見える力では、これほど強いはずがないのに……!
 番犬の力、狙い、堅さ。
 その全てが幼い竜の理解を超える中、闘いは激しさを増していく。


 血を払ったルークのジェットが、炎を吹く。
「雛と言えども、流石に魔竜。これ以上、成長させるわけにはいかないな……!」
 新たな力に翻弄されつつも、竜にも魔性へ至らんとする意地がある。
 一閃を交え、互いの間に血を咲かせると、花吹雪の吐息が広場を呑み込んだ。硝子が砕け、降り注ぐ煌めきと花びらの中、小さなビルが倒壊する。
 限界を迎えつつあるブルームが、それに巻き込まれるが……。
「何度来ようと貴方達の好きにはさせません。必ず皆様を守ってみせます……例え、どれだけ強大な敵であろうとも、この力を得た私達なら……! きっと!」
 ブルームが姿を消失させる寸前、降り注ぐ瓦礫の中にレスキュードローンが傘のように割って入った。【叩いて治す杖】が翻り、賦活の電撃が土煙の中に迸る。
「さあ、ブルーム! 護って!」
 華の圧倒的な癒しの力で、砕け散り掛けたブルームの車体が急速に再生した。キリノが飛ばす瓦礫の上を走り、火焔の突撃で竜を打つ。
 ならばと振り下ろされるのは、竜の爪。流石に傷の増えてきた護り手たちを狙って。
「むい。なかよしをー、たおれさせたり、しない……尾方と君乃がみんなをまもるなら、ふたりをまもるのは、ぼくだ」
 稲妻の属性の盾が、護り手の身を包みこむ。癒しと守りが致命の爪の威力を殺し、機腕を広げた広喜がその一撃を受け止める。
「綺麗な花だぜ、お前は。けどな、満開にさせてやるわけにはいかねえんだ。俺たちが、ヒトを守るからな」
 笑みと共に立ち昇るのは、蒼炎。腕を焼かれ、竜が悲鳴を上げて怯んだところに。
「さあ、いまだぞー」
 滑り込む勇名と華のドローンを足場に、眸が跳躍する。握り込んだ光刃が竜の背に沈み、その身を縦に裂いて。
「ああ。嘗て超えられなかっタ壁も、今ならば超えて見せル。だが若き竜よ。お前には、ワタシたちを超えさせなイ」
 壁面まで跳んで、アームがその身を壁に固定する。蹴りつけられた花竜は、足掻きながら滑落して。
「うん。その進化の可能性は、僕たちが摘んで見せる。今の僕は、搦め手の援護がなくても、外しはしないよ」
 広場の直上。花蔓で円を描く小さな影は、あかり。吾亦紅の槌を振るい、凍結の一撃を天から落とすと、大地は白い花のごとく凍てついて。
「酔芙蓉は寒さに弱い品種らしいけど、竜はどう? ……さあ、ひさぎさん」
「まっかせてー!」
 縫い留められた竜が身を捩るところに落ちて来るのは、ひさぎ。歯を軋らせた竜は、大地を突き破って酔芙蓉の花を伸ばして対抗するが。
「血生臭くなくて、むしろ美しいの、悪くないんよ。花竜の素養が為せる業なんかな? ……でもな。同じ失敗を、繰り返しはしないんよ。行け、”花房”!」
 紅く迸る御業が、酔芙蓉の花々を蹴散らした。もがく竜へ向け、火焔と化して降り注ぐ。怒りと苦痛の悲鳴があがり、今や純白の花翼も朱に染まった。文字通りに色を変えた酔芙蓉の如く。
 花竜はたまらず飛翔する。広場を脱し、人々の虐殺を優先しようというのか。
 しかし。
「「逃がさない」」
 そこに飛ぶのは、勇名の鋸刃に、華の花弁。あかりが共有する力が、容易くその足先を裂かせた。竜はつんのめるように転び、忌々しさを込めて吼える。
 もはや癒し手さえも攻めに回り、空さえも逃げ道とはなりえない。
「させると思うか。尤も、逃げ帰るのなら歓迎だ。その時は、仲間たちの目と足が、お前を母のところまで追うだけだ」
 顔を上げた竜の前に待ち構えるのは、ルークとランドルフ。
「さあ、来いよ……散らせてやるぜ、徒花として、な」
 その言葉を、侮辱と取ったか。竜は最後の勝負に出た。
 目に見える力では、自分の方が圧倒的に上のはずだ。番犬の包囲を、突き破って見せると。
 走り込んでくる竜の前に、ルークが無防備に走り出る。まるで飛翔の利を捨てて、無策で爪に掛かりに行くように。竜が渾身で、その姿を裂き潰す。
 だがその切っ先は、まるで手応え無く大地を抉った。
『……!?』
「残念だったな! こっちだッ!」
 背後に現れたルークが、その全霊を背に叩き込む。土煙を立てながら、竜は圧し潰れるように血を吐いた。
 その眼前で力を集約するのは、ランドルフの光刃。
「あの世で咲きながら、リンドヴルムを待ってるがいい。詠え優曇華! 冥葬の調べを……『終わり』の刃を、くれてやれッ!」
 目を見開いた竜に向け、剣閃が瞬いた。
 断末魔の咆哮の中、その顔が縦に割れる。酔芙蓉は吹き上がる鮮血で周囲を紅く染めながらゆっくりと後ろへ崩れ……大地へと散ったのだった。


 ……闘いは、終わった。
 ため息を落としたルークが、瓦礫に腰を下ろして背のジェットパックを見る。
「完全勝利だな。ジェットパックの飛翔能力は……基本的に、全員が共有した方が有利だろう。攻め、撤退に追跡……何でも使える」
 頷くのは、眸。
「ああ。今回はワタシたちが前へ残っタが……飛んだ場合でも勝つ手はあった。使い慣れた戦術を組み直す必要はあルが」
 もし今回、全員が飛翔すれば敵は範囲攻撃をひたすら後衛へ連射してきたろうが、代わりに決め手を完封できた。
 飛翔能力が戦闘外にも応用できることを鑑みれば、むしろ今後は敢えて飛翔しないという選択の方が珍しくなるかもしれない。
「これで人の居場所がわかるのは便利だぜ。避難誘導も楽になるし、潜入とか捜索とかでも、役立つんじゃねーかな」
 ランドルフがゴーグルを弄りながらそう呟く。
 因縁のドラゴンとの闘いを無事に終えて、瓦礫の上にごろりと横になっていたひさぎが、うんうんと頷いて。
「魔竜になったあいつら、まだ生き残りいるはずだからね。キャスターの能力も合わせれば、探しやすいかもね」
 今まで半端な能力として敬遠されがちだったキャスターだが、ヘリオンデバイスの力があれば大いに化けるだろう。
 番犬たちは、微笑んで頷きを交わす。
 新たな可能性は、幅広い。更に使いこなせば、これからの闘いに大きな力となって開花するはずだ。
 一方……。
「すげえ、これメチャクチャ便利だぜっ。ほら、壊すだけじゃないんだぜ。みんな、見てくれよ」
 はしゃぎながら、広喜が吹き飛んだバスを持ち上げてターミナルへと戻していく。十トンを超える重さの車両も、アームでタイヤを外せば輸送できる。
(「僕の拙い踊りも、この靴があれば少しは様になるかな」)
 己の足に絡む朝顔を見つつ、どことなく綻びた顔で踊るのは、あかり。突き崩されたビルの群れが、幻想化しつつも立ち直っていく姿は、それこそ花々のよう。
「街の人たちはこっちだよ。みんなも手伝って」
 手を振れば、勇名と華が街の人々を乗せたドローンで降りてくる。
「んう。ヒールでビルはなおるけど、できるだけ、かたづけないとな。ぼくもてつだう。でも、なにがどこにあったか、なー……」
 首をひねる勇名に、街の人々が微笑みかける。もう一台のドローンから、華が従者たちと共に降りて。
「ブルームにキリノさんも、無事に……護り切れて、よかった。さあ。迎えが来るまで、私たちも手伝いましょう」

 ……こうして、ヘリオンデバイスを用いた初戦は、終わりを告げる。
 譲り受けた力を胸に、護り抜いた人々と笑みを交わして。
 次の戦場へ、その花を咲かせに行くのだった。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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