激闘7分間-「メカ・ヤンチュアノサウルス」を斃せ!

作者:秋津透

 奈良県、生駒市、深夜。
 中心街に並ぶビルの一つが、突然内側から爆発するように崩れ、全長8m程度の大型ロボット……巨大ロボ型ダモクレスが出現する。
 その姿は、太い後足を持ち、前傾した二足歩行をする巨大爬虫類。いわゆる恐竜の姿を模しているが、体表は金属装甲で覆われており、関節などはメカニズムが露出している。
「シャギャアッ!」
 巨大恐竜ロボは鋭い声で咆哮し、半ば体当りのような動きで、周囲のビルを崩す。よほどのマニアでなくては判別できないだろうが、その巨大恐竜ロボ型ダモクレスのモデルは、ティラノサウルスでもなければアロサウルスでもない。中国大陸で発掘された平均体長約8メートルの恐竜「ヤンチュアノサウルス」をモデルとする「メカ・ヤンチュアノサウルス」なのであった。
 
「どうも、恐竜型のダモクレスが現れるのではないかという気がして、ヘリオラオダーに予知をしてもらったところ、奈良県の生駒市に「メカ・ヤンチュアノサウルス」が出現する、という予知が得られた。案の定だ」
 皇・絶華(影月・e04491)が淡々とした口調で告げ、ヘリオライダーの高御倉・康が難しい表情で続ける。
「はい。絶華さんの予感通り、奈良県生駒市に、オラトリオに封印されていたと思われる巨大恐竜ロボ型ダモクレス……ええと、メカ・ヤンチャサウルス、じゃない、メカ・ヤンチュアノサウルスが復活し、7分後に魔空回廊が出現して回収される、という予知が得られました」
 そう言うと、康はプロジェクターで画像を示す。
「出現時間は今夜深夜、出現場所はここ。既に住民の避難は進められており、出現時には近隣には誰もいなくなっています。こちらは出現30分前ぐらいに到着し、待ち構えることができますが、出現する建物の内部等を調べても何もありません」
 そして、康は画像を切り替える。
「メカ・ヤンチュ……アノサウルスは、グラビティ・チェインの枯渇によりさほど強力な攻撃はできないようですが、主として口から敵列を薙ぎ払う火炎放射を行い、両眼にあたる部分から、単体攻撃用の破壊ビームを撃つようです」
 そう言うと、康は一同を見回す。
「そして、フルパワー攻撃として、強力な突進体当り攻撃を一度だけ仕掛けてくる可能性が高いです。まともに当たったら、かなり高レベルのケルベロスでも一撃で戦闘不能に追い込まれる強力な攻撃です。たた、仕掛けた反動で、メカ・ヤンチュアノサウルスもそのあと2ターン動けなくなるようです」
 そして康は、もう一度画像に目をやった。
「なぜダモクレスが地球の古生物を模したメカを作ったのかは分かりませんが、回収を許したら厄介な存在になりそうに思えます。7分間で確実に仕留めてください。よろしくお願いいたします」


参加者
日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)
皇・絶華(影月・e04491)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
美津羽・光流(水妖・e29827)
チャル・ドミネ(シェシャの僕・e86455)
 

■リプレイ

●そもそも「ヤンチュアノサウルス」とは?
「ヤンチュアノ……永川サウルスやな」
 現場に向かうヘリオン内。ヘリオライダーから渡された資料を見て呟いた美津羽・光流(水妖・e29827)に、今回の事件を予感した皇・絶華(影月・e04491)が瞳を輝かせて訊ねる。
「そうなんだ! 知っているのか、光流!」
「ああ……中国四川省の永川(ヤンチュアン)県で発掘された恐竜や。化石の保存状態がむっちゃ良くてな。いろいろと研究が進んどる」
 事もなげに言うと、光流は「メカ・ヤンチュアノサウルス」画像の背中に並ぶ突起を示す。
「この、低い鰭状に盛り上がっとる脊椎の棘突起が、ヤンチュアノサウルスの特色なんや。よう真似とる」
「で、習性とかは?」
 絶華の問いに、光流は小さく苦笑する。
「そこまではわからん。そやけど、化石の出土状態からすると、本来は群れるタイプらしいな。一体だけで出てきたのは僥倖かもしれん」
「確かに、こんなもんをずらっと並べて使われてはたまらんな」
 日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)が苦い表情で唸り、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が大真面目に訊ねる。
「量産型、ということですか?」
「だから、そこまではわからんってば。そやけど、ダモはある意味好奇心と探求心の塊やからな。自分たちが来るより前に、地球にでっかい生物がおって、その化石とか残っとると知ったら、ひとわたり再現したんやないか?」
 光流の推測に、チャル・ドミネ(シェシャの僕・e86455)が首を傾げる、
「ダモクレスの思考法には詳しくありませんが……既に滅びた地球の巨大古生物に興味を惹かれのは、何となくわかります」
「ヤンチュアノサウルスの体長は8メートルそこそこやけど、有名なティラノサウルスとか、そのへんの超大型恐竜は体長10メートルを軽く超す。そいつらをダモが真似てメカ兵器にしとったら、昔の力あるオラトリオいうても、とりあええず封印しとこ、じゃ済まんはずや。思うに、超大型の補助についとる量産型の大型……ヤンチュアノをまず封印しておいて、本命の超大型メカサウルスと死闘したんと違うかな」
 そう言うと、光流は苦笑を浮かべて首を振る。
「あてずっぽや、全部あてずっぽ。恐竜型、それもマイナーな奴と聞いて一瞬テンション上がったけど、さすがの俺もダモのメカ兵器に浪漫は感じんわ」
 恐竜そのものは浪漫やけどな、と光流は声には出さずに付け加えた。

●罠に飛び込む夏の恐竜。
 奈良県生駒市、深夜。
 既に避難完了し、人気のない街中。三十分ほど前に到着したケルベロスたちは、出現を予知された建物を包囲するように布陣している。彼らには、それぞれのポジションに従い、ヘリオンデバイスが装着されている。
 そして、予知された時間。建物が内側から爆発するように崩れ「メカ・ヤンチュアノサウルス」が姿を現した。
「シャギャアッ!」
 一声吠えると、メカ・ヤンチュアノサウルスは布陣するケルベロスたちをじろりと睨み回し、鋼鉄の咢を開いて、ごうっと炎を吐いた。
「させないのです!」
 炎はケルベロスの前衛に放たれたが、ディフェンダーの真理が蒼眞を、真理のサーヴァントで同じくディフェンダーのライトキャリバー『プライド・ワン』が絶華を庇い、ダメージを肩代わりする。
「グラビティチェイン枯渇のせいでしょうけれど、攻撃力は弱く照準も甘いですね。ポジションは、クラッシャーでもスナイパーでもなく、おそらくはディフェンダーですか」
 炎の余燼を払いながら、真理が冷静に分析する。
「美津羽さんの推定通り、超大型メカサウルスの補助についていたなら、ディフェンダーポジションなのも当然ですね」
「いや、それは、ただのあてずっぽなんやけどな」
 あんまり真に受けられるとな、と、光流が小さく肩をすくめたが、真理はそのまま言葉を続ける。
「では、こちらからいくのですよ」
 言い放つと、真理はオリジナルグラビティ『デコイドローン』を発動させる。
「私は此処にいるです。こっち、向くですよ……!」
 幻影投射装置と機関銃を備えたドローンの群れ、そして事前にアームドアームデバイスを使って作成した、全長約8メートルの機理原・真理の姿をした巨大デコイ。
 立体映像とデコイを併用した一斉攻撃が、メカ・ヤンチュアノサウルスを襲う。
 ディフェンダーポジションからの攻撃のため、ダメージはそれほど大きくないが、巨大恐竜型ダモクレスは苛立たし気に頭部を振る。
 更に『プライド・ワン』が炎をまとって突撃し、メカ・ヤンチュアノサウルスの脚部にダメージを与える。
(「脚にダメージ負わせれば、突進力が少しは落ちるか?」)
 肉食二足歩行恐竜の宿痾は、膝痛と虫歯だったらしいからな、と呟き、蒼眞が斬霊刀で脚部に重ねて一撃。氷のダメージを負わせる。
 一方、絶華は高々と宙へ跳び、巨大ダモクレスの鼻面に重力蹴りを叩きつける。
 続いて光流もメカ・ヤンチュアノサウルスに重力蹴りを見舞うが、こちらは低い軌道で脚部に蹴りを打ち込む。
 そしてチャルは、竜の翼を広げて前衛に鎮めの風を送り、真理と『プライド・ワン』の傷を癒し、まとわりつく炎を鎮火させる。
(「次は、どう来るですか」)
 幻影攻撃で、怒りは付与できたと思うですが、と、真理はメカ・ヤンチュアノサウルスを見据える。
 すると、巨大恐竜型ダモクレスは、太い尾部を上げ、頭部を下げ、身体が地面と水平になるような体勢を取ったかと思うと、真理に向って猛然と突進してきた。
「かかったですね!」
 二回目の攻撃で早々とディフェンダー相手に全力攻撃を使わせてしまえば、その後、ダモクレスは2ターン機能停止し、ケルベロス側は火力の高いメンバーが全力攻撃できるのだから、事実上負けはない。
 とはいえ、メカ・ヤンチュアノサウルスの全力攻撃を受けて戦闘不能にならずに済むかどうかは、やってみなければわからない。もし私が戦闘不能になっても、死の危険があるわけでもなし、ケルベロスが勝てばよかろうなのです、と、レプリカントならではの冷静さで呟き、真理は突進してくる巨大恐竜型ダモクレスを見据える。
 すると、その瞬間。
 ヘッドライトを赤く輝かせた『プライド・ワン』が、騎乗する真理を高々と放り出す……いや、射出し、自分は突進してくるメカ・ヤンチュアノサウルスへと突撃をする。
(「……サーヴァントが、私を庇ったですか」)
 ディフェンダーに置いた以上、そういう展開もあるだろうとは思ったですが、と、真理は空中で体勢を整えながら呟く。
 『プライド・ワン』は巨大恐竜型ダモクレスと真正面から激突、ひとたまりもなく消し飛んで霊体となり真理の元へ戻る。
 そしてメカ・ヤンチュアノサウルスの方も、サーヴァントと激突して突進を止め、小さい前肢で頭を抱えるような体勢で、どてっと横倒しになる。
「お前の、負けです!」
 宣告し、真理は躊躇なく最大火力攻撃、フォートレスキャノンを撃ち放つ。
「ああ、動けずにいるうちに潰そう」
 言い放って、蒼眞がオリジナルグラビティ『終焉破壊者招来(サモン・エンドブレイカー!)』を発動させる。
「ランディの意志と力を今ここに!……全てを斬れ……雷光烈斬牙…!」
 異世界の冒険者ランディ・ブラックロッドの、理不尽な終焉を破壊する力を一時的に借り受け、蒼眞は強烈な斬撃を巨大恐竜型ダモクレスの脚部へ見舞う。
「一気に、粉砕する」
 冷ややかな一言とともに、絶華がオリジナルグラビティ『四門「窮奇」(シモンキュウキ)』を遂行する。
「我が身…唯一つの凶獣なり……四凶門…「窮奇」……開門…!…ぐ…ガァアアアアアア!!!!」
 古代の魔獣の力を身に宿した絶華は、凄まじい勢いでメカ・ヤンチュアノサウルスの全身を切り刻む。とはいえ、さすがに一回で粉砕するには相手が大きすぎ、ふう、と大きい吐息をついて跳び下がる。
「さて、破壊力重視なら、オリジナルよりこっちやな」
 呟くと、光流は普段使いの斬霊刀に加え、この技を使うときぐらいしか使わない銘刀『海藍刃』を抜き放つ。
「砕けい!」
 気合一閃、二つの斬霊刀から強烈な衝撃波が放たれ、巨大恐竜型ダモクレスの脚部を破壊する。
「ここは、及ばずながら私も攻撃に出るところですね」
 言い放って、チャルが炎をまとった蹴りを放つ。
 とはいえ、チャルは誇り高きメリュジーヌの戦士であり、下半身は本来の大蛇態を崩さない。
 ……大蛇態で、蹴り? それも、エアシューズの武器グラビティを使って……?
(「恐れ入ります。つまらない詮索は、しないでいただけますか?」)
 口調こそ丁寧だが瞋恚に満ちた、戦士チャルの内心の呟きを受け、ここの描写はこれまでとする。
 これ以上やったら、それこそ蛇足……あっ、失礼しました! メリュジーヌの皆様、ごめんなさい!

●死して屍、回収なし。
「シャギャアッ!」
 もはや悲鳴のようにしか聞こえない叫びをあげ、メカ・ヤンチュアノサウルスは目からビームを放つ。
 光線は真理を直撃したが、彼女は表情も変えずに応じる。
「無駄な抵抗はやめるのです。お前の勝ちは、ないのです」
「とはいえ、まだ機能が生きてるのに「死んだふり」されると、それはそれでタチ悪いんだよな」
 何か苦い経験でもあるのか、蒼眞が眉を寄せて唸る。
「抵抗されてるうちは、終わってないってのがはっきりしてる、まだ3分あるが、とにかく潰そう」
「そうですね」
 うなずいて、真理は改造チェーンソー剣を振りかざし、巨大恐竜型ダモクレスの目を潰しにかかる。
 蒼眞は、メカ・ヤンチュアノサウルスの太い頸骨……いや、頸部構造を断ち切ろうと斬霊刀を振るう。切断には至らないが、氷のエフェクトが重なる。
(「相手が完全に潰れれば、氷や炎のエフェクトは消えるからな。一つの目安にはなる」)
 声には出さず、蒼眞は呟く。
 そして絶華は、黄金の斬霊刀『霊剣「Durandal Argentum」』を振るい、蒼眞が斬った後を正確に辿って、氷を増やす。
「この有様で、そうそう躱せるとも思われへんけどな」
 片脚を完全に砕かれ、立ち上がれない状態のメカ・ヤンチュアノサウルスを見やり、光流が呟く。
「それでも、念には念という奴や。万一外したらみっともないしな」
 そう言って、光流は命中力を重視したオリジナルグラビティ『最果ての波(サイハテノナミ)』を放つ。
「西の果て、サイハテの海に逆巻く波よ。訪れて打て。此は現世と常世を分かつ汀なり」
 唱えながら、光流は斬霊刀を並みを描くように振るって空間を切り裂く。そこから、仄暗く冷たい海水が溢れ出し、荒れ狂う波となって巨大恐竜型ダモクレスを打ち据える。
 すると、メカ・ヤンチュアノサウルスの開いた口から、夥しい黒煙があがった。
「潰れたのでしょうか?」
 チャルの問いに、光流は小さく肩をすくめる。
「まだ何とも言えへんな。次に火ィ吐いてきおったら、潰れてへんてことやろけど」
「そうですね」
 攻撃に出ようかと一瞬考えたようだが、チャルは穏当に、ビーム攻撃を受けた真理にウィッチオペレーションを施して治癒する。
 この治癒措置は、魔術切開とショック打撃を伴い、普通のケルベロスなら絶叫してのたうちまわるぐらい痛いのだが、高レベルで強靭なレプリカントの真理は表情も変えない。
(「あの無表情な美女が、泣くとはいわないまでも、顔ぐらい顰めるのを見たかったのだが、仕方ないな」)
 ちょっと他には聞かせられない呟きを胸の内だけで漏らし、チャルは巨大恐竜型ダモクレスを見据える。
 口から黒煙をあげるダモクレスは、それでも懸命に頭をもたげ、ケルベロスの前衛に向け炎を吐こうとしたが、がくんと頭を垂れて動かなくなる。
「潰れたか?」
 絶華が呟いたが、蒼眞は首を横に振る。
「エフェクトの氷は消えてないな。とどめを刺しておいた方がいい」
「皇さんの予測で見つけたダモクレスですから、とどめは皇さんが刺すとよいです」
 真理の提案に、絶華はうなずく。
「かたじけない」
 できれば、微塵に砕くとかはしたくないな、と、絶華は言葉にはせずに呟く。何故恐竜だったのか、どんな目的か、どんな経緯があったのか、残骸を調べて分かるものなら知りたい。
 そして絶華は、最も命中率の高い攻撃……『霊剣「Durandal Argentum」』による雷の霊力を帯びた神速の突きを、黒煙を噴くメカ・ヤンチュアノサウルスの頸部構造に見舞った。
 いくつかの小爆発。そして更に噴き出る黒煙。巨大恐竜型ダモクレスは完全に動きを止め、エフェクトの氷も消える。
 そして、メカ・ヤンチュアノサウルス出現から七分後。魔空回廊が開くことはなかった。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月15日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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