海辺の街に咲く恋

作者:四季乃

●Accident
「フラれた……」
 うなじが涼し気な少女がひとり。砂浜へと続く石の階段に座り込んでいる。
「ショートカット女子が好きって聞いたから思い切ってバッサリいったのに……」
 照りつける陽射しが、さらけだされたうなじを灼く。
 人づてに聞いた情報を鵜呑みにして、突っ走った結果が十五度目の失恋を招いてしまった。何度経験しても、心臓を鷲掴みにされてそのまま引き千切られるような痛みは慣れるものではない。
「聞いたその日に美容院を予約したわたしも悪かったけどさ……」
 意中の彼はすっきりと短く切られたヘアスタイルではなく、肩につくかつかないくらいの髪をゆるく巻いた読者モデルを指差して「こういうのがタイプ」とのたまった。
「お前が言ってンのはショートカットじゃなくてボブヘアーだァ――ッ!」
 叫びながら立ち上がった少女の声に、ビクッと肩を跳ねさせる観光客。それに構わずズンズン階段を下りて行った少女は、波打ち際に揺らめくハイビスカスの花に気が付いた。砂の上に落ちた花が戯れの風に運ばれてきたのだろう。
 痛んだ様子もないので気まぐれに手を伸ばしたとき、己に大きな影が落ちた。海辺の街に十七年も住んでいたらナンパも経験する。ええい、今はそっとしておいてくれ、と振り返ったその先。
 陽光が真っ赤な花びらを透かして頬を射す。近くから、遠くから海水浴に来ていた人々の悲鳴が上がり、音が一斉に波のように引いていく。それなのに自分の足は一歩も、びくともしない。ちらりと視線を落とすと、蔓のようなものが足首を絡め取っていた。
「う、わ」
 いっそ毒々しいまでの赤に染まったハイビスカスの花々が、風もないのにそよぎ、蠢き、目を白黒させる少女を――”ぱくり”と飲み込んだ。

●Caution
「――そうして、何らかの胞子を受け入れて攻性植物となったハイビスカスは、女子高生をひとり身の内に取り込んでしまったのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)に同調するよう深く頷いた拍子に、クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)の真白の髪が太陽の光を照り返す。集まったケルベロスたちは眩しそうに目を細めながらも、仔細に耳を傾けた。
「夏に咲く花はたくさんあるけれど、この街ではハイビスカスに力を入れているんだって。とくに赤色は海に映えるから人気みたい。だから――」
 シンボルとも呼べる花が街を破壊する前に、食い止めてほしいのだ。

 謎の胞子は赤いハイビスカスの植え込みを三メートルほども巻き込んだため、大きな攻性植物となっている。ただし配下といったものはおらず、その内側に少女を一人取り込んだ問題点を除けば特筆する点はない。
「普通の敵のようにこれを倒すと、宿主とされた少女も共に命を落としてしまうでしょう」
「そうならないためには、相手にヒールをかけるひと手間が必要になるね」
 ヒール不能ダメージを少しずつ蓄積させる作戦になるのだが、これは粘り強く攻性植物を攻撃して倒す必要性が出てくる。攻撃と回復、それぞれを見極めて行ってほしい。
「浜辺には海水浴に来た人たちが居るけど、攻性植物に驚いてみんな逃げ出しちゃうみたい。だから今回は、周りの一般人のことは一旦各自に任せることにして、みんなは戦いに集中してほしいの」
 敵は刃のように研ぎ澄まされた花のリースを投げつけてきたり、陽光を吸収して光線を撃ちだしてきたり、熱い砂を巻き上げたりといった攻撃を仕掛けてくる。しかも足場は砂のため足を取られる可能性もあるので、気を付けてほしい。
「寄生されてしまった少女を救うのは大変でしょうが……もし可能性があるのならば、どうか助けてあげて欲しいのです」
「赤いハイビスカスの花言葉は”勇敢”――恋に果敢に挑み続ける彼女を、私たちが助けてあげようよ」
 クラリスの言葉に、ちいさな笑みが漏れた。
 夏の陽ざしに背を押されるように、ケルベロスたちはヘリオンに向かって歩き出す。からりと晴れた空は失恋した少女の心など知らずに晴れ渡り、また、その命が消えるかもしれないとは到底思えぬほどの眩しさだった。


参加者
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
柄倉・清春(不意打ちされたチャラ男・e85251)

■リプレイ


 踏み出しかけた”足”が、閃光に穿たれる。
 ぴたりと動作を止めた攻性植物は、砕け散り舞い上がる花びらの残骸、その向こう側でロッドを突き出し正視を寄越すシア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)を見止めた。
「己の心に、素直なままに動く――そんな勇敢な方をどうか連れて行かないで下さいな」
 途端『キィィィ』と威嚇する獣のような、けれど生物とは思えぬ歪な声が発せられ、アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)とリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の二人がとっさに前に出る。
「むぅ、せっかく攻性植物のゲートを破壊したのに……まだまだいっぱい湧いて出るね」
「想う者には想われず、思わぬ者に囚われてしまう……上手くいかないものね」
 思わずといった風に零れたリリエッタの言に同調するように吐息を漏らしたアウレリアは、リボルバー銃を引き抜く矢庭に弾丸を放つ。それは、空気を裂くように素早く駆けると、砂浜を掬おうとした蔓のひと塊を根元から撃ち抜いた。反動でぱっと砂が散って陽光が乱反射する。
 まぶしい光の隙間から、ハイビスカスのリースが湾曲を描いて接近するのを見つけ、一歩踏み出したリリエッタはレイピアで捌きつつ、流れるように切っ先を突き出した。
「かわいー女の子を食べちゃいたいのはわかるけどよ、文字通りじゃ意味ねーだろーが」
 涼やかな花の嵐に見舞われて、もがくようにじたばたする攻性植物を前にした柄倉・清春(不意打ちされたチャラ男・e85251)は、汗に濡れた前髪を掻き上げながら、うだる暑さに双眸を細めている。その横で吐息に似た歌声を奏で始めたのはクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)だった。
「ひとつ、ふたつ」
 紡ぐたびに攻性植物の傷がちいさな光に包まれる。指先から生まれたそれらは、まるで星座を描く輝く線となり、砕けた枝葉や花を縫い合わせていく。
「美玲さんには未来があって、素敵な出会いがそこで待ってると思うの。こんなところで、こんな形で、奪わせない」
 最後のひとひらが陽の光に灼けて消えると、攻性植物から『キュゥゥゥ』となにやら集束するような音が聞こえることに、モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)は気が付いた。
 青い視線に促されたミミックの”収納ケースは、エクトプラズムで作り上げた自重より大きな武器を振り上げると、全身を使って殴打した。大きくスウィングした一打は、蜘蛛の足のようにバラバラに動く茎をごっそりと破壊したものの、吸収の異音は止まらない。
「お気をつけくだサイ」
 モヱの言が耳に届いた刹那、清春が大きく踏み込んで零式寂寞拳を叩き込む。が、その頭部横をすり抜けるように、キュンッと鋭い音と共に灼熱を孕む光線が突き抜けていった。
「レディたち、大丈夫っ?!」
 頸だけで振り返った清春の視界に、防御に入った盾役のアウレリアとリリエッタが、砂上で受け身を取るのを見た。どうやら寸でのところでカバーできたらしいアウレリアの腕に、真っ赤な色が弾けている。傷付いた彼女を援護するように、即座にビハインドのアルベルトが攻性植物を金縛りにて絡め取る。
「回復は気にすんな、任せろ」
 そう言って、彼女の肢体におのれのオーラをもって癒しに入ったのは鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)である。彼は後方から全体を見渡し、敵の一撃を確実に見極めていたので、瞬時の判断で確実なヒールを繰り出すことが出来たのだ。
 攻性植物は清春を押しのけると、数多の茎をズボッと砂に突き刺した。ぐぐぐ、と深く押し込んだかと思えば、今度は”上体”を反り返して震えている。モヱはすかさず装備した縛霊手から霊力を帯びた紙兵を出現させ――。
「まぁ……情熱的デスネ」
 攻性植物はちゃぶ台をひっくり返す要領で足元の砂をごっそりと”持ち上げた”。それは勢い余って遥か上空にまで届き、太陽の陽ざしを跳ね返すきらきらとした光の粒となって、ケルベロスたちを等しく襲った。
「おいおい、無茶苦茶しやがる」
 鋭い針で刺されたみたいに細かくて熱い痛みに、あちらこちらから声が上がる。モヱが負傷した前衛たちに紙兵散布すると、仲間たちの背後から高く飛び上がったマロン・ビネガー(六花流転・e17169)が、オウガメタル――その名も『ゆきみメタルさん』からライジングダークを照射。惑星レギオンレイドを照らす黒太陽に灼かれた攻性植物は「あっちっち」とでも言うかのように”足”をじたばたさせる。
「ハイビスカスの花言葉は、勇敢の他に新しい恋と言うのもあるそうですね」
 何度くじけても立ち上がる強き生命力を持った人間を糧にするとは、いただけない。
「リサーチがもう少しだったかも……しかし努力する姿は素敵ですね。恋があってこそ女の子は綺麗になるのかも知れません」
 だから。
「戻って来てください。失意のまま散るなんて、きっと貴女らしいことではないはずです」
 マロンは攻性植物の中央から、やや左にそれた辺りを真っ直ぐに見つめて声をかけた。
 濃く深い緑の奥から、ちらちらと黒い髪の毛がそよいでいる。蠢く茎や、くるくると不気味に回るハイビスカスの花の群れに紛れて、健康的な肌が見え隠れする。その横顔はぐったりとしていて、今にも泣きだしそうに見えた。
「絶対に助け出すから、そこで待ってて。……夢見る乙女のど根性、見せてよね」
 ほっとして、けれどすぐに表情を引き締めて笑うクラリスの指先が宙をなぞる。星空の裁縫師――それは瞬く間に星座を紡ぐ癒しとなって、攻性植物の身を繋ぎ止める。
 なぜだか回復していくおのれの身体に異変が起こっているとは露知らず、攻性植物は遭遇したときよりも随分と軽いステップでリースを振りまき、陽の光をめいっぱいに浴びて吐き出していく。
「やっぱり夏のお花は陽気な性格だったりするのかしら……?」
 ほう、と吐息交じりに零れたシアの言葉に道弘が笑う。
「まぁ、海辺に咲いてた花なんだ。弾けたくもなるんだろう――ちょっとおいたが過ぎるが、な!」
 撃ち出された光線をバトルオーラを纏った手の甲で跳ね返しながら、道弘は噴き出すグラビティで小型治療無人機を操り、味方の警護を厚くする。シアは巨きなバスターライフルを構えると、お返しとばかりに光線を発射。それは、少女美玲が取り込まれていない右側を撃ち抜いた。バランスを崩した攻性植物が左側へ大きく傾く。
 と、そこへ――。
 砂上をいともたやすく駆け抜けた清春が、一気に飛び込んだ。一瞬の間に懐へと距離を詰めた清春が、ぐっと体勢を低くした刹那――パンッ、と軽快な音が蒼穹に響き渡った。
「ククク、ぶん殴りゃ吐き出すってのぁ人もデウスエクスも同じだなぁ、オイ」
 逆巻く風を生んだその一撃、真下から巨体を突き上げ穿つレガリアスサイクロン。「ガフッ」と咳き込むように、ハイビスカスの花びらにまみれた美玲の上体が外へと零れ落ちた。攻性植物が慌てて茎を伸ばし美玲の肩を抑えてぐいぐいと押し込もうとするが、アウレリアがそれを許さない。
「ご機嫌なところ悪いけれどその子は返して頂くわ。明日の彼女はより美しくそして新しい恋に向かっていくのだから」
 ガネーシャパズルから竜を象る稲妻を解き放った一撃が茎を砕く。だが、それはまだ完全ではない。補うように伸びてきた茎の集合体が、するすると美玲の上体に巻き付いて内へと隠してしまうのを見て、アルベルトがすかさずポルターガイストで寄せる波を持ち上げ、叩きつけた。
 ビク! と飛び上がった攻性植物から反発のようなリースが射出され、収納ケースは跳ね上がって自ら受け止めると、そのまま地面に着地――そして再びぴょんと高く跳ね上がって、スイカ割りみたいに真上から武器を叩き込んだ。衝撃でくらくらしているところへ、マロンの超高速の稲妻突きが炸裂。
「さすが、夏に生える色ですね」
 穿ち、ほどけた花びらが蒼穹を彩る赤となる。
 マロンは刺したグレイブを引き抜くと、美玲の肢体に絡みつく蔓を引き剥がし、砂上に放る。
「ずいぶんと小さくなってきマシタ」
 濡れて足場の悪くなった砂浜を一瞥したのち、モヱは徐々に華奢になっていく攻性植物を見上げて呟いた。
「どんどん削っていこう。美玲の身体が隠せなくなっちゃうくらいに」
 リリエッタが音速を超える拳で美玲から離れた部位を吹き飛ばすと、密集して大きな口のように形成されたハイビスカスの花が威嚇するように牙を剥いた。それは夏の光を搔き集めた太い光線となって、至近に居たリリエッタを狙うが、彼女はためらいなくその一撃を受け止める。クラリスが集中して攻性植物のヒールに当たる一方、モヱが熱く焦がれたリリエッタを対象として、魔法陣によるバックアッププログラムを展開。Magical rejecterのパッチを当てられたことにより、直前の攻撃は相殺される回復量を得る。
「ねえ、まだ夏はこれからよ。美玲さん、どうか戻っていらして」
 差し伸べた指先、歌うような呼びかけに令花が咲く。シアの挙措に伴って暴かれた蔓が、秘した肢体をゆっくりと引き寄せる。
「もう少しの辛抱よ。貴女がこれから出会う『誰か』の為にも、必ず無事に助けてあげるから」
「泣きっ面に蜂ってか。蜂にしちゃでかすぎっけど。きっちり救出してやるから、もうちょい頑張っとけよ!」
 返せとばかりに腕を引き寄せる花枝をアウレリアの弾丸が射貫き、足に絡みつく蔓を道弘の雷撃が焼き切った。
「夏が終わるには、まだ早いです」
 腹に巻き付く太い枝をマロンのスカルブレイカーが叩き落す。
「っと、まだ死ぬなよ?」
 敵の様子を察して足を止めた清春は、火の気を絶つ。転じて災禍を絶つ調伏術。借りる力は仏にあらず、悪鬼羅刹の類なり。『三伏』によるヒールが、それまでクラリスが紡いでいた星座を飲み込んでいく。
(「恋をすればたちまち世界が様変わりして「好き」の気持ちは膨らみ始めたら止まらないって知ってるから。――それが突然萎んでしまうのはきっと、とても恐ろしい」)
 奇蹟を請願する外典の禁歌。呪縛された攻性植物、その腹の内からまろびそうな年ごろの少女を仰ぎ見て、クラリスは焦燥感を飲み下す。
(「私じゃ美玲さんみたいにはなれないな」)
 その生き方は、夏のように眩しくて。
 ほとり、と落ちた花が少女の短い髪を彩った。夏の恋人たちを見守っていたであろうハイビスカス。
「せめて、恋を喪った彼女を喰らって欲しくないの」
「あなただって、きっとその眩しさを知ってるはずだよ」
 クラリスの言に重なるリリエッタの言葉。白い水着が陽光よりもひと際つよく輝いて、「あ」と思ったときには既に、遅かった。
 華奢な躯体から小気味よい音が溢れて、零れる。指先から迸るグラビティの力で、雷を圧縮して精製された弾丸が瞬きよりも早い速度で撃ち出された。命中した瞬間、解放された雷が攻性植物を痺れさせる。その隙を見逃さなかったアルベルトが、すかさず金縛りにて動きを更に封じ込めると、収納ケースがスパンッと勢いよく武器を振り下ろし美玲を支える下肢を斬り崩す。
 慌てた攻性植物が即座に熱砂の波を沸き起こすものの、いくら攻撃を与えてもモヱの紙兵や道弘の咆哮が追いかけてなかったことにしてしまう。
「倒れるにはまだ早ぇぞ!」
 気迫が、勇気が、ケルベロスに満ち満ちていく。
「……今、楽にしてあげる」
 奈落のように真っ暗な銃口が突き付けられた。
 至近から突き付けられたアウレリアの銃『Thanatos』。カチリと音立てた引き金に総身が固まった――そのとき。発砲した彼女の影から、するりと姿を現した清春が零式寂寞拳の一振りにて、美玲をかろうじて繋ぎ止めていた蔓を吹き飛ばす。
 倒れてきた躯体を片手で受け止める清春の横で、カプセル型特殊弾を撃ち込んだThanatosを天に向けるアウレリアが踵を返す。朽ちていく最後に”見えた”のは、リリエッタから吹き荒れる花の嵐、だった。
 倒れ込んだ傍らにただぽつり、咲いたのは令花一輪。


「私はその髪型、好きよ。貴女にとても似合っていると思いますもの」
「今回は残念でしたが人の魅力は髪型だけではないので、女を磨いて次の新しい出会いを楽しみにしましょう」
 シアとマロンの言葉にいたく感動したのか、クラリスの手当てを受けている美玲は「ワッ」と両手で顔を隠して感謝とも嘆きとも取れる嗚咽を零した。どうも攻性植物に囚われていたことよりも失恋の方が大ダメージだったらしい。
「髪型1つで恋愛対象から外すってのも馬鹿げてるな。ぶっちゃけ願い下げでもいいとは思うけど」
 後頭部をカリカリと掻きながら、女子たちより少し離れた場所で座り込んでいた道弘。
「諦めがつかねぇなら半年くらい後に再トライだぜ」
「いえ、もうアイツの事は忘れます」
 即答に、思わず笑ってしまった。
(「つーか……髪型を体よく断る理由に使ったんじゃねぇかなぁ、その男子」)
 そうは思ったが、お節介なおっさんは空気が読めるので敢えて口には出さないのであった。
「『好きになったらしょうがない』……か。ちょっとわかるかも。まっすぐで、傷つくことを恐れない、そんなあなたに惹かれる人は、沢山いるよ」
「好きな方の為に色々行動に移せるというのは、とっても凄い事だと思うの。そんな貴女の良さを認めてくれる方がきっと現れるわ。今日はとことん付き合いますよ!」
 クラリスとシアの言葉に、どんどん少女の表情に明るさが戻ってくる。
「推しはいつか卒業するもの、履修単位で御座いマス。美玲氏は相当の勉強家でいらっしゃいマス。どうかその経験を人生に活かして頂ければ幸いデス」
「んっ、あきらめないで。きっと素敵な出会いがまだまだあるよ」
 クールな表情だったけれど、モヱとリリエッタの言葉はこれまでの努力が認められたような心地がするものだった。
「そうそう。痛くたって踏み出すことを怖がらない、素敵だと思うよぉ。いつか必ず美玲ちゃんだけの誰かが現れるはずだから、とびっきりの笑顔でいこーじゃん? ――ってな訳でぇ」
 バッと服を脱ぎ捨てた清春の動きに「はれんち!」と美玲が叫んだが。
「せっかくの海だ。脱ぎましょう、かー!」
 彼は服の下に競泳水着を着こんでいた。今日一番眩しい笑顔でモヱの手を取った清春に、吐息を一つ漏らす。過度なスキンシップはスルーしようと思っていたモヱであったが、紳士的に手を引かれれば振り払うのは野暮である。
「このー! リア充めーー!」
「リア充爆破しろー」
 美玲とマロンの野次が飛び交い、笑い声がやさしく重なり合う。そんな様子を少し離れた場所で伺っていたアウレリアは、傍らに並び立つアルベルトをそっと仰ぐ。
(「心を得、初めて恋慕の情を知った時には彼が傍にいたから、失恋は知らないけれど」)
 全力で恋をするその姿は美しいと思った。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。