災天の伏龍

作者:椎名遥

 大阪の街に人が戻る。
 長きにわたり占拠されていた被害は大きく。その上、戦争の置き土産ともいうべきファンガスやスロウンに備えながらでは、ケルベロスの力があっても復興はゆっくりとしたものになることは避けられない。
 けれど、
「ふふっ」
 街を歩きながら、夢見星・璃音(災天の竜を憎むもの・e45228)はそっと笑う。
 復興は緩やかだけど、歩みを止める者はいない。
 一朝一夕でできないならば、一週、一月、一年がかりで。
 荷物を運び、瓦礫をどかし、一歩一歩、止まらず弛まず確実に。
(「うん、私も頑張ろう!」)
 行き交う人々の姿に元気をもらい。
 ぐっと、小さく手を握って、璃音は少し元気に歩き出し。
(「……?」)
 ふいに、周囲から人の声が消えたことに首を傾げる。
 直後、
「――っ」
 背筋に走った悪寒に突き動かされ、璃音はその場を飛びのき――同時に、目の前の空間を無形の刃が薙ぎ払う。
 道路が、樹木が、建物が、縦横に乱舞する刃に切り裂かれて崩れ落ち。
(「ファンガス!? スロウン!?」)
 得物を構え、巻き起こる粉塵の先を見据えて。
 璃音の脳裏に浮かぶのは、今の大阪で警戒すべき二つの存在。
 けれど、
(「――違う!」)
 ケルベロスとしての直感が、否と告げる。
 この先にいるのは、そんな存在ではない。
 周囲に満ちる威圧感も、呼吸すらできなくなりそうな敵意も、ファンガスやスロウンのそれとは格が違う。
 ならば、この相手は――、
『ほう、避けたか』
 響く言葉と共に、吹き上がる突風が粉塵を払い。
 続けて、地下から飛翔する巨大な影に、璃音はその眼を大きく見開く。
「そんな――」
 颶風を纏い、雷を従え、天から見下ろす深紅の巨体。
 それは、究極の戦闘種族。
 個の戦闘能力においては他の追随を許さない、最強のデウスエクス。
「ドラゴン!?」
『雑草どもの真似事ではあったが……くくっ、これはこれで悪くない』
 絶句する璃音に、龍は笑みを漏らす。
『雑草どもを追い払い、取り戻した地を復興させて日々の暮らしを取り戻す。ああ、よくやったものだ』
 口にするのは、人々やケルベロス達への称賛の言葉。
 だが、それを彩るのは、隠すつもりもない喜悦の感情。
『戦い、勝利し、そうして明日が見えた今こそ喰い頃と言うもの』
 纏う風と雷は、言葉と共に勢いを増し。
 ただそこにあるだけで周囲の建物を砕く天災が如き暴威を纏い、ドラゴン『災天竜ザッハィシオ』は舌なめずりをする。
『さて、まずはお前からだ――命も希望も何もかも、我が血肉へと果てるがいい!』


「璃音さんに危険が迫っています。皆さん、急いで現場へ向かってください」
 ヘリポートで待機しているヘリオンの前で、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は緊張した面持ちで、集まったケルベロス達へと呼びかける。
「今から数分後、璃音さんが襲撃される未来が予知されました」
 今も取れる限りの連絡手段を使って璃音と連絡を取ろうとしているものの、未だ危険を知らせることは叶わないままであり――それ故に、予知を変えることはできないでいる。
 ――けれど、変えることが出来ないのは襲撃を受ける未来まで。
 その結末までは、まだ決まってはいない。
「今からヘリオンで現場へと急行します。襲撃には間に合わないかもしれませんが……決着までには必ず間に合わせます!」
 戦場となるのは、復興の進む大阪の町外れ。
 昼下がりではあるものの周囲には人の気配はなく、故に考えるべきは襲撃者と戦い倒すことのみ。
 そして、
「襲撃者は――災天竜を名乗るドラゴン『ザッハィシオ』です」
 深紅の鱗を持つ巨大ドラゴンであるザッハィシオ。
 その武器となるのは、身に纏う風と雷、そして鋭い爪牙。
「大阪城を拠点としていたドラゴン勢力は、ユグドラシル・ウォーの終結と共に姿を消しているのですが……ザッハィシオは仲間と共には撤退せず、攻性植物勢力が 広げた地下通路に身を潜めていたものと思われます」
 その目的は、戦争に勝利して人々が抱いた希望を喰らうこと。
 このままであれば、ザッハィシオは璃音を――そして、その背に守る大阪の人々も爪牙にかけるだろう。
「単独で残るだけあって、ザッハィシオの実力は非常に高いです」
 それでも、負けるわけにはいかない。
 璃音の命も、大阪の人々の命も、ドラゴンに渡すわけにはいかない。
 だから、
「行きましょう。そして――勝ちましょう!」


参加者
天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)
モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
夢見星・璃音(災天の竜を憎むもの・e45228)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ

 暴風が周囲を切り裂き、雷光が地を砕き。
 天災が如き暴威の中で、夢見星・璃音(災天の竜を憎むもの・e45228)は『災天竜ザッハィシオ』と対峙する。
 風刃を左右にかわし、雷撃へ切り替わる間をつき、さらに一歩踏み込んで。
 放つ蹴撃は爪に防がれながらも、続く噛みつきを弾いて距離をとり。
『くはは、なかなかにやるものだ!』
(「知っているからね」)
 未だ余裕を崩さない竜に、璃音は胸中で応える。
 そう、知っている。
 風の刃も雷撃も、鋭き爪牙も皆全て。
 ――あの日、家族を奪った災天の竜を、忘れることなどありはしない。
 風雷を凌ぎ、爪牙を捌き。
 かわし、相殺し、受け流して切り返し。
 いくつもの攻撃を繰り出すも――それでも、竜を穿つには至らない。
 あの日から積み重ねてきた力は無力ではなくとも、怨敵を討つにはまだ足りない。
『良い目だ』
 臆さず見据える璃音を、竜は面白そうに笑って爪を振りかざし、
『そろそろ喰らうとするか』
「やらせん――蹴り貫く、天導流・竜墜衝」
 刹那、飛び下りざまに天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)の放つ足刀が爪を外へと弾き。
 同時に、源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)の巻き起こす爆風が、璃音を包み込んで力を与えてゆく。
『ケルベロスどもか!』
「璃音さん、貴方の運命をお守りします!」
「これより援護を行う。SYSTEM COMBAT MODE」
 続けて、如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)の示す女帝の護りが風刃を阻み。
 力を削がれた風刃を、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)のレーザーが撃ち落とす。
 駆け寄るシル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)の姿に、璃音も小さく息をつく。
「みんな……来てくれて助かった!」
 あの日から璃音が積み重ねてきたものは、力だけではない。
 共に肩を並べる仲間達もまた、璃音が得た大切なもの。
 一人では届かない敵でも、友と、仲間と共になら、きっと――。
「災天竜ザッハィシオ……今こそ、親の仇うちをさせてもらうよ!」
「うちのかわいい団員さんに手を出そうとしたんだから、覚悟はいいよね?」
 視線を交わし、璃音とシルは同時に地を蹴って。
 二人を、そして戦場に立つケルベロスを見回して竜は笑みを深める。
『助けを得て希望を見たか。いいぞ、それでこそ喰いでがあるというもの!』
「希望を喰らうだなんて、食事の礼儀作法も全然なってないドラゴンね」
 その姿に、モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)は小さく息をつく。
 命を喰らい、希望を喰らう。
 その悪趣味な食事に、どれほどの思いが喰らわれていったのか。
 ――けれど、今ここにいるのは、ただ喰らわれるだけの存在ではない。
「何もかも喰らうのなら、喰われる覚悟も出来てるかしら?」
 流星の煌めきを宿し、駆ける璃音とシルへ雷撃が襲い掛かるも、
「逃げる気配も無しか。撤退の見切りが遅いのは致命傷になると知れ」
「璃音さん、奴の最期の晩餐。気合入れていくわよ!」
 新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)とモモが放つ銀の輝きを纏い、鋭さを増した感覚と共に二人は雷撃の乱舞を駆け抜けて。
「RED EYE ON」
 迫る二人を迎撃せんと、爪を振るう竜の目を赤の光が惹きつける。
 それは、マークのカメラアイに組み込まれた、陽動を目的とする特殊機能。
 精神に作用し攻撃衝動を増大させる特殊な波長を帯びた光が、竜の意識をマークへと引きつけて。
 沸き起こる衝動に突き動かされてマークへと振るわれる爪を潜り抜け、同時に打ち込む璃音とシルの蹴撃が、竜の巨体を揺らがせる。
「これ以上、お前に好き勝手はさせない! 私が、いや、私達が、この場で、討滅する!」
「まぁ、覚悟ができてなくても、ぶっとばしてあげるから安心してねっ!」


 突き刺さる反撃の一太刀。
 それは止めには遠く――しかし、竜の矜持を傷つけるには十分すぎる一撃。
『図に乗るな!』
 怒りと共に纏う風が唸りを上げ、仲間を庇った瑠璃とマークを切り裂き吹き飛ばすも、
「このっ!」
 横合いから撃ち込むシルの轟竜砲が竜の注意をそらし、
「まだだ!」
「CONDITION GREEN」
 跳ね飛ばされ、体勢を崩しながらも瑠璃とマークが撃ち込む時空凍結弾とゼログラビトンが、いくつもの刃を撃ち落として。
 そうして風刃の嵐の中に作り出される空隙。
 細く、それでも竜へと続く一筋の道へと璃音は手を伸ばす。
「最初はね、何なのかわかんなかったんだ」
 その手にあるのは、黒と紅基調の混沌とした色を持つ宝玉。
 纏う気配は禍々しくも――その内にあるのは怨念のみではない。
「でも今はわかった。これはお前を彼岸へ送るための導きだったんだと!」
 宝玉から呼び出される炎は、同時に恭平が呼び出すもう一つの炎と重なり、混じり合って渦を巻き、
「この炎は焼かず、されど刻む」
「彼岸の夢を見せてあげる!」
 二重の螺旋となった炎が嵐の中の空隙を走り抜け、竜を捉えて包み込む。
 熱を持たず相手を切り刻む『水晶の炎』に身を包まれ、切り刻まれ。
 しかし、咆哮と共に炎を振り払い、降り注ぐ雷撃はケルベロス達を打ち据えんと荒れ狂う。
 だが、
「まだです」
「そう、まだよ!」
「神を纏いて鳴り響け、総餓流・鳴神」
 沙耶のマインドシールドを纏い、鋼に包まれたモモの拳が雷撃を打ち払い。
 竜氣を纏う十六夜の二刀が閃き、雷光を、そして竜を切り裂き走り抜ける。
 血をしぶかせ、されど動きを鈍らせることなく振るわれる爪を受け流し、その勢いを利用して距離をとる十六夜と入れ替わりに踏み込むシルのスターゲイザーが、瑠璃の旋刃脚が、続けざまに竜の巨体に打ち込まれて――、
『足りぬわ!』
 されど、重なる蹴撃を押し返し、咆哮と共に巻き起こる颶風が二人を吹き飛ばす。
『その程度の数で、力で、勝てると思ったか!』
「試してみるか――天導を染め上げろ! 総餓流・曼珠沙華」
 追撃の牙と十六夜の連続抜刀術がぶつかり合い――押し勝つのは竜の牙。
 しかし、わずかに稼いだその時間が、マークのカバーを間に合わせる。
「COVERING」
 踵のパイルバンカーを地面に突き刺し、肩のシールドを前へと突き出し。
 受け止める竜の牙は、防御を突き抜けて体力を奪い取るも――、
「COUNTER」
 衝撃をこらえ、受け止め、マークがゼロ距離から打ち込むフロストレーザーが竜の咢を凍り付かせ。
 動きを鈍らせた瞬間を逃すことなく、恭平は竜へと手をかざす。
「凍てつきし刃よ、彼の者を両断せよ!」
 解き放つのは、古代語魔法と精霊魔法の複合魔術。
 黒曜石を核に生成される氷の刃が宙を走り、マークの刻んだ氷の刻印を貫いて竜の体を凍り付かせ――しかし、その氷を内より砕き、咆哮と共に降り注ぐ轟雷が周囲を薙ぎ払う。
 攻撃が効いていないわけではない。
 だが、災天の竜を倒すにはまだ足りない。
「なら、届くまで何度だって」
「ええ、大切な人と世界の為に、全力でやるべき事を」
 轟雷を受け止め、モモが撃ち出す黄金の弾丸が雷撃の痺れを弾き飛ばし。
 沙耶の奏でる希望の歌が、仲間達を包み込んで傷を癒し。
 その声に力を取り戻した璃音のレゾナンスグリードが竜の爪とぶつかり合う。
 同時に、マークもまた得物を手にして地を蹴り――直後、
「……ERROR?」
 意識の端をよぎるノイズに、マークは小さく呟きをこぼす。
 伝わるノイズの源は、コアパーツ『T3O7D・CORE』から伝わる共振と、戦術AI『R/D-1』が主張する本来以上に消極的な戦術。
 ドラゴンに組み込まれていたコアパーツと、ドラゴンに敗れた部隊の戦闘データから造られたAI。
 ドラゴンを相手に、それぞれが普段と異なる挙動を示す理由は――否、全ては今を乗り越えてから考えるべきこと。
 走るノイズを振り払い、マークは手にするバスターライフル『DMR-164C』を操り照準を合わせる。
「BATTLE CONTINUE――FIRE」


 風刃、轟雷、竜爪、竜牙。
 魔術、体術、剣術、銃砲火器。
 ケルベロスとドラゴンと。
 数多の攻撃が交錯し、ぶつかり合い、傷つけ癒して再度ぶつかり合う。
「立てますか!?」
「っ、もちろん」
「そうですか……もう少しだけ、頑張って」
 爪を受け止め跳ね飛ばされた瑠璃を、回り込んだ沙耶が受け止める。
 わずかな間を開けて応える声は力強く。
 それでも、その間が伝えるものを理解した上で、沙耶は癒しの歌を歌い上げる。
 大切な家族を奪われ、仇を憎むその想い。
 それは、故郷を奪われ家族を失った二人にとっても、かつて抱いた思いに他ならない。
 だからこそ、
(「僕と沙耶が皆の支えで仇を討ち果たしたように、助太刀するよ」)
(「私と瑠璃が皆の支えで仇を討ち果たしたように、最大限のお手伝い、頑張ります」)
 重なる視線だけて伝わる思いに支えられて、瑠璃は得物を構えて立ち上がる。
 風を纏い雷を操る『災天竜ザッハィシオ』。
 ケルベロス八人で挑んでなお、わずかでも気を抜けば蹂躙されると確信させる威圧感は、究極の戦闘種族の二つ名が偽りでないことを実感させる。
 ――けれど、決して届かない相手ではない。
 一手の誤りが致命傷になりかねないとしても、自分達の刃は確かに竜に届いているのだから。
 いくつもの呪縛に動きを縛られながらも、操る雷はそれを感じさせない暴威を宿して荒れ狂い。
 続けて、生命力を奪う呪いを宿す牙が襲い掛かり――しかし、
「失策だな」
 半歩踏み込み身を沈め、頭上を掠めて空を切る牙の唸りに、十六夜は小さく笑う。
 雷撃も牙も、どちらも同じ頑健の技。
 それでも、本来の実力が発揮できていれば、見切りを加えてなお避けることは難しかっただろうが――呪縛に動きが鈍った今であれば、十分対処できる。
 そして、その上で牙を使ってきたということは、
「それだけ追いつめられている、と」
 頷き、手を握るモモの手中にグラビティ・チェインが集まり、作り出されるのは一つの銃弾。
 生まれた黄金の銃弾を銃へ収め、撃ち出す先は竜ではなく足元の地面。
「嵐が吹こうが雷が落ちようが、私の前には意味をなさないわ――我が戦友に幸運を、我が戦友に勇気あれ!」
 撃ち出され、解き放たれたグラビティ・チェインは、周囲の仲間へと黄金の弾丸の――グラビティ・チェインを高速回転させる加護を与えて走り抜け、その身を蝕む呪縛を弾き飛ばし。
「璃音との因縁、此処で絶ち斬らせて貰おう。喰われる立場を味わえ、絶技・刃技一天」
「そこだ――縛!」
 同時に、起き上がりざまに繰り出す十六夜の竜氣を纏った後ろ回し蹴りが竜の顎を蹴り上げ。
 その機を逃さず、恭平の操るケルベロスチェインが猟犬の如く竜へと襲い掛かり、その身を縛り上げる。
 ――そして、
「ザッハィシオ!」
 叫び、駆ける璃音の背を見つめ、シルは風精へ呼び掛ける。
「空を駆ける風よ、みんなに、癒しと祝福を……」
 その声に応えて璃音を包み込む風は、より早く、より前へと進めるよう、追い風となって彼女の背を後押しし。
 風と共に駆けるその姿を、シルは祈るように手を握って見つめる。
(「璃音さん、一人じゃないから……」)
 縛られ、動きを封じられながらも、竜の放つ風刃は璃音を切り刻まんと襲い掛かり。
「力を借りるよ! グリフォン、その武威を示せ!」
 瑠璃の呼び声に応え、乱舞する刃の前に現れるのは伝説に語られる霊獣『グリフォン』。
 呼び出された霊獣は、太古の盟約の下に敵を見据え、翼を羽ばたかせ。
 その風に乗せて奔るプレッシャーが、風刃を砕き、竜すら飲み込んで吹き抜けて。
「FREEZE」
「止まりなさい!」
 なおも振るおうとする左右の爪を、マークのフロストレーザーと沙耶の時空凍結弾が凍てつかせる。
 一人じゃない。
 共に戦い、助けてくれる仲間は、友達はこんなにもいるのだから。
(「だから、頼ってね」)
 そして、とシルは握った拳を璃音の背に、そしてその先にいる彼女の仇へと突き出す。
「思いっきり、ぶっとばしちゃえっ!」
「うん!」
 その声に背を押されて、最後の一歩を踏み込んで。
 璃音は握ったその手に光を灯す。
 それは、火水風土雷氷光闇の8属性の魔力を束ねた虹色の輝き。
 長い月日と経験を経て完成された、これまでの全てを籠めた一振りの剣。
「もう私は泣いていたあのころとは違う! 共に笑いあう仲間もできたし、楽しいことも苦しいこともたくさん味わってきた!」
 だから、と眩く輝く光の剣を掲げて璃音は叫ぶ。
「私の復讐も――お前の残虐行為も――これで、終わりにする! させてもらうよ、災天竜ザッハィシオ!」
 振り下ろす刃が、かざす爪牙もろともに竜を切り裂き。
 返す刃がその首を断ち切って。
 ――そして、彼女の過去に終わりを告げた。


「COMBAT MODE CLOSED――終わったな」
「終わったん、だよね……」
 崩れ去る竜を見届け、武器を収めるマークの声にどこか呆然としながら璃音は応える。
 胸によぎるのは、安堵と感謝と……喪失感。
 長年追い続けてきた怨敵を討った達成感はありながらも、どこか心に大きな穴が開いてしまったようで……。
「璃音さん……」
「大丈夫ですよ」
 心配そうに見つめる瑠璃に寄り添って、沙耶はそっと呼びかける。
「感傷も喜びも悲しみも、縁ある者が抱けばよい。我々はただ見守り、必要な時に助けるだけだ」
 共に並んで、見つめる恭平の視線の先、
「みんな、お疲れ様っ!」
 うつむく璃音の背を軽く叩いて、シルは明るく笑いかける。
「いろいろあるとは思うけど……とりあえず、少し復興のお手伝いもしないとね」
「せっかく復興してきたんだものね」
 周りを見回し、巻き込まれた建物を修復していくシルに頷いて。
 ポケットから取り出した飴を口に放り込みつつ、モモも歩き出して。
 そんな二人に引っ張られながら、璃音もまた歩き出す。
「ゆっくり、自分の足で見つけていけばいいんだよ。時間は、まだまだあるんだしね?」
「そう……そう、だよね」
 手を引きながら振り返って笑いかけるシルに、頷き返すと璃音は歩き出す。
 まだ心の空白を埋める答えは見つかっていないけれど、それでも前を向いて一歩ずつ。
「だから、大丈夫です」
 その姿に、ほっとしたような息を漏らすと、もう一度沙耶は瑠璃の手を握る。
 仇を追い続ける怒りも、仇を討った後の喪失感も、どれもがかつて自分達が抱いてきたもの。
 そして、その先に歩き出す助けになってくれた大切な存在を、彼女は確かに持っているのだから。
 寄り添い、見守る義弟夫婦の姿にそっと微笑むと、十六夜は空を見上げる。
 一つの因縁は終わった。
 絡み合う因縁は、いつか自分や仲間を巻き込んで新たな戦いを呼び込むこともあるだろうが……。
 まずは、今の勝利を受け止めて。
「皆、お疲れ様」

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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