鳥さんがたくさん買ってきた肉とかを食える仕事

作者:星垣えん

●夏に負けない
 蒸し蒸しと、暑さの厳しい日。
 平凡な住宅地の一角で、ささやかな集まりが催されていた。
 1軒の家のそれなりに広い中庭で10人程度がわいわいと食事を楽しんでいたのだ。
「いやー美味いなあ」
「なんか外で食べるのっていいですよね」
「肉焼こう。とりあえず肉」
 生えそろった芝の上に置かれたガーデンテーブルを囲む人々。皿に盛られた料理を食って冷たいドリンクを飲んでいるさまは賑やかなバーベキュー風景以外の何物でもない。
 しかしバーベキューではなかった。
 皆は熱々に焼かれた肉や、魚介や、野菜を食っていたが中庭には火のついた炭もなければ燻製の煙もない。
 あるのはただひとつ。
 テーブルの上に置かれたホットプレートだけだった。
 そしてそのホットプレートのそばに立ち、せっせか料理しているのは――。
「こんな暑い日はホットプレート料理に限りますなぁ!!!」
 鳥の顔したアイツことビルシャナだった。
「夏だからエアコンの効いた室内で……とか考えてはいけないぞ! そんなことでは体が弱く案る! むしろ暑い夏だからこそホットプレートで熱々の料理を食うべきなんだ!」
「えぇ、そうですね!」
「ガンガン汗をかくのって気持ちいいですしね!」
「そうだろうそうだろう! よーしそろそろたこ焼き作っちゃうぞー!」
「「「ヒューーーッ!!!」」」
 テンション高く、ドリンクのコップを掲げる信者たち。
 うん、ちゃんと水分摂ってるから熱中症とかはないね! たぶん!

●混ぜてくれ!
「――という状況ですね」
「なるほど。つまり私たちはその場に乗りこんで料理を食べてくればいいのね」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)が短い説明を終えると、遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は迷いなくそう言った。
 どこをどう聞いたらその結論に至れるのかはわからない。
 しかしまあ、彼女はそう直感したらしいのだ。
「そうですね。篠葉の言うとおり食べてくればいいと思います。ビルシャナも色々買いこんでいるようなので食材はたくさん余っているでしょうし」
 しかも合ってたらしい。イマジネイターくんが全然否定しない。
 どうやら今日は食ってくるだけだな、と猟犬たちは肩の力を抜いた。
「ただ、その前にビルシャナは倒してくださいね」
 あ、普通だった。
 普通の依頼だったわと皆は肩をきゅっと上げました。
「信者の人たちをどうにかしないといけないのね? 面倒くさい……」
「まあまあ。たぶん目の前で冷たいものを食べてるだけで正気に戻りますから」
 あからさまに億劫がる篠葉の肩を両手でポンポンするイマジネイター。
 鳥さんに従ってる信者10人は、冷たいもの食ってれば解決するらしいっす。
「アイスとかがヘリオンに積んでありますからそれを使って下さい。大丈夫、ポータブル冷凍庫なども置いてますから現場に着いた頃でもしっかり冷えてるはずです」
 しかもだいたいイマジネイターが用意してくれてるらしいっす。
「じゃあ、こういうことね? 私たちは現場についたらアイスとか冷たいものを食べて、そのあと鳥たちが買いこんだお肉や魚や野菜やお肉やお肉でホットプレートパーティーをする!」
「え、えぇ」
 くわっ、と力強さを放った篠葉にこくりと頷くイマジネイター。
 その反応を見た篠葉は、よし、と手を叩いた。
「それじゃあ早速出発ね! あいつらに無駄に食材を使わせるわけにはいかないもの!」
「あっ、あの篠葉、腕を掴まないで……」
「レッツゴー!」
 ぐいぐいとイマジネイターの腕を引いてゆく篠葉。
 かくして、猟犬たちは人が買った食材でホットプレートパーティーをすることになるのだった。


参加者
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
セイシィス・リィーア(橙にして琥珀・e15451)
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)

■リプレイ

●暑いんだもの
 むせ返るような熱気の中庭。
 鳥と信者たちは、ひとりの女と対峙していた。
「屋外でホットプレートってさぁ……テレビ番組でよく見かけるけど、ぶっちゃけ農家さんも室内で調理したいんじゃないかなーっていっつも思うんだよねー」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)である。
 もっと言うと。
「やっぱり暑い日はひやむぎ食べるのがいいよねー」
 つるつるとひやむぎを啜っていることほである。
 氷水で冷やしたひやむぎを美味そうに食べる女に、鳥さんは鼻を鳴らした。
「そんな軟弱な食べ物のどこが良い!」
「そうだそうだ!」
「暑い日こそ熱い物を食うべきなんだ!」
「えーでも普通に冷たい物のほうが良くない?」
 鳥と信者のブーイングを聞き流し、手を叩いてライドキャリバーの藍を呼ぶことほ。
 走ってきた藍の座面には冷たい麺が並んでいた。
 ざるそばや冷やし中華、盛岡冷麺やらユグドラシルの根元を象った冷製パスタ。
「喉ごしを味わうのも良いと思うけどなー」
「くっ、こいつ見せつけるように!」
 鼻歌でも歌いだしそうな調子で麺を啜ることほを見て信者たちが動揺する。暑い日には熱い物をと口では言っていても体は正直だった。
 そこへ――。
「アイスキャンディー美味しいですねー」
「夏ですからね。やはりこの時期はアイスでしょう」
「き、貴様らぁぁぁ!?」
 ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)とシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)の二人が、氷菓を咥えながら姿を現した。速攻で鳥さんが抗議しようと歩いてくるが、ロージーは素知らぬ顔でアイスキャンディーを齧る。
 そして、爆乳で盛り上がっている服の胸をつまんでパタパタ。
「暑い時は冷たいものですよね。ただでさえ色々蒸れますし……」
「ほあああっ!?」
 不意打ちのお色気シーンにスッ転げる鳥。
「何が! 何が蒸れると!?」
「確かに蒸れますよね。もう脱ぎたいです」
「脱ぐ!!?」
「棒アイスが美味しいですね」
「ぺろぺろしているぅー!?」
 鼻息荒い信者たちが、スーツのジャケットを脱いだり棒アイスをしゃぶったりと思わせぶりなシフカに翻弄される。ちなみに彼女も爆乳。
 そんな光景を眺めるシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)の目は死んでいた。
「あれ焼肉食べるのに邪魔じゃないっすかね。もいだほうが良いと思うっす」
「今ヤルか? ウチも協力スルッ!!」
 嬉々として二本のチェーンソー剣を駆動するアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)。
「二人とも落ち着いて」
 遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)が後ろから二人の肩をグッ。
 暴走する貧者たちを抑えた女は、青い双眸をきらりと輝かせた。
「私たちは人の金で美味しいお肉を食べに来たはずよ? 本来の目的を忘れないで!」
「確かにそうっすね」
「そうダッタ。タダ飯ヲ食いニ来タんだったナ!」
「少しは遠慮しろ」
 人ん家の中庭で堂々と騒いでる三人へ静かにツッコむ鳥。でも誰も聞いてない。タダ飯で心をひとつにした彼女たちは「おー!」と拳を突き上げる始末だった。
 で、そんなことしてるうちに。
「ホットプレートはいいけど暑すぎると体に毒だよ~」
「ふおおお! また巨乳っ娘!」
「アイスを食べてるだけなのに絶景ですな!」
 信者たちが、カップアイスをぱくぱく食べるセイシィス・リィーア(橙にして琥珀・e15451)を囲んでデレデレしていました。
 自作したアイスを指で掬い、信者の頬にペタッとするセイシィス。
「ね? 暑い中涼むのも大事だよ~♪」
「冷てぇぇ♪」
「野郎! なんて羨ましい!」
「おれもあいすたべる」
「待てぇぇぇい!!」
 ナチュラルにアイス食おうとする信者たちを制止する鳥。だが彼がホットプレート料理の良さを説く前に、背後で桃アイスを食べていた篠葉が「んー♪」と声を出した。
「甘くって冷たくってフルーティーで……こんなに美味しいアイスがあるのに、ホットプレートに群がってる人が居るなんて無いわよねー?」
「確かになー……アイス美味しいよな」
「わざわざ熱い物食うのもな……」
「暑い日には冷たいものに決まってるっす。ほら食べるっす」
 篠葉に言われて納得しかけた信者に、すかさずアイスを配るシルフィリアス。鳥さんが止める間もなく信者たちはどんどんアイスを食いはじめた。
 ギリギリで鳥の教えを守った数人の信者たちも、頭を抱える。
「くそっ! だが暑いならばやはり熱い物を……!」
「熱イのがいいノカ。じゃあハイコレ!」
 アリャリァリャが、もうもうと熱気を放つ皿を差し出した。
 乗っていたのは――ビビるほど赤くなっている餃子と、見るからに熱々のあんかけスパゲティだった。もう何か蒸気がすごい。
「これはいったい……」
「人数多くてホットプレートだけジャ足りネーと思ってナ! 火を焚いといたゾ!」
 後ろを指差すアリャリァリャ。
 焚火がめっさ燃えていた。ごうごうと昇る炎。
「夏に火を焚くんじゃねええええ!!」
「どうりで暑いと思ったよ!!」
「ホットプレートとは火力が違ウゾ! たくさんあルカラドンドコ食べルがイイ! ホットプレートで作ッタたこ焼きはクダさイ!!」
「自由すぎるだろうがァァァァァ!!!」
 好き放題やってからたこ焼きに惹かれて去ってゆくアリャリァリャに、魂のツッコミを放つ信者たち。んなことしてたら体が温まっていっそうキツくなってきた。
 そこへ。
「寝坊したらこんな時間に……遅刻遅刻」
「!?」
 両手で扇風機を抱いた奴が、目の前をてけてけと通過した。
 陽月・空(陽はまた昇る・e45009)である。彼はひらけたスペースに扇風機を下ろすと、ホットプレートが繋がってる場所から電気を取り、ぶおーんと動かした。
 そしてその風に当たりながら――アイス(真ん中でポキッとするやつ)を咥えた。
「うん……涼しい」
「くああああっ!!」
 地獄のような暑さの只中で最高に涼む空。その姿に苦悩を強めた信者たちが体を折る。
 そんな彼らに横から近づいて、ロージーは優しく肩を叩いた。
「皆さんもお風呂とかで汗を流して、お風呂上りに冷たいアイスを食べるといいですよ!」
「……そ、そうだな!」
「無理して熱い物食わなくていいよな!」
「ま、待て! いや待って下さいー!?」
 鳥さんが止める間もなく、信者たちはダッシュで家に帰っていった。きっと道中でアイスを買って、風呂上りのアイスを味わうだろう。それが人間というものだ。
 あ、もちろん鳥さんはそのあと何事もなく逝きました。

●食材が余ってるんだもの
 鳥さんも信者も去った平穏な中庭に、焼けた肉の香りが漂う。
「一仕事した後には美味しいご飯っすよね」
「せっかく来たんですからね。お肉がっつり食べますよー!」
 一面を肉で埋め尽くしたホットプレートを囲んで、シルフィリアスとロージーがむぐむぐと幸福を噛みしめていた。
 まるで『大仕事を果たしたから肉をガンガン食うのは当然』とでも言わんばかりにシルフィリアスは数枚の肉をまとめて口に放り、ロージーもぱくぱくと絶え間なく肉厚の牛を味わっている。
 鳥さんが買い、そして遺した食材に猟犬たちが手をつけるのは一瞬だった。肉やらシーフードやらをプレートに並べてパーティーを始めるのに何のためらいもなかったっす。
「人のお金で食べるご飯は美味しいっすね」
「ほんとほんと」
「うん……お財布に優しくて、助かる」
 タレを絡めた肉をご飯の上にバウンドさせるシルフィリアスの一言に、細やかなサシの入った牛肉を頬張る篠葉と空がこくこくと首を振る。
「脂がとろける高級お肉を食べて、キンキンに冷えたジンジャーエールを飲む……あーっ、やっぱ夏って最高!」
「ねー。最高最高ー!」
 テンション高まった篠葉がクラッシュアイスの入ったジンジャーエールを掲げると、隣でもぐもぐ肉を食ってたことほも同じく冷えたグラスを掲げる。
 誰が信じるだろうか。ここが人ん家だということを。
 キャーキャー若者らしく夏を楽しんでる彼女たちが、人ん家の中庭で人の買った肉を食っているということを。
 静かにドリンクを飲んだシフカが、少し大きな音を立ててグラスをテーブルに置いた。
「皆さん、あまり羽目を外さないで下さい」
「あ、シフカさん」
「ごめん、騒ぎすぎた……?」
 びくり、と肩を揺らす篠葉とことほ。
 彼女らへ射抜くような視線を向けて、シフカは箸を持ちあげた。
 厚い輪切りにしたズッキーニが挟まっていた。
「野菜です、野菜も食べましょう。お肉や魚だけではダメです。瑞々しい夏野菜を食べましょう」
 野菜を勧めているだけだった。
 篠葉とことほを叱っているように見えて、野菜を勧めてくるだけの人だった。
「ほらピーマンも焼けています。焼きトマトもどうですか」
「あっ、野菜ね! うん、もちろん食べるよー。バランス大事っ」
 別に怒ってないと知って安心したことほが、笑顔でシフカから野菜を受け取る。新鮮な夏野菜は肉で脂っこくなった口にちょうど良くて、ことほは「これおいしー」とあっという間に食べてしまう。
 一方。
「ホタテのバター焼き美味しいー♪」
「海鮮系をホットプレートで焼くって結構レアな気がしますよね……なんか網で焼くものってイメージがあります。美味しいから問題ないですけど♪」
 篠葉はロージーと一緒になって、しれっとホタテを食っていた。バターの合わさったホタテは説明の必要がない美味さで、二人ともふたつみっつと箸が止まらない。
 でもシフカさんも退かない。
「野菜も食べましょう」
 ぐいっと迫るシフカ。その手には焼き野菜を並べた皿。
「野菜? 野菜はいつでも食べれるし……?」
「んー私もできればお肉多めに食べたいですけど。まぁ野菜も美味しいですよねー」
「あぁっ、ロージーさん!」
 普通に何でも美味しく食べちゃうロージーがあっさり野菜を受け取る。逃げ場のなくなった篠葉は狼狽えた顔でじりじり後退。でも追い詰めるシフカ。
「旬の夏野菜ですよ。食べましょう」
「いやまあ……」
「いえいえ」
 シフカがぐいぐいくる。数センチの距離までぐいぐい。野菜愛がすごい。
 そんな二人の熱い攻防を、セイシィスは串で焼いた肉を食べながら眺めていた。しかし肉だけでなく交互にナスとかパプリカとかも挟んでいるので、偏食ポリスもといシフカさんに目をつけられることはなかったぜ。
「お肉オンリー派も野菜と一緒のバランス派もいるし好みだよね~」
「うん……好きに食べるのが一番。僕は何でも食べるよ。肉も野菜も魚も食べる」
「空さんは幸せそうに食べるね~」
 向かいで黙々と食いつづける空を見て、くすくすと笑うセイシィス。なんせ目の前の食いしん坊はぷくっと頬が膨れていますからね。小動物的な可愛さだったよね。
 セイシィスは、じっくり焼き上げた肉串を空に見せた。
「こっちはプルーン&豚肉で、こっちはラム&玉葱だよ~♪ 食べる~?」
「食べる」
 きらん、と瞳を煌めかせる空。両手で持った二本をもぐっと頬張った空を見ながら、セイシィスもあむっと肉を食べ、その美味に頬を押さえる。
「うん、美味しく焼けたね~♪」
「美味シイ串!? ウチも食べル!」
「いいよ~」
 美味い物の気配を感じ取って、少し横のほうで作業していたアリャリァリャが反応。セイシィスが分けてくれたそれをアッサリ一口で平らげると、ぷはーっと満足そうな息をついた。
「美味シイ物が食べ放題……トリには感謝ダナ!」
「そうだね~♪」
「あとでお墓でも作ってあげようかな」
 むぐむぐ、とお高い肉を食いながら、天を見上げる三人。
 奢ってくれてありがとう――と適当に亡き鳥さんを悼む。
 けど数秒後にはやっぱり焼肉に夢中になってたから、たぶん墓は作られないと思う。

●甘い物食べたくなるんだもの
 30分後。
「シルフィリアスさん。肉ばかり食べてないで野菜も」
「何言ってるっすか。牛や豚は草を食べて育っているっす。つまりお肉の中には草が入っているから実質野菜っす」
「屁理屈はいいです」
「屁理屈じゃないっす。事実っす」
 野菜好きのシフカと野菜食わないシルフィリアスが、真っ向からやりあっていた。
 自分の小皿に野菜を入れようとしてくるシフカの攻撃をシルフィリアスが異形化させた髪の毛で防御するさまは、今日イチ真剣なバトルシーンだった。
『やりますね、シルフィリアスさん』
『あちしに野菜を食べさせるのは簡単なことじゃないっすよ』
「何やってるんだろう、あの人たち」
「さ~?」
 二人の熾烈な戦いを数m横から見物してることほ。どうでもよさげな生返事をしたセイシィスはホットプレートに被せていた蓋を外した。
 姿を見せたのは、ふっくらホットケーキ。
「厚めのやつ二段重ねができたよ~♪ アイス乗せたけど皆は食べるかな~?」
「アイスの乗ったホットケーキ! これは撮らないとよね!」
 秒速でスマホを取り出し、ぱしゃぱしゃ撮影を始めることほ。こっそり仲間たちがアイス食べてるさまも撮影していた彼女の端末には今日一日でどれほどの画像が収穫されたのでしょうか。
「キッチンからトッピングに使えそうなもの持ってきましたよ~」
「ホットケーキ? 私も食べたーい」
「僕も食べるよ。もちろん食べる」
「ん~。では追加でホットケーキ焼きますね~♪」
 家の中からロージーがクリームやら蜂蜜やらを持ってくると、シメの焼きそばを食べていた篠葉と空(便乗して食べていた)も集まってくる。もう一個か二個焼いておこうとセイシィスは生地をプレートに落とした。
 ――その一方、野菜戦争には決着がついていた。
「や、やめるっすー!?」
「観念して下さい。口を開けて」
「食わないっす! 肉をよこすっすー!」
「仕方ありません。髪の毛さん、口を開けてください」
「ふががー!」
 シフカの命令を受けて、シルフィリアスの異形化した髪の毛が力ずくで主人の口をオープン。そこへどんどん夏野菜をぶちこむシフカ。
 なぜ髪の毛が敵になってるかは謎だ。きっと日頃の行い。
 しかし羽交い絞めにされて野菜を食わされている姿は結構かわいそう。同情心が芽生えたアリャリァリャはてくてく近づいて、バターが香る一皿を差し出してあげた。
「ぽっくり甘いカボチャのバターステーキ! コレもうスイーツダゾ!」
「あ、普通に美味しそうですね」
 シルフィリアスより先に反応するシフカ。
 けれど肝心のシルフィリアスは。
「肉っす! いいから肉っすー!」
 頑として肉を要求していた。
 はぁ、とため息をつくアリャリァリャ。
「……肉しか食べネーナラアイスとかウチが貰っちゃっテイイナ!」
「いやそれは別の話っすよ。あちしもアイス食――」
「髪の毛さん、お願いします」
「ふぐーっ!」
 ロクなこと言わねえ主人の口を塞ぐ、シルフィリアスの髪。
 それからしこたま野菜を食わされて食のバランスが保たれたのは、言うまでもない。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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