日々の喜び

作者:芦原クロ

 丘一面を彩る、清々しい紫色のラベンダーの花畑。
 爽やかな香りに包まれ、観光客にとっては癒しの場所となっている。
 可憐な紫色の花は鮮やかで美しく、優しい香りも重なって、見る者の心を和ませ、癒しを与える。
 ラベンダーのソフトクリームを食べている観光客が多く、なめらかな食感とラベンダーの香りが合わさった人気商品だ。
 他にも、オレンジレモンの、ひんやりゼリー。ヨーグルトとイチゴの、ふんわりムース。ソフトクリームのフレーバーも多く、販売しているカフェが有る。
 のどかで美しい光景を目にしながら、暑さをしのいでいる観光客。
 今日も、穏やかな一日を過ごす――筈だった。
 花粉のようなものがとりついた、1本のラベンダーが巨大化し、悪しきものに変わる。
 穏やかな日常は僅か数分で壊され、異形によって命を奪われた人々の死体が積み重なり、惨劇の光景が残された。

「紺野・雅雪さんの推理のお陰で、予知が出来た」
「ラベンダーの花が攻性植物になるんだよな?」
 霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)は、紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)の問いに神妙な面持ちで頷く。
「予知通りになる前に、急いで現場に向かって攻性植物を撃破して欲しい。放っておけば、多くの命が失われる」

 敵は1体だけで、配下は居ない。
 一般人の避難誘導は、警察などが迅速におこなってくれるので、ケルベロスたちの手は借りずに済む。
 ケルベロスたちは攻性植物が現れ次第、迎撃し、戦闘に集中して欲しい。
 少しだけ気を付けていれば、他の花が傷つくことは無い。

「日々の喜び……ラベンダーの花言葉だ。どうか、死者の出ない日常を守ってくれ。討伐の成功を祈っている」


参加者
リンネ・リゼット(呪言の刃・e39529)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)

■リプレイ


(「ラベンダーですか、この季節のラベンダーって綺麗ですし、香りも良くて素敵ですよね」)
 現場に急行し、丘一面に咲き誇っているラベンダーを見て、アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)の表情は思わず和らいだ。
 鮮やかで美しい花から発せられる、優しい香り。
 心が和み掛けたその時、異形が姿を現した。
(「ラベンダーが、攻性植物になったのは残念です」)
 アクアは距離を取り、敵の反応をうかがう。
「畑の被害を抑える為にも、攻性植物を誘導しましょう」
 リンネ・リゼット(呪言の刃・e39529)の提案に、反対する者は居なかった。
 ラベンダー畑から離れたところに有る、広いスペースを目指して。
 駆け出すと、敵は本能のままに追い駆けて来る。
 花畑から大分離れた位置まで、敵を誘き寄せることに成功した。
(「ラベンダーの花の良い香りがここまで伝わってくるわね。綺麗な景色を守るために、戦いましょう」)
 戦闘態勢に入る、天月・悠姫(導きの月夜・e67360)。
「よし、俺たちは攻性植物の相手に専念するぞ」
 紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)が仲間たちに声を掛け、敵を真っ直ぐに見据えた。


「破壊のルーンよ、敵の加護を砕きなさい!」
 アクアが、魔術加護を打ち破る力を、雅雪に付与した。
「私は、主に仲間の回復とエンチャントに専念するわね」
 悠姫が自分の役割を宣言し、エクトプラズムで疑似肉体を作る。
「疑似肉体よ、皆の傷を塞いであげて」
 それを後衛陣に向け、状態異常への耐性を高めた。
「俺は、敵への攻撃に専念するぞ」
 回復やサポートは他の仲間たちに任せる、と。
 仲間たちを信頼し、攻撃特化を決める、雅雪。
「この飛び蹴りを、食らえ!」
 跳躍し、飛び上がった雅雪は流星の如く、煌めく蹴撃を敵に叩き込んだ。
 機動力を奪われた敵の動きが、鈍る。
(「ラベンダーの花は私も好きですけど、攻性植物になったからには倒すしかないようですね」)
 目の前の敵は、ラベンダーの可憐さなど皆無で、殺気を漂わせる、悪しきものに変わっているのだ。
 リンネは氷雪に、前衛陣の耐性を高めるよう指示を出す。
 氷雪が前衛陣に向け、翼を羽ばたかせている間に、影の弾丸を敵に撃ち込む、リンネ。
 敵は黄金に輝く果実を体の一部に宿し、眩い光を放って、護りを強化する。
 アクアと雅雪は、互いに視線を一瞬交わして。
「音速を超える拳です」
「この拳を、見切れるかな?」
 敵に肉迫した2人は、ほぼ同時に、目にもとまらぬスピードで拳を叩き込み、ブレイクをきめた。
 怒り狂った敵の咆哮が、大地を揺らすほどに、響く。
 バックステップで敵から離れたアクアに、燃えさかる破壊の光線が放たれた。
 が、リンネがアクアを庇い、光線はリンネに直撃する。
 流石に冷や汗をかき、リンネを心配する、アクア。
「仲間ですから」
 庇って当然なのだと、痛々しい傷を負いながら、リンネは告げる。
「大丈夫かしら、すぐに治してあげるわね」
 悠姫は急いでオーラを溜め、リンネの負傷を癒やすと同時に、状態異常を消し去った。

 戦闘開始から数分が経過し、ようやく勝利のきざしが見え始めた。
 敵からの状態異常には万全の注意を払い、こまめに状態異常を消し続ける。
 そして、敵には状態異常を重ね続け、敵が耐性を得たそばからブレイクでそれを解除する。
 人数の少なさを策でカバーし、時間を掛けてでも敵を確実に弱らせ、追い詰めてゆく。
「このナイフをご覧なさい、貴方のトラウマを映してあげます」
 リンネがナイフの刀身にそれを映し、具現化する。
 敵は苦しげに呻き、暴れもがく。
 大地を侵食し、前衛メンバーを飲み込んでも、悠姫が即座に対応した。
「皆さん、あともう少し頑張ってね」
 癒やしの風が巻き起こり、仲間たちの心身を癒やす。
 加えて、悠姫の鼓舞。
 悠姫が告げた通り、敵の動きは遅く、あと僅かで倒せるだろうと判断出来る。
「これで、氷漬けにしてあげます」
 アクアが氷結輪を射出して敵を切り裂き、同時に、強い冷気を放つ。
 凍てついた敵は思い通りに動けず、苛立たしげに呻いていた。
「貴方の血を、奪い取ってあげます」
 敵を斬り裂くと同時に、自身を回復する、リンネ。
「その傷口を、更に広げてやるぞ!」
 雅雪が霊力を帯びた武器を振るい、敵の傷跡を斬り広げる。
 一気に畳みかけられて、為す術もなく破れ、敵は完全に消滅した。


 戦闘が終わり、観光客が怖がらないようにと、ヒール作業で戦闘の痕跡を消す。
 戦闘中も気を付けていた為、ラベンダー畑は荒れずに済んだ。
 ヒールを終えると、避難が解除されたのだろう。
 観光客やスタッフが戻り、平和な一日が取り戻された。
(「俺の危惧していた攻性植物が本当に現れるとは驚いたな。まぁ、事前に被害を防げて良かったとするか」)
 平穏な光景を眺めつつ、思案する雅雪。
「戦闘も終わりましたし、わたしも、観光を楽しんでおきましょう」
「私も観光を楽しみます」
 悠姫が口を開いて仲間たちに伝えると、アクアが頷き、
「俺は、冷たいスイーツを頂きたいな」
 雅雪の視線の先には、スイーツが販売されているカフェが有った。
 涼を求めて、カフェに入る一行。
 リンネは、ヨーグルトとイチゴの、ふんわりムースを。
 悠姫は、オレンジレモンの、ひんやりゼリーを注文する。
 雅雪とアクアは、仲良くメニュー表を暫し眺め、どれにしようかと話し合うも、割と直ぐに決まった。
「ラベンダーのソフトクリームを頂きたいですね」
「だよな。俺も、ラベンダーのソフトクリームを頂こう」
 注文を終えてから顔を見合わせ、楽しみだというように微笑み合う。
 注文の品がテーブルの上へ運ばれ、悠姫がゼリーをスプーンで掬って一口。
「甘酸っぱくて、ひんやりとした食感が絶品ね」
 爽やかな柑橘類の味が口の中で広がり、夏らしいゼリーに満足げな、悠姫。
「こちらは、苺の酸味と、ヨーグルトのまろやかな味わいが相まって美味しいですね」
 甘酸っぱくて爽やかな味わいと、イチゴの食感も楽しめるムースに、リンネは嬉しそうだ。
 どちらも冷えている為、今の時期にはピッタリだろう。
「綺麗な色ですし、香りも、とても良いですね」
 ラベンダーのソフトクリームを見て、その色と香りをアクアが褒める。
「とても良い香りのするソフトクリームだな」
 雅雪も頷いて同意を見せ、早速ソフトクリームを食べ始めた。
 食感はなめらかで、味はさっぱりとしていて、爽やかでもある。
 夏らしいスイーツを存分に味わい、店内で涼みながら、美しいラベンダーの花畑を目で楽しむ4人。
 満開のラベンダーが夏の風に揺られ、平穏な日常が広がっていた。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月28日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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