ひまわり祭り

作者:芦原クロ

 祭りばやしが聞こえる、夕暮れ時。
 畑は一面、黄色のひまわりの花が咲き、夏らしさを感じさせる。
 ひまわりを観賞しながら開催されるこの祭りでは、飲食や娯楽の出店が多く並び、時間が過ぎれば千発ほどの花火も打ちあがる。
 人々は祭りに興じ、夕暮れ時になるとライトアップされるひまわりを見て、楽しむ。
 漂って来た花粉のようなものが、平穏な一日を壊すとも知らずに。
 花粉が1本のひまわりにとりつくと、ひまわりは巨大化し、動き始めた。
 畏怖する一般人を次々と無残に殺めて、祭りばやしも止み、静かになったその場所は、血と屍と破壊の残る光景に変わっていた。

「花見里・綾奈さんの推理のお陰で、予知が出来た」
「向日葵が、攻性植物になります……」
 霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)は真剣な表情で、花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)に礼を告げてから、ケルベロスたちに向き直る。
「急ぎ現場に向かい、攻性植物の撃破を願いたい。このまま放っておけば、多くの命が失われる」

 配下は居なく、敵は1体だけだ。
 一般人の避難誘導については、警察などが担当してくれる。
 ケルベロスたちは降下後、攻性植物を迎撃すれば良い。
 戦闘に集中していれば、敵の標的も、ケルベロスだけになる。
 出店やひまわり畑から離れた、広い場所を戦場にすれば、花や店の損壊も防げるだろう。

「確実な撃破を頼む。どうか、死者の出ない穏やかな平和を守ってくれ」
 緊迫感漂う中、そう言って頭を深く下げた。


参加者
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
 

■リプレイ


(「私の危惧していた攻性植物が本当に現れるとは驚きました、けど……事前に事件を防げるようで、不幸中の幸いですね」)
 悲惨な事件を防ごうと、花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)は心に決める。
 しん、と静まり返った現場では、人っ子一人も居らず。
 畑には一面、ひまわりの花が咲き乱れている。
(「この季節になると、ひまわりも綺麗に咲くわよね」)
 六星・蛍火(武装研究者・e36015)が眠たげな瞳をひまわりに向け、思案する。
「お空にも大地にもお花いっぱい! いいね、いいね!」
「すげえ、でけえーっ。俺より背の高えヒマワリがたくさんあるぜっ」
 アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)と尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は嬉しそうに、声をあげる。
 どの花が攻性植物と化すのか今は判断出来ない為、一定の距離を置いて警戒しながら、ひまわりを眺めていた。
 直後、1本のひまわりが動き出し、巨大化する。
 異形はケルベロスたちを見つけるなり、襲い掛かって来た。
「光当てると何か意味あるかなー? 太陽程じゃないからイマイチかな?」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が敵を誘導する為、工夫をこらしてみる。
「あいつは特にでっけえなあ」
 巨大化した敵を見て呟き、広喜は足早に、戦闘に適した場所へ誘導しようとした。
「こっちだぜーっ。……反応がなけりゃ一撃ぶちこむのもありだな」
「おいで、こっちにおいで。あなたのダンスの相手は私達だよ!」
 広喜が笑顔で声を掛けてみると敵は即座に反応し、獲物を狩ろうとするが如く、広喜やアイリスを追って来た。
 出店や花畑から離れた、広いスペースへ到着すると、メンバーは敵を囲むように位置取りする。
 逃亡させない為、そして一般人が避難している先へ向かわせない為に、と。
「戦闘開始だ」
 敵が叩き込んで来るツルを、ヌンチャク型にした腕部換装パーツ肆式で上手くさばきながら、隙だらけの箇所へ、一撃を。
 怒りに染まった敵は、けたたましく咆哮をあげた。


「BS耐性と盾アップを充実させるねー」
 ことほは自分の役割を宣言し、藍が攻撃している間に、エクトプラズムで疑似肉体を作って、前衛陣を強化する。
「一緒に踊ろう、踊ろう!」
 木の靴を展開したアイリスが楽しげに、かつ妖艶に戦場を踊り、敵にダメージを与える。
「さぁ、夢幻、私と一緒に頑張りましょう……」
 綾奈が語り掛けると、夢幻はふわりを宙を飛んで。
 翼を羽ばたかせ、ことほの耐性を高める。
 その間に光り輝く翼を暴走させた綾奈は、全身を粒子に変え、思いっきり敵に突撃した。
「さぁ、行くわよ月影。共に頑張りましょう」
 月影は蛍火の呼び掛けに応えるかのように、黒い炎が燃える尻尾を振り、蛍火に属性を注入して護りを強化。
(「攻性植物になったからには、倒さないといけないわね」)
 蛍火は高速演算で、敵の構造的弱点を見抜く。
「貴方の弱点を見抜いたわ、これでも食らいなさい!」
 蛍火の痛烈な一撃が炸裂した。
 攻撃の勢いに身を傾けたが、敵はすぐさま反撃に出る。
 炎渦巻く光線が、ことほを目掛けて放たれるが、広喜のほうが一足速かった。
 ことほを庇い、代わりに負傷する、広喜。
 全身が焼けるような激痛が走っても、広喜は笑みを崩さない。
「俺の仲間も、お前の仲間も、守ってやるぜ」
 真っ直ぐに敵を見据えながら、肘から先をドリルのように回転させる、広喜。
 自身の負傷も気にせず、威力充分の一撃を、敵に食らわせる。
「ありがとー! でも痛そうだよー、大丈夫?」
 庇ってくれた礼を言い、ことほは心配げに広喜へ問う。
「平気だっ。それより、周りに被害が出ねえように気をつけて戦いてえな」
 広喜はにっこりと笑って見せ、周囲を注意深く見やる。
「お店や向日葵に被害が行かない様に注意しないとね。――人も花も、摘ませないよ?」
 アイリスが頷き、呪われた武器で美しい軌跡を描いて、斬撃を浴びせる。
「月影、回復を頼むわね」
 眠たそうな物言いで蛍火が声を掛けると、月影は広喜の回復につとめた。

「ダメージ回復ついでにENがかけられるとイイネ!」
 目安を最低限に絞り、味方の護りを固め続ける、ことほ。
 数分が経過すると共に、白熱戦が繰り広げられる。
 高威力を誇る敵の攻撃を受けても、メンバーは声を掛け合い、助け合う。
 負傷者の治癒や状態異常の耐性を駆使し、状態異常が重ならないように、と。
 掛かれば即、キュアで異常を取り除く。
「プラズムキャノンで足止めを増やしておこう」
 エクトプラズムを圧縮して大きな霊弾を作り、敵に撃ち込む、ことほ。
 各々タイミングを見計らって、敵に状態異常を付与し続けることで、敵をどんどん弱らせてゆく。
「私は、最後までダメージを与え続ける事に注力。だってあなたも元は向日葵、太陽の花だもん。あまり長く苦しめたくはないな」
 アイリスは敵に対し、優しい気持ちを吐露する。
 広喜も、ひまわりの花に思い入れが有り、敵の蛮行を止めたいと願う。
 形勢が不利だと理解したのか、敵は逃れようと後退した。
「――逃がさねぇよ」
 敵の後ろに回り込んでいた広喜が、退路を阻む。
「本当はあなたも助けられると良いんだけど、せめて貴方のために踊ってあげる」
 軽やかにステップを踏み、優雅に舞い踊りながら敵にダメージを与える、アイリス。
「この飛び蹴りでも、食らいなさい!」
 煌めく流星の如く輝きを発し、重い蹴撃を叩き込む、蛍火。
 敵が機動力を奪われたのを好機として、一気に畳みかけるべく、メンバーは動く。
「エンジェリックメタルよ、私に力を……!」
 綾奈が敵に打ち込んだのは、鋼の鬼と化した強烈な拳。
「止めてやるぜ!」
 腕部換装パーツ肆式を伸ばして。
 敵を真っ直ぐに突く、終始笑みを絶やさない広喜。
 それがトドメとなって、敵は崩れ落ち、完全に消滅した。


 メンバーはヒール作業をし、アイリスも手で片付けられるものは片付け、戦場の跡を消した。
 畑や出店も無事で、すっかり綺麗になった光景を前に、蛍火が口を開く。
「やっと終わった。はぁ、眠たい……」
「お疲れお疲れ!」
 アイリスが言葉を繰り返し、仲間たちをねぎらう。
 避難していた人々も戻り、祭りが再開される。
 アイリスはひまわり畑を改めて眺め、嬉しそうに笑った。
「満開の向日葵って何か気持ちが晴れやかになるよね!」
「大きい花が一斉に同じ方向を向くのって圧巻だよねー。向かないこともあるらしいけど、そういうのも個性じゃん?」
 ことほが頷き、広喜は壮観なひまわり畑を前にして、無邪気にはしゃいでいる。
「お祭りにも遊びにいくぜ」
 そう伝えて、広喜は一足先にその場を離れた。
「出店で、何か、飲食したいです……」
「イイね! なに食べるー?」
 賑わい始めた出店が並ぶほうへ、綾奈が視線を送ると、ことほが親しげに問う。
「冷たいかき氷とか欲しいですね」
 なにを食べようかと少し思案してから、答える綾奈。
「可能なら、冷たいオレンジジュースを飲みたいわ」
 蛍火はベンチに腰掛け、うつらうつらとしながら告げる。
 すると、いつの間にか居なくなっていたことほが、戻って来た。
 キンキンに冷えたオレンジジュースの缶を、そっと蛍火の頬に添える。
「冷たい……」
 急に頬に冷たい感触がし、眠りかけていた蛍火が起きた。
「飲めば涼しくなるよー」
「くれるの? ありがとう。最近は日が沈んでも暑いから、涼みたかったのよ」
 蛍火の隣で一緒にジュースを飲み、いくつか言葉を交わした後、ことほは他のメンバーの様子を見に、出店のほうへと向かった。
「出店も良い匂いだけれど、祭囃子がきになるな」
 踊り子のアイリスは、音楽や踊りに興味津々だ。
 盆踊りをやっているのを見つければ、迷いも無く、即参加。
 踊り方を一般人に教われば、即座に呑み込み、盆踊りを楽しむ、アイリス。

「ヒマワリの種か苗が売ってたら買いてえな。……食用ひまわりの種?」
 店を探していた広喜は、思わず店員に詰め寄る。
「えっ、ヒマワリの種って食えるのか?」
 驚く広喜に、店員は試食として、チョコレートをトッピングした種や、ローストの種を使った焼き菓子をくれる。
 香ばしい風味に、カリッとした独特の食感は、焼き菓子との相性が良く、美味しい。
 食べ終えてから笑顔で店員に礼を言い、植える用の種か苗を探しに戻る。
 苗を売っている販売所を見つけ、店員から育て方や栽培方法などをしっかり聞いておくのも忘れない。
「こないだのチューリップと同じ場所に植えるんだ」
 春はチューリップ、夏はヒマワリ。
 大切な場所を、花でいっぱいにする事を夢見、その光景を見せたい相手のことを考え、上機嫌の広喜。
 ドン、っと。不意に大きな音がして、暗くなった空に花火が打ち上がる。
 明るい色の花火が次々と上がり、まるで花が開くようで。
「あの花火みてえに、でっかい花が咲くといいな」
 広喜は購入した苗に語り掛けるように呟き、夜空に美しく咲く花火を眺めていた。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月27日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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