強弓使いと戦う者たち

作者:塩田多弾砲

「ねー哲の字、知ってる? ここ最近、女子大の武道関係の部活で、ケルベロスが出張るような奴らが出てきてんだって」
 西海大学弓道部部長、神宮橋哲郎に、副部長の西園寺輝美が軽い口調でそんな事を語り掛けた。
「……ケルベロスが出張る? なんか怪物かバケモンか、そんなのが女子武道部を襲ったってのか?」
 彼らは今、弓道場にて。部員らが弓を引き、的へと矢を放つところを離れた場所から見ていた。
 この部活は、男女に別れておらず、男子と女子両方が一緒に並び、弓道に勤しんでいる。もっとも、女子部員の方が若干数多いのだが。
「そ。っても、哲の字が好きなエロコンテンツに出てくるような、触手で縛られ攻められあはんうふんってのじゃなくて、見ただけで問答無用に襲ってきたり、催眠術みたいなのかけられたりとか、そんなんだからね。残念でした」
「何が残念だ。というか、哲の字って呼ぶな。あと、誰がエロコンテンツ好きだと? そういうのが元から好きで、俺に教えたのはお前の方じゃないか」
「いーじゃないのさ。18歳前に二人でエロゲしたのは良い思い出じゃん」
「なわけないだろ。まったく……ちっとは武道に集中しろ」
「言われなくても……」
 と、言おうとした輝美は。
 弓道場の中庭、いわゆる『矢道』と呼ばれる場所に。周囲の壁を高く飛び越えて、何者かが飛び込んでくるのを見た。
 すでに部員の一人が、矢を放っている。その射線上に、『何者か』は着地していた。
「危ないっ!」
 と、輝美は叫ぶが。次の瞬間、
『何者か』は、矢を素手で『つかみ取った』。
「え? なっ……!」
 哲郎もまた、そいつの事を見ていた。その動きに驚愕する彼だったが、
「……あ、あいつ……!」
 そいつは、立ち上がり……身長3mほどの長躯を露わにした。
 全身からは、何かオーラめいたものが揺らいでいる。つかみ取った矢を、まるで嘲るかのように片手で折ると。
 奇妙なポーズを取った。
 それは、『弓構え』。いわゆる弓道において、弓を構え、矢をつがえて放つ前の動作と姿勢。
「……いったい、何を……」
 輝美、哲郎、そして部員らは、弓はもちろん、矢も持たないそいつが、何をしているのか。一見理解できなかった。
 しかし、
「! 逃げろ!」
 哲郎はすぐに理解した。先刻のオーラのように立ち登る光、それが弓を、そしてつがえられた矢を形作っている事に。
 彼の警告空しく、『矢』が放たれた。それは弾丸のように弓道場の、射場に打ち込まれ……爆発を起こした。
 部員らが薙ぎ払われ、苦痛の悲鳴が沸き上がる。
 それは終わりではなく、始まりだった。続けざまに、『そいつ』は、撃つべき獲物を即座に判断したかのように、オーラの『矢』を構え、
 哲郎と輝美へと『矢』を打ち込んだ。
「ひっ……!?」
『矢』は容赦なく、二人の命を貫き爆殺。
 続き、『そいつ』は、
 射場にいる部員ら全員の命を奪わんと、連続して矢を打ち込み、放ち続けた。

「再び、『矢』のエインヘリアルが登場しました。ただし、今度は……ある意味正統派とも呼べる存在です」
 セリカが君たちに伝える内容は、今まで大学の武道関連の部活に登場した、エインヘリアルの同類の出現。
 前に出現した個体は、燈家・陽葉(光響射て・e02459)たちにより倒されている。そして今回もまた、同じように道場に殴り込むようにして出現し……殺戮を繰り返すのを予見したという。
「場所は、西海大学のキャンパス外にある、武道場の一つ……弓道場です」
 西海大は、共学の総合大学。様々な分野はもちろん、スポーツ選手も数多く輩出している。武道関係も多い。
 が、人数もその分多いため、一部の施設はキャンパス外に設置していたり、借りていたりもする。武道場もその一つで、柔道や空手、剣道、合気道などの道場の他、各種様々な武道に対応した環境を整えている。学外の人間も出入りや参加は自由だ。
 その弓道場に、件のエインヘリアルが出現したというわけだ。
「今回の敵。『必中』という意味から、コードネーム『ブルズアイ』と命名しました。で、今回は認識阻害による服従や催眠能力はありませんが……その分、正攻法での戦いが強力な相手です」
 身長は3m。体格としては典型的、そして理想的なアスリート体型。そして同時に、その動きは素早く、正確だという。全身を包むトラックスーツのようなコスチュームを着こみ、顔も覆面と仮面とで包まれている。が、その行動と犠牲者たちの様子からして、催眠や認識障害、それに類するような能力は有してはいないようだ。
「武器は『バトルオーラ』。以前のドンルッカー同様に、弓のような影を作り、矢のような気咬弾を撃ちこむ……というのが基本的な戦法のようです。ですが確実に言えるのは、正攻法ゆえ……その威力と技量は、ドンルッカーを含め、前に出現した個体より、遙かに上だという事です」
 接近した相手には、バトルオーラを用いハウリングフィスト。そしておそらく、気力溜めも用いて回復も可能。
 それでもまだ足りないと言わんばかりに、体術や格闘術も並外れている……と、セリカは付け加える。
「なにより恐ろしいのは……そいつの『戦況の判断能力』です。『ブルズアイ』は討つべき獲物を判断し、即座に攻撃する能力があるようなのです。当然、自身の『攻め時』と『引き際』に関しても、同じように判断し、それに従い動く事を予測して然るべきでしょう」
 つまり、数で力押ししても、追い詰められ、確実に不利な状況になったと判断したら、即座に撤退してしまうということだ。
 無理に追撃したとしても、この弓道場は市街地の中、都市の中心部に存在するため、逃走中に人質を取る事は容易。なので、『判断材料』を与えず、予想外のアクションをこちらが行う必要がある。
「出現した直後に、いつものように囮になり交戦するチームAと、一般人たちを避難誘導させるチームBに別れ、それぞれ行動する……わけですが」
 チームAが、可能な限り引き付けておき、チームBが一般人たちを避難完了させるまで持ちこたえる。
 そして、避難完了後にチームAが反撃。引き際を判断し、逃げようとしたところでチームB側が予想外の方向から不意打ちを食らわせ、捕縛系のグラビティで動きを封じ、逃走を阻む。
「そうしたうえで、皆さんで確実に止めを差す。おそらくはこのような戦法が有用であり、必要でしょう」
 この作戦で必要なのは、チームB側の存在を気取られぬ事。可能な限り『ブルズアイ』にチームB側の人間たちも悟らせず、攻撃要員はチームAのみだと思わせる。それが肝になるだろうと、セリカは述べた。
「弓道場は、武道場の端の方にあります。高い塀に囲まれているので、一般人が迷い込んでくることもなく、避難する場所も十分あるので、弓道部の皆さんの事はそれほど心配はいりません。ですが……都市部中心地に近い場所に位置しているので、弓道場の外はともかく、武道場の外にまで逃げられたら、その時点で皆さんにとっては不利になり……敗北になるでしょう」
 このエインヘリアルは、ドンルッカーのような能力は持たない。が、それゆえに『普通に』強い。小細工無しで正攻法で戦っても、ある意味皆の実力を凌駕するほどの強さを持っているかもしれない。
「だからこそ……皆さんにお願いします。このエインヘリアルを、どうか戦い、倒してください」
 逆に言えば、この敵を倒せるならば、自分たちの実力はそれなりに高いという事の証明にもなる。
 己の強さと敵の強さ、どちらが上か。君たちは挑戦する決意を固めた。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)
アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)
雑賀・真也(英雄を演じる無銘の偽者・e36613)

■リプレイ

●千本の矢も、一つの弓から始まる
「……今のところは、異常なし、と」
 弓道場、外の出入口付近にて。
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)は隠密気流を用い、物陰に潜んでいた。
 幸い、本日は弓道場以外には来館者は少なめ。
 とはいっても、弓道場以外は、他の道場に数名。あとは職員と管理人。
 潜んでの待機中、陽葉は考えを巡らせていた。
(「……催眠や認識阻害能力はない、との事だけど。それでも……厄介だなぁ……」)
 今回の相手、『ブルズアイ』にはそういう能力は無いとの事だが……それでも、逃がすわけにはいかない。
 だからこそ、二つのチームに分けての作戦が必要になったわけだ。
 同じ事を、弓道場の中庭を望む樹木。その枝の陰に潜みながら、ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)は、作戦内容を反芻する。
「……まずは……」
 :『ブルズアイ』出現後、チームAが攻撃。
 :その間に、自分たちチームBが一般人を、デウスエクスに存在を知られないようにして避難誘導。
 :その間、チームAが追い詰めて『ブルズアイ』に不利だと判断させ、退却させようとする。
 :そこへ、チームBが逃走経路を塞ぎ、捕縛系のグラビティで動きを止める。
 :予想外の攻撃を受けた『ブルズアイ』を捕縛したまま総攻撃、止めを差す。
 うまくいくようにと、待機しつつミオリは祈った。
 そして、もう一人。
「……さて、と」
 弓道場の外、武道場内にて。
 通話状態の携帯電話の音声からは、変化は感じられない。日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)は、耳を澄ましていたが。
「……バラン? 始まったか!」
 聞き取った。……『騒ぎ』が発生した事を。

「ヘイ! そこのアーチャー!」
 弓道場に入り込むや否や、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)……褐色の肌を持つ、ブラジル美女のサキュバスは、
 弓道場の射場から、矢道へ、その中心部で『弓』を構え始めたデウスエクスへと突撃した。
 そのまま旋刃脚を放つも、あっさりかわされる。
 パトリシアの攻撃をかわしたデウスエクス……『ブルズアイ』は、
 逆にカウンターで、己の拳をパトリシアへと放つが、彼女もそれを受け止め、弾く。
 矢場の中心部で、青空の下。
 デウスエクスとケルベロスとが、距離を取りつつ相対した。
「え? あ、あの……?」
「一体、何が……?」
 哲郎と輝美、そして部員らは、『困惑』していた。矢場の中央に訳の分からん奴が飛び込んできたら、矢を弾き、
 それを追って、五名の人間が弓道場内に入り込み、射場から矢場に飛び込んだのだから。
「デウスエクス警報! みんなー、早く逃げるのだー!」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)、美少女……に見える少年の割り込みヴォイスが、その困惑を更増しすると同時に……『現状』を理解させた。
「……見ての通りだ、逃げろ」
 言葉少なに避難を促すは、カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)。
 彼女の視線の先には、パトリシアとともに『先手必勝』とばかりに、攻撃を仕掛ける二人の姿が。
「そこの弓使い。到着早々悪いが……俺たちが相手だ」
 干将莫邪……夫婦双剣の斬霊刀を備えるは、雑賀・真也(英雄を演じる無銘の偽者・e36613)。
「ああ、まずは僕たちと戦ってもらうよ!」
 拳を握り構えるは、華奢で穏やかな少女……に見える、ドラゴニアンの少年、アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)。
 三方を囲まれ、デウスエクス『ブルズアイ』は。
 さして焦る様子もなく、己のバトルオーラを漂わせる。
(「……日柳、コッチは始まったヨ。ソッチも……お願いネ!」)
 通話状態にしている携帯端末を見つつ、パトリシアはそんな事を思っていた。

●一発必中、必殺強弓
「なぜ来たんだ! ウチの大学は共学だぞ!」
「知らないわよ! ていうか何よあれ!」
 半ばパニクりながらも、部員たちと逃走する哲郎と輝美。
 弓道場・射場の扉から逃げ出した彼らは、
「……ケルベロスです、こっちに」
 待ち構えていた陽葉と鉢合わせしていた。
「なあ! アレは何だよ!?」
「女子大にしか出ないんじゃなかったの?」
「何なんだ! 飛んでくる矢を取るなんて……」
 隣人力で多少は落ち着いた……かに見えたが、そうでもなかった。ちょうどいいと陽葉は、そのまま皆を避難誘導する。
「……あれは女子大も共学も関係ないよ。キミたちでは対抗できないけど……僕たちが責任を持って、奴を倒す。だから……」

「……だから、俺たちを信じてくれ!」
 別の場所では、道場内の人間たちを説得し、避難させている蒼眞が。
 そして、通話状態の携帯端末には、パトリシアの戦闘状況が聞こえてくる。
(「……苦戦、してるようだな。バラン」)
 先刻から聞こえてくるのは、彼女と仲間たちの、戦いの息吹。
(「もうちょいとだけ耐えてくれ、みんな!」)
 蒼眞が、皆の苦戦を耳で聞いているその時に。
 その苦戦を、『目で見ている』者もいた。

(「待機モード、現在続行中。敵行動、観察。データ収集……」)
 隠密気流で隠れているミオリは、援護したい衝動に駆られつつも、隠れ続け、観察し続けていた。
「もらったっ! ……え?」
 ペトリフィケイションを放つも、空振りしたアリアに、『ブルズアイ』は反撃し連打を食らわしていた。
「……なんだと!」
 アリアを助けんと、真也が絶空斬を放つも、それをかわし、蹴りで後方に吹っ飛ばされる。
 追撃しようとする『ブルズアイ』に、
「こんノォ!」
 パトリシアが死角から躍りかかった。降魔真拳の重たい一撃が、敵に沈みそうになったその時。
「エ? ……がっ……ハアッ!」
 ハウリングフィストの直撃を、逆に彼女が喰らっていた。
「!……ッ!」
 かろうじて、カタリーナはバスタービームを当てられはしたが。
「…………」
『ブルズアイ』の動きも、攻撃力も、さほど下がったようには見えない。
 負傷したケルベロスたちを、
「大丈夫、傷は浅いのだー! すぐに回復するねーっ……えーいっ!」
 平・和がメタリックバーストで回復。
 だが、
(「こいつ……強すぎる……」)
 カタリーナは認めざるを得なかった。敵を追い詰めるどころか、自分たちが追い詰められている事に。
 しかし、
「まだまだダヨ! ワタシはまだまだ倒れナイ!」
 パトリシアはすぐ立ち上がり、旋刃脚を。
「その程度じゃ、俺を倒すにゃ力不足だぜ!」
 真也も立ち上がり、駆けだす。
「まだまだっ! ウォーミングアップは終わったよっ!」
 明らかに強がったセリフを吐くアリアだが、その強がりが、カタリーナには頼もしい。
(「そうだな。確かにこいつは、手強い。だが……」)
 当たりにくく、当たってもダメージは軽微。
 しかし、当たっていないわけではなく、軽微とはいえダメージは入っている。ならば、勝てるチャンスは無いわけではない。
「……本当の勝負は、これからだ」
 静かに、カタリーナは呟いた。

●一死に対し、一矢報いる
 避難完了後。
 蒼眞と陽葉は、打ち合わせ通りに……弓道場・射場の、屋根の上に待機していた。
 そこからは、『ブルズアイ』と戦うケルベロスの、チームAの仲間たちの様子も見える。
(「…………」)
 蒼眞たちは何度も、飛び出して加勢したい衝動に駆られたが……必死にそれを抑え込んでいた。
『ブルズアイ』は……チームAの皆の攻撃をものともせず、押し返している。
 そのまま、見回すと……、
「! 来るぞ! 和!」
 平・和の方へと、『ブルズアイ』の気咬弾が襲い掛かる。
「なっ……!」
 防御を固めるが、防ぎきれない。直撃を受け……、
 と思われたその時、アリアとパトリシアが、彼の防御に入りこんだ。
「ぐっ……!」
「……ハァッ!」
 吹っ飛び、矢場の壁に直撃する二人。
「……ちょっと、これは……」
「……効いた、ネ……」
 血を流しながら、二人は、
 そのまま、崩れ落ちた。
 が、これは『隙』でもあった。『ブルズアイ』が、平・和を狙って攻撃し、アリアとパトリシアへと攻撃を当てた時。
「……直撃、させられた、な」
 カタリーナのフォートレスキャノンの直撃と、
「……ああ、こっちもだ」
 真也の、達人の一撃……異空間からの弓矢による攻撃の直撃が、確実に入っていたのだ。
 それらを受け、『ブルズアイ』もまた……、
 膝をついた。
 そして、
「……一つ一つは軽微なダメージだろうが……掠り傷も、蓄積すれば大きなダメージになる。単純だが、確実な論理だ」
 破鎧衝を食らわせたカタリーナと、
「ああ。それに……お前は単騎、俺たちは複数。数の差も、俺たちの方が有利ってもんだ」
 サイコフォースを食らわせた真也とが、まるで『宣言』するかのように言い放つ。
「今だ! 渾身のー……てややー!」
 すかさず、平・和の渾身の一撃が……、
 その象徴にして実体化した力の一端が、『ブルズアイ』の頭上に現れた。
 崇めるべき知恵と知識、勝るもの無き知の力。それが凝縮された『百科事典』が、分厚き書物が、『ブルズアイ』の頭上に叩き付けられた。
「ふっ、これぞ『全知の一撃(ディクショナリー・クラッシュ)』! 我が知に勝るものなど無し! きみぃ、百発百中程度では下の下……正射必当の境地に達してこその弓道よ……って、あらら?」
 止めを差したと思いきや、彼の目前で『ブルズアイ』は跳躍し、『逃走』を図っていた。
 塀へと足をかけ、そのまま外へと逃れんとするエインヘリアルへ、
「……逃がさないぜ!」
 禁縄禁縛呪、蒼眞が放った巫術士の御業が、『ブルズアイ』を鷲掴み、
「……逃がさないよ!」
 猟犬縛鎖、陽葉の放ったケルベロスチェインが絡みつく。
「……対象捕捉。モード・カウンタースナイプ。オープン・コンバット」
 そして、ミオリが矢場に降り立ち、
「……防御蒸気、展開」
 スチームバリアを、その場に噴出させた。

●弓を制するには弓を以て
『ブルズアイ』は、明らかに動揺していた。
 二人を倒し、畳みかけんとしたら、残りの二人からの攻撃を受け、ダメージ蓄積が効き、加えて『予想外』の攻撃。
 得策ではないと判断し、逃げようとしたら、更なる『予想外』により、逃走が不可能に。
 なんとか鎖から逃れるが……周囲には、濃い『煙』が立ち込めつつあった。
『ブルズアイ』はそれでも逃走を試みるが、
「ハイ、セニョール。カーニバルのクライマックスは……これからヨ!」
 霧の中から出現したパトリシアが、目前に立ちふさがる。受けたそのダメージは、既に彼女の分身の術と、ミオリのスチームバリアにより回復していた。
「遠慮はいらないぜ、バラン。やっちまえ!」
 蒼眞の声を背中に聞き、
「オフコース! さあ、一緒に踊りまショウ! Ready……Go!」
 発射されたミサイルが如き、拳と蹴りの連打が、『ブルズアイ』へと襲い掛かる。
「48arts、No49! ミサイルヒット!」
 これぞ、『ミサイルヒット・PM(サイコマスター)』。念動力で己の肉体を操り、限界突破の精度と速度とで繰り出す必殺連打の打撃。
『ブルズアイ』の身体がきりきり舞いし、吹き飛んだ。
 吹き飛んだ先で立ち上がり、なおの事逃げようとする『ブルズアイ』だが、
「おおっと、お帰りの前に……僕のとっておきだよ。ちょっと、痺れちゃうかもだけど、ね!」
 その先にいたのは、やはり回復済みのアリア。引き金が引かれ、彼の構えたリボルバーから弾丸が放たれた。
 直撃した弾丸は強烈な電撃と化し、『ブルズアイ』の体内で暴れまわる。
「……『魔法弾・雷(マホウダン・イカヅチ)』。雷の魔法で形成された弾丸、結構しびれたろ?」
 が、まだ『ブルズアイ』の息の根は止まっていない。反撃せんと身構えるが、
 霧が晴れた周囲には、矢場ではない『別の空間』が、広がっていた。
 その空間は、『月夜』。広がる荒野には、墓標のように……無数の剣が付き立てられ、並んでいた。
「……我が魂は鋼鉄なり」
 その中には、生けるもの、動くものは、何一つ見当たらない。
「……無限の剣戟が存在する、我が世界」
 ただの一人を除き。
「……今、ここに顕現せよ。『無限の剣戟世界(インフィニティ・ブレード・ワールド)』!」
 この固有の結界、もしくは世界を形成させた真也は、
「ここからは、弓なしで行かせてもらうぞ。お前の矢が俺を射抜くのが先か、俺の無限の剣がお前を斬り裂くのが先か……勝負と行こうか」
 勝負の覚悟は十分かと、確認するかのように言い放った。
 返答代わりに、矢を放ち突進する『ブルズアイ』。
 真也は地面の剣、無限に存在するそれらの一部を浮かせると、
「行けっ!」
 魔都バビロンの倉庫から解き放たれたように、『ブルズアイ』に向かっていった。
 神剣、聖剣、宝剣、魔剣。ありとあらゆる名剣が、『ブルズアイ』に襲い掛かり、切り裂き、突き刺し、薙ぎ払う。
 斬り苛まれたエインヘリアルに、
「……これで終わりだ。無限の剣……」
 干将莫邪の双剣を両手に握った、真也の連斬が放たれ、
「……冥土の土産に、味わっていくがいい!」
 十字の剣筋が、止めとばかりに刻まれた。
 その時、初めて苦痛の悲鳴らしき声が、『ブルズアイ』から響き渡った。
 敵の命が尽き、その身体が倒れると同時に。
 無限の剣戟空間は消え、世界は元に戻り、
「……敵沈黙を確認。クローズド・コンバット。お疲れ様でした」
 ミオリの言葉が、状況終了を皆に告げていた。

●一弓入魂
 アリアが周囲の被害状況や、負傷を確認するのを見つつ、
「やれやれ、なんとか勝てたか」真也は一息ついていた。
 とりあえず、破損した箇所はわずかであり、修復もそれほど必要ない状況下。
 あとは帰るだけだが、
「おいおい、俺は弓道をやったことはないんだが……」
 輝美を含む女性部員たちは、真也を引き留め、
「そ、それでも構いません」
「……その、心得だけでも、えっと……」
「武道を心得ている者として……教えて頂けないかなと」
 ……そんな事を懇願していた。
「……まぁ、フォームや的を上手く射抜くコツくらいは教えられる。それでもいいか?」
 無下に断るわけにもいくまいと、了承した真也は、
「お願いしまーす! きゃーっ!」「どうしよう! すっごくカッコいい!」「彼女いるのかなあ、いなかったら……」「ちょっと、抜け駆けはなしよ!」と、黄色い声援が返ってきたため、なおの事困惑を隠せなかった。
 そしてなぜか、
「……誘われれば、今まで通り、据え膳食わぬはなんとやら、でありますが……」
 蒼眞のほうには近づく者はいなかった。
「……まあいいけどさ。西海大って、今までの学校みたいに特徴的な点は無いのか……?」
 後で調べたところ、規模大きめの総合大学である事は分かったが、
『スポーツ系の部活に参加する生徒たちは、ほぼリア充かつ、彼氏彼女持ち』という事を知り、がっくりする蒼眞であった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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