●都内某所
日本がバブル景気で浮かれていた頃、普及していた一眼レフカメラがあった。
当時の最新技術を結集して作り出されたソレは、カメラ業界に衝撃を与えるほどの高性能であった。
だが、時の流れとは残酷。
スマホで写真が撮れる今となっては、無用の長物。
少なくとも、一眼レフを祖父から売れ継いだ、最後の持ち主はそう思っていたようである。
そもそも、一眼レフカメラは無駄に大きく、無駄に重い。
しかも、今時フィルムは流行らない。
そんな考えがあったせいか、興味を示さず、ゴミにポイッ!
その価値も分からず、理解しようともせず、ゴミとして……捨てた。
それは一眼レフカメラにとって、言い分も聞かれる事なく、死刑宣告を受けたようなモノ。
その悲しみに呼び寄せられたのか、小型の蜘蛛型ダモクレスが姿を現した。
小型の蜘蛛型ダモクレスは、一眼レフカメラの中に入り込むと、機械的なヒールをかけた。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
次の瞬間、一眼レフカメラがダモクレスと化し、ゴミの山を掻き分け、街に向かうのであった。
●セリカからの依頼
「天月・悠姫(導きの月夜・e67360)さんが危惧していた通り、都内某所にあるゴミ捨て場で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるゴミ捨て場。
この場所には大量のゴミが不法投棄されており、まるで結界の如く異臭に包まれているようだ。
「ダモクレスと化したのは、一眼レフカメラです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
ダモクレスは頭部が一眼レフカメラのロボットで、フラッシュと共にビームを放つようである。
また、この一眼レフカメラは一人の女性を撮るためだけに、祖父が愛用していたモノのようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。
参加者 | |
---|---|
六星・蛍火(武装研究者・e36015) |
天月・悠姫(導きの月夜・e67360) |
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488) |
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566) |
●都内某所
……その場所は墓場であった。
正確に言えば、墓場の近くのゴミ捨て場。
だが、同一のモノではないかと錯覚してしまう程、不気味で、おどろおどろしかった。
元々、そこはゴミを捨てる場所ではなかったものの、誰かが冷蔵庫を捨て、電子レンジを捨てた辺りから、周囲の認識が変わっていき、いつの頃からかゴミ捨て場として扱われていた。
しかし、まわりの人々からすれば、イイ迷惑。
そのため、まわりの人々から『こんな事をしたら、絶対に祟られる。呪われても文句は言えないか』と言われていたようである。
実際に、その場所にダモクレスが現れるのだから、皮肉以外のナニモノでもない。
「わたしが危惧していた通り、一眼レフカメラのダモクレスが現れたみたいね」
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が、警戒した様子で間合いを取った。
ゴミ捨て場から漂うのは、異様な臭気と、不気味な気配。
沢山のハエが飛び回っている時点で、近寄り難い雰囲気が漂っているものの、それとは別の『何か』がゴミ捨て場の中に潜んでいる事を、本能的に理解した。
「……一眼レフかぁ。私はあまりカメラには詳しくないけど、大きいとやっぱり使い方も難しそうよね」
そんな中、シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)が、事前に配られた資料に目を通した。
モノの価値さえ分かっていれば、このゴミ捨て場に御宝が眠っている事も分かるはず。
だが、この場所に誰もいない事を考えると、誰も価値を理解していない……もしくは、その存在にすら気づいていない可能性が高かった。
そのおかげで人払いをする必要もなかったが、ゴミ捨て場から漂う嫌な気配が、纏わりつくようにしてケルベロス達のまわりに漂っていた。
「確かに、沢山機能があり過ぎて、逆に使いづらかったのかも知れないわね」
六星・蛍火(武装研究者・e36015)が、何やら察した様子で答えを返した。
事前に配られた資料を見る限り、あながちその考えも間違っていない。
所有者を選ぶと言っても、大袈裟ではない程、扱いには技術を必要とした。
もちろん、カメラ好きであれば、扱えるシロモノ。
しかし、スマホなどに慣れてしまった一般人にとっては、楽に扱えるシロモノいではなかった。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
次の瞬間、ダモクレスと化した一眼レフカメラが、耳障りな機械音を響かせ、大量のゴミを撒き散らした。
大量のゴミはダモクレスの身体に纏わりつき、足止めするかに見えたが、その勢いが衰える事はなかった。
むしろ、ダモクレスの殺気を増大させ、刃物の如く研ぎ澄ました。
しかも、ダモクレスは本能的にケルベロスを敵として認識しており、カメラのレンズを不気味に輝かせ、狙いを定めているようだった。
「随分と本格的なカメラだったようですね。私は、スマホの写真機能でも充分ですけど……」
それを目の当たりにした兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、心の中で思っていた事を口にした。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
その事に腹を立てたのか、ダモクレスがフラッシュと共に、強烈なビームを放ってきた。
「……被害が出る前に、わたしが直々に相手してあげるわ」
それと同時に悠姫が素早く横に跳び、攻撃を仕掛けるタイミングを窺うのであった。
●ダモクレス
「さぁ、行くわよ月影。頼りにしているからね」
蛍火がボクスドラゴンの月影と連携を取りつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
それに対抗するようにして、ダモクレスが再びフラッシュと共に、強烈なビームを放ってきた。
その途端、月影がギュッと目を閉じ、ビームを避けるようにして、高々と飛び上がった。
そのおかげでビームの直撃は免れたものの、背後にあったブロック塀が音を立てて砕け散り、大量の破片が雨の如く降り注いだ。
「インガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ」
次の瞬間、ダモクレスが破片の雨を弾きながら、ケルベロス達に迫ってきた。
それはまるで単眼の魔人。
何の躊躇いもなく、突っ込んでくる、その姿は巨人そのものであった。
その間も、破片の雨が容赦なく、ダモクレスの身体に降り注いだが、強靭な装甲を傷つける事は出来なかった。
「随分と素早い敵ですね。少しジッとしていて下さい」
それを迎え撃つようにして、紅葉がスターゲイザーを放った。
流星の煌めきと共に重力を宿した飛び蹴りは、ダモクレスの装甲を剥ぎ取り、天高く宙を舞わせた。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
だが、ダモクレスの勢いは、衰える事はない。
先程まで体の一部であった装甲が、アスファルトの地面に落下し、耳障りな音を響かせても、ダモクレスに迷いはなかった。
「イチ・イチ。イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
何かに取り憑かれた様子でビームを放ち、ケルベロス達の身体を傷つけた。
「ここで立ち止まる気がないなら、この飛び蹴りを、食らえー!」
その行く手を阻むようにして、シルフィアがダモクレスの前に陣取り、スターゲイザーを放った。
それはまるで流星の如くダモクレスのボディに落下し、別の装甲を抉るようにして剥ぎ取った。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
そのため、コア部分が剥き出しになったものの、ダモクレスが隠す様子はない。
それどころか、むしろ『……見ろ!』と言わんばかりに、胸を張っているように見えた。
「疑似肉体よ、仲間を護ってあげてね」
その間に悠姫がエクトプラズムで疑似肉体を作って、ビームによって傷ついた仲間の外傷を塞いだ。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
それと同時にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、一眼レフカメラ型のアームを伸ばしてきた。
それはまるで、アシュラの如く勇ましく見えたが、無数のアームが蠢く様は、蟲のようにも見えた。
それがガシャカシャ、ガシャカシャと不気味な音を立て、ケルベロス達に攻撃を仕掛けてきた。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
しかも攻撃をするたび、フラッシュの光が放たれるため、避ける事が困難であった。
それでも、避けなければ、命はない。
避ける事が困難であっても、避けられない訳では無いのだから……。
「トリックチェインに潜む竜よ、その力を開放せよ!」
すぐさま、シルフィアがダモクレスの死角に回り込み、ドラゴンサンダーを仕掛け、一眼レフカメラ型のアームを破壊した。
一眼レフカメラ型のアームは、アスファルトの地面に落下するのと同時に、跳ねるようにして、ゴミの中に突っ込んだ。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
だが、ダモクレスは殺気立った様子でアームを伸ばし、再びケルベロス達に襲い掛かってきた。
しかも、ヤル気で、全力で……。
傷つく事も恐れず、確実にケルベロスを仕留める覚悟で、一気に距離を縮めてきた。
「せめて、仲間達の傷をいやす時間だけでも……」
その間に、悠姫が気力溜めでオーラを溜め、仲間達の状態異常を消し去ろうとした。
しかし、時間が無い。
治療をしている余裕はない。
それは誰でもわかる事。
あと5分……いや、数十秒だけでも、いい。
今は時間を……少しでも時間が欲しかった。
だが、普通に考えれば、仲間の治療を諦め、逃げるべき。
それは誰でもわかる事。
それでも、悠姫は逃げなかった。
それが最善の選択であると判断し、決して逃げようとはしなかった。
「この一撃で、氷漬けにしてあげるわ」
その行く手を阻むようにして、蛍火が達人の一撃を繰り出し、ダモクレスの装甲を剥ぎ取った。
「このまま倒してしまいましょう」
それに合わせて、紅葉が月光斬を仕掛け、月光の如く綺麗な太刀筋で、アームごと装甲を斬りつけた。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、一眼レフカメラ型のミサイルを飛ばしてきた。
アスファルトの地面に落下したミサイルは、眩い光を放ちながら、大量の破片を飛ばしてきた。
「……遅いわ。遅すぎ!」
その間に蛍火が一気に距離を縮め、ダモクレスに破鎧衝を炸裂させた。
「イチガンレフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
その一撃を喰らったダモクレスが、断末魔にも似た機械音を響かせ、動きを止めて崩れ落ちた。
「流石にゴミ捨て場で戦うのは精神的に辛かったですね」
紅葉がホッとした様子で、深い溜息を漏らした。
ゴミ捨て場の近くで戦ったせいか、全身泥だらけ。
戦いが終わって、冷静になったせいか、自分の身体が臭っている事に気づいた。
それは生ゴミ。
もしくは、それを超えるニオイ。
その事を理解してしまったせいか、ゴミの残留思念に取り憑かれ、身も心も支配されるのではないかという不安に襲われるほどだった。
「酷い臭いだったから、早く帰ってシャワー浴びたいわ」
その事に気づいた悠姫が、ゲンナリとした表情を浮かべた。
出来る事なら今すぐシャワーを浴びたいところだが、そこまでの道のりは険しく、しばらく時間が掛かりそうであった。
だが、その状態で街を歩く事は、臭気を纏った危険な存在でしかない。
それでは、ダモクレスでなくとも、『お前を見ているぞ!』と言われそうな感じであった。
いや、それ以前に結界の如く張られた臭気から逃れるようにして、まわりの人々が離れていくかも知れない。
その事が分かっていながら、家に帰る事など、罰ゲームにも等しかった。
「さぁ、とりあえず皆も、クリーニングで身体を綺麗にしてあげるよ」
そんな空気を察したシルフィアが仲間達に声を掛け、クリーニングを使うのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年7月21日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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