焼けつく爪痕

■リプレイ

●産まれたての廃墟
　大阪緩衝地帯復興工事予定地。降り立ったケルベロス一行は無人の廃墟を警戒しながら歩いていた。ひどく暑い。
「この日差し、いよいよ夏、といウ感じダな。悪くなイ」
　夏が好きな君乃・眸（ブリキノ心臓・e22801）は太陽の下そう言って目を細める。レプリカントの肌に汗は見られず涼しげだが、瞳は夏の日差しを受けて一瞬煌めいた。ビハインドのキリノがこれまた汗一つ見せず、黒いインバネスを揺らしもせずに付き従う。
「ホントに太陽が暑いわね……真夏の草むしりなんてガラじゃないけど、後始末をしっかり済ませるまでが戦争よね」
　ファレ・ミィド（身も心もダイナマイト・e35653）のはちきれんばかりの褐色の肌を透明な汗が伝う。胸に挟んだエレメンタルボルトがしっとりと湿っていた。
「皆気張ったんだ。早いとこ復興工事再開させてえな。おっしゃ、頑張るぜっ」
「おお、大阪城勢力残党を片付けねえと復興も進まねえからな、確実に退治していこうぜ。そういうわけで囮役は任せてくれ、打たれ強さには自信があるから奴らをおびき寄せる」
　都市迷彩のマントと消音ブーツを纏った尾方・広喜（量産型イロハ式ヲ型・e36130）とは対照的に、相馬・泰地（マッスル拳士・e00550）は隆々とした筋肉も露わに裸足の格闘家スタイルだ。
　四匹のケルベロス。彼らはこれから始まるスロウン駆除作戦に赴く戦士たちである。

●真夏のかくれんぼ
　囮役をかって出た泰地が裸足の柔軟さを生かして、気を付けながら先行していく。
「誰かいるのか！　いるなら返事をしろ！」
　誰もいないことは百も承知で、あえて大声を上げ、スロウンの反応を誘いながらそろそろと崩れかけの建物に近づいた。
「そこ、脆いから気をつけてくれな」
「なるべく真ん中を探りながラ歩くべきダ」
　元は建造物破壊特化型のダモクレスだった広喜が建物の構造解析をしながら、泰地に注意を促した。眸もすかさず誘導する。
　崩れかけた建物は一見何の変哲もないただの廃墟で、予知されていなければここに３０体ものスロウンが潜んでいるなど想像もできないほど静かだった。
「そことそこ、なんだかおかしくなぁい？」
　携帯照明『ごついんです』の強い光で、照らしていたファレが目ざとく異変に気付く。がれきとは少し色味の違う、茶色くてつるつるとした石ころのようなものが床に埋まっていた。
「キリノ」
　眸の指示を受けたビハインドのキリノがこぶし大のがれきを拾い上げ、力いっぱい石ころに叩きつける。
　―パキッ。
　小さい、しかし心の底から不安をかきたてるような違和感を持った音を立てて、それは割れた。
『ギィ！』
　途端に現れる攻性植物。探していたスロウン三体だ！
「おいでなすったぜ！」
　泰地がマッスルガントレットLで一番近くにいたスロウンを引き寄せ、おなじくRで粉砕する！
『ギギギィ～』
　粉砕された同胞をすり抜け飛び出したスロウンの一体は一番柔らかそうなファレに蔓触手で襲い掛かった！
「そうはいかなイ」
　間に入り込んだ眸がブレイズクラッシュで触手を焼き捨て、キリノが続いてポルターガイストで攻撃したが、スロウンは焼けた触手を切り離してそれを避けた。
「おっと逃がさねえぜ」
　すかさず広喜が爆破スイッチをオン、逃げた先に爆発を起こし、仕留める。
『ギィ！！』
　残ったスロウンが再び攻撃を仕掛けようと動き始めた。触手の一本がハエトリグサのような形に変形し、素早くビュルンとファレに襲い掛かるが。
「筋肉最強！」
　泰地がそのそびえたつ筋肉で攻撃を受け止めた。
「もう、こんな雑草、サクサク刈り取るわよ！」
　ファレが伸ばした鎖がスロウンを締め付け、引きちぎった。
『ギ！』
『ギィ、ギギ』
『ギギギ～』
　戦いでスロウンが踏み鳴らした地面からパキパキとまた割れる音がし、新たなスロウンが立ちはだかる。
「なるほど、こうやッテ覚醒するのカ」
「この建物はぶっ壊れて二階が存在しない。この区画はみんなそうだ。種みてぇのに気を付ければ奇襲はまぬがれそうだな」
　眸と広喜が素早く現状分析をし、各自足元に気を付けて敵を迎え撃つ布陣に移動した。作戦はまだまだ始まったばかりだ。

●あとからあとから
「ちょっと、全部の攻撃を筋肉で受けるのどうかと思うんだけどぉ」
「筋肉最強！　問題なしだ！」
　次々と覚醒するスロウンの攻撃から味方をかばい受け続ける泰地の傷や毒を、ファレはぶつくさ言いながらも桃色の霧で癒していく。癒した先から泰地はオーラの弾丸で反撃していた。
「盾はこっちにもいるんダ。分析、予測完了……貴様の行く先は、見えタ」
　向かってくるスロウンの攻撃を受けながら、眸は宙に展開したホログラムビジョンを用いて正確な分析を行い、正確無比な一撃を放つ。そして、倒したスロウンの数を淡々と数えるのも忘れない。キリノも金縛りで敵の動きを確実に鈍らせていた。
「やるねえ、いただき」
　動きの鈍ったスロウンをよしきたとばかりに焼き捨てる広喜。
「１５匹、合ってルかナ？」
「あってるぜ、一匹たりとも見逃さねえ」
　ふたりのレプリカントは、顔を見合わせてうなずきあった。

●休憩地点
　工事予定地入り口付近、ケルベロス達は安全なところまで一時後退した。スロウン達は一体一体はそれほどでもなくとも、数が多い。半分倒したら欠いた集中力や体力を回復するため、休憩時間を取ることを作戦前に決めていたのだった。
「ぬおぉお！！」
　泰地が気力溜めで自らのダメージを回復している。ほとばしる汗が霧となって大気に消えた。
「このあたりには埋まってなさそうだ。ここなら少しの間安全だろう」
　広喜が無事を確認し、ほかのメンバーも休憩に入る。
「暑いけど、ダイエットと思って頑張るわ」
　必要などないだろうにそんな風に嘯いて、ファレはのどを潤した水の残りを胸元に垂らして汗を流す。
「栄養を補給しなイのは良くなイ。少しでも食べるほうがいイ」
「そんなものより米とスパイスだ！！　俺の持ってきたカレー味おにぎりを食べるといい！」
　携帯食料をぼそぼそと食べていたファレと眸に、泰地がおにぎりを勧める。しっかりと握られた米と血流をよくするスパイスで、ケルベロス達はしっかりと回復し、再び戦いへと赴いた。

●後半戦
「もうここにはいないようだな」
　広喜の分析で確認しながら、スロウン達を倒しつつ移動する。その時、崩れたがれきが地面に落ち、パキリと音がした。
『ギギギギ！』
「マッスルガード！」
　突然の奇襲に、泰地の広背筋が唸る！　受け止めた蔓触手は表面で跳ね返された。
「まとめテ相手しよウ！　衝撃で次が来ル、みんなはそっちヲ！」
　眸の右腕から翼のような砲台が展開され、出てきた複数体のスロウンにミサイルが降り注いだ。言う通り、衝撃で次々とスロウン達が覚醒する。一番近くで覚醒したスロウンをキリノが撃退し、残りが一列に向かってくる！
『ギギギギーッ！』
「ただでさえ暑いってのにこう連続で来られちゃオーバーヒートしそうだぜ」
　ぼやきながらも広喜はいつも通りの笑顔だ。眸に続いてマルチプルミサイルを展開し、ぶちまける。衝撃で新たなスロウンが覚醒するところまで同じだ。
「あーっはっはっはっ、踊れ踊れーっ！」
　ファレがスロウンの一体の内包するグラビティチェインを強奪し、重力嵐を起こしてもみくちゃにする！
『ギギギギィ！』
　そんなファレに残ったスロウンが襲い掛かるが。
「お前の相手はこの俺だ！」
　泰地に引き戻され、手傷は負わせるもののそれ以上の力で粉砕された。
　順調、と思う間もなく。
『ギギギギギーッ！！』
　スロウンの一体が叫び声を上げると、ゴゴゴゴ……と地面が胎動する。どす黒い根が地面を這い、ぼこぼこと土くれを跳ね上げながらケルベロス達に迫った！
　ディフェンダーの泰地と眸は素早くファレと広喜を護る。飲み込む攻撃はケルベロス達を襲い、手薄になったキリノが主なダメージをまともに食らった。
「嫌な攻撃……！」
　引いていく根の間から這い出したファレが眸を回復。その間にも残ったスロウンが迫っている！
『ギギギ！』
「広喜」
「行くぜ眸」
　眸と広喜は背中合わせになり、引いていく根の間からスロウン達を睨んだ。その前にキリノが立ちはだかり、スロウンと相対しているが、負ったダメージのせいかいまいち倒しきれないようだ。キリノの討ち漏らしたスロウンを眸のホーミング攻撃が撃ち落とし、さらに残りを広喜が焼き払った。二人は踊るように敵を撃破しながらも数えている。あとひと踏ん張りだ。

●アスファルトが溶ける日
　『ギギギギギーッ！！』
　残ったスロウンたちがギャイギャイとわめきながら様子を伺っている。あと三体。こいつらを倒せば任務完了のはずだ。太陽が頭上でさんさんと輝き、ひどく暑い。アスファルトがべたべたと靴底に張り付いた。
「ねえ、裸足で熱くないわけ？」
　キリノを回復しながらファレが泰地に問う。
「俺の筋肉ほど熱くはないね！　うおおおおおおっ！」
　ヒートアップする闘志を抑えきれず、泰地は目の前のスロウンに気咬弾を叩き込んだ。
「あとこれだケ。きっちり終わらせル」
「俺たちがヒトを守るとこ、消える前にちゃんと見てろよ」
　眸の正確無比な一撃と、広喜の青い光弾。それぞれが対峙したスロウンを撃ち抜き、破壊する。
　ゴゴゴゴ…と大地を揺るがす振動が収まるのを、ケルベロス達は肩で息をしながら待った。さっきまでの戦闘では、この振動で新たなスロウンが覚醒していたのだ。ぽたりと落ちた汗が、アスファルトの上でじゅうッと蒸発し、気化していく……。
　新たなスロウンが覚醒することはないようだった。

●新たな明日へ
「もうべとべと……、熱いシャワーが浴びたいわ」
「とりあえず、ミネラルウォーターを飲むんだ！！」
　戦い終わって、汗だくでぼやくファレに泰地が水分補給を勧める。
「ずいぶん荒らしテしまったガ……どこまで直しテいいか悩ム」
　眸はボコボコになった足場を見下ろして茫然としていた。
「もともと崩して片付けて復興させる予定地だからな。場所によっちゃ工事の先取りしちまったかも知れねえ」
　広喜がそういって、眸の肩をぽんぽんと叩く。
「まあ……とりあえず穴開けちゃった地面は直しましょ」
　ファレの提案に、みんなで邪魔なガレキをどかして足元の危ないところだけ直すことにした。
「他のところがどうかはわからないが、こうやって俺たちが頑張ることが復興の第一歩になるんだな！　なら頑張らなきゃな！！」
　泰地の汗ばんだ筋肉は夏の日差しを受けてキラキラと輝いている。
「今はがれきだらけのこの街も、工事が再開すればきっと復興するさ」
　そう言いながら、広喜はまぶしく照り付ける太陽を機械の指越しに見上げた。
　楽しみだなっ。広喜の言葉に、ケルベロス達全員が頷いて笑い返すのだった。

作者：星野ユキヒロ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年7月22日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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