ラベンダーの海

作者:芦原クロ

 美しく、一面に広がるラベンダーの花畑。
 見頃を迎えた沢山のラベンダーが広大な畑に咲き誇り、風が吹けばラベンダーの香りがふわりと漂って、観光客の心を癒やす。
 カフェのテラス席から、鮮やかな紫色のラベンダーを眺めながら、飲食も出来る。
 ハーブティーを飲んだり、アイスや軽食を食べたりして、海のように広がるラベンダーをうっとりと見つめている人々も多い。
 ふわふわと漂って来た異質なものには、誰も気付かなかった。
 謎の花粉のようなものは、手前のラベンダー1本にとりつく。
 すると、ラベンダーが攻性植物化して動き出した。
 急に巨大化した異形を見て、パニックにかられる観光客。
 異形は、1人も逃すまいとツルを伸ばして絞め殺し、叩き潰し、破壊の限りを尽くす。
 多くの人々が殺戮され、返り血にまみれた異形はまるで笑うように咆哮を轟かせた。

「ラベンダーか……見頃の季節は、地域や種類によって異なる花だ。花言葉はいくつか有るが、日々の喜び、という花言葉が俺は好きだ」
「平和な花言葉ですね。でも攻性植物になったら、逆の花言葉に変わってしまいますね」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)の言葉に、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)の獣の耳がへたりと下がる。
「ああ、残念なことに、ラベンダーが攻性植物に変化するのを予知した。綾崎・玲奈さんの推理のお陰で、予知が出来た。礼を言わせてくれ」
 丁寧に、頭を下げた。
「急ぎ現場に向かえば、凄惨な事件を防げる。放っておけば多くの命が失われてしまう……あんたさん達にしか出来ない。攻性植物の討伐を頼む」

 攻性植物は1体のみで、配下は居ない。
 一般人の避難誘導は、警察などがおこなってくれるので、ケルベロスたちは花畑付近で待機し、出現した攻性植物を迎撃して欲しい。
 戦闘に集中していれば、敵の意識も、ケルベロスだけに向けられる。

「討伐後は、カフェで休息してみたらどうだろうか。かき氷やアイスなどもメニューに入っているらしい」
 ケルベロスたちの無事と討伐の成功を願っている、と付け足して締めくくった。


参加者
ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ


 降下後、現場へ急行するケルベロスたち。
 一般人の姿も気配も無く、避難誘導は終わっていた。
(「ラベンダーの花畑か、とても綺麗な景色だろうし、良い香りもするわね」)
 雪城・バニラ(氷絶華・e33425)の鼻先を、優雅な香りがかすめる。
 敵さえ居なければ、のんびりと浸っていたい気分だ。
(「まさか私の予想が本当に当たるとは驚きましたね。被害が出る前に、私達の手で何とかしましょう」)
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)は、警戒を解かずに、頼もしいメンバーを見ている。
(「ラベンダーかぁ、私もあの香りは好きなんだよね」)
 ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)が考えた矢先、その場の空気が重くなる。
 こちらに向かって、這うような音と共に、禍々しい雰囲気がより濃くなる。
「避難の必要がないなら、全力でいくわよっ!」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)は念の為、一般人の姿を目だけで捜し終えてから、武器を手に取る。
 現れた禍々しい異形は威嚇するかのように、咆哮をあげた。


 4人は敵を囲むように配置につき、逃したり、避難先へ行かせまいと退路を断つ。
 バニラが先陣を切り、形成した盾で己の護りを強化した。
「さぁ、行きますよネオン。援護を頼みますね!」
 ネオンは指示通り、先ずはクラッシャーのティリアへ属性を注入し、状態異常への耐性を高めた。
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい」
 構築した盾でバニラの護りをより強くし、回復の基盤を固める、玲奈。
(「まぁ、攻性植物になったからには、倒すしかないけどね」)
 真っ直ぐに敵を見据えて、ティリアが口を開く。
「私は敵への攻撃に専念するわね。炎の螺旋よ、敵を焼き尽くせー!」
 黒炎が竜巻のように渦巻き、敵を焼き払う。
「まずは自由に身動きがとれないように!」
 敵に素早く接近して飛びあがったレイは、煌めく軌跡を描きながら蹴りを叩き込む。
 一瞬、機動力を奪われるも、敵は反撃に出る。
「来るわ、気を付けてね」
 大地の僅かな振動を感じ取り、バニラが仲間たちに声を掛けた。
 直後、地面が大きく揺れ、レイとバニラを飲みこむ。
「花粉がラベンダー畑に広まったら……なんて考えるとゾッとするわね」
 抜け出したレイが、大地を使って攻撃するのなら、そんなことも出来るのではないか、と。
 ややげんなりしながら、戦場に立つ。
(「この花畑を守る為に、私も戦うわ」)
 バニラは決意を胸に抱き、華麗に舞い踊る。
「癒しの花弁よ、仲間を助けてあげて」
 バニラの声が掛かると共に、ひらひらと花びらのオーラが舞い散り、負傷を直ぐに治癒した。
「根元を凍らせれば少しは鈍くなるかしら?」
 凍結の光線を放つ、レイ。
 熱を奪われた敵の根元は凍りつき、敵は胴体をねじって抵抗を見せる。
 凍らされた仕返しとばかりに、敵が放つ、灼熱の破壊光線。
「ちょ、私を狙わないでよ!」
 光線が直撃し、地面を滑るように後退したレイが、なんとか踏みとどまり、文句を言う。
「仇は取るわ」
「仇!? 私、死んでないわよ!?」
 ティリアの発言に、必死で否定する、レイ。
「電光石火の蹴りを、受けてみろー!」
 目にもとまらぬ速度の、蹴撃。
 弱い箇所をティリアによって貫かれ、敵は暴れ出す。
「BS攻撃には特に注意を払い、こまめなキュアやBS耐性等で対処しておきましょう」
 玲奈が冷静に言葉を並べ、ネオンがレイの回復を担当する。
「私も、レイさんの仇を取りますね」
「だから私、死んでないってば!」
 冗談めいた口調で玲奈が言うと、必死で返して来るレイが、愛らしい。
 くすりと笑ってから、玲奈は炎を纏った強烈な蹴撃を敵に浴びせる。
「人気者は、つらいわね」
 バニラも無表情だが、何処と無く楽しんでいるようで。
 そんな言葉を掛けつつ、盾を形成。
「さぁ、この加護の力を受けて、頑張ってね」
 優しげな声音で、バニラが応援した。

 数分の攻防を繰り広げ、敵にはダメージと状態異常を重ね。
 仲間が負傷したり、状態異常に掛かった場合は即座に治癒し、状態異常が溜まらないよう気を付けて。
 入念な対策を講じ、4人は徐々に敵を追い詰めてゆく。
 敵の動きはどんどん鈍り、反撃する回数も減り、好機が訪れる。
「威力重視に切り替えね! 必殺のデリンジャーを投擲よ♪」
 レイが嬉々として跳躍し、空高く舞い上がる。
「いくわよー、トルネード投法!!」
 懐から取り出したデリンジャーを思いっきり、ぶん投げる必殺技だ。
 その威力はというと、足の小指をタンスの角に、ぶつけた時の痛みを伴う。
「い、いちおう、ちゃんとしたグラビティなんだからねっ!」
 地面に着地したレイは、まるで言い訳をするかのように声を上げた。
「魂を汚染する刃を受けてみなさい」
 玲奈が喰霊刀を振るい、敵を刺し、貫く。
 刃から伝わる呪詛により、魂が汚染され、敵は苦しげに吠える。
「この弾丸で、侵食してあげるよ!」
 ティリアが影の弾丸を撃ち込むと、耐えきれず、敵はその身を崩れさせて、完全に消滅した。


 観光客が怖がらぬよう、戦場の痕跡を消し、ヒールでの修復作業も終えた頃には、一般人も戻り始めていた。
「ふぅ、疲れたからゆっくり休みたいなぁ」
 ティリアがやや深く、息を吐く。
「カフェでのんびりとしたいわね」
「カフェで休憩しましょう」
 バニラと玲奈が揃って、残りの仲間を誘う。
 喜んで誘いに乗る、ティリアとレイ。
「花畑を正面にティータイムね♪」
 カフェのテラス席からラベンダー畑を一望し、レイがはしゃぐ。
「かき氷とか欲しいな、シロップはレモンで!」
「アイスとか美味しそうね、バニラのアイスとかあるかしら?」
 即座に決めるティリアと、メニュー表を眺める、バニラ。
「美味しそうなかき氷が沢山ありますね。バニラのアイスも、あるようですよ」
 玲奈がメニュー表の一部分を指差し、バニラに伝える。
「戦ってお腹減ったから軽くなにか食べたいわね……」
 サンドイッチやパスタ、ホットケーキなど、どれも美味しそうに見えるメニュー写真を眺め、悩むレイ。
「私はイチゴシロップのかき氷を頂きましょう」
「みんなもう決まったの? 早いわね……」
 玲奈の注文を耳にし、レイは少し悩んでから、飲み物とホットケーキを注文する。
 少し時間を挟んで、注文したものが運ばれて来た。
 涼しげな水色のガラス器に、ふんわりとしたかき氷が盛られ、ティリアのはレモンのシロップが、玲奈のはイチゴのシロップが、たっぷり掛かっている。
 氷のふわふわ感が楽しめ、口の中で溶けてゆくのも格別で美味しい。
「シロップは濃厚で……」
「でも後味は、さっぱり!」
 玲奈とティリアがお互いの顔を見て、頷き合う。
「アイスは濃厚だけど、くどく無いわね。口当たりが滑らかで美味しいわ」
 バニラがスプーンでアイスを掬い、口どけの良さを伝える。
「あ、ホットケーキもうひとつ追加よっ」
 香ばしく、厚みのあるホットケーキをあっという間に平らげたレイは、更に注文する。
 待っている間、目に映るのは、鮮やかな紫色のラベンダーが海のように広がる、美しい風景。
 風に乗って、テラス席までラベンダーの爽やかな香りが届く。
「ろうどうの後の一杯はきくわ~。優雅にハーブティーを飲んで……まるでお嬢様ねっ♪」
 ラベンダーの香りに力が抜け、のんびりと過ごす、レイ。
 メンバーは暫し、癒しの時間に浸るのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月22日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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