向日葵の迷路

作者:芦原クロ

 大きな花、ひまわりが一斉に咲きほこり、壮観な光景が広がる。
 背の高いひまわりを用いて広い畑に作られた、ひまわりの迷路は、大人も子供も夢中にさせていた。
 楽しげな雰囲気を壊すがごとく、迷路の入り口付近に咲いていた1本のひまわりに、謎の花粉のようなものがとりついた。
 たちまち動き出して巨大化したそれは、近くに居た一般人に襲い掛かり、逃げ惑う一般人たちの命も次々と刈り、殺戮してゆく。
 明るかったひまわりの迷路は、ぐしゃぐしゃに荒らされ、鮮血に染まった。

「向日葵の花が咲く季節になりましたね」
「ああ、だがその向日葵が攻性植物になる……七隈・綴さんの推理のお陰で、攻性植物の発生を予知で確認出来たぜ。感謝する」
 七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)に向けて頭を下げ、感謝を述べる、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)。

 攻性植物は1体のみで、配下は居ない。
 一般人の避難誘導は警察などが、おこなってくれる。
 ケルベロスたちは攻性植物の迎撃に、専念して貰いたい。
 少しだけ気を付けたり、敵を開けた場所へ誘き寄せたりすれば、ひまわりの迷路が傷つくことは無いだろう。

「急いで現場に向かい、攻性植物を撃破して欲しい。放っておけば、多くの命が失われるだろう。無事に撃破出来るようにと願ってるぜ」


参加者
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)
 

■リプレイ


(「私の予想していた攻性植物が現れるとは、驚きましたね。まぁ、人々に危害が加わる前に倒してしまいましょう」)
 現場に到着し、敵の気配に警戒しつつ思案する、七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)。
 一般人の避難誘導は既に終わっており、辺りは静まり返っていた。
(「ひまわりは明るくて私も好きな花ね」)
 ひまわりに目を向け、思案するシルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)。
 でも、と。考えを続ける。
(「攻性植物になったからには倒さないとね」)
 シルフィアが決意した瞬間、場の雰囲気が重苦しいものに変わった。
 巨大化したひまわりの花――もとい、攻性植物がケルベロスたちを目掛け、迫って来る。
(「ひまわりの迷路を傷つけずに戦いたいですね」)
 肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)は敵から目を離さないまま、地面を蹴って後退する。
 ひまわりの迷路を傷つけない為に、広い場所へ誘き寄せる計画だ。
(「折角の自然の造形ですから、迷路が荒らされない様にしましょう」)
「ひまわりの迷路を傷つけない様に、気を付けておくわね」
 花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)と雪城・バニラ(氷絶華・e33425)も同じ想いから、敵の注意を惹きつけながら、駆け出す。
 逃亡する気だと判断した敵は、追いかけることに夢中になり、メンバーの思惑通り、開けた場所へ誘き寄せられた。
「ここなら、ヒマワリの迷路が傷つくこともないですね」
 敵の誘導を終えた綴が、仲間たちに声を掛ける。
 思う存分戦えるスペースに辿り着き、仲間たちはその言葉に頷いた。
「これで、私達ケルベロスは……攻性植物の相手に、集中出来ますね……」
「ええ、ひまわりの迷路を傷つけずに、戦いに専念出来るわね」
 綾奈の小さな声に、シルフィアは大きく頷いて見せた。


「身体を巡る気よ、私の掌に集まり敵を吹き飛ばしなさい」
 綴は、両手のひらに気を集中させる。
 敵に手のひらを向けた瞬間、溜めていた気が放たれる。
(「攻性植物になったからには倒すしかないけど」)
 綴の気が敵に直撃したタイミングで、バニラが宙へ飛びあがった。
「まずはその動き、封じてあげるわ」
 流星の如く煌めく軌跡を描いて、バニラの飛び蹴りが叩き込まれる。
「さぁ、行きますよ、夢幻。サポートは、任せます……!」
 間髪入れずに綾奈が、破壊のルーンを綴に宿した。
 夢幻は翼を羽ばたかせ、状態異常への耐性を付与する。
 連携が途絶えた一瞬の隙を狙い、敵は反撃に出た。
 灼熱の破壊光線がバニラに向けて放たれ、その身を燃やす。
 負傷しても無表情なバニラだが、その顔に一筋の汗が伝った。
「直ぐに治します。……全ての赦しに果てはなく、故に全てを受け入れる」
 純粋な願いによる奇跡を行使して、バニラを癒やすと同時に、鬼灯は後衛陣の治癒力を高める。
「私は敵へBSを次々と付与していく役を担うわね」
 素早く言い終えた後で、シルフィアは歌声を響かせた。
 その歌声は、金縛りを引き起こして敵の動きを封じる、呪われた歌声だ。
 しかしまだ抗える力が残っている敵は、黄金の果実を宿して自身を治癒し、状態異常への耐性をつけた。
 攻撃の威力は高く、その上、回復持ちというのは、いささか厄介だ。
「強大な重力の一撃を、受けなさい!」
「魔法のオーラで吹き飛ばすわ!」
 綴とバニラが迅速に飛び出し、綴は体内を巡るグラビティ・チェインを破壊の力に変えた。
 武器にその力を乗せ、身軽に跳躍し、敵の頭上から叩きつける。
 バニラは音速を超える拳で、下から上へ突き上げるように、敵を空中へ吹き飛ばす。
 2人の息が合った攻撃は、敵についたばかりの防護を破壊した。
 その間、鬼灯は仲間全員の治癒力を高めることに集中し、綾奈は調べが良い歌で呼び寄せた霊魂を、味方にまとわせる。
 敵は懲りずに、再び黄金の果実を実らせ、守護を得る、が――。
「その加護の力を、うち砕いてあげるわ」
 凄まじいモーター音と共に攻撃を繰り出す、シルフィア。
 宣言通り、シルフィアは敵の守護を砕いた。

 戦闘を開始してから、どれだけの時間が過ぎたのだろう。
 長時間とは言わないものの、敵は簡単に倒せる相手では無かった。
 だが時間を掛けた分だけ、敵には状態異常が重なり、ケルベロスたちには有利な加護が重なっている。
 メディックの鬼灯は遠隔の爆破を使用するが、ダメージを与えるよりも、敵の武器を破壊するほうを優先していた。
 回復と支援に徹する鬼灯のお陰で、仲間たちは硬化し、敵の攻撃力は次第に衰えてゆく。
「私でも、やればできるのです!」
 信じる心を魔法に変え、強烈な一撃を食らわせる、綴。
「さぁ、一気に攻めましょう……!」
 綾奈が光の翼を暴走させ、全身が光の粒子に変わる。
 光の粒子は勢い良く、敵に突撃した。
「オーラの弾丸よ、敵に喰らい付きなさい!」
 バニラが放つ、オーラの弾丸が敵に食らいつく。
 敵も力を振り絞り、反撃に出る。
 敵が侵食した地面が揺れ、前衛陣を飲みこんだ。
 すかさず、鬼灯は綴の負傷を大幅に回復し、回復役に回っていた夢幻も綾奈を治癒する。
「パズルに潜む竜よ、その力を開放せよ!」
 シルフィアが高らかに声を上げ、稲光と共に竜を象った稲妻が、敵を直撃。
 痺れて動けなくなった敵に、狙いを定めて。
「電光石火の蹴りを、受けてみなさい!」
 片足を軸にして体を回し、猛スピードの蹴撃で敵の急所を貫く。
 敵は断末魔の咆哮をあげて倒れ、完全に消え去った。


(「ひまわりの迷路ですか、どんな感じの迷路になっているのか楽しみですね」)
 戦場をヒールで修復し、荒れた箇所を仲間と共に片づけながら、綾奈は期待を抱く。
「ヒマワリの迷路を楽しみましょうか」
 一般人やスタッフが戻って来たのを確認してから、綴が仲間たちを誘う。
「私も、ひまわりの迷路に入ってみて楽しみたいわ」
「とても……楽しみ、です」
 バニラと綾奈が喜んで誘いに乗り、鬼灯とシルフィアも賛成して全員で迷路に挑戦する。
 大人の背丈ほど有るひまわりに囲まれ、歩道を進むメンバー。
(「ひまわりか、この季節になるととても綺麗に花を咲かせるわよね」)
 バニラは立ち止まってひまわりを見上げ、暫しその明るく美しい花を眺めていた。
「ひまわりの迷路って、とても心躍る楽しさが、ありますよね……」
 綴に話し掛ける綾奈は無表情だが、楽しそうな雰囲気が伝わって来る。
「ヒマワリの迷路、本当に迷子になりそうですね。……いつの間にか、私達だけになっていますね」
「え……」
 綴が他のメンバーが居ないことに気づき、綾奈も来た道を振り返ったり、周囲を見回したりするが、完全に多くのひまわりに囲まれていて、見えない。
「はぐれないように、手を繋ぎましょう」
 仲の良い相手だからか、綴はふと思いついて手を差し出し、綾奈はしっかりと握り返した。

「ひまわりの迷路、楽しいわね。出口はどこかしら?」
 シルフィアは楽しそうに進み、行き止まりに辿り着いては来た道を引き返したりと、出口を探し求めている。
「迷子になりましたね。迷子になっても、ひまわりを楽しめますが」
「広い上に、本格的な作りになっているわね」
 鬼灯とバニラも迷ってはいるが、歩道の両脇を囲む沢山のひまわりを眺めながら歩を進める。
 青々と晴れ渡った空と、黄色いひまわりの花の組み合わせは美しく、見ていて飽きない。
「あっ、2人とも見つけたわ。出口はどこか分かる?」
 シルフィアが合流し、3人はひまわりを楽しみつつ、出口を目指した。

「お疲れさまです。皆で、カキ氷でも頂きましょうか」
 出口で綾奈と待機していた綴が、やっと出て来た3人に声を掛ける。
 賛成し、メンバーは休憩所に入る。
「メロンシロップのカキ氷、頂きたいわね」
 シルフィアが早速注文し、他のメンバーは、どれを頼むのか興味津々に見る。
「私も、メロンシロップのかき氷を」
 バニラがそう言うと、シルフィアはバニラと気が合うと判断し、他に好きなシロップを訊いたり、話したりしている。
「七隅さんは、どのかき氷を頼むつもりですか?」
 同じ旅団のよしみで、会話を弾ませようかと、綴に話し掛ける鬼灯。
「私は、イチゴシロップのかき氷が欲しいです」
 直ぐに綴は決めて注文を終え、鬼灯や綾奈は頼まないのかを尋ねたり、迷路の話題をしたりと、かき氷が来るまで会話が途切れない。
 運ばれたかき氷はガラスの器に、ふんわりと盛られた氷の上に、シロップがたっぷりと掛かっている。
「んー、冷たくてとても美味しいわ!」
 早速食べ始めたシルフィアが、歓喜の声をあげた。
「一口食べてみますか?」
「メロンも美味しいわよ」
 綴とバニラが、綾奈に向けてかき氷をすすめ、綾奈は誘われるままにかき氷を口にする。
「氷がふんわりとしていて……とても、美味しいです……」
「それ程美味しいのなら、僕も食べてみます」
 綾奈の感想を耳にした鬼灯は興味を持ち、自分の分を注文して、メンバーは束の間の涼しい休息をとった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月19日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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