策謀術士リリー・ルビーの置き土産

作者:神無月シュン

「おーし! まずはそこのデカい瓦礫から退けるぞ!」
 大阪緩衝地帯の復興工事の下準備の為、オフィス街の瓦礫の撤去を任された業者の作業員たちがいくつかの班に分かれて作業をしていた。
「な、なんだこいつは!?」
「で、でたああああぁ!」
「た、助け……ぐふぉ」
 あちこちから悲鳴が巻き起こる。
 突如現れた攻性植物が作業員たちを襲い始めたのだ。突然の出来事に逃げる事すら出来なかった。
 やがて静寂を取り戻した周辺の瓦礫の上には、作業員たちの死体の山が築かれていた……。


「皆さんのおかげでユグドラシル・ウォーに勝利することが出来ました。ですが、多数の敵が逃げ散ってしまいました。現在も探索を続けていますが、まずは大阪城周辺に残った敵の撃破をお願いします」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まったケルベロスたちを労うと、今回の事件の説明に移った。
「大阪緩衝地帯の復興作業の為に瓦礫の撤去などを始めた方たちが、休眠状態であった攻性植物に襲われる事件が予知されました」
 この予知により工事は中止した為、被害は出なかったが、休眠中の攻性植物を排除しなくては、工事を進める事が出来ない状況だ。

「今回出現する攻性植物『スロウン』はエインヘリアルの、策謀術士リリー・ルビーが使役していた攻性植物だったようで、彼女の命令により、人間が近づくまで休眠状態となり、人間が近づいたら奇襲をかけるように命じられていたようです」
 『スロウン』は、ケルベロスであっても近づけば休眠状態から覚めて、奇襲をかけてくる為、探索すると言うよりも奇襲を避けて撃破する対策が重要になるだろう。
「『スロウン』は両手を鞭のようにして攻撃してきますが、それほど強くはないようです」
 今回の担当地域内には30体の『スロウン』が居るとの事。だが、一度に襲撃してくるのは精々1~3体程度で、上手く対策を取ることが出来れば、単独行動でも十分対処出来るだろう。

「対策次第では、手分けして探索しても良いでしょう。強くないとはいえ、油断だけはしないようお願いします」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
 

■リプレイ


 事件が起こると予知された大通りへとやって来たケルベロスたち。
 目の前に広がるのは、道路を塞ぐように倒れたビルの瓦礫。根元からへし折れた街路樹。今にも崩れそうなビル。かつて沢山の車が行き交っていたとは思えないほどに荒廃し、変わり果てた道路の姿だった。
 難を逃れ元気な姿の樹や少々壁が焦げた程度のビルなど、無事な部分もあるにはあるのだが、その数は圧倒的に少ない。
「ずいぶん壊れてんなあ」
 大通りの惨状を見て、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が言葉をもらす。
「んうー。このがれきのしたに、かくれてるのか」
 目につく瓦礫を攻性植物『スロウン』が隠れているのかいないのかと、見比べる伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)。しかし近場にはいないのか、それとも隠れるのが上手いのか、周りの瓦礫に違和感は感じられなかった。
「まるで地雷だな。リリーの奴、面倒な置き土産していきやがって……」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は周辺の地図に目を通している。奇襲するとしたらどこが効果的か、おおよその予想を地図に書き込んでいく。
「にしても、リリーも相手にしたが、その部下まで倒す事になるとはなぁ……。これも、後始末っていえるのかね?」
 地図を頭に叩き込んだ鬼人は、皆にも確認してもらう為地図を回す。
「再びの雑草駆除作業ダな。仕事ヲ全うしようか」
 地図を受け取りしばらく眺める君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)。確認を終えると隣へと地図を差し出す。
「雑草駆除のお時間でございますね。さっさと焼き払って終わりにしましょうねえ」
 地図を見終わり呟くラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)。頭部が地獄化しているラーヴァが言葉を発するたびに、兜の口元から地獄の炎が漏れ出る。
 作戦会議の結果、眸がビハインドのキリノと共に先行。その後ろを4人が付いていく形で大通りの端から探索をすることにした。こうすることで、仮に奇襲を受けても被害が最小限になると考えたからだ。
 その他に、消音ブーツや都市迷彩マントなど、極力目立たない様にする為の装備と『隠密気流』を併用する。スロウンの索敵に引っ掛かりにくくなる事を期待してだ。どれほど効果があるかは分からないが、無策よりかは遥かにいい。まあ思い切り踏み込んでしまった場合は意味ないだろうが……。
 地図と装備の確認を終えたケルベロスたちは、陣形を組んで大通りへと足を踏み入れたのだった。


 大通りを歩き始めてすぐ、大きな瓦礫の少し前で眸が足を止めると、皆に止まる様にと手で制した。
 息をのむケルベロスたち。眸は皆の方へと振り向くと、ハンドサインで表す。
 ――ここにいる。
 この場所は予知で作業員たちが襲われた所。予知の通りならこの辺りに潜んでいるのは確かだ。
 ケルベロスたちは頷くと武器を構える。それを確認した眸は瓦礫の方を向くと、胸部を展開すると、発射口が姿を現す。
 撃ち出されたエネルギー光線は真っ直ぐに瓦礫へ飛んでいく。着弾と同時、爆発と共に瓦礫を吹き飛ばす。
 瓦礫の下に潜伏していた3体のスロウンは奇襲を受け、焦りを見せていた。
 もちろんそのチャンスを逃すわけにはいかない。
 ケルベロスたちから放たれる攻撃が、容赦なくスロウンに襲い掛かる。スロウンたちは態勢を立て直す間もなく、力尽き灰へと変わっていった。
 戦闘を終え、再びケルベロスたちは歩き出す。
 先程の瓦礫は予知のおかげで、スロウンが潜伏しているのが分かったが、ここから先はどの瓦礫にスロウンが潜んでいるか、注意しながら歩かなければいけない。
 眸、ラーヴァ、広喜の3人が代わる代わる怪しい瓦礫に向かって攻撃を繰り出す。
 時に何も居ない場所に攻撃を撃ち込んだりしつつ、先制攻撃でスロウンをあぶりだして倒していく。

 進行を続けるケルベロスたちの前に、一定の間隔で植えられている街路樹が見えてくる。
 慎重に近づいていくケルベロスたち。
「待った」
 鬼人が小声で皆を呼びとめると街路樹を指差した。
 鬼人の『隠された森の小路』の効果によって、道を開けるように曲がる街路樹たちの中に1本だけ直立のままの樹が混ざっている。
「隠れているのが、バレバレだぜ」
 刀を手に鬼人が街路樹へと斬りかかっていく。それに続いたのはラーヴァ。ドラゴニックハンマーからドラゴニック・パワーが噴射され、それを推進力に体ごと突撃する。
「潰れていただきましょう」
 スロウンの目の前に着地すると、加速したハンマーをそのまま頭上から叩きつけた。
 その後も、鬼人のおかげで街路樹に擬態しているスロウンをいち早く見つけ出し、こちらから奇襲をかけ倒していく。


 大通りも半分程に差し掛かり、倒したスロウンの数は10体。奇襲を警戒しての移動はケルベロスたちを精神的に疲弊させていく。
 精神が疲労してくると、どうしても集中力が続かなくなってきて、どの瓦礫も怪しく見えてくる。
 そんな中瓦礫に放たれた攻撃の衝撃で、近くのビルの壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。崩れたコンクリートが辺りに降り注ぎ、近くに潜んでいたスロウンたちが奇襲を受けたと次々姿を現した。
 どうやらこの一帯に集中して潜伏していたらしく、姿を現したスロウンは総勢15体。
「随分たくさん出てきましたねえ」
 敵の数を数えながら感心したようにラーヴァが呟く。
「どうする? いったん下がるか?」
「むい。またかくれられると、こまる」
「だよな」
 鬼人が一時撤退するか確認すると、それを拒否する勇名。その意見に鬼人も同意し武器を構え戦う姿勢を取った。
「ここはヒトの街だ。返してもらうぜ」
 広喜はケルベロスチェインを地面に展開し、魔法陣を描き出す。
「背中は俺に任せとけ」
「植物には炎が効くだろウ。燃え上がレ」
 広喜の頼もしい言葉を受け、眸が敵の元へと突撃する。地獄の炎を纏った一撃がスロウンを炎で包む。
「一体ずつ確実にだな」
 鬼人の空の霊力を帯びた刀が、炎に包まれていたスロウンを真っ二つに斬り伏せた。
「かこまれないよう、ちゅういしないと」
 勇名が小型ミサイルを準備し地面に並べる。
「うごくなー、ずどーん」
 掛け声と共に小型ミサイルを発射。小型ミサイルは地面すれすれを飛び、スロウンの足元で爆発した。爆発と共にカラフルな火花が花火の様に咲き乱れた。
「私も派手な一撃をお見せ致しましょう」
 ラーヴァはそう言うと、ドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変形させ、竜砲弾を発射した。放たれた弾がスロウンに着弾すると轟音と爆発が巻き起こった。

 ケルベロスたちの連携の取れた攻撃によって、一体、また一体とスロウンの数は確実に減ってきていた。
「よし、これで残り半分だな」
 スロウンを蹴散らし鬼人が一息つく。この場のスロウンは残り7体。ここまで減らすことが出来れば数で押されることも、もうない。
「どかーん」
 勇名のミサイルポッドからばら撒かれたナパームによって、更に4体のスロウンが灰になる。
「壊すってのはこうやるんだよ」
 広喜のガネーシャパズル『腕部換装パーツ拾参式改』から竜を象った稲妻が解き放たれる。稲妻の竜はスロウンを飲み込むと天へと消えていった。
「やるナ、広喜。ワタシも負けていられナいな」
 眸は胸部を展開、高出力のエネルギーをスロウン目掛けて発射した。スロウンは為す術なく光線に飲まれ消滅した。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
 ラーヴァの放った地獄の炎を纏った武器が上空から滝の様に落ちてくる。武器の滝に打たれ最後のスロウンは力尽きた。

 スロウンの群れとの戦闘が終わり、受けた傷の治療を行うケルベロスたち。
 先程まで上手く立ち回って奇襲を受けずにすんでいた為、回復も休憩もすることは無かった。早く復興作業を進めたいと、気が急いていたとはいえそれがいけなかった。
 結果、不注意に放った一撃で敵の群れに囲まれる羽目になってしまった。
「まだまだ行けますよねえ」
 反省は後でもできると、ラーヴァは皆を煽りつける。
 当然。と皆休憩を済ませ立ち上がった。
「この広さに残り5体だよな?」
「かぞえてたから、それでまちがいない」
 広喜と勇名が地図を広げ残りを確認する。現在地は大通りの中間あたり。残り半分の道のりに5体である。怪しい瓦礫一つ一つ調べていくのはどう考えても非効率だ。
「敵ノ数も残りわずかダ。奇襲覚悟で進むのガいいだろウ」
「そうだな」
 眸の提案に皆が頷く。『隠密気流』を解除すると、ケルベロスたちは残りの道を歩き出した。
 最初の頃とは打って変わって、見つけて襲ってくださいと言わんばかりに、音を立てて歩いていくケルベロスたち。
 その思惑に乗せられて、姿を現すスロウンをあっさりと返り討ちにし、大通りの安全は無事に確保することが出来たのだった。


「無事に戦いが終わった事に感謝を……」
 鬼人は首にかけたロザリオに手を当て、祈った。
 その後、携帯端末を取り出し、この地区の担当業者へと作戦終了の報告を入れる。
「通りの安全は確保したぜ。それで、戦闘で破損した個所の修復なんだが……え? どうせ掘り返すからいい? それなら……」
 通話を終え、皆に事情を説明する。どうやら新しい建物を建てるにしても一度更地に戻すため周辺の修復はしなくていいとの事だった。
 しかしこのままにしていくのも気が引けた。そこで業者へと提案したのが、瓦礫を大通りの入り口にまとめておく事だった。
「んうー。そういうことなら、まかせて」
 勇名は『怪力無双』を使い、大きい瓦礫を優先的に運んでいく。やがて大通りの入り口には崩れない程度に積み上げられた瓦礫の山が数えきれないほど出来上がった。
 これで、この場から瓦礫を運び出すだけで済む状態になった。その都度瓦礫の場所まで重機を運び瓦礫を撤去する手間が無くなったことに、業者の作業員たちも喜んでいた。
「この街は、きっと直せるぜ」
 復興作業の様子を眺め広喜が呟く。
 人々が笑顔を取り戻せるように、自分たちに出来る事をやろうと心に誓ったケルベロスたちは、この場を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月20日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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