七色の鍵盤が怪しく輝く時

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した幼稚園に、鍵盤が光る電子ピアノがあった。
 それは沢山の子供達を笑顔にした特別な電子ピアノ。
 みんなが自然と笑顔になってしまう程、色取り取りに光るソレは、子供達にとっても特別なモノだった。
 だが、少子化が進むにつれて、次第に園児達が減っていき、幼稚園が経営難に陥ってしまったため、廃業して廃墟と化してしまったようである。
 しかも、電子ピアノは、捨てられたまま。
 廃棄費用をケチった園長によって放置され、ゴミの山に埋もれていた。
 それ故に、誰も弾かず、興味を示される事なく、無駄に場所を取るゴミとして、生涯を終える……はずだった。
 そんな中、現れたのは、蜘蛛の姿をした小型のダモクレスであった。
 蜘蛛型のダモクレスは、電子ピアノの中に入り込むと、機械的なヒールによって、その姿を変化させた。
「デ、デ、デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電子ピアノが不気味な光を放ちながら、廃墟と化した幼稚園の壁を突き破るのであった。

●セリカからの依頼
「シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)さんが危惧していた通り、都内某所の廃墟で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある廃墟と化した幼稚園。
 この幼稚園は自由を売りにしていたものの、少子化や不況など煽りをモロに受け、廃業してしまったようである。「ダモクレスと化したのは、電子ピアノです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは多脚型戦車のような姿をしており、怪しげな光を放ちながら、攻撃を仕掛けてくるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)

■リプレイ

●都内某所
「……まさか私の危惧していたダモクレスが本当に現れるとはね。しかも、こんな場所で……」
 シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)は仲間達と共に、廃墟と化した幼稚園にやってきた。
 幼稚園は廃墟と化してから、しばらく経っているためか、可愛らしいマスコットの塗装が剥げ、化け物のような姿になっていた。
 それに加えて、ファンシーなキャラクターほど、それが顕著になっており、幼稚園と言うよりも、お化け屋敷と言った感じになっていた。
 そのためか、辺りに人の姿はなく、あえてその前を通らないようにしている感じであった。
 それでも、犬の散歩をしている一般人が時折通っているため、まったく人気がないという訳でもなかった。
「……鍵盤が光るピアノか。初心者や子供向けの楽器よね。まぁ、それがダモクレスになったなら、人に危害が加わる前に倒さないとね」
 雪城・バニラ(氷絶華・e33425)がライトを照らしながら、廃墟と化した幼稚園に視線を送った。
 幼稚園の窓ガラスは何者かによって破壊されており、壁には幾つも落書きが描かれていた。
 それは園児達が描いたモノのようだが、その上から何者かがアートを描いているようだった。
 そのせいで、全く統一性が無くなっており、お化け屋敷感が促進しているような印象を受けた。
 そんな中、バニラが殺界形成を発動させ、念のため人払いをしておいた。
「……!」
 その影響で先程まで散歩をしていた一般人が、ただならぬ気配を感じて、ビクっと身体を震わせ、踵を返して退散した。
「鍵盤の光るピアノか。……僕も昔は使っていたね。簡単な曲なら、誰でも弾けるようになって便利だったよ。ちょっと弾いてみようかな。ダモクレスになる前だったらね」
 四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)が軽く冗談を言いながら、室内にあった電子ピアノに視線を送った。
 電子ピアノは不規則に七色の光を放ちながら、まるで意志があるかの如く、適当に音を響かせた。
「ピ、ガ、ガガガガガッ! ガガガガガッ! ガァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、電子ピアノが激しく震え、機械的なヒールによって、ダモクレスと化した。
 ダモクレスは多脚型戦車のような姿をしており、七色の怪しげな光を放ちながら、ケルベロス達を睨みつけるようにして複眼を蠢かせた。
 それが何を意味しているのか分からないが、ケルベロス達を敵として認識している事は間違いないようである。
「デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスは耳障りな機械音を響かせながら、ケルベロス達に対して、激しい殺意を向けた。
 それは刃物の如く鋭く、首元に切っ先を押しつけられているような錯覚を覚えた。
 一般人であれば、それだけで卒倒モノ。
 最悪の場合、生まれてきた事すら、後悔しそうなほどの威圧感。
「……既に手遅れのようですね。私も昔は鍵盤が光るピアノで練習したものですが……。こうなってしまった以上、倒してしまうしかありませんね」
 そう言って花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)が覚悟を決めた様子で、ハンズフリーライトで注意を引きつつ、攻撃を仕掛けるタイミングを窺うのであった。

●ダモクレス
「さぁ、行きますよ、夢幻。……サポートは、任せます……!」
 すぐさま、綾奈がウイングキャットの夢幻に声を掛け、ダモクレスに攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
 それに合わせて、夢幻がダモクレスの注意を引きつつ、そのまわりを飛び回った。
「デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、鬱陶しそうにしながら、夢幻を追いかけ回した。
「……!」
 これには夢幻もビクッと体を震わせ、ダモクレスから逃げるようにして、今度は高々と飛び上がった。
「デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その逃げ道を塞ぐようにして、ダモクレスは音符型のビームを放ってきた。
 音符型のビームに規則性はなく、バラバラに散らばらせて、攻撃しているような感じであった。
 だが、破壊力は、ケタ外れ。
 ビームが命中した部分が爆発を起こし、大量の破片が舞い上がった。
「……!」
 そのため、夢幻は脳内で念仏マーチを響かせながら、次々とビームを避けていった。
「ピアノォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 そんな中、ダモクレスがカサカサと音を立て、ケルベロス達に迫ってきた。
 その間、ピアノの音が鳴り響いていたものの、それはガマガエルの大合唱。
 耳障りな機械音と共に、ピアノの音が鳴り響いているため、ケルベロス達にとっては、ストレス以外のナニモノでもなかった。
「デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 しかし、そんな事を言っているヒマではない。
 ダモクレスはケルベロス達の命を奪うため、全力全開ッ!
 『必ず殺す! 絶対殺す!』と言わんばかりに、殺意全開であった。
「これでも、食らえー!」
 それを迎え撃つようにして、綾奈がスターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、ダモクレスを足止めしようとした。
「デェェェェェェェェェェェンシィィィィィィィィピアノォォォォ!」
 だが、ダモクレスに勢いは衰える事なく、シルフィアを弾き飛ばす勢いで、ケルベロス達に突っ込んできた。
「……クッ!」
 そのため、シルフィアはダモクレスを蹴った方の足に、激しい痛みを感じながら、ダモクレスに巻き込まれないようにしつつ、素早く転がるようにして横に避けた。
「花びらのオーラよ、皆に元気を分け与えて」
 その間に、バニラがフローレスフラワーズを発動させ、戦場を美しく舞い踊る事で、仲間達を癒やす花びらのオーラを降らせた。
「デ、デ、デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それと同時にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ボディの中から音符型のアームを次々と伸ばしてきた。
 音符型のアームは異なる音を響かせ、地面をガッツンガッツンと叩きながら、再びケルベロス達に襲い掛かってきた。
 それは音符の形をした鈍器。
 人の心を和ませるためではなく、人の身体を殴るための武器。
「トリックチェインに潜むドラゴンよ、その力を放て!」
 すぐさま、シルフィアはドラゴンサンダーを仕掛け、パズルから竜を象った稲妻を解き放ち、ダモクレスの身体を痺れさせた。
「デ、デ、デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 しかし、ダモクレスはケモノの如く耳障りな機械音を響かせ、狂ったように音符型のアームを振り回した。
 それは、まるで駄々っ子、駄々っ子パンチ。
 それが一般人であれば、脅威に思えたかも知れないが、ケルベロス達からすれば、幼稚なレベル。
 攻撃パターンを容易に読み取る事が出来るため、避ける事は大して難しい事ではなかった。
「ドローンの群れよ、仲間を援護しなさい」
 その攻撃を避けながら、バニラがヒールドローンを展開し、小型治療無人機(ドローン)の群れを操って、一緒に戦う仲間を警護した。
「私のオウガメタルよ、力を、貸して下さい……!」
 それに合わせて、綾奈が戦術超鋼拳を発動させ、全身を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』と化し、拳でダモクレスのアームを壊していった。
 そのたび、ダモクレスのアームが異なる音を響かせ、地面に転がっていった。
 それでも、綾奈は攻撃の手を止める事なく、アームを破壊し、叩き割り、握り潰して、引き千切り、一本残らずもぎ取った。
「……自慢のアームも、これで台無しだね。だからと言って、これで終わりじゃないよ。……まだね」
 司が螺旋氷縛波を発動させ、氷結の螺旋を放って、ダモクレスの身体を凍らせた。
「デンシィィィィィィィィィィィィピアノォォォォォォォォォォ!」
 だが、ダモクレスは怯まない。
 ピキピキピキィと氷の割れる音を響かせながら、鍵盤型のミサイルを飛ばしてきた。
 鍵盤型のミサイルは地面に落下すると、異なる音を響かせながら、大爆発を起こして、大量の破片を飛ばしてきた。
「……しばらく大人しくしてもらうよ!」
 そのミサイルを避けながら、シルフィアが呪言の歌声(ジュゴンノウタゴエ)を発動させ、金縛りを引き起こす呪われた歌声を放って、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それでも、ダモクレスが強引に動こうとしていたが、あちこちのパーツが悲鳴を上げ、バチバチと火花が散っていた。
「……よほど僕達を殺したいようだね。自らの欲望を満たすために……。でも、駄目だよ。その程度の力じゃ、僕らの命を奪うどころか、傷つける事さえ出来ないよ」
 その隙をつくようにして、司が薔薇の剣戟を発動させ、幻の薔薇が舞う華麗な剣戟で、ダモクレスを惑わせた。
「デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 そのため、ダモクレスは見当違いの方向にミサイルを飛ばし、耳障りな機械音を響かせた。
「一体、どこを狙っているのですか……? 私達は、ここですよ……?」
 それと同時に、綾奈が雷刃突を繰り出し、雷の霊力を帯びた武器で、神速の突きを繰り出し、ダモクレスのコアを破壊した。
「デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を断末魔の如く響かせ、崩れ落ちて動かなくなった。
「さて、終わったみたいだね。皆、怪我は無いかな?」
 司がホッとした様子で、仲間達の無事を確認した。
 仲間達は多少の怪我はしていたが、命には別条がないようだった。
「何とか、被害を最低限にしたけど……。それでも、何と言うか、不気味ね、ここは……。もう再開する事がないのかも知れないけど……」
 そう言ってバニラが殺界形成を解除した後、廃墟と化した幼稚園を眺めて、複雑な気持ちになった。
 少子化問題が囁かれている今、幼稚園が再開される可能性は低い。
 場合によっては、同じように閉園していく幼稚園が増えていくかも知れない。
 それが物悲しく思えてしまったため、何も言えなくなった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月10日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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