お好み焼きぃぃーー!!!

作者:星垣えん

●その問題よく聞くよね
 都内某所――繁華街から少し外れた穴場的な裏路地に、小さなお好み焼き屋があった。
 せいぜい十数人ぐらいが入れる店だ。都会的な小綺麗さもない。
 しかし、いつも満席だった。
「あー……美味しい……」
「このもりもりの具がたまらんよなぁ……」
「すいませーん。次ネギ豚玉おねがいしまーーす」
 熱い鉄板から昇る蒸気が立ちこめる店内には、お好み焼きをじっくり味わう人も、何がどう美味いのか語る人、食欲に導かれるまま追加のオーダーを通す人などなど……様々だ。
 だがその誰もが、お好み焼きを口に入れてはにんまりと頬を緩めている。
 単純に美味いのだ。
 口当たりの良い生地、ふんだんに盛り込まれた肉や海鮮。鉄板に触れてじうじうと焦げ付くソースの匂いもたまらない。2個3個と軽くいけてしまうほどだ。
 おまけにお好み焼きのみならず、焼きそばなんかも美味い。こちらもやはりエビやらイカやら豚肉なんかがたっぷり入っていて食べ応えが半端ない。
 だいたい1品800円程度だが、得られる満足感はその比ではなかったのだ。
 だから店はいつも人で埋まるほど繁盛していて、この日も例に漏れず賑わっていた。
 しかし!
 そんな美味しいお好み焼き屋は、重大なミスを犯していた!
「せーーーいせいせいせぇぇーーーーーい!!!」
「うわっ!!?」
 威勢よく入口の戸から転がりこんできたのは鳥の人!
 店員さんがビクッと跳ねるのも構わずゴロゴロ進んだ鳥の人は、そのまま店の奥に到達して、壁に貼られたメニューの紙をだぁんとぶっ叩いた。
 そこには記されていた。
 ごはん150円、と。
「なんだこれは! どうしてライスがメニューに入っているの! いらないでしょ米! お好み焼きにライスとか頭おかしいよ!? 主食でしょうが! お好み焼きは主食でしょうがぁぁーー!!」
 怒りの咆哮で店そのものを震わせる鳥の人。

 たぶん、彼は関東の人だったのだろう。

●お好み焼き食いに行くべー
 都内のお好み焼き屋を鳥が襲う――。
 てな予知を笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)から聞かされた東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)は、ふむと冷静に頷いた。
「なるほど。お好み焼きにごはん問題だな」
「わりかし耳にするお話なのです!」
 一言で片づけるねむちゃん。
 だが仕方あるまい。そもそも語るべきものでもないのだ。
 正直どうでもいいのだ。お好み焼きにごはんアリナシ問題とか。
「大事なことは! お好み焼きを食べるかどうかなのです!」
 きっぱり言い切るねむちゃん。
 本当に大事なことはお好み焼き屋を襲う鳥さんに対処することだと思うのだが、そんなことはこの子はほとんど口にしなかった。
「ぱぱっと撃退をお願いしますね!」
 ぐらいだった。
 信者のいない鳥ってこんぐらいなんだな、と思うしかねぇシーンだった。
「では目下、我々が気にするべきはお好み焼きをどう味わうのかという点か……」
「そうなんです!」
 違うよ?
 真剣に考えはじめてる憐さんも違うし、肯定したねむちゃんも違うよ?
「オーソドックスは豚玉か。しかし色々と他にもあるようだし悩みどころだな……」
「具材ごろごろの絶品焼きそばもあるそうです!」
「お好み焼きに留まらないか……店もやり手のようだ」
「自分で焼くスタイルのお店ですから、ゆったり自分ペースで楽しめますね!」
 思考に沈む憐にどんどんお店情報を出してくるねむちゃん。
 もはや常識的に考えている場合ではないようだ――と猟犬たちは気を引き締めた。食事してから何時間経っているか、財布の残弾は、とか戦闘準備を整える。
 そんな猟犬たちを見て、ねむはパッと顔を明るませる。
「みんな頼もしいですね! それじゃあ出発ですよ! ご武運を祈ります!」
 てけてけ、とヘリオンへ駆けてくねむちゃん。
 かくして、猟犬たちは武運を祈られながらお好み焼き屋に向かうことになりました。


参加者
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)
御手塚・秋子(夏白菊・e33779)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)
湊弐・響(真鍮の戦闘支援妖精・e37129)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
大森・桔梗(カンパネラ・e86036)

■リプレイ

●戦いの予感
「せーいせいせいー!!」
 夜の街路にやかましい声が響き、瞬く間に移動してゆく。
 鳥は走っていた。
 忌むべきお好み焼き屋へと。
「お好み焼きに米などいらんのだー!」
 人入りで賑わうお好み焼き屋の明かりを捉え、スピードアップする鳥。
 が、いざ店前に達したとき、頭上に人影が降った。
「む!?」
「ご飯を付けるのは、ありだ」
「ぎゃあああーー!!?」
 東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)の声とエアシューズの摩擦熱が、顔面を襲った。回転するローラーに焼かれた顔を覆って鳥さんがごろごろする。
「き、貴様ぁ! 挨拶もなく顔を踏むとは――」
「今はお姉さまのターンですわ!」
「ぐああああーー!!?」
 体を起こした鳥さんにすかさずフロストレーザーを撃ちこむ湊弐・響(真鍮の戦闘支援妖精・e37129)。場が静かになると響はくるっと憐を振り返った。
「さ、どうぞお話の続きを」
「ああ」
 促されるまま進み出る憐。
「お好み焼きにご飯。私としては全然ありだ。うどんだっておにぎりと一緒に食べることもあるし、うどんの上に炭水化物の衣をまとった天ぷらが乗ることもある。かつ丼だって肉が小麦粉とパン粉という炭水化物に覆われているだろう」
「お姉さまの言うとおりですわ。ラーメンとチャーハンを合わせることがおかしいんですの? パスタにパンは付き物ですわよね? 焼きそばパンやグラタンコロッケバーガーに至っては、炭水化物で炭水化物を挟んで食べますのよ?」
 粛々と語る憐の斜め後ろで、響もひたすら首を肯かせながら加勢する。
 憐もまた響の話に「そうだ」と付けて、藍色の瞳で地べたの鳥を見下ろした。
「だがこれらは何の違和感もなく食べてるじゃないか。ならばお好み焼きにご飯などむしろ常識だろう」
「そうですわ! 何の問題もありませんわ!」
「い、言いたい放題……!」
「言いたい放題はそっちでしょ!」
「ぶべべべべっ!!?」
 言い返そうと上体を起こした鳥さんを、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)がライドキャリバー『藍』で後ろから轢く。
「普通、主食にこんなにべったり濃厚ソースつけなくない? タコ焼きだってそうだし焼きうどんだって味が濃い濃い! だからごはん付けても別にいいっしょ」
「いや全然よくな――」
「ぶんぶんぶーん」
「アーーーーーッ!!」
 うるさいのでもう1回轢きつぶす関西在住のことほさん。
 鳥さんの頭が車輪にぎゃりぎゃりされてる横で、大森・桔梗(カンパネラ・e86036)は穏やかに微笑む。
「お好み焼きの具材で多用されるキャベツや卵や肉は所謂副菜向きな具材ですよね?」
「アーーーーッ!」
「更に粉は主に小麦粉なのでダンプリングの皮と余り変わらないですよね?」
「ギャアーーーーッ!」
「つまり少し大きめの餃子や焼売みたいな物ですよね?」
「ギニャアーーーーッ!」
「そう、だから副菜扱いOKなのです」
「いやそんなことより助けろォォォーーーー!!!」
 藍の車輪に轢かれ続けていた鳥が、整然と語っていた桔梗に抗議をぶっこんだ。身をよじって何とか車輪と地面の間から頭を抜いて。
「人の心がないのか! 弱きを守ろうという心が!」
「申し訳ありません。そういうのはちょっと」
「そういうの!?」
「うちのタイタニアさんに絡むのはやめてもらおーう!」
「へぶんっ!?」
 桔梗に顔を近づけた鳥を、横合いから猛ダッシュしてきた御手塚・秋子(夏白菊・e33779)がグーパンで殴り飛ばす。
 無惨にアスファルトの上を5回転ぐらいする鳥。
 それを冷たい眼差しでゆっくりと追う秋子。
「お餅入りお好み焼きもダメ? メインinメインだよ?」
「お餅入り……? 褒められたものではないが一緒になってるなら認めないでも……」
「そんなあなたに我が夫より伝言です。てめーはお好み焼きの民を怒らせた」
「認めたのに!?」
「食べ物は皆尊いのだ!」
 オラオラオラ、と鳥をタコ殴りにする秋子。その無慈悲な攻めに憐や響、ことほや桔梗も加わって店前は目も当てられない光景へと変わった。
 遠くないうちに逝くだろう鳥を見ながら、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は肩を竦める。
「お好み焼きにライスとか、別にどっちでもいいですよね。食べ方は人それぞれですし。そんなどうでもいい事より野菜のほうが大事じゃないですか?」
「それはあなたぐらいだと思うわ……」
 顔を振り向けてきたシフカに、横顔を見せたまま呆れるエディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)。
「でもお好み焼きとご飯を一緒に食べない場合ってあるのね。常識だと思ってたわ……ね、エレコ」
「そ、そうパオね……」
 目を逸らすエレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)。
「……どしたの、エレコ?」
「な、なんでもないパオ……?」
「どう見ても何かあるんだけど!?」
 肩を掴んでゆさゆさするエディス。
 するとエレコは観念したように切り出した。
「……ごめんパオ。実は我輩も、お好み焼きとごはんを一緒に食べるのは……パオ……」
「貴方も食べない派なの!?」
 ショックを受けるエディス。
 まさかこんな身近に異教徒が……と顔が青ざめてゆく。しかし落胆も一瞬、すぐにその顔は何かを決意した人間のそれへと変わった。
「わかったわエレコ……アタシがお好み焼きライスの良さを教えてあげるわ!」
「ぱおおぉぉーー!?」
 ぐいぐいとエレコを連れて入店するエディス。
 ちょうど鳥さんもね、そこらへんでスパッと殺られてました。

●おこパ
 座敷にどんっと鎮座する鉄板。
 熱々のそれの上で焼けたお好み焼きをヘラで切って、シフカは涼しげな顔で口に運んだ。
 ふわりとした生地にとろりと濃厚なソースが絡まる。強烈な味に身悶えしそうになりながら、シフカはややくったりしたキャベツともやしの食感を堪能した。
「……美味しいですね。野菜もたっぷり味わえますし。さすがお好み焼き」
「シフカさんのお好み焼き、見事に野菜オンリーだね……」
 パッと見てヘルシーすぎるお好み焼きを、横からじっと見ることほ。
 なんだかパンチが足りないような気がする。というだけなのだが、それを『欲しがってる』と取ったシフカは一切れをヘラに乗っけた。
「食べます?」
「え、どうしよ……でもせっかくだし食べてみようかな?」
「はいどうぞ。あーん」
「あーん」
 割とためらいなくパクッとやることほ。
 鳥を葬ってから数分後。猟犬たちは当たり前のように普通の食事会をしていた。
「おこパたのしー」
「ほんとほんと。おこパたのしー」
 野菜お好みをむぐむぐ味わうことほに全力で同意するのは秋子だ。明太子と餅入りのお好み焼きをマヨ七味で食っている女は、恍惚と頬をもっちもっち動かしている。
「お好み焼き最高……そのうち私は餅になってしまうかも。そうならないためにも特保のお茶を飲まないと。あ、皆も飲んでいいよ」
 人数分のお茶をドドンと卓上に並べる秋子。
 特保を妄信する女の姿にことほは乾いた笑いを浮かべた。いくら特保でも劇的な痩せ効果があるわけではないのだ。期待しすぎは良くない。
 ――そう心中で思いつつ、ことほはお茶を取っていた。
「普段だと禁断みのある餅チーズ……だけど今日はさっき運動したし! 加えて特保のお茶があれば大丈夫なはず!」
 ヘラで取ったとろーりなお好み焼きをむぐっと口に入れることほ。
 悪魔的な美味が口中にひろがる。自分へのご褒美だから……と全力の言い訳をして頼んだ餅チーズお好みは、秒でことほを骨抜きにしていた。
 大好物の薄いねぎ焼きをパクパクしていた響は、隣席の憐を腕をつんつん。
「とろとろであれも美味しそうですわね、お姉さま」
「そうだな。味見させてもらえないか後で頼んでみるか」
 凛とした居住まいながら口だけは盛んに動かしている憐が、くすりと微笑む。
「ところでお姉さまのお好み焼きは何ですの?」
「私か? オーソドックスに豚玉だ。牛すじもトッピングしてある。食べるか?」
「よろしいんですの!? それでは!」
 ナチュラルにあーんする響。食べさせてやるとは言ってないが、と思いつつ憐は仕方ないのでその口へヘラで運んであげた。
「これがお姉さまのお好み焼き……素晴らしいですわ」
「それはよかった……」
「はっ、そうですわ! お返しに私のねぎ焼きを!」
 微妙な表情をしていた憐へ、慌ててねぎ焼きを切り分けてあーんする響。
「クレープみたいなパリパリの皮! 鉄板の上で焦げるおネギと出汁醤油の香ばしいハーモニー! 湯気と共に踊る鰹節はまるで輪舞の様ですわ! どうぞ!」
「あ、ああ」
 ぱくっ、と頬張る憐。
 なんとも平和で仲の良い光景だ――黙々と豚玉を食べ終えた桔梗は、憐たちのやりとりを見ながらふっと微笑んでいた。
「色々なバリエーションがあるからこそ、分けあいっこして楽しめる……これもお好み焼きの良さですね」
 赤だしの味噌汁を啜る桔梗。よく見ればライスとサラダまで手元にある。
 全力。全力である。
「さて、では次は海鮮を……」
 じゅうう、と新たなお好み焼きを作りはじめる桔梗。豚玉と一緒に頼んでおいた海鮮ミックスである。チーズもトッピングしてあるそれに小エビと天かすをばらまいて、桔梗はさっぱりと醤油でいただく。
 そしてエビやイカの食感を感じながら、ライスもはむっ。
「お好み焼きをおかずにご飯。普通にいけますね」
 ぱくぱく躊躇なく食べ進めてゆく桔梗。
 ――一方、それをよそにエディスは厳然と腕組みしていた。
 自分の前にある鉄板に、じうじう焼ける豚玉と焼きそばを置いて。
「わかる? エレコ。これだけでも炭水化物&炭水化物」
「わ、わかるパオ」
 じろりと鋭い視線をくらったエレコが、隣で身を縮こまらせる。
 エディスは豚玉を食い、さらに焼きそばを食った。カリッと焼けた豚肉とふわふわ生地、たっぷり具材を盛り込んだ麺が口の中で踊る。
 そっとエレコの背に手を添えるエディス。
「美味しいわ……でもね、そこに米を混ぜる事によってもっと幸せな気分になれるのよ」
「粉ものクイーンのエディちゃんが美味しいお好み焼きの食べ方を知ってるのは我輩も分かるのパオ。でも、流石に炭水化物と炭水化物は一緒には……」
「エレコ。四の五の言わずに」
「わ、わかったパオ……」
 取りつく島もねえ。諦念したエレコはお好み焼きを食い、そこにライスを合わせる。
 はふはふはふ……。
「……! これは!!」
 カッ、と目を見開くエレコ。
「ハッピーぱお!! 幸せぱお!! ソースの濃い味とごはんが完全に調和しているのパオ!!」
「そう! そうなのよエレコ!」
 背中をバシバシするエディス。
「シンプルな味のゴハンと一緒に味のしっかりしたお好み焼きを食べる幸せ……むしろ挟んだご飯が箸休めになって、より沢山のお好み焼きを食すことが出来るわ!」
「知らなかったパオ……大発見パオ!」
 わいわい、とはしゃぐ2人。
 この世にまた1人、ライス食べる派が誕生した瞬間だった。

●食べて、食べる
 かちゃかちゃと、2つのヘラが鉄板上にライスを踊らせている。
 職人然と焼きめし作っているのはトピアリウス(テレビウム)だ。謎の手際の良さを見せるサーヴァントをエレコは訝しげに見つめていた。
「とっぴー、いつの間にそんなテクニックを……」
「その辺でいいわとっぴー」
「エディちゃんが仕込んだパオね……」
 エディスの指示でぴたっと止まるトピアリウス。彼が焼いた飯は鉄板に残っていたソースを吸ってほのかに色づいている。
 それは小皿に乗せられて、エレコの手元にやってきた。
「エディちゃん、いくらこれが美味しいはずが……」
「エレコ」
「はいパオ」
 パクッと食べるエレコ。
 その瞬間、少女の目はカッと見開かれた。(2回目)
「ぱ、ぱおおおおおお!!! ごはんが油やソースを吸って、これ単体で全く新しい一つの料理になっているのパオ!!」
「わかってくれて嬉しいわ、エレコ!」
 やっぱりわいわいとはしゃぐ2人。
 おこパ開始から20分、あらかた食べたいものを食べた猟犬たちは、まったりと食事を楽しんでいた。
「あ、私も響さんの食べてみたいなー。貰っていい?」
「ええ。よろしいですわ。では私もその……餅チーズ入りを頂いても?」
「もっちろーん。憐さんも食べるー?」
「ああ。頂こう」
 猟犬たちの席はいっそう、パーリィな空気になっとった。ことほがなかなかにコミュ力の高いものだから、どんどんお好み焼きをシェアしているのが大きい。結構場を回しているという感じである。
「これがねぎ焼きかー。キャベツがねぎになるだけでだいぶ違うねー」
「餅チーズもとても食べ応えがあって……美味しいですわね、お姉さま?」
「そうだな。分類としては変わり種に入るのだろうが、美味い」
「焼きそば作りましたけど食べます?」
 互いのお好み焼きを賞味していたことほと響と憐に、シフカが熱々の焼きそばを鉄板上でスライドさせる。
「もちろん食べるよー!」
「私もちょうど食べたいと思っていたところだ」
「私はお腹が膨れてきましたので……一口だけ」
 香り立つソースの匂いに、たまらず飛びつくことほと憐。2人に分け、響には一口分だけあげると、シフカも焼きたてのそれを啜り上げる。
「焼きそばもまた良いですね……野菜もたっぷり食べられますし……」
「やっぱり野菜なんだ……」
 相変わらずのシフカさんにジト目向けるしかないことほ。視線を焼きそばに落とせば確かに野菜が多いかもしれない。ていうか確実に多い。
「よかったら私のも食べてみますか?」
「ん、桔梗さん?」
 振り向いたことほが見たのは、にこりと焼きそばを差し出す桔梗だ。
 卵とねぎとキノコがたっぷりの焼きそば。そこにこんもり生姜が盛られている。
「これはまた一風変わった……」
「でも美味しいですよ」
「よし。私は貰おう」
「お姉さまが食べるのなら、私も一口……」
 素早く食いついてきた憐に乗っかる響。
 そこへ、秋子がぐでーっと突っ伏すように横から入ってくる。
「焼きそばもいいよね」
「秋子さん……酔っていません?」
「酔ってません。飲んでるけど」
 真面目な顔で響に酒を見せる秋子。海鮮お好み焼きをつつき、フライドニンニクとホルモンまで頼んだ女は完全に楽しくなっちまっていた。
「そんなことよりそばめし作ったんだー。皆で食べよー」
「そばめし?」
「ふむ、そばめしか……」
 秋子が2つのヘラで鉄板の上を滑らせたそばめしに、俄然興味を示すことほ&憐。目玉焼きがポンと乗ったそれは立派な出来栄えだ。秋子さん褒めてほしそうな顔してます。
「ささ、皆どーぞどーぞ」
「ありがとー秋子さん」
 ぐいぐい推してくるそばめしを、顔を綻ばせながら受け取ることほ。
 お好み焼き屋での楽しい夜は、そうして賑やかに過ぎていった。

 ちなみに、ことほがカロリーオーバーという恐怖に震撼するのは、その数十分後のことだった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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