ヤルンヴィド追撃戦～監察官と要塞の撤退を阻止せよ！

■リプレイ

●魔空回廊へ接近せよ
　ダモクレスの要塞ヤルンヴィドが隠されている廃墟へと、ケルベロスたちは隠れて近づいていた。
　８人のうち半数ほどは身を隠す気流を発生させ、残る者たちも気流をまとう者に近い位置にいる。
「襲撃を察知されると逃げられる……組織的に動くダモクレスは本当に厄介ですね。予知ですら追い切れない速攻でわたし達を苦しめたキングを思い出します」
　神白・鈴（天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623）が言う。
　ダモクレス六大指揮官の出現はもう数年前のこと……だが生き残りは今もいて、活動を続けている。
　インスペクター・アルキタスを同じように生き延びさせるわけにはいかない。
「気をつけていこう。ここで彼等を逃がして情報を持ち帰らせるわけにはいかないよね！」
　明るく、しかしはっきりとした声で、影渡・リナ（シャドウフェンサー・e22244）が言った。
　少なくとも、要塞の警戒網は今のところ彼らをとらえてはいないようだ。ケルベロスたちはさらに移動する。
　進むうちに過去を思い出したのは鈴だけではなかった。
「……本当に嫌ね。死んだあの女の残影が、まだちらつくわ」
　円城・キアリ（傷だらけの仔猫・e09214）が言った。
　いくぶん様変わりしたものの、要塞の姿を見ればどうしてもここで討ち果たした敵、エインへリアルの王女の姿を思い出してしまう。
「因縁も次々に増えていっているからな。できるなら、早々に片付けたいところだが……アルキタスへの用は倒すだけでは終わらないのだったな」
　大きな狼の耳を揺らしながら言ったジークリット・ヴォルフガング（人狼の傭兵騎士・e63164）の言葉に、キアリが頷く。
「要塞内に向かった皆さんも、見つからずにアルキタスのところへたどり着けているといいんですけどね」
　幸・鳳琴（黄龍拳・e00039）が要塞へと視線を向ける。
　内部突入の班に親しい者がいるのか、その目は誰かを探しているようにも見えた。
　とはいえ、ここからでは要塞内は見えない。魔空回廊を目指して、ケルベロスたちは再び移動を開始する。
　やがて、ケルベロスたちは目的の場所に到着した。
「……あれが魔空回廊か」
　源・瑠璃（月光の貴公子・e05524）はダモクレスたちが集まっている回廊をながめ、小さな声を発する。
　もっとも、ダモクレスといっても、それらは人の死体を機械で無理やりに動かしているものだ。
　幾人かのケルベロスは、不快感を表情に現していた。
「攻性植物の領域を隠れ蓑に好き勝手やってやがったんだな、こいつら。死体を奴隷に……胸糞わりぃ。二度と大阪を襲えねぇよう徹底的に潰さねぇとな」
　特にわかりやすく怒りをあらわにしていたのは、神白・煉（死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023）だろう。
　魔空回廊の入り口には、大柄なダモクレスが宙に浮かんでいた。魔空回廊を守っている敵だ。
「で、まずはあのでっかいのを倒せばいいってわけよね。オーケーオーケー、ちゃんと理解してるしてる」
　さらりと言ったのはトリューム・ウンニル（碧き天災の運び手・e61351）だ。
　パッセージガーディアンという名のダモクレスをガトリングガンの銃口で示す。
　気負う様子もなく両手に武器を構えて、彼女は飛び出すタイミングを計っていた。
　他のケルベロスたちも、それぞれに得物を構えている。
　魔空回廊制圧を目的とするもう１つのチームも、付近に潜んで機をはかっているだろう。
　彼らに先がけて、８人のケルベロスとサーヴァントたちは、一気にダモクレスたちが守る魔空回廊へと、接近していった。

●守護者の脅威
　接近してくるケルベロスに気づいて、ダモクレスは身構える……が、反撃はできなかった。
　後退しながら防ぐのが手一杯――しかし、回避を重視して動くパッセージガーディアンに対して、すべての攻撃が当たることはない。
「わかってはいましたが、まずは足止めしなくてはいけませんね」
「ええ。私も、まずは皆さんが確実に当てられるように支援します」
　鈴は神白の天扇を振った。
　白い羽で作られた扇が秘めた力によって、彼女は巫術を発動する。
「大地に眠る祖霊の魂……今ここに……闇を照らし、道を示せ！」
　呼び声に応じて、狼たちが出現する。光り輝く、エネルギーでできた狼。天扇の動きに従って、まずは後衛のケルベロスたちに近づいて道を示す。
　狼のエネルギー体は攻撃能力を持っていないものの、探知と追跡の力に長ける。
　鈴の祖先の魂とも言われるそれらは、ダモクレスの動きを読んで仲間たちへ伝えてくれるはずだ。
「助かるわ、鈴。まずは確実に足止めから行くわよ！」
　キアリが手にしたドラゴニックハンマーを、砲撃形態へと変化させる。
　放つ竜砲弾は狼のエネルギー体に導かれて飛び、パッセージガーディアンの素早い動きを鈍らせる。
　さらに鈴がエネルギー体を前衛の仲間たちに付与しようとするが、それよりも早くガーディアンは反撃に移っていた。
　翼に似た背部パーツが音高く変化して、無数のミサイルがケルベロスたちへ飛んだ。
「数には数、弾幕には弾幕だッ！」
　ジークリットがナパームミサイルで弾幕を張って、自らへ命中しようとするミサイルを撃ち落としてダメージを軽減する。
　他のディフェンダーたちもとっさに動き、仲間をかばった。
　ボクスドラゴンのギョルソーは自分の主であるトリュームを。それに、瑠璃は煉をかばってミサイルを受ける。
「助かったぜ、瑠璃！　ありがとな！」
「どういたしまして。このくらい、大した傷じゃないよ」
　瑠璃は応じると、反撃に移った。
　攻撃よりも回復を優先して動くつもりでいる彼だが、戦いの序盤である今はまだ攻撃に回る余裕がある。
「惑いの月の呪いを、甘く見てはいけないよ？」
　瑠璃の心を表すかのような月白のオーラが輝きを発する。
　時に惑わす力となる月の呪いは、心なきダモクレスであろうと関係なく襲いかかり、癒しの力を封じ込めて敵をさいなんでいた。
　月の呪いが敵を封じた直後に、瑠璃の背後から飛び出した煉も攻撃をしかけた。
　蒼星狼牙棍が一気に伸びて、回避機動を行おうとしたガーディアンを打つ。
　ケルベロスたちが行っている足止めは、徐々に効果を表しているようだ。
　とはいえ、キャスターである敵の回避能力はまだ残っている。
　リナはフェアリーブーツで軽やかに宙を移動し、戦闘に支障がない程度の低空を飛び回る敵の動きを追った。
「私が隙を作るから、皆はその間にだね！　風舞う刃があなたを切り裂くよ！」
　振り上げたゲシュタルトグレイブには魔力が宿っている。
　放つ魔力は幻術と混ざり合い、無数の風刃となってパッセージガーディアンを囲んで装甲を容赦なく切り裂いていく。
　まだ致命の傷には遠い――けれど、刃は敵の周囲を舞い踊り、素早い機動をさらに制限していた。
「足だけではなく……そろそろ、その厄介なミサイルも、封じさせてもらいますよ！」
　鳳琴の黒い瞳がしっかりと敵を見据えると、ダモクレスの武器が爆発した。
　回廊を任されるだけあって強力なダモクレスに対し、トリュームは愛用するオサレアイテムを変形させた。
「思ったより頑張ってくれてるけど、こっちはいつまでもアンタの相手はしてらんないのよね。ハーイ、今週のビックリドッキリなヤツはコレ！」
　虚空からパーツが発生して、古代兵器『SUMOW-94-BASH』が出現する。
　派手な動きで襲いかかるでっかい爆弾を、動きの鈍った敵はかわしきることができなかった。ド派手な爆発が魔空回廊を揺らす。
　炎と煙の中から姿を見せたパッセージガーディアンは、無残な姿をさらし――それでもなお、動きを止めてはいなかった。

●守護者を打ち砕け
　パッセージガーディアンは着実に弱ってきていた。
　とはいえ、ケルベロスたちも、ガーディアンだけと戦っているわけにはいかなくなってきていた。
　死体にとりついた寄生体が要塞や魔空回廊を目指して移動していたからだ。
　要塞に向かっている者は、もう一方の回廊制圧チームが対応しているだろう。
　魔空回廊を抜けて、仲間のダモクレスを呼ぼうとしている敵がいれば、ガーディアンを狙う手を止めてでも倒しておかねばならない。
　鳳凰のごとく飛び上がった鳳琴が狙ったのは、寄生体の１体だった。
「増援を呼ばれるわけにはいきません。アルキタスをここで倒すために。それに……」
　流星のごとく降下した鳳琴の蹴りが、寄生体を撃破する。
「キャハハ、困りますお客様、お支払いがまだです！」
　もう１体接近していた寄生体がいたが、そちらはトリュームのガトリングが撃ち抜いている。
　鳳琴はパッセージガーディアンに視線を戻す前に、一瞬だけ要塞があるほうへ視線を向けた。
　果たして、内部に突入した仲間たちはどうしているだろう。
（「私の愛するあの人がいれば、アルキタスを逃さず倒してしまいそうな気もしますね」）
　とりあえずの脅威を排除した鳳琴は、再びパッセージガーディアンへと武器を向ける。
　ジークリットはガーディアンがライフルから放ったのビームを、とっさに体で受け止めた。
「少しはきつくなってきたか……だが、まだまだ倒れはしない」
　ディフェンダーとして仲間を守っている彼女や瑠璃、ギョルソーの体力はそれなりに減っている……とはいえ、倒れそうなほどではない。
　厄介なのは、体にまとわりついた氷のほうだ。他の前衛の仲間たちも、なにがしかの攻撃の影響が残っているのを確認して、ジークリットは体内のグラビティ・チェインを練り上げる。
「風よ……聖なる癒しの風よ、我らに纏う穢れを祓いたまえ！」
　魔空回廊の前にある、どこか澱んだように感じられる空気を、春の陽気にも似た爽やかな風が吹き飛ばす。
「リューちゃん、ジークリットさんを治してあげて！」
　鈴もオーロラのヴェールを降らせて、敵の攻撃の悪影響を完全に吹き飛ばす。
　命じられたボクスドラゴンのリュガは、ジークリットがビームで受けた凍傷に属性をインストールして治してくれた。
　余力を保ったまま、ケルベロスたちはパッセージガーディアンの体力を削っていく。
「いつまでも、あなたに時間をとられてるわけにはいかないの。そろそろ片付けてやるわ、アロン！」
　キアリは螺旋手裏剣に螺旋力を込めて、ダモクレスへと射出した。
　螺旋軌道を描くそれを、オルトロスのアロンが追う。
　手裏剣が装甲を切り裂いた次の瞬間、サーヴァントがくわえた霊剣がその傷口をさらに深く裂いていた。
「これ以上、抵抗はさせないよ！」
　グレイブに稲妻を宿して、リナが敵を連続で切り裂く。
　反撃とミサイル射出口を開いたガーディアンが――そのまま、固まった。
「リナさんの攻撃が効いたようだね。悪いけど、これで終わりだ」
　瑠璃が超鋼金精錬の極致ともいえるハンマーを砲撃形態に変えて、敵を撃ち抜く。
「お前の構造はすでに見切っている。もう助かる術はないぞ」
　ジークリットが両手に握っていた剣を叩きつけると、ガーディアンの装甲が砕けて内部が露出した。
「そうそう、あんたがここで倒れるのは最初から決まってたことなのよ！　たぶん！」
　楽しげに叫ぶトリュームが再び古代兵器を爆発させる。
　砕けた装甲の内部で、機械部品が火花をあげている。そこに、鈴の放った時空凍結弾が命中し、脆い部品をさらに脆くする。
「レンちゃん、今だよ！」
「ああ、助かるぜ、姉ちゃん。これが親父から受け継いだ、俺の牙だっ！」
　煉の腕に宿った烈火の闘気が、蒼い狼を形作り、一気に駆け抜ける。
　氷と炎がガーディアンの装甲でぶつかりあって炸裂し、ダモクレスの巨体が揺れた。
　そして、もはや瀕死で――それでも回廊を守ろうとする敵の前に、龍の少女は立ちはだかった。
「今こそ見せましょう。これが、私達の絆の力です――！　……すべてを、撃ち砕くっ！」
　鳳琴の傍らに、青い髪をした精霊の少女が出現した。
　龍の形へと変わったグラビティをまとい、精霊の力を剣に変えた少女と共に激しい連撃を叩き込む。
　そして、パッセージガーディアンは完全に砕け散った。

●回廊制圧、そして――
　魔空回廊の前で、炎が回転する。
「……今はただ眠れ……俺の炎で葬ってやる」
　倒れていく寄生体を前にして、煉は拳を握りしめた。
　強敵は倒したものの、魔空回廊を目指す敵はまだ残っている。
　ジークリットが合図をしていたが、もう一方のチームはどうなっただろうか。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な……正解は全部！」
　トリュームの両手で、ガトリングが激しく火を吹いた。
「我が剣舞は桜舞い散る剣の舞、刮目し見初めるがいい……」
　ジークリットの剣が、桜花を散らしながら寄生体を切り裂いていく。
　それぞれに様々な表情を見せながら、ケルベロスたちは寄生体を掃討していった。増えた傷も鈴が抜かりなく回復する。
「この人たちを救ってあげられないのが少し残念だね……」
　瑠璃が三月兎の指輪から放つ光輪で、残った寄生体は全滅した。
「それじゃ、待ち伏せだね。隠れられそうな場所はいくつかあるみたいだから、見つからないようにしよう」
「ああ。異変に悟られないよう、寄生体たちも片付けておかねばな」
　リナとジークリットが言葉を交わす。
「向こうで撃破してたら楽なんだけどねー」
　トリュームがぼやいた。
　……しばし後、その言葉が、事実となった。
　アルキタスは姿を見せることなく、代わりに要塞内の様子が変わったことが見てとれた。
「もしかして……ワタシが余計なことを言ったせいで？」
　トリュームが大げさに目を丸くする。
「まさか。内部突入チームがそれだけうまくやったってことなんだろうね」
　瑠璃が言った。
　事前の予想で敵が逃亡に成功する確率は高いはずだった。ケルベロスはそれを上回る作戦を立てたのだ。
「作戦は成功か。アルキタスをぶん殴ってやれないのがちょっと残念だな」
「気持ちはわかるよ、レンちゃん。でも、予想以上の結果を出したことに文句は言えませんね」
　煉と鈴の姉弟が言葉を交わす。
　たぶん、残念な気持ちを――心の片隅くらいには、みんな抱いたことだろう。
「そっか……やっぱりすごいな、あの人は」
　ただ、鳳琴の顔には、それと誇らしげな気持ちが混ざった、複雑な表情が浮かんでいた。
「要塞に行ったら、情報収集できるかな？　いい加減、今回でダモクレスのゲートの情報を手に入れたいのよね」
「敵はまだ残っているだろうが……慎重に行けば、大丈夫かもしれんな」
　思案顔を見せるキアリに対して、ジークリットが言う。
「なんにしても、強敵を討ち取って、情報を持ち帰ることは防いだんだよね。大勝利だよ！」
　リナが明るい声を仲間たちにかける。
　魔空回廊からの増援が来ていれば、内部班がどんな良い作戦を立てていても勝つのは難しかっただろう。
　ダモクレスの目論見を、ケルベロスたちは見事に防いだのだった。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年7月17日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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