鋼鉄の鯨たちは潜んでいた。
大阪城探索時にケルベロスたちが脱出した『大阪湾トンネル』のさらに深く、大阪湾に通じる地下港から出向した潜水艦隊は、今再び雌伏の時をすごしている。
音もなく。
身動きもなく。
「出港準備、異常なし」
「大変結構」
左腕の巨大なドリルを胸元に敬礼の姿勢を取る量産型『ガジェットシーカー』たちを労うセーラー服姿の少女には、その幼さそうな外見から連想される未熟さは欠片も見れない。
彼女こそが潜水艦型ダモクレス『ビッグホエール級』オパール艦長、エクスガンナー・オパール。
水中・水上戦に特化した局地戦型ダモクレスにして、キャプテン・ホエール率いる潜水艦隊の一翼。
「後は風がいつ凪ぐか……だけど」
「指令、引き続き別命待機とのこと」
彼女は確認した命令に溜息をつき、艦長席へと腰を下ろす。
それは純粋な天候だけの話ではない。ユグドラシル・ウォーが大阪ユグドラシルの敗北に終わった後も、ケルベロスという嵐は残るデウスエクスたちを総ざらいすべく、警戒の大風を吹かせている。
海を制するものとしては業腹な現状だが、今の戦力差では待ち構えるしかない。
ケルベロスたちが警戒の網を緩め、突破の糸口がつかめるまで。
「動力停止を継続、だけど最悪には備えて。準戦闘態勢を継続」
「準戦闘態勢を継続、了解」
指令を復唱し、持ち場へと戻るガジェットシーカーたちを見送り、オパールは自身も待機態勢に移る。
「なに、地球のことわざじゃ『勝負は水物』っていうそうじゃない」
例えでも何でも『水』というなら、それは自分の領域だ。
全身のバネを蓄えるように、海の戦士は身を潜めチャンスを待ち続けた。
「ユグドラシル・ウォーは我々の勝利だ。これで大阪ユグドラシルと大同盟は力を失ったわけだ、みんなよくやってくれた!」
ケルベロスたちを労いつつ、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は力強く告げる。
「そしてここからはこちらが狩りにいく番だ、ケルベロス」
リリエが地図に示したのは大阪城の西に広がる大阪湾。
そこに置かれたピンはクジラをかたどっていた。
「大阪城ユグドラシルからは多くの敵が逃げ散っているが、今だ大阪城周辺で機会をうかがうものも多い。この大阪城地下港に潜むダモクレス『ホエール級』潜水艦隊もその一つだ」
キャプテン・ホエール率いる潜水艦隊は大阪ユグドラシルから大量の物資を運び出し、ケルベロスたちの警戒が緩む隙を狙い大阪湾海底に潜伏しているという。
「重要な研究成果などはダモクレス達の幹部『ジュモー・エレクトリシアン』が既に持ち去ったようだが、それ以外の資材でも潜水艦五隻に積まれた量は相当なものだ。見逃せば資源不足に悩むダモクレス達が息を吹き返しかねない」
ダモクレス達を追い詰めるためにも、ここで脱出を食い止めなければならない。
刈り取るようにピンを引き抜き、リリエは一息に言った。
「幸い、この潜水艦隊は動力を停止して大阪湾の海底に潜んでいる姿が発見できている。攻撃を加えれば即座に強硬突破に作戦を変更するだろうが、それを防ぎつつの撃破は十分可能だ」
潜水艦隊はキャプテン・ホエール率いるビッグホエール級六隻で構成されており、それぞれに各一班、六班態勢で一斉攻撃をかける事になる。
「皆にはこの六隻のうち、『エクスガンナー・オパール』が指揮を執る『ビッグホエール級オパール』を担当してもらう」
ビッグホエール級の攻略方法は二つ。
ビッグホエール級と直接対決して叩き潰すか、内部に潜入して指揮官ダモクレスを撃破するかだ。
「作戦の難易度としては……どちらも一長一短だな」
ビッグホエール級と直接戦う場合、始動前の奇襲で大ダメージを与え、そのまま畳みかける展開となる。
水中・水上戦のスペシャリストである『エクスガンナー・オパール』が指揮するビッグホエール級は強敵だが、余計な事を考える必要のないシンプルな戦いになるのはメリットだろう。
「デメリットとしては戦闘中に強行突破される危険がある。ビッグホエール級の火力は強大で、我々の三名以上が戦闘不能になると突破を抑えきれない。勿論、オパールも積極的に狙ってくるだろうな」
もう一つの内部に潜入して『エクスガンナー・オパール』を狙う作戦だが、こちらはビッグホエール級へと潜入する隠密行動が重要になる。
「潜入は非常用ハッチから内部に突入することになるが、気づかれたら当然ダモクレス達も追い出そうと迎撃に向かってくる。ほおり出されたり、潜入前に気づかれた場合……最悪、ダメージを受けていないフルスペックのビッグホエール級を相手にすることになる」
ただ逆に潜入さえ成功すれば正面からぶつかるよりだいぶ楽な戦いだ。物資が詰め込まれた艦内はオパールのいる発令所までほぼ一本道で、他には量産型ダモクレス『ガジェットシーカー』が五体だけ。
逃げられる心配もないし、なによりオパールの得意とする水中戦を避けられるメリットは大きい。
「強いていえば強行突破に気を付けつつビッグホエール級を撃破するのが一番無難ではあるが……個々の得意分野によるところも大きいだろう。皆の能力を鑑みて作戦を決めてほしい」
撃沈もしくは艦長であるエクスガンナー・オパールを撃破すれば、ビッグホエール級と搭載物資は爆発に消え、すべてを破壊できる。
つまり勝てば作戦成功、そう難しく考える必要もない。
「このままダモクレスと物資の奪い合い泥仕合を続けるのも業腹だ。頼むぞ、ケルベロス」
参加者 | |
---|---|
リーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234) |
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
鍔鳴・奏(碧空の世界・e25076) |
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710) |
アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846) |
●茅渟の海を潜る
ぽしゃり。
小さな音がさざめく波にかき消えた。
『目標に動きは?』
『パッシブセンサーに変化なし』
水中戦用ラングと手にピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)は、リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)への確認に『了解』のハンドサインを返し、彼女がつかんだ推進ユニットを起動する。
ナノマシン特化型実験機であるピコの推進スラスターは小柄な体を上回るほどもあるが、極めて静粛。
そこにとりつく、すらりと美しい痩身を『特務支援機用潜行外套』に包んだリティをとらえる事は、デウスエクスと言えど困難だろう。
大阪湾の海底は思いのほか深く暗いが、『NVS』暗視システムに支援されたピコたちには地上とそう変わらない。
更に後ろにはリーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)と鍔鳴・奏(碧空の世界・e25076)を肩に、『LU100-BARBAROI』を駆動させるマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)。
前には警戒網を布いたウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)たち。
ケルベロスたちの目標は遠く見える鋼鉄の鯨。かつて神話の英雄が傷を洗い癒したという海に横たわるダモクレスの軍勢。
茅渟の神話と異なるのはケルベロスたちは追う側であり、与えた傷を癒させるわけにはいかないという事。
「ふぉふぉふぉ、予想はしたが警戒されとるのう」
「情報ケーブルか……撤去を試みると機雷が起爆する。無力化は困難だ、迂回するぞ」
ウィゼの接触テレパスが伝えてくる情報へ、周囲を見やるティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)がハンドサインで指示。
「めんどくせーナ……!」
その複雑さはアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)がみるみる不機嫌になるほど、相当な周到さだ。
それでも隠密気流は仕事を果たし、先導する仲間たちの手でゆっくりと機雷が除けられ、道は作られていく。
それは目前に迫る潜水艦、ビッグホエール級“オパール”が吐き出したものなのだろうか?
巨大な鉄球めいた様相とすれ違うなか、奏を掴むリーズレットの指先に力が入る。
「迷子防止でもあるんだからな」
「はいはい、分かってる……リズ、離れない様にな」
囁く程度の声は隠密気流に紛れて消える。いや、ここまで接近してしまえば、もはや些事だろう。ヴァルキュリアとオラトリオのペアは光の翼を泳ぐようにはためかせて海底を行く。
「潜水艦に気付かれない様に潜入とか、ケルベロスでも無いと無理だな……」
一房たらした緑の長髪が波に揺られるのを手で除けて、奏はレプリカントたちの作業の様子を見守った。
「手慣れたものだな」
「『情報の妖精さん』に聞いとイタからナ!」
マークも感嘆する滑らかな手つきでアリャリァリャはエアロックのハッチを操作していく。ややもして、開放の小さな音。
基本、地球上の艦艇は有事に備えて外部からの緊急アクセス手順が設けられているが、このビッグホエール級も幸いか、アリャリァリャの確認した潜水艇と同じだった。
あるいは実際、過去に強奪された地球製の部品が使われているのか?
「エアロック内への注水を確認。ハッチ、開放よろし」
リティの『電子戦・連携支援ユニット』から渡された情報へ、一気に開錠。
「こういう時、ケルベロスは楽なもんだ」
「潜水病とかないからなっ」
『Secret Code』を濡らす海水を払い、排水を待たず奏とリーズレットが内部側のハッチへと飛び上がる。ここからは時間の勝負だ。
気付かれず、どこまで近づけるか。
「いや……そううまくはいかないか」
マークの肩を借りて引っ張り上げられたティーシャは、ビッグホエール級の無機質な体内へと小さく声を漏らした。
●システム起動
潜水艦特有の狭苦しい艦内を、ティーシャは『アームドフォートMARK9改』に接続した残霊のジャイロフラフープで切り裂き抜けた。
「準備の時間は与えん、デウスエクリプス!」
「合わせて突入する。SYSTEM COMBAT MODE……!?」
だが真っ二つとなった発令所の扉に飛び込んだマークを迎えたものは無数のドリル型ミサイル。
小型に見えるスピアガンから放たれた死の切っ先が『2型追加装甲』を容易く貫き、突き抜けていく。
「ふぅ、間一髪かな。まず一つ……どうした?」
「て、敵機健ざ……!」
回避させたはずの『デウスエクリプス』の戦輪が、脇に控えたガジェットシーカーを両断。
その驚愕をついて逆撃を浴びせたのは『響』と『モラ』、リーズレット達二人のボクスドラゴンの属性……いや、属性を帯びたリティの『強行偵察型アームドフォート』による砲撃。
そして他ならぬ、オパール配下のはずのガジェットシーカー。
『R/D-1、侵入。エクスガンナーシステムより指令送信……』
「侵入点の監視カメラは周到でしたが、対処できました。擬似螺旋炉駆動、ナノマシン再散布、ダミー投影開始」
撃ち抜かれたかに見えたのはピコの『多重分身の術』。
その拡散されたナノマシンを伝達し、かつて激突したエクスガンナーより接続した『エクスガンナーシステム ver.β』を媒介としたマークの『ELECTRONIC DIVE』電子攻撃が、発令所に混乱を広げていく。
「うわっちゃぁ……やっぱそんなうまくいってくれないか」
「あの程度の小細工、この天才にかかれば造作もないこと……と言いたいが、ティーシャおねえの目がなければ危ない所じゃったわ」
「仕掛けるならかわしようがない所だろうとは思った……それと姉だの妹だのは勘弁してくれ」
ハッチの仕掛けに気づいたのは、勝ち誇るウィゼの脇で思うところありそうな顔のティーシャ。
彼女は監視カメラを注意するにあたり、回避できない場所には必ず仕掛けてくるだろうと読んだ。
「うむ? そういうわけで、この潜水艦はあたし達がいただくのじゃ」
周到な備えも見破り、初手を奪い取ったケルベロス。大胆なウィゼの宣言には、オパールも思わずか口笛をふいた。
「まったく、鮮やかなものだね……やってくれたのはそちらのマスプロかな? シーカー、命令更新。速やかに」
『エクスガンナーシステム、収集情報よりオパールの戦力評定をアップデート。改良型エクスガンナーシステムの搭載を確認、配下ダモクレスとの連携を警戒』
オパールの放つスピアガンの矢じりが衝撃波を伴い、分身を突き破ってくるマークのナパームミサイルを迎え撃つ。
互いの指揮管制システムの相似を、言葉以上に示しあい、二つのエクスガンナーシステムが激突する。
「反撃開始だ、ショルダーハックはご遠慮願おうかな」
『警告、命令系統遮断。目標のセキュリティアップデートを確認』
オパールの鳴らした指の音がガジェットシーカーたちを誘導する。
いや違う、『R/D-1』戦術システムが警戒を鳴らしたのはその死角から展開された無人機たち。
「なんダ、ちっケーナ!」
「海鳥……いや、ペンギン!?」
腿付近の装甲パネルが展開、スカート下から射出されたのは黒白の弾丸めいたボディの鳥型ドローン。
飛びかかる機動にチェーンソー剣を振り回すアリャリァリャを掻い潜った姿に奏は思わず漏らす。
磨かれた潜水艦の床を滑り抜けていく姿はまさにペンギン・ドローンとでもいうべきものだった。
●オパール・アタック
「滑ってクンぞ!」
「水陸両用、なるほど確かにそうだ!」
意表をつくドローンの機動にリーズレットが得心したと警告する。
敵ドローンの動きはユーモラスな見た目によらず素早い。コンソールに黒薔薇を絡ませるリーズレットの『【リッツ】 黒薔薇型攻性植物』が展開した黄金の果実がついばまれ、敵の配下ダモクレスが電子の声で支援されていく。
飛び交んでくるガジェットシーカーのドリルに、ボクスドラゴン『響』が割って入り、何とか受けるも間一髪。
「いかん、散るのじゃ!」
ウィゼの警告と同時、一斉射撃。四機のガジェットシーカーの頭部ドリルが開き回転と同時、小型のドリルミサイルが放たれる。
「く、弾幕か!」
「リズ!」
動いているうちにと物資の確認を図ったリーズレットだが、この猛攻には離れるしかない。
コンソールの破壊も厭わぬ爆発の嵐に、奏がすかさず『鎧聖降臨奥義』を試みるも、その鎧進化にもペンギン型ドローンとドリルミサイルが食らいつく。
翻した『Secret Code』の裾が切り裂かれ、勢いに引っ張れる体を何とか踏ん張り耐える。
「ペンギンってヨリ、カラスみてーだナ! んガぐっ!」
アリャリァリャの驚きとも楽し気ともつかぬ声で振り回すチェーンソー剣が薙ぎ払うが、その瞬間をガジェットシーカーのスパイラルアームが迫る。
逆手のチェーンソー剣、更には噛み付きまで駆使して受け止めるアリャリァリャ。
ダモクレス特有の一糸乱れぬ統制はオパールの専門外の地形においてさえ、その威力を際立たせる。
「WARNING,ACTION COVERING」
「ありがとうございます……あまり愉快な兵装ではありませんね」
「だったら、どうする?」
ならばどうするか。迫るドリルをマークに庇ってもらいながら分析し、ピコが反撃に掲げたのは二枚一対の氷結輪。
放つ先はスピアガンを構えて挑発するオパールへ、否。天井近く、宙へ。
「押し切ります」
呼び出されるはヨトゥンヘイムゴーレム。
増設型擬似螺旋炉の回転に氷結輪が同期する。モノトーンを基調とした衣装が冷気にざわめく。
踏み込む巨大な氷の巨人の拳が、ドローンもろともにガジェットシーカーを叩き潰す。
「この狭いなかで無茶するね!?」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、狭所での戦いの定石などあたしの理論はとうの昔に通過済みじゃ!」
分断されたシーカーたちへとさらに降り注ぐ光の雨に、ウィゼの通告するは正に『世界法則さえ捻じ曲げる、あたし理論なのじゃ』。
「ドローン各機、座標起動パターンB。レーザー反射角演算調整……」
「風穴を開ける!」
かわしてなお追いかけるリティの『リフレクタードローン』、ティーシャの『バスターライフルMark9』からのフロストレーザーを織り交ぜた第二射がガジェットシーカーを掃討、また一機。
凍結に砕け散る機体の霧を煙幕に、一気にウィゼとアリャリァリャがオパールへと歩みを詰める。
「ギッヒヒヒヒ! まとめていただきマス!」
「おぬしの扱うエクスガンナーの理論は完全に論破した! もっとも異論反論あるというならいつでも受け付けるのじゃが……?」
「ならこういうのはどうかな。『勝負は水物』ってね!」
水兵服の裾を裂いてせまるズタズタラッシュをオパールはスピアガン先端で銃剣のように受け流す。ハンドガンサイズでありながら、その回転を加えた射出槍部はアリャリァリャの剛力に全く負けていない。
「水は高所から低いところに流れるのが相場、すなわち劣勢は覆しえぬ!」
「けれど海嘯って言葉もあるよね!」
反撃の言葉と共に放たれる水中槍がチェーンソー剣を跳ね返し、ウィゼを狙う。地烈撃が割り込むガジェットシーカーを粉砕する。
まさに川をさかのぼる海流の如く。戻し切れぬドワーフ少女の勢いをトライデントの穂先が貫いた。
●沈むもの、浮かぶもの
「そうはさせん、ウィゼ!」
弾け飛ぶは二重の鎧。ボクスドラゴン『モラ』の属性をインストールされた『鎧聖降臨奥義』が作り出す機械仕掛けの装甲は凍結に砕けながらも、ウィゼを致命傷から守り抜いた。
「ナイスフォローだ、モラ! 誰一人欠けさせないようにだ、リズ!」
「あぁ、私たちの連携を見せてやろうじゃないか」
言う間に伸びるは青藍の薔薇。
「常闇より出し無数の薔薇よ、鋭い棘で彼の者を切り刻み、その蔦で薙ぎ払い束縛せよ」
庇いに滑りこむガジェットシーカーを『ローズ・バインド』が縛り上げ、引き絞り、千切り咲く。
「まずは腕かラ!」
「っく――」
隠密に気を遣わされたぶんまでか、喧しさをまして迫るアリャリァリャと両手のチェーンソー剣。その『名物・大魂颪焼』の太刀筋を前にオパールは身体を半身に捻り、左腕に受ける。
腕が飛ぶ。
「ぐっ、うぅ! 今少し、もたせてもらうよっ!」
「リティさん、データは!」
「撮影は出来ている、けど……」
リーズレットに答えたリティの『増設レドーム・センサーユニット』が捉えた中枢部を写すが、それはわかりやすく人の理解を超えている。
「何もない? ……いや、そうか」
奏の察した意志にアンダーウェアから染み出すオウガメタル『Insieme singen』が『メタリックバースト』の輝きで、仲間たちを癒し感覚を際立たせる。
つまりかの共生者と同じだ。複雑怪奇な潜水艇の操縦を、わざわざ不自由な四肢で行う必要などない……ましてこの艦の艦長は水中戦に特化したエクスガンナー。
「またぞ異常個体に持っていかれても困るし……ね?」
「っ」
身を転がしながら放つスピアガンがピコの『母のユニット』を示し、刺す。遡る光。
「……元は貴様たちが奪ったもの、非難される謂れはない」
「反論は、できそうにないかな……!」
スピアガンの切っ先は割り込むマークの『HW-13S』防盾に突き立っていた。
オパールの体はオウガ粒子のセンスに導かれたティーシャのゼログラビトン弾に貫かれていた。
爆発。
それもオパールだけにとどまらず、遠く近く、二度三度。
「しまったのじゃ! オパールが艦の制御系に同期していたということは……」
「なんカ……斜めってンゾ!」
自爆を阻止せんと身構えたウィゼが気づいたのと、アリャリァリャが声を上げたのは同時。
「脱出だ、急げ!」
飛びついたアリャリァリャが降り注ぐ荷物をみじんに刻み道を作るなか、リーズレットは傾き始める船体から飛び上がり、発令所の入口を掴み仲間たちを呼ぶ。
「情報はあるだけ掴んだ、退くぞ!」
「回収している余裕は……なさそうですね」
掴み上げられた奏を尻目にバラバラと転がっていく資材。名残惜し気にもピコは判断し、機動用『スラスター』を吹かした。
ご丁寧にも脱出を阻もうとする隔壁をかわし、エアロックのハッチへと身を躍らせる。
「マーク!」
「HW-13S PURGE!」
ティーシャの声に引っ張られ、最後尾のマークが引っ掛けた『HW-13S』防盾を切り離してハッチへと飛び込むのと同時、ひときわ大きな爆轟。
衝撃に身を押され、ケルベロスたちは『ビッグホエール級“オパール”』の最期から海へと飛び出した。
「自爆……ってコトはコギト玉が残ルハズダナ?」
「それに情報もだね……ただ、ひとまずだ」
舌なめずりするアリャリァリャにリティは呟く。
作戦の目標は達成した。発見があるとして、ここから先は事後の話だ、まずは傷つき疲れた体を休める時だろう。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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