死神たちのリベンジ!黒く染め替えられた魂

作者:stera

 深夜、人気のない霊園で、ふわりふわりと体長2mくらいの怪魚が3体中空をゆらゆら泳ぎまわっていた。
 青白く発光しながら、ゆらりゆらり魔法陣のようなものを描き出す。
 以前、ケルベロスとの戦いで惨めに敗走した彼ら。
 ケルベロスは強い、それなら……!
 やがて、光の中心に浮かび上がったのは狐のウェアライダー。
 死神たちは、かつて神造デウスエクスだった、ウェアライダーをサルベージし使役する事を思いついたのだ。
 嬉しそうに跳ねる死神たち。
 知性を失い、ただ戦う道具として蘇った『彼』は、人の集まる市街地へと歩き出す……。

「皆さん、助けてください! 大変でーす!!」
 パタパタと笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)はケルベロスの仲間達の方へ駆け寄ってきた。
 「前に、ねむのヘリオンの中でイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)ちゃんとお話したことがあって。鎌倉の戦争前に、死神を倒しに行ったことがあったのを覚えてますか?その時は、ケルベロスの皆さんが頑張ってくれたおかげで死神の活動を邪魔することに成功しました。でも、あそこで、取り逃がした死神がいたでしょう。逃げ出した死神たちが、いつかもっと悪いことを考えてリベンジしようとするんじゃないかって話していたんですが、やっぱり、あの時の死神達は、まだ諦めていなかったみたいです」
 ねむの話では、死神たちは、昔亡くなった狐のウェアライダーの魂をサルベージするらしい。
 場所は、鎌倉郊外にある海を見下ろす高台の霊園です。
 本来は、心優しい性格だったのですが、サルベージされる狐のウェアライダーには完全に知性は無く、死神たちの戦う道具でしかありません。
 その姿も、肉を切り裂く為の鋭いツメと食いちぎるための牙を剥き出した凶悪な獣の姿に変わり果てています。
 死神は、噛みついて攻撃をしてきます。
 周辺には、夜ということもあり人気はありません。
 整備された霊園は足元は良好ですが、街灯は流石に少なく、暗い感じです。
 死神たちは墓地の前の道路の真ん中で、魔法陣を描き魂を召喚しています。
 脇道はありません。
「死んだ人を都合よく復活させて、悪事を働かせようとするなんて、そんなひどいこと許せないです! お願いします、皆さんの力を貸してください!」


参加者
鬼部・銀司(ヤーマの眼・e01002)
柊・桐華(だるだるキャット・e03229)
カーネリア・リンクス(黒猫侍・e04082)
武器・商人(闇之雲・e04806)
望月・護国(巣作りドラゴン・e13182)
虹・藍(虹のかけら・e14133)
白森・陽(元野生児のエルフ侍・e14913)
光野・正法(燃費の悪い炎熱機関・e20456)

■リプレイ

●安眠妨害
「あー……まったく、面倒だなぁ、面倒な事嫌いなのに」
 めんどくさい、そう言いながらやる気なく歩く柊・桐華(だるだるキャット・e03229)。
 逃げまわったあげく、また懲りずに現れ厄介事を起こそうとする死神たち。
 たしかに、迷惑極まりない話だ。
「依頼を受けたからには、やるしかなかろう?」
 望月・護国(巣作りドラゴン・e13182)は、照明がきちんと点くか調べながらそう問いかける。
「まー……ここサボると余計にめんどくさい事になるからねー……。僕の平穏なだるだる生活のためにも、ちゃっちゃと始末しますかねー……」
「なるほど。変に気負わず、普段の皆の実力を出せば勝てる相手であるよ。そうだ、ココアクッキーがあるが、どうだ?」
「食べる―」
「美味しそうなクッキーだね」
「よかったら、皆も食べないか? 作ってきたのだ」
 差し出されたクッキーを口にする虹・藍(虹のかけら・e14133)。
「手作り? ……ん、美味しい!」
「拙者も1ついただくでござる。……護国殿は良い趣味を持ってござるな。美味しいでござる♪」
 白森・陽(元野生児のエルフ侍・e14913)も手を伸ばしそう言った。
「それにしても、死神のやることっていったら……これじゃうっかり死んでられないね」
(「死んでやるつもりは微塵もないけど」)
「しかし、オレもそうだが、ウェアライダーが神造デウスエクスであったことを利用されるなんてな」
 カーネリア・リンクス(黒猫侍・e04082)は、そう言いながら、差し出されたクッキーを1つ、指で弾くと口に放り込む。
「拙者の知り合いにも狐のウェアライダーがいる為、少し複雑な心境でござる」
「依頼の内容を聞いた時から、優しいヤツを無理矢理戦いに利用しようとする死神のやつらが、俺は許せないな」
 話を聞いていた光野・正法(燃費の悪い炎熱機関・e20456)が言った。
「拙者も同じ思いでござる。狐のウェアライダーの人は、戦闘後、お墓にキチンと供養してあげたいでござるよ」
「ああ、誰かを傷つけるなんてことはそのウェアライダーも望んでないはずだ。全力で止めるぞ!」
 そんななか、散らした紫陽花が飾る前髪で素顔を隠した武器・商人(闇之雲・e04806)が、
「でも、死神って興味深いよねぇ。魂のサルベージ……あれ、鹵獲できるのかナ? ヒヒヒヒヒヒ……!」
 そう、呟くように言って嗤うのを聞きつけて、鬼部・銀司(ヤーマの眼・e01002)は、吐き捨てるように言う。
「所詮、無駄に生き延びて厄介事を引き起こす雑魚どもだ。次は無い。此処で確実に殺す」

●挟撃
 暗闇に包まれた真夜中の墓地。
 そう聞いたただけで、普通の人間なら不気味に思うところだが、怖がる様子も見せず、先に進むケルベロスの仲間達。
 途中、先の打ち合わせ道理、二手にわかれ目的地を目指した。
 そして。
「見つけたぞ!」
 正法が叫ぶ。
「ヒヒヒ、こんばんわ」
 わざとらしいほど深々お辞儀する商人。
「死体を起こすなんて、死神って随分悪趣味ことするのね。冒涜も良い所よ!」
 死神とともに居たのは、1匹の大きな白狐。
 商人・藍・正法、三人の姿を見ると、かつては護るために戦っていたであろう彼は、キバを剥き、唸り声を上げる。
 前に飛び出た正法。
「お前は本当に戦いたいのか?! まずはこれ食べて落ち着くんだぞ!」
 取り出したのは油揚げ……。
 しかし、凶暴な死神の道具として蘇った白狐にはやはり自我は無く、油揚げなどには目もくれず、突進すると靭やかな、しかし凶暴な爪のある前足を振り下ろす!
「うぁっ!」
「やはり、自我などスッカリ消え失せてしまっているようですよ? 少し手がかかりそうなコだけれど、大人しくなってもらいましょう」
 商人は幅の広い袖から細い指を覗かせる。
「腕を止め、足を止め、鼓動を止め……ほら、死すべき運命と踊ってごらん? ヒヒヒヒヒ……!」
 商人の屍体七十五歩にて死す(モータル・ステップ・ダンス)がうちこまれると、白狐は苦しげな唸り声を上げ首を振る。
 すかさずライトニングウォールで支援する藍。
 後方で悠長に構えていた3体の死神が動き出そうとしたその時だった。
 パッっと、暗闇を照らす幾つものライトに灯りが灯る。
 護国の案でギリギリまで光源を付けず回りこんでいた銀司・桐華・カーネリア・護国・陽の五人は、白狐と死神の距離が開いたこの隙に、一斉に攻撃を仕掛ける!
 暗闇の中、前へ踊り出る銀司。
 雷光を思わせる蒼い炎が、左目から一筋の軌跡となり尾を引いた。
「散れッ! 外道ども…ッ!!」
 後方で油断し1列に並んでいた死神たちを斬りつける。
「じゃ、とりあえず蜂の巣になってみるー……?」
 桐華は、けだるい仕草で死神のいる方とは別の方向へ銃を向けると引き金を引いた。
 しかし、弾丸は計算された弾道描き、死神を狙い撃つ。
 のけぞる死神。
 その懐に飛び込む陽。
 野生の居合、暗闇に、一瞬刃の煌きが見えた。
「……もう斬り終わっているでござるよ?」
 ドサリと、死神の身体が地面に沈む。
 カーネリアが、告げる。
「『死』っていうのは、少なくともこの地球に住む奴には特別だ。生まれるのも、死ぬのも一度きり……失ったモノは返ってこない、望んでも還らない……だからこそ命は尊いんだ! それを、捻じ曲げ利用する奴等は許せない。オレ達はケルベロス! 冥府の門を守る、地獄の番犬!!」
 舞うような鮮やかな斬撃で、死神たちを斬りつけるカーネリア。
「望月を包む宵闇の如く……!」
 呼応するように、常人では考えられない速さで前に踊りでた護国は、グッと拳を握り、弱った死神の身体に望月流対話術その八・月影(モチヅキリュウタイワジュツソノハチ・ツキカゲ)の、強烈な一撃を叩き込む。
 死神は、地面に倒れ数度のたうつように跳ねたが、すぐにその動きを止めた。

●理のままに
 死神と白狐は、その傷を治すためケルベロスの仲間に喰い付いた。
 最後のあがきともとれるその攻撃。
 動きを止める為、白狐の動きを止める商人。
 その翼から断罪の光が放たれる。
 バサリ。
 澄み切った淀みない空を思わせる、その長い髪と揃いの美しい翼を羽ばたかせ、
(「あと少し、皆を支えきるよ!」)
 藍は、すかさず仲間を回復する。
「奔れ雷勁ッ! その真芯を錐穿つ……ッ!」
 銀司の右手に握られた刀の切っ先が、確実に敵を捉える。
 あと一手、桐華が動く。
 「ちゃっちゃと吹っ飛べー……」
 無造作に放たれた弾丸は、無数に乱反射する跳弾となり……死神に、永遠の眠りを促す。
 これまで、逃げ惑いながら反撃を目論んでいた死神たちの最期だった。
「こちらのカタは、ついたでござるよ!」
 陽が仲間達に声をかける。
 死神たちは全て倒れた、残すは蘇った狐のウェアライダーただ一人。
 離れた敵に、気咬弾を放つ陽。
 しかし、敵は素早く身を翻しその攻撃を避ける。
 それを見たカーネリア。
「そこで大人しくしてな!篁流射撃術――“霧雨”!!」
 重力をまとう手裏剣が、白狐の手足を切り裂いていく。
 白狐は苦しげな声を上げ、明らかにその動きを鈍らせる。
 駆け込んだ護国は、地を蹴り高く飛び上がると、頭上から手にしたルーンアックスを敵めがけ振り下ろす。
「ギャン!!」
 正法が、左拳を強く握りしめる。
「炎熱機関、出力最大!」
 左手内部に宿る地獄の炎が燃え盛る。
 熱を帯び白熱する装甲。
「お前が無理矢理戦わされてるっていうなら……止める、止めてやる! 全力で!!」
 たとえ自我を失っていても、今こうして戦う事を、彼は決して望んでいないはず。
 これまで積み重ねられたダメージが元で、白狐の動きは明らかに鈍っている。
 渾身の一撃、トリディティフィストが、敵の体にめり込んだ。
 白狐は苦しげなうめき声を上げ、ドッと音を立て倒れると、静かにその動きを止めた。

●そして安らかに……
 墓地に、再び静寂が戻った。
「終わったな……」
 刀を納め、漆黒の前髪を掻き上げたカーネリアが言った。
 白狐の姿は、かけられた魔法がとけたかのように崩れ消えていく。
 その光景を前に、銀司が穏やかに言う。
「眠っているところを叩き起されて散々だったな。過去に十分戦ったアンタは二度と目を覚まさなくて良い。……今起こっている厄介事は、生きてる奴が片付けることだ」
「ホント、たたき起こされていい迷惑だったでしょ。さ、もう一回眠りましょうか。今度はゆっくり安らかにね」
 歩み寄った藍もまた、そう声をかける。
 道具として無理に起こされた狐のウェアライダー。
 再び、安らかに眠れますように……。
 暗闇の中、道端に咲く小さな黄色い花を見つけた護国は、その小さな一輪を供えるように道に置く。
「今はこれしかないが、また改めて花を手向けよう。せめてもう一度、安らかに……」
 戦闘中に、壊れた箇所があるかもしれない。
 死者を弔う場所なだけに、綺麗に元に戻したいところだが、この暗さでは今は無理だろう。
 陽も頷くと、同じ様に手を合わせた。
「また改めて来るでござるよ」
 明るくなったらもう一度ここに供養に来よう、その想いは同じだった。
「安心して、眠ってください~、ただ、ほんの少しだけでも、ねぇ?……ヒヒヒ」
 商人は、小瓶を手になにやら怪しげなほほ笑みを浮かべる。
 何か気を引かれるような事でもあるのだろうか?
 相変わらず、掴みどころのない様子の商人。
「まったく、だるくて面倒な事は嫌いなんだよねー……相手倒してもまた復活するとか、面倒過ぎるっての……終わったしー、帰って寝よ」
 桐華は言うと、あくびが出そうになる口元に手を当てながら、てくてく歩き出す。
「とりあえず、もうこんな夜中だし、ひとまず帰ろうぜ」
 補給のため、ポーチのお菓子をもぐもぐ食べつつ正法もそう声をかけた。
 敵はもう居ない、作戦は成功だ。
 すべてを終わらせ、歩き出すケルベロスの仲間達。
 去り際、振り向いてカーネリアは言った。
「もう、苦しい事も、悲しい事もないぜ……だから、おやすみ」

作者:stera 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。