ミッション破壊作戦~空を見上げて溢れた涙

作者:ほむらもやし

●梅雨曇
「ユグドラシル・ウォーお疲れ様。諸君のすばらしい勝利で希望への道を見せてもらった。本当にありがとう。さて2020年も半分が過ぎたね。戦いから帰還したばかりでお疲れの所、申し訳ないけれど、で、今月もミッション破壊作戦を進めて行こう」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、追加の仕事をしても、いつもの仕事が無くなるわけではないから、こちらの仕事もよろしく頼むよ――と、頭を下げた。
「で、今から向かうのは、エインヘリアルのミッション地域のいずれか。まず、選択可能な地域の中から一箇所、参加したメンバーで相談して決めてほしい」
 攻撃は、ヘリオンを利用した高空からの降下作戦を実施する。
 通常よりも高い高度からの降下である。ケルベロス全員が攻撃を実施する前にヘリオンは撤退するため、攻撃を行ったケルベロスは自力でミッション地域中枢部から撤退しなければならない。
「グラディウスは降下攻撃の際に魔空回廊の上部に浮遊する防護バリアに刃を触れさせるだけで能力を発揮する。手放しさえしなければ、叩き付けても突いても、切りつけても使い方は自由だ」
 ミッション破壊作戦の戦術はある程度確立されていると言える。
 経験者にとっては常識でも、初めての者には分からないこともある。
 一度使用すると蓄えたグラビティ・チェインを放出して主要な機能を失うが、1ヶ月間くらいグラビティ・チェインを吸収させれば再使用できる。
 使用したグラディウスを持ち帰る。これも重要な任務である。
 山、島嶼、市街地など、ミッション地域の地形や状況は、向かう場所によって異なる。
 山中を素早く移動するのに適切な作戦が、掘割のある城址で同様に適切とは限らない。
 地形に応じた行動を心がけるだけでも、撤退のスピードは違ってくるだろう。
 攻撃を掛けるミッション地域中枢部は、通常の手段では立入ることが出来ない敵勢力圏。
 時間をかけ過ぎれば、孤立無援のまま全滅することもあり得る。
「うっかりしがちだけど、上空から叫びながらグラディウスを叩きつける。という攻撃は、相当に目立つ。そしてこの叫びは『魂の叫び』と俗称され、攻撃の威力を上げることに一役買っている」
 グラディウス行使の余波である爆炎や雷光は、非常に強力なダメージを与え敵軍を大混乱に陥れる。
 発生する爆煙(スモーク)によって、敵は視界を阻まれ、連携など組織的行動が出来ない状況である。
 グラディウス行使した攻撃を終えてからスモークが効果を発揮する時間は数十分程度という印象だ。
 敵中枢に大胆な攻撃を掛けて、一度も戦わずに逃走できるほど甘くはない。
 ミッション破壊作戦では設置された強襲型魔空回廊の破壊を目指している。
 魔空回廊の破壊はその後のミッション地域の開放という結果に繋がって行く。
 立ちはだかる敵の戦闘傾向は、ミッションで既に得られた情報も参考になるはずだ。
「エインヘリアル勢力の手に落ちたままの地域は数多い。少しでも解放に繋げられるように、頑張って行こう!」
 人々の苦痛を取り除く為に働く人たち、勇気と思いやりに溢れる行動を起こしている、名乗らない人たちが、世界には数え切れない程存在する。
 世界が安定しているように見えるのは、誰かがそのために行動しているからだ。
 困難な時代であるからこそ、続けなければならない仕事がある。


参加者
ペテス・アイティオ(オラトリオのヤバくないほう・e01194)
紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)
安海・藤子(終端の夢・e36211)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)
 

■リプレイ

●降下攻撃
 栃木市。県名の由来ともなった地は小江戸とも呼ばれ、江戸から明治に掛けての風情を残す地方都市だった。
 その一画に悪しき光と共に魔空回廊が現れてから3年。占領は未だに続いている。
 明け方の空を飛ぶヘリオンに揺られながら、紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)は頭を抱えていた。
「気持ちまでジメジメしてきた……ああ、神様今回もうまく逃げられますように」
 この日、栃木市の上空は雨雲に覆われていて肉眼で地表の様子を見ることは出来なかった。
「街中よね? 道もあると思うし、神経質にならなくとも何とかなるんじゃないの」
 安海・藤子(終端の夢・e36211)の声にしぶしぶという様子で、英賀は頷き返す。
 影響はないと理解できても、見えるはずのものが見えないと不安になる。
 そんなタイミングで目標上空への到達を告げる非常灯が灯り、扉のロックの外れる軽い音が響く。
「着いたみたいです! ミッション地域も残す所あと少し。一つ一つしっかり取り返していきましょうです!」
 ペテス・アイティオ(オラトリオのヤバくないほう・e01194)が、どことなく前向きなムードを漂わせながら扉を開け広げた。
「わわっ、真っ白です!」
 湿気を帯びたヒンヤリとした空気は季節が春先に逆戻りしたようで、視界が悪い戸惑いもあったけれど、ここまで来たからには絶対に解放したい気持ちが、小さい胸の内に漲って来る。
 ウエストポーチはちゃんと固定されているか、グラディウスは持っているか、ウーロン茶は大丈夫か、忘れ物がないことを確認すると、ペテスは大きく息を吸い込んでから――えいっ。と、雲の中に飛び出して行く。
 白くて暗い。
 雲中で魔空回廊の方向を見失うことはなかったが、栃木市のこと、自分自身のこと、今まで見知りした様々な記憶や思考が、ペテスの視界に映像となって浮かんでくるような気がした。
「栃木と言えばくだもの!」
 そのなかでも一番大切に感じたのは、楽しかったり美味しかったりした思い出。
 地上が近づくにつれて、雲は薄くなり、攻撃目標の全容も明らかになる。魔空回廊の上部に浮遊する半球状のバリアが急速に大きくなるにつれて、思いは具体性を増して行く。
「これからの季節のぶどうに秋頃のなし、春になったらいちごです! 毎年楽しみにしてるんです!」
 楽しみにしているのは、栃木市に暮らす人が生活の糧としている産品。それは住み慣れた栃木市を追い出された人たちの抱く理不尽に対する怒りをも代弁している。
 ペテスは激突の間際に叫び。手にしたグラディウスを叩き付ける。
 閃光。ズルッと滑ったような感覚がして身体が浮かび宇上がるが、同時に硬く澄んだ音が響き渡り、火球が生まれる。
「ちっきり返してもらいますです!」
 浮かびあがった身体が一回転する。
 バリアにぶつかりそうになるおでこを守るようにグラディウスを突き出す。
 瞬間、決して動かないように見えた堅牢な壁――バリアが揺らいだ。
 閃光の余韻が残る中、火球は急速に膨張する。熱を孕んだ上昇気流は空を覆う雨雲に大きな孔を開ける。
(「やることはどこのミッション地域も同じかもしれませんが……」)
 昇って来る熱気を頬に感じながら、攻撃姿勢に入った、帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)は魔空回廊を視界に収めると、記憶を手繰るように瞼を閉じた。
「ここは、多くの人達が平和に暮らす街なんです!」
 グラディウス行使の余波である雷光や爆炎が街に破壊をもたらす悲鳴のような音が聞こえる。
「そこに勝手に現れて、勝手なことを言って好き放題暴れるなんて……許せねー!」
 消え去った雨雲の空間を埋めるように、炎を含んだ赤黒い雲が空高く昇って行く。
「ここは、てめぇらの遊び場じゃねーんだよ!」
 人の手に街を取り戻す為に、行使する力が敵だけではなく、そこにある物に遍く襲いかかることに歯噛みしながら、翔は満身の力と共にグラディウスを突きつけた。
「土足で人の家の庭……いや、家も人も踏み荒らすようなゲスな連中に引導を渡してやるぜ!」
 怒りを孕んだ一撃は再びバリアを揺らして、亀裂を刻みつける。
 発生した爆炎は荒ぶる大蛇の群れの如くに拡がって行く。
 悪性腫瘍を切除しようとすれば、周囲の健全な細胞をも一緒に傷つけてしまう。
 悪性腫瘍は魔空回廊の比喩であるが、英賀にとってグラディウスの行使は外科手術と似たものに感じられるのかも知れない。
「お前のような光はこの地球で誰も望んではいない――」
 英賀は叫び、そしてバリアにグラディウスを向ける。
 その刹那に脳裏を過るのは他人から向けられる目線。
 ケルベロスとしての役割は果たしている筈だったが、それでも漠然とした不安が洗っても取れない血の汚れのように染みだして来るような気がする。
「……彼らの希望はッ。僕ら、ケルベロスにある!」
 疑念から来る不安を振り祓うように、グラディウスを叩き付ける。マグネシウムの燃焼の如き鮮烈な炎が奔流となって溢れ、バリアの曲面を融かす様にしながら流れ落ちて行く。
 流れ落ちる炎が地表を火焔地獄に変貌させる様を見ながら、藤子はグラディウスを構える。
「ま、あたしの場合、十割私怨だけどね。泉がいなきゃこっちに滲んで来れなかった死者どもがいつまでも破壊活動してんじゃないわよ」
 火花を散らしながら融け崩れて行くバリアは誰の目にも崩壊寸前に見えるだろう。
「まるで融けかけのソフトクリームじゃないか」
 醜い。このまま一挙に破壊してしまえと意気込んで、藤子はグラディウスを突き出す。
 バリアに突き刺さったグラディウスから破壊の力が溢れ出る。
「死神関連ってだけでも癪に障るのに、光も闇も意のまま? そんなたいそうなことできるんだったらもっと有意義に使えってんだ」
 自分が同じ力を使えるならもっと有意義に使うだろうと皮肉を込めて叫ぶ。
「ハウス栽培で力を使えばもっと効率いいんじゃない? 低コストでさぁ――」
 だが目の前には、赤熱して融けかかったバリアがあるだけ。
 叫びは届いているかも知れないが、荒れ狂う雷光と爆炎のなか、言い返す余裕などあるはずも無い。
「そんなこと、戦士様達には関係ないものねぇ」
 言いたいことは叫んだ。そろそろ終わりにしようと持てる力の全てをグラディウスに込める。
「ほんっと脳筋集団め、とっとと消えてなくなれ。いや、冥府に叩き返してやんよ、ワンころ共が!」
 融け落ちて消える――かに見えたバリアが持ちこたえる。
 大気が悲鳴で充満しているようだった。
 そこに引導を下すべく、空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)が突っ込んで来る。
「光も闇も支配する、か」
 スケールが大きすぎる話。荒唐無稽にも聞こえる大風呂敷に思える。
「それでやることが虐殺に破壊だと」
 光と闇はこの世の森羅万象に関わる――のに。
 融けかけたバリアは魔空回廊と入り交じって、ドロドロに腐った肉に蟲が湧いているような有様だった。
「くだらないな」
 それは乗数を理解していない小学生が、大きさを表現したいために無量大数を口にするのと同じ思考だ。
 だからこそ、熾彩は絶対に成功できると確信する。
「そんな暴力的なだけの光に私達は、負けはしない」
 地上に降り立った全員の耳目が熾彩の一挙手一投足に集まる。
 そう光は闇の中から生まれ、闇の中で瞬くものだ。
「この地は取り返させてもらうぞ、図体の大きいだけの駄犬ども」
 死してもと来た場所に帰るが良い。熾彩の突き出したグラディウスがバリアに触れると同時、魔空回廊とバリアは無数の光の粒を散らし、急速に小さくなり始める。
 そして数分を待たずして、魔空回廊もそれを守るバリアも、完全に消滅して消えた。

●撤退戦
 魔空回廊が消え去った後には、攻撃の余波である濃厚なスモークと空を覆う巨大な茸雲が残る。
 まだ朝の早い時間なのに雲のせいで辺りは夜のような暗さだ。
 瓦礫の野と化した市街地のあちこちで火の手が上がる中、一行はミッション中枢地域からの脱出を目指す。
『まさか、我等モーザ・ドゥーグから逃れられるとでも、思っているのか?』
 進路を阻む巨大な影が現れ、同時にやけに堂々とした声がした。
 英賀は間髪を入れずに、小さな手裏剣を地に突き刺して呪術を発動する。
『……ッ?!』
「戦場で名乗りを上げているほうが悪いんだ……卑怯だなんて思ってないよね?」
「まったく間抜けな奴らだな」
 罵りつつも、内心敵が間抜けで助かったと感じながら、藤子はスターサンクチュアリを発動する。
 敵がデータ通りなら、強烈な近単の斬撃を掛けてくる可能性があり、不意打ちを受ければ、クラッシャーの誰かが一撃で落ちていたかも知れない。
 攻撃に偏らせた構成は先手を取れれば、非常に強力だが、守りには滅法弱い。それだけに防具の耐性をはじめ様々な読みが必要とされる。
「クロス、頼むぞ」
 サーヴァントでもせめてあと1人ディフェンダーがいれば攻撃を阻める算段が立つが現状ではこれが精一杯。
 その懸念を象徴する様に、オルトロス『クロス』が光を纏った斧の一撃に打ち据えられる。
 熾彩の射出した氷結輪が、モーザ・ドゥーグの装甲を切り裂き、撒き散らされた冷気が霜を析出させる。
「絶対に食い止める」
『魔空回廊を破壊しただけのことはあるな――だがここは通さん!』
 この敵に場所を守るべき役割があるのか、それとも援軍が集まるまでの時間稼ぎの意図かは分からないが巨大な斧を全力で振り回して威嚇する。
 だがケルベロスたちも舌戦に乗って時間を浪費しないよう気をつける。
 そう口よりも手のほうが速かった。
「これでも喰らいやがれ!」
 声が上がると同時、翔は跳び上がり、巨大刀に変形させた腕を力任せに振り下ろす。
 袈裟懸けに、斜めの軌跡を描く斬撃が紙を裂くように巨大な鎧を断ち切れば、肉体にも刻まれた傷口から噴水のように血が噴き上がる。
 がらん。と音を立てて、切断された装甲が地面に落ちる。
「来たれ、降りそそげ、滅びの雨よ!」
 大人の事情でこんな攻撃をいましても大丈夫なのかと不安だったけれど、今使わなくていつ使う。
 ペテスは真剣な表情でスマホをぽちぽちする。
 来たー!
 未だ充分な濃さを保っているスモーク、その上の真っ暗な雲に覆われた空から数えるのがめんどくさくなるほどの無人飛行機が降ってくる。
 煙の筋を曳きながら、あるいは真っ直ぐに、無人飛行機は飛行機の役割を放棄したように、モーザ・ドゥーグに降り注ぐ。
『なんだ、これは、ふざけるな、やめろぉぉ!!』
 振り回す大きな斧に阻まれて撃墜される機も少なく無かったが装甲の隙間に突っ込んで爆発したり、大事な所に命中したり、モーザ・ドゥーグは無人飛行機の群れ叩き伏せられるようにして膝を着いた。
「梅雨空にお前の血を降らせよう」
 他人から卑怯者に解釈されまいか――そんなことを気にしていたのが馬鹿馬鹿しくなったかのように、英賀は眼光をギラつかせると、敵の間近に迫り螺旋掌を叩き込む。
 触れた掌から流れ込む螺旋の力が暴れ、臓物を掻き回されるような苦痛をモーザ・ドゥーグに与える。
「苦しいなら、そのまま逝ってしまうと良い。楽になれる」
 こんな敵でも一対一で戦えば、それなりに立派な騎士としての戦い振りを見せたかも知れないが、今となってはそれを確かめる術はないし、確かめる必要もないと感じる。
「てめぇの肉片一つ……いや、魂まで残らず全て喰らい尽くしてやるぜ! 消えちまいな!」
 最少の動作から、翔は混沌を放つ。
 攻撃は最大の防御のはず。少しでも撃破を早めるために繰り出した混沌は、モーザ・ドゥーグを窮地に追い込んだが、それでもまだ倒れない。
「……凍て付き、眠れ」
 竜の霊力を孕んだ言葉と共に獲物を掲げる熾彩。次の瞬間、モーザ・ドゥーグの巨体が氷に閉ざされる。
「ざまあないね」
 死に行く運命の敵に対して同情や憐れの感情は湧かなかった。
 ただ、影の如く、藤子は不可視の手から紡ぎ出された斬撃でひそやかにモーザ・ドゥーグの急所を切り裂いた。
 うめき声とともに、氷に閉ざされた巨体が揺らぎ――倒れる。
「えっ? もう倒せましたのでしょうか?」
 攻撃を繰り出そうとしていた、ペテスの目の前で、モーザ・ドゥーグはたくさんの光の粒となって消えて行く。
「帰りましょう。もう少し……いつかこの星を完全に取り返すです!」
 ペテスの呟きに、熾彩は頷きを返し。
「そうありたいものだな」
 改めてグラディウスの所在を確認し、熾彩は呟くと、この危険なさっきまで魔空回廊が存在したミッション中枢地域を離れるために駆け始める。
 連られるように、全員が駆け始める。
 この戦いには勝てたが、次に同じ敵に出会って同じ展開になる保障はない。
 藤子の金色の髪がふわりと棚引く。戦いに傷ついた、オルトロスの傷が塞がって行く。
 勝利の余韻に浸る間もなく、誰もがただ一心に、スモークに満たされた栃木市街を駆け続け、程なくして危険な中枢地域を抜けた。
 かくして魔空回廊の破壊に成功という最高の結果を手に一行は帰還の途についた。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月19日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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