激闘7分間 「鋼鉄大顔面87」を倒せ!

作者:秋津透

 静岡県藤枝市、深夜。
 中心街に並ぶビルの一つが、突然内側から爆発するように崩れ、全長7m程度の大型ロボット……巨大ロボ型ダモクレスが出現する。
 その姿は、頭部だけというかダルマ型というか、胴体や四肢らしきものはなく、巨大な金属塊に戯画化された目鼻口をつけたような異様なものだった。
 地面すれすれに浮遊するダモクレスは、出現したビルに隣接するビルにどん、と当たり、ひとたまりもなく崩壊させる。
 そして、口に当たる部分がパカッと開き、腹の底に響く重低音で、たぶん歌ではないかと思われる異様な音響を発する。
「見よ~ 鋼鉄のでかい面(つら)~ 鋼鉄大顔面~ 87(はちセブン)~♪」
 あまりにも現実感の薄い、むしろ悪夢じみた行動をとりながらも、巨大ロボ型ダモクレス「鋼鉄大顔面87」は、またゆらりと動いて次のビルを崩し、七分後には虚空に開いた魔空回廊に吸い込まれて消えていくのだった。
 
「静岡県藤枝市で、封印されていたとおぼしき巨大ロボ型ダモクレスが復活し、7分後に魔空回廊が出現して回収される、という予知がありました」
 ヘリオライダーの高御倉・康が難しい表情で告げ、プロジェクターで画像を示す。
「出現時間は今夜深夜、出現場所はここ。既に住民の避難は進められており、出現時には近隣には誰もいなくなっています。こちらは出現30分前ぐらいに到着し、待ち構えることができますが、出現する建物の内部等を調べても何もありません」
 そう言うと、康は画像を切り替える。
「予知された巨大ロボ型ダモクレスの形状はこちらです。要するに頭だけで、僅かに浮いて動きます。鋼鉄大顔面89(はちナイン)と自称しており、それが個体名のようです」
 なぜエイティナインでもエイトナインでもはちきゅうでもなくはちナインなのかは、私に訊かないでください、と、康は難しい表情のまま告げる。
「鋼鉄大顔面89は、グラビティ・チェインの枯渇によりさほど強力な攻撃はできないようですが、主として音波を使った列攻撃を仕掛けてくるようです。催眠効果があるようなので、充分注意してください。また、両眼にあたる部分から、破壊ビームを撃つようです」
 そう言うと、康は一同を見回す。
「そして、フルパワー攻撃として、全力回転体当りを一度だけ仕掛けてくる可能性が高いです。まともに当たったら、かなり高レベルのケルベロスでも一撃で戦闘不能に追い込まれる強力な攻撃です。たた、仕掛けた反動で、鋼鉄大顔面89もそのあと1ターン動けなくなるようです」
 すると、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)が告げた。
「敵が催眠音波を使うなら、キュアのできる者は少しでも多い方がいいと思います。私とロコも参加します」
「わかりました」
 でも、気を付けてくださいよ、と、康は応じる。
 そして康は、もう一度画像に目をやった。
「ふざけているとしか思えない形状のダモクレスですが、機能的に、回収を許したら厄介な存在になりそうに思えます。7分間で確実に仕留めてください。よろしくお願いいたします」


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)
皇・絶華(影月・e04491)
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)
メガ・ザンバ(応援歌ロボ・e86109)

■リプレイ

●鋼鉄大顔面との激闘
 静岡県藤枝市、深夜。
 既に避難完了し、人気のない街中。三十分ほど前に到着し、出現を予知された建物を包囲するように布陣するケルベロスたちの前で、建物が内側から爆発するように崩れ、そいつが姿を現した。
 全長、およそ七メートル。予知したヘリオライダーは「巨大な金属塊に戯画化された目鼻口をつけた」と表現したが、実際に目にした日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)の印象は「巨大な福笑い」以外の何者でもなかった。
(「こ、こりゃあ、気が抜ける」)
 蒼眞が思わず声に出さず唸った瞬間、「巨大福笑い」の両眼がぎょろぎょろっとケルベロスたちを見回し、おもむろに口を開いて重低音の異様な声で歌いだす。
「見よ~ 鋼鉄のでかい面(つら)~ 鋼鉄大顔面~ 87(はちセブン)~♪」
(「87? 89(はちナイン)じゃなかったのか?」)
 ヘリオライダーから渡された資料との食い違いに、蒼眞は一瞬戸惑ったが、今はそれどころではない。
 巨大ダモクレスの歌(?)は、まぎれもないグラビティ攻撃で、前衛のケルベロスたちに容赦なく浴びせられている。
 ディフェンダーのメガ・ザンバ(応援歌ロボ・e86109)が皇・絶華(影月・e04491)を、オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)のサーヴァント、オルトロスの『プロイネン』が自分のマスターを、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)のサーヴァント、ウイングキャットの『ロコ』がパトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)を庇い、庇われた方はダメージなしで済むが、庇った方は倍のダメージを負う。
(「しかし『ロコ』が耐えているってことは、ダメージ自体は小さいな。問題は、催眠効果だが……」)
 口の中で呟きながら、蒼眞はダメージを受けた前衛に、癒しと攻撃力の上昇をもたらすブレイブマインを送る。
 そして絶華が、自分を庇ったメガに一礼し、ダモクレスを睨み据える。
「グラビティチェイン枯渇のせいだろうが、攻撃力は弱い。照準も甘い。ポジションは、クラッシャーでもスナイパーでもないな。おそらくはディフェンダーか」
 一同に聞こえるように言い放つと、絶華は高々と跳んで、鋼鉄大顔面に重力蹴りを叩きこむ。
 続いてパトリシアが『ロコ』に一礼、早々とオリジナルグラビティ『デッドウェイトアンカー・FB』を炸裂させる。
「48arts,No.39! デッドウェイトアンカー! ハチはJapaneseでセヴンはEnglishヨ! ビバ! ノウレッジ!」
 本来は、プロレス技「ココナッツクラッシュ」のように相手の頭部を自分の太腿に押し付け、勢いよく地面を踏みしめる技なのだが、何しろ相手(の頭部)が大きすぎるので、頭頂にグラビティ・チェインを籠めた太腿を全力で叩きつけ、その重みで地に縛り付ける変則型となる。
 期せずして、絶華の重力蹴りと似た効果の攻撃が続き、重力に翻弄された鋼鉄大顔面は、地面にバウンドし、目鼻口が滅茶苦茶に動く。
 そこへ後衛スナイパーのローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)が、ドラゴニックハンマーを変形させて砲撃を放ち、顔面のど真ん中に直撃させる。続いてローレライのサーヴァント、テレビウムの『シュテルネ』が飛び出し、スズランの花のように見える凶器(?)で巨大ダモクレスを打ち据える。
 そして、後衛メディックの蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)が蟹座の紋章を描き、前衛に癒しと命中力上昇の効果をもたらす光輝を放つ。メディックの特性で、同時に催眠も解消される。
 更に、後衛スナイパーのファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)が、オリジナルグラビティ『重力騒嵐(グラビティ・ストーム)』をぶちかます。
「あーっはっはっはっ、踊れ踊れーっ!」
 重力嵐で対象をもみくちゃにするという、まさにこの状況にうってつけの攻撃を受け、鋼鉄大顔面は派手に転がり、バウントし、うにゃうにゃと変形。目鼻口は顔面から飛び出しそうになるほどデタラメに動き、もはや「顔」と認識するのも困難な状態になる。
 そこへオイナスが、追い打ちとばかりに二振りの日本刀『揺らがぬ炎』『砕けぬ氷』を同時に使って空間を裂いたが、巨大ダモクレスのでたらめな動きが災いして攻撃が外れる。
 続いて突撃した『プロイネン』も躱され、メガが蹴り込んだ星形のオーラも命中しない。
 そして『ロコ』は翼をはためかせ、自分を含む前衛にBS耐性を付与。ディアナは雷電の壁で後衛にBS耐性を付与する。
 ケルベロスたちの行動が一巡し、ようやく鋼鉄大顔面のでたらめな動きがおさまった、と思いきや。
 巨大ダモクレスは、不意に自らぎゅんぎゅんと回転を始める。
「いきなり全力攻撃か?」
 思わず唸った蒼眞の顔面から、次の瞬間、血の気が引く。浮遊した鋼鉄大顔面は、中衛に一人でいて、かつ攻撃の命中率が悪い蒼眞を「指揮官機」と判断したらしく、早々と必殺の全力回転体当りを仕掛けてきたのだ。
「うわあああああああっ!」
 歴戦のケルベロスである蒼眞の喉から、意識せずに恐怖の叫びが漏れる。全長七メートルの鋼鉄のデウスエクスが、明確な殺意とともに殺到してくる。躱そうにも、躱せる速度でも間合いでもない。
 これまでか、と思った瞬間、ディフェンダーの『プロイネン』が飛び込んできて、回転する鋼鉄大顔面に捨て身の体当りを仕掛ける。
 思わぬ横槍に大顔面は揺らぎ、『プロイネン』を押し潰す形で墜落。凄まじいダメージを受けた『プロイネン』は、耐えきれずに存在を失い、マスターのオイナスの元へ霊体となって戻るが、本来そのダメージを受けるはずだった蒼眞は、無傷で身を避けることができた。
「た、助かった……」
 最後は地面に転がって身を避けた蒼眞は、吐息交じりに呻いて立ち上がる。
 そして、墜落して動かない鋼鉄大顔面を見据えると、不思議な身構えを取りながら言い放つ。
「よくも、人を潰そうとしてくれたな。89だか87だか知らんが、お前の方を潰してやる。くらえ、うにうにっ!」
 蒼眞が不思議な動きとともに呪文を唱えると、オリジナルグラビティ『巨大うにうに召喚(ギガントウニウニコーリング)』が発動。動くプリンのような謎の存在『うにうに』が召喚され、圧倒的な巨体と質量で巨大ダモクレスを押し潰す。さすがに完全に潰せはしなかったが、明らかにひしゃげて亀裂が入る。
「好機だな。同種グラビティの連続になるが、この状態では見切れまい」
 絶華が冷静な口調で告げ、オリジナルグラビティ『蒼銀乱舞(ソウギンランブ)』を発動させる。
「我が武技と精霊魔導の競演……特と味わい散るがいい」
 言い放つと、絶華はなぜか魔法少女の衣装に転身。向上した身体能力で攻撃を仕掛けると同時に、自分と同じ姿の魔法少女を出現させ、精霊魔法による砲撃で武力支援を行う。影分身のような技なのかもしれないが、なぜ魔法少女の姿で行うのかは本人にもわかってないらしい。
 いずれにしても、強烈な攻撃を受け、鋼鉄大顔面の身体(?)に走った亀裂が広がり、内部の機構が露出して火花が散る。
 しかし絶華は、可憐な魔法少女姿のまま、冷徹な口調で呟く。
「やはりディフェンダーだな。思いのほか、ダメージが通らん。すぐに潰せるとは思わないが、ここは可能な限り痛めつけておかなくては」
「ガッテン承知デス!」
 今ナラ、同じグラビティ続けても当たりマスネ、と、パトリシアが『デッドウェイトアンカー・FB』を連打する。高重力攻撃を受け、巨大ダモクレスが更にひしゃげた。

●巨大ダモクレスの最期
「こういうのを、無駄に粘る、というのかな」
 ローレライが、僅かにうんざりした気配を漂わせて呟く。彼女は、通常は十八歳の女性相応の口調で話すが、戦闘中はシャドウエルフの苛烈な炎熱騎士として、男性口調というか戦士口調になる。
 しかし今回、ディフェンダーポジションの巨大ダモクレスが、脅威になるような攻撃はしてこない代わりに、こちらが攻撃を重ねてもなかなか潰れない、という状況に、少々憮然としているようだ。
 ……もしかすると、せっかく用意してきた強力な単体治癒用オリジナルグラビティ『ある英雄の思い出の為に(シンフォニア・エロイカ)』の使いどころがなさそうなのが御不満なのかもしれない。
「とはいえ、七分間粘られてしまったら、こちらの方が無駄働きになってしまう。心して仕留めねば」
 自分に言い聞かせるように呟くと、ローレライはシャドウエルフならではの素早く正確な斬撃技で、鋼鉄大顔面の損傷個所を抉って内部機構を破壊する。
 実際、巨大ダモクレスは、機能しているのが不思議なくらい、激しく損傷している。全身(?)のほぼ半分が粉砕され、残った部分も内部がずたずた。片方の目と鼻が失われ、口とおぼしき場所も単なる裂け目と化している。
 しかし、それでも鋼鉄大顔面は、動き、催眠歌を歌い、残った目からビームを撃ってくる。そして時間は四分経過。五分目の半分ほどが過ぎている。
 ローレライの攻撃に続き、『シュテルネ』が飛び出して凶器を振るう。
 そして真琴が、バスターライフルから冷凍ビームを放つ。彼も、巨大ダモクレスの全力攻撃で消耗した味方を癒すつもりで、強力な単体治癒用オリジナルグラビティ『盟約召喚・水癒(サモン・ローレライ)』を用意していたのだが、どうも使いどころはなさそうだ。
(「……まあ、いい。ピアリィは必要もないのに人に見せびらかすような存在じゃない。それより、このデカブツをさっさと屑鉄にしなくてはな」)
 言葉には出さずに、真琴は呟く。
 続いてファレが、ネクロオーブを高々と掲げ、心底気持ちよさそうに哄笑する。
「あーっはっはっはっ、切っり刻めーっ! ずったずたに、なっちまえーっ!」
 宣言とともに、ネクロオーブから熱を持たない「水晶の炎」が放たれ、鋼鉄大顔面を切り刻む。ずばずばと新たな亀裂が走り、内部の機械(?)がぼろぼろとこぼれるのが見える。
「それでも、まだ潰れていないようなのですね。しぶといのです」
 オイナスが二振りの日本刀を構え、もはや残骸状態の巨大ダモクレスを睨み据える。
「しかし、逃がすわけにはいかないのです。『プロイネン』の仇、取るのです」
 言い放って、オイナスはオリジナルグラビティ『氷晶炎舞(ヒョウショウエンブ)』を放つ。
「修行の成果……見せてやるのです!」
 右の『揺らがぬ炎』と左の『砕けぬ氷』の舞のような連続攻撃、実はここまで何度か試みたものの躱されていたのだが、今回は上手く決まった。
「やっと……当たったのです!」
 鋼鉄大顔面をほぼ両断し、オイナスは大きく息をつく。しかし、両断された片側は崩れるように地に墜ちるが、目のついている側は浮遊したまま墜ちない。つまり、機能しているということだ。
「まだ時間はあるけど、やっぱり、ここで決めたいよなあ」
 にやりと笑って、メガが斬霊刀を構える。見ていてくれよ、ファレさん、と、これは言葉には出さず呟く。
「いくぜ! 刀剣士斬術、絶空斬!」
 気合の入った咆哮をあげ、メガはもはや巨大でもなければ顔面ですらない、宙に浮かぶ一つ目に向かって真っ向から斬りつける。
 ずばん、と、金属が金属を斬ったにしては重い音が響き、ダモクレスは見事に両断されて地に墜ちた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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